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72:簡単なもの
しおりを挟む布団を運びベットにセットした。
いいんじゃなーい?
枕もセット。
ここは、暑くもなく寒くもない。
掛布団はちょっと暑かったか?
タオルケットでもよかったかな?
あ、綿毛布を作ろう。
ガーゼケットもいいな。
ぱふんと布団に寝転がる。
よかった、勘違いだった。人に聞かす独り言って何なんだよ!怖いわ!
これでも人の気持ちに機敏だって自分でも思ってたのに、
こんなことに引っかかるとは。
わからなかったら、ああは思わなかった。へたに心の中が、表層の表層が見えたからだ。
うーん、異世界マジック。
早くに普通に戻せばよかった。
年齢も、生きてきた時間も格段に向こうが上だ。
が、人と接してる時間、人数は当然私のほうが上だ。
20歳からこっち砂漠にいたんだから。
お気楽貴族生活も廻りが気遣っていたはずだ。
だから上の兄さんのことも弟君のこともわからずじまいだったんだ。
心の中が見えなくても、今、
なにを求められているかわかる。
あの早口、ちょっと怖いくらいの目線、そして物理なテント。
普段ならできるまで寝ておけとかいうくせに手伝えという。
仕方がない、お風呂に入らずこのままで。
でも、トイレの横につくった洗面所で
歯磨きと顔だけ洗った。
台所に戻ると、簡単なものだが、と言って
どこぞのパーティー会場のような品数になっていた。
我が家での簡単なものっていう認識は、
あのCM通り、おうどんだ。
砂漠で待っているお嫁さんにすぐ食べてもらえと、
いろいろ持たしてもらったみたいだ。
嫁ってわたしのことか?
待ってるって?嫁はさておき、その時点なら逃げられた、もしくは、別れただ。
まぁいいとしよう。
蒸した肉、バンバンジーみたいなのと、香辛料を効かせた生ハム。
もも肉もある。それと野菜類。オイルでまぶしてイタリアンナムル?そんな感じ。
しかし、すごい量ですだ。
「どんな嫁だと聞かれて、異国の人間で、3度の飯を食べ、肉好きと
言ったんだ。嘘ではないだろう?
”異国”というのは驚かれなかったが、
3度の飯というのは驚いていた。夜の飯の量を3度食べると思ったらしい。」
「否定しろよ、そこは。大食らいだと思われてるよ。
・・・食べるけど。」
「そうだろ?さ、食べよう。酒も飲むか?街で少し飲んだから色々出せるし、
買ってもある。」
「うん、ありがとうね。買ってあるものをもらおうかな?」
「では、これにしよう。軽い口当たりだ。酒精もそんなに強くない。」
「うん。」
おいしかった。マティスも作れるといっていた。
お酒もおいしい、結構飲んでしまって、
なくなったから急遽バッカスの石を作りだしてもらった。
軽いから逆に飲みすぎた。
黒い実の話や、樹液の話、トカゲ釣りや布団の話。
今度はわたしがいろいろ話した。
黒い実は石鹸の実と言われるものらしい。
ああ、ムクロジか?たしかそんな名前だった。
泡立つが香がなかったと思う。
砂漠特産だったが数が減り、油から石鹸が作られるようになって
見ることもなくなったんだとか。
タロスさんが持っていたものを使っていたがそれもなくなり、
街の石鹸屋で似た香りのものが売られていたので
それを使っていたそうな。それも今回買えるだけ買ってきたとのこと。
そこのおかみさんからも祝いをもらったとか。
愛されてるね。
そこから街の人にもらった祝い、お土産の話になった。
本屋さんには異国の旅ガイドみたいな本をもらったので、
一緒に見ようと。
飴屋さんは雑貨屋さんで飴の作り方を覚えたので
店に出したら大ヒットしたらしい。
新作の飴と半分こして食べていた飴もたくさん、
これもあるだけ買ってきたみたい。
「それで、私もなにか、送ろうと思って、
これを買ってきた。もらってくれるか?」
おおきな包みを出してきた。
開けてみると初めて見るもの、でもわかる。
「ミンサー?」
「知ってるのか?店主に相談したら、これだと。
工業国とよばれるスパイルという国で作られたもので、
肉を細かくするものらしい。最近仕入れたものだそうだ。
はんばあぐを作った時細かくする作業がたいへんだったんだろ?
これなら楽にできるとおもって。そうか、知っていたのか。」
「いやいや、落ち込まないで、こういうのあるのよ。
でも仕組みが分からなかったから。刃があってこう、押し込む?回転?
ここら辺は逆に中途半端な知識だから作れなかったの。
うれしい!これでチーズの入ったハンバーグ作るね。」
「ああ、うれしいな。なんだ、私が喜んでしまってるな。
もっと、なにか出来ればよかったんだが、
・・・その耳飾りはそっちにあったか?」
これを出してくるとは親父のセンスはすばらしいな。
ミンサーをくるくる回しながら、これの理屈が分かれば
パスタも作れる?なんて考えていると
耳飾りのことを聞いてきた。
「うん、こっちに来てた。バッカスの石探すのに
荷物全部出したら出てきた。わたしのものなんだね。」
「その、気に入らなかったか?」
「ううん、すごくきれいでかわいい。
うれしかったよ。ありがとう。」
「つけてはくれないのか?」
うつむいた話していたマティスが、
わたしの耳元を見て、またうつむいた。
「ふふ、だって、耳に孔開いてないもの。」
「え?そうだったか?あれ??じゃ、なんで耳飾りを欲しがったんだ?」
あれだけ耳をいじっておいて覚えていないもんなんだな。
「体に穴開けるのは抵抗があったの。
だからこう、挟み込むタイプの耳飾りを付けてたの。」
「そうなのか?挟み込むというのが分からないが、
教えて?すぐに作り変える。」
「いいよ、作り変えなくても。これを付けたいから、マティスが開けて?」
「え?あ、あ、あけるのか?耳に?私が?」
すごく挙動不審になっているが、大丈夫よね?
ポケットに入れていたピアスを出す。
念のためアルコール度数の強いお酒で消毒。
痛みはないと、言霊を使い細い針になった砂漠石で開けたもらった。
ぷつんという感覚が耳にのこり、ピアス、耳飾りをつけてもらった。
もちろんその後の消毒等も言霊で。
マティスが作ったピアスを
マティスが開けた孔に付ける。
マティスの印をつけてもらったようで
被虐的な興奮が走ってしまった。
マティスが片方ずつ、ピアスにキスを送る。
なにか、言霊を送ってる。
目を見ると、ずっと緑だった目が、さらに濃い緑になっている。
前とは逆に手を引かれて部屋に行った。
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