いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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88:罰ゲーム

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会わずの月の空に無数の星が瞬く
瞬く、まさしく
月の光に隠されしものたちは、
この時とばかりに瞬く
瞬く、瞬く

ただ輝きを灯すだけではなく、
呼吸をするように、揺れ、語り掛けるように煌めく

天高く煌めく星たちは
輝きを求め、手を伸ばす滑稽な姿を
あざ笑うかのように瞬くか?
否、それすらも見えぬ、ただただ瞬く。まさしく、まさしく

求めるものに答えることはなく、ただただ瞬く星たちよ、
この時とばかりに輝く星たちよ、
その輝きを、ただただ称賛を送ろう

我は我が星を求め慈しもう。
手を伸ばせば届く傍らに緑輝く双星を持つ其方が
其方が我が星である



「・・・えーと、黙ってられると、穴ほって帰りたくなるんだけど?
なに?罰ゲームだったの?」」


どんどん暗くなっていく中、
砂漠石の膜の外に出て、
やわらかい床を作り、そこに寝転ぶ。
赤の色ガラスで作った入れ物に、明かりを灯す黄色い海峡石をいれた。
そこだけ、仄かに赤い。

普段見の目が暗さに慣れてくると、
彼女が星という小さな光が無数に拡がる。

彼女が感嘆の息を漏らす。
手を伸ばし、光を掴もうとする。

「宇宙の片隅って実感できるね。」
「うちゅう?」
「天文学でやってるとおもうよ?どこまでわたしの知ってる宇宙と
同じかはわからんけどね。」
 「わからんな。この日にこれだけ空が光るということを
知ってるものも少ないと思うぞ。
みな家に籠り、明かりをつけて過ごすからな。
もしくは寝床の中だ。外に出るときも明かりをつけないと歩けぬからな。」
「ふーんもったいないね。
 これだけの星を見れば誰だって詩人になれるよ。」
「詩人か?王都にいるような?」
「王都にいる詩人がどんなもんかはしらんけど、
こう、心に沸き立つような言葉があふれるみたいな?感じでさ、
きれいなものを称えたいというか、好きな人にささげたいというか、
そんな言葉が出てくる感じ?あれ?そういうのない?貴族的には
日常でそういうのがあるような感じなんだけど?」
「わからんな、若いころの勉学にそういうのがあったが、とんとダメだった。」
「あー、そうなの?残念。詩の一つや二つ即興でつくれないとね。
苦手でもそこら辺を押さえとかなきゃ、もてんよ?」
「・・・もてなくてもいい。お前がいる。
即興というのはあのしゃもじの歌か?」
「しゃもじはちがうよー、こういうの!」

彼女は体を起こし、
朗々と言葉を紡ぐ。
言霊でもなく、話し声でもない少し音階を付けて紡ぐ。

空を見上げ、両手を伸ばし、
その姿を見つめる私を振り返り、言葉を紡ぐ。

私は応えることができない。
あの家庭教師は何と言っていた?
例え言葉が拙くても、心からの言葉はそれだけで力があるのですよ?と。
言葉に力なぞないと、鼻で笑い、剣術の練習に抜け出した。
セサミナはそんな私をあきれ顔で言っていた、
「言葉には力があるのですよ?マティ兄さん。」と。

彼女を抱きしめた。
それしかできなかった。

「んー、ちょと恥ずかしかったね。」
「私は、うまく言えないが、うれしいと、思った。
瞳の色がこのまま緑でも誇らしく思う。」
「ふふふ、そう?ならよかった。
じゃ、星見酒でもしようか?
夜は長いからね。冷酒と、炙りトカゲ肉、サボテンの辛し和えに、
冷やしトマト。うん、居酒屋メニュー。
おにぎりもあるよ?」

からだが包み込まれるようなくっしょんに身を預け
星を見ながら酒を飲む。
赤い色ガラスからこぼれる光は、
砂漠をいつもと違った風景に変えていた。


ぽつりぽつりと子供のころの話をした。
家庭教師の話、セサミナの言葉、
剣術を教えてくれた師、槍術を教えてくれた上官、
数少ない母の思い出、父の話、タロスの話。


彼女はあまり自分の話はしない。
私の話をそっと聞いてくれる。
漠然としていた事柄が、言葉にすることによって
明確に形作る。良くも悪くも。

「さ、お風呂に入ろうか?
 新しい扉を開くのだよ?」

この前も言っていたな、
この物言いのときは、ろくなことがないのは勉強済みだ。







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