いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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09:いろいろな話

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まずは、感謝を。
左目が元に戻り、
左腕がなに不自由なく使えることに慣れてしまうのは早かったよ。
不自由だった時間のほうが長いが、便利なものになれると元に戻れない。
ただ、槍の構え方は変わらない。
左腕がやたら細いが、徐々に肉もついてくだろうさ。

生活か?
月が沈み、砂漠をかける。
砂トカゲと競争、そして晩飯。それが月が沈むごとにある。

タイヨウ?わからない。

月が昇る前に家に入る。夜の砂漠は、何もかもが解き放たれるので、
よほどのことがない限り外へは出ない。
合わさりの月の夜は特にそうだ。
頭がおかしい人間でもそんなことはいわないんだ。
自分の心の奥底で願っていることが、
どこにあるかわからない石の力で叶ってしまう。
素晴らしいことだが、よほどの力がないと廃人になるか、
望まない、恐ろしい結果だけが待っている。

マホウ?それも知らない。

なんでも叶うわけではない。そんな便利なものはない。
幼い子供を亡くした親が、子供を生き返らそうとした。
結果は、なにかわからない塊と廃人になった親。
病気もおなじだ。余計に悪くなるか、別の個所が悪くなる。
おまけに、どこかでちらりと思っていたことが現実なる。
それもよくない方向でだ。
何かを望むならそれと同等の対価が必要なのだ。
石の力を借りても、そうなることを正確に導き出さなければならない。
だから、合わさりの月の夜の砂漠には誰もいない。

合わさりの月の夜はとくにその力が強い。砂漠にはいるには先に心を閉ざし、
指示されたことを行うように施す。
それが領主の仕事だ。

砂漠に行く。
石を探す。
石を集める。
石を差し出す。
砂漠をでる。

こまごまと指示を先に出さないといけない。
そのためにはよほどの石がいる。
しかし、手に入る石もそれ以上だ。
石が石を呼ぶ。そうしてここの国は統治してきた。
合わさりの月の夜に砂漠にでて石を回収できるのが貴族たちだ。
地位を与えられて民のために石を集める。
ある程度の富は手に入るが、王族には遠く及ばない。
石がなければないなりに民は生活できるだろう。ただ、ちょっと便利なだけだ。
しかし、便利なものになれると元に戻れない。
だから国が石を管理する。
石を供給してくれる国に民は従う。

石の支配がない月が沈んだ後に、大掛かりな回収作業が行われたことがある。
何十年と前の話だがな。
砂トカゲと爆裂を避ければ先に石を使わなくとも石が手に入ると考えた。
しかし、結果はことごとく爆裂で負傷し砂トカゲに食われる。
割に合わないのだ。

貴族が集めた石を使って生活をしたほうがよほど楽なのだ。
そんななか、砂漠人と呼ばれるものは爆裂を避け、石を回収できる。
しかし、微々たるもので、貴族が口出しするほどでもない。
民が石に依存すればするほどこの仕組みが崩れることはないのだから、
口出しもしない。
だから砂漠人は生活ができた。ただし、王都の恩恵はない。
ただ、砂漠での生活は厳しい。
不便な砂漠の暮らしを捨てて、内地で暮らす砂漠人が増えた。
砂漠を出て家を構えると、それは砂漠人ではない。
砂漠に住むから砂漠人だ。
タロスが最後の砂漠人だった。
俺の父親以上の人だ。

母の記憶はうっすらとしたものだ。今思えばあれが母なのだろう。
自分の立ち位置を理解できたころにはすでに母なる人はいなかった。
合わさりの月の夜に石を集めることを任された領主の一子だ。
父とその子供たちとそれぞれの母親たち。

3人の兄と2人の姉。そして下にはセサミナがいた。
母親は各分野に力を持つ豪族や貴族だ。

子は多いほど領主にとっては財産だ。
仲は良いとは言えないが、険悪でもなかった。
少なくとも俺はそう思っていた。

顔を合わすのも年に一度ぐらいで、母親同士が嫉妬するとかはない。
石を回収することで手に入る富をうまく使って領地を豊かにする。

1番上と2番目の兄たちはそれぞれの母方の家が得意とする分野で活躍していた。
2人の姉たちは他領国の豪族のもとに嫁いでいった。
3番目の兄が継ぐものだと、私とセサミナはお気楽に過ごしていた。

それが私が15の時に3番目の兄が病で亡くなった。
石の力では何ともできないものだったらしい。
万能ではないんだ。
1番目と2番目はいまさら継ぐ気はないと、私かセサミナにそのお鉢が回ってきた。

母親がいない私よりも母方の実家の力があるセサミナが継ぐことになった。
妬みなどなかった。私は王都の剣士になりたかったから。
それから、王都の騎士団にはいって、辺境を回った。
盗賊や隣国との小競り合い。剣で生きていくと思っていた。
二十歳になった時ときに正式に家を離れることになった。

その時父が言ったんだ。

お前の母親は、最後まで名前すら教えてもらえなかった。
出自の事は詳しくはしらない。
だが、おそらくは、と思うことはあったが、問うことはしなかった。
そんなことはどうでも良かったんだ、純粋に求めたんだ、と。
名前や、家柄なんぞどうでもよかったらしい。
いつの間にかそばにいて、そしていなくなったといっていた。
不思議と悲しくはなかった。
いなくなることはわかっていたらしい。

父から母の事を聞いたのは初めてだった。
それまで、疑問もわかなかったが、
それを聞いてすごく納得した。
自分もここではないどこかに行くのだろうと。
母の名は「知らない」本当だ。
ただ、父と同じで思うところはある。
セサミナは納得しなかったんだろう。

母の名が自分の母以上の高貴な血だと自分の立場がないと思ったのかもしれない。
そんなことはどうでもよかったのに。

眠らされ砂漠に放り出された。
さすがに合わさりの月の夜ではなかったよ。
左目左腕、血を残すということができなくなった。

母が誰であろうと、俺が領主になることはない。
タロスに救われて、そして、そのままここに居ついた。

父が亡くなりセサミナが正式に領主となった。
監視はされているがね。
あからさまに物の位置がちがっているんだ。
あんたは元に戻そうとしていただろう?
それに・・・

飴玉なんぞはくすねない。
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