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第10話 王子からの提案と最強の何時も通りの不機嫌。

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「……。」

「……。」

「……。」

 静寂した空気の中で、忍とアーシェとアイザックは豪華なシャンデリア、置物、椅子とかがある待合室でエミールと話をする事になっていた。

「…落ち着きませんね。ここで待てと言われて数時間ですよ?」

 何時まで経ってもエミールが来ない事に、不機嫌な表情を浮かべ文句の一つ言うアーシェ。

「…お腹空いたな。」

 朝から何も食べてなく、そのまま魔物退治に駆り出された。ひもじいアイザック。

「……。」

 上半身裸のまま腕を組み、更に足を組んで、瞼を閉じて何かを考えている様子の忍。

「アイザックさん、そんな事を言っている場合じゃないですよ。私達、軟禁状態になってるんですよ。」

「そりゃそうかもしれないけど、シノブさんがエミールの提案に乗ったから…。」

「シノブさんもシノブさんです。なんで本当か分からない話にホイホイと付いて行くのですか!」

「……。」

 だが、怒っているアーシェを無視するかの様に忍は答えなかった。まるで何も聞こえていませんと言う状態だった。

「シノブさん?」

 アーシェが椅子から立ち上がり、忍の様子に何かあったのかと近づくと……

「すぴーすぴー」

 なんと忍は考える素振りをしておいて呑気に寝ていたのだ。
 アーシェは顔を引き吊らせ、呆れた表情を浮かべ頭を悩ませていた。
 流石のアイザックでさえもアーシェと同様な反応を示した。

「この人は何時も…。」

「なんだか自由な人だよね。」

「自由過ぎます。」

 アーシェはタメ息を吐き、エミールが来るまで再び待つ事にした。

「…来たな。」

 突然と忍が目覚め、腕と足を組むのを解いてきちんと座り直していた。

「…シノブさん、服着たらどうですか?」

 アーシェは蔑んだ目と冷たく低い声で、まだ服を着ていない忍を注意する。

「この件が終わり次第、服は着る。それよりアチラさんの話を聞いて飯にしようぜ。」

 忍が言い終わると同時に扉は両開かれ、現れたのは貴族的な衣装を身に纏い、気品のある面持ちで忍達を迎えたエミールだった。

「皆様、長らくお待たせしました。」

 エミールは三人に遅くなったお詫びと感謝の意味を込めた。綺麗なお辞儀をしていた。

「お前等、王族の面倒な挨拶は抜きにして、さっさと始めてくれないか? 俺も暇じゃないんだ。」

 王族が嫌いな忍は不機嫌な態度を顔に現しながらエミールと話す。

「この度は私の我儘に付き合い頂きありがとうございます。私も少し不安でした。もし、勇者であるシノブさんと戦う事になったらと思うと…。」

 エミールは苦笑いを浮かべながら数時間前の事を思い出す。


 それはエミールと忍が至近距離まで近づき、緊迫した状態で話す時だった。

「無礼は承知の上です。」

「その何でも知りたがるテメェの態度が一番気に入らねぇな。」

「一応、私の仕事柄が“そう言う事”になってるのですよ。出来れば協力して欲しい…。」

 今にも二人が殺し合いに発展しそうな雰囲気だったので、周りの衛兵とハンター達が止めようと集まっていた。

「喧嘩のやり方は知ってんのか? クソガキ。」

「アナタこそ、勇者の癖に言葉遣いを知らないのですか? おじさん。」

 そして暴言が言い終わると同時に、二人は互いの頬を素早く殴った。拳が頬に触れると人間の体から鳴ってはいけない轟音が聞こえたので、周りの全員は止めに入った。

「邪魔だ!」

「邪魔です!」

 忍とエミールは喧嘩を止めに入った連中を相手にし、背負い投げをすれば、胸ぐらを掴み引き寄せ顔を殴り、倒れた男の足を掴み、ジャイアントスイングで周りの人物を薙ぎ倒していく。
 そんな意味不明な混沌的状況になっていた。

「皆さん何やってるんですか、こんな時に!?」

 意味不明な状況になった事で、目を点にしたアーシェがツッコミ出した。

「あ? 知らねぇよチビ!」

 喧嘩に夢中なハンターと衛兵達は投げやりになり、アーシェの問いを暴言で返してしまった。
 チビという単語に反応したアーシェは額に血管を浮かべさせ、亀裂が入るくらい杖を強く握り、怒りの炎を燃やしながら…

「“我、契約する者。我を侮辱した者に、怒りの稲妻を!”『サンダーパルス』」

 アーシェは上空に雷雲を作り出し、ハンターと衛兵達に向けて雷を落とした。
 ハンターと衛兵達は感電し、体が痺れて身動きが取れなくなっていた。

 一発だけでは怒りが収まらないのか、何度も何度も雷を落としていた。
 アーシェが何度も雷を落とす為、土煙が舞い上がっていた。

「シノブさん、大丈夫かな?」

 嫌な予感がしたアイザックだけが喧嘩には参加せず、アーシェの隣に立ち、呆然とした表情で忍の心配をしていた。
 土煙が徐々に晴れると二人の人影があった。それは剣で雷撃を防いでいたエミールと近くにいた衛兵とハンター二人を傘の感覚で盾にした忍がいた。

「イヤイヤ! シノブさん、流石にそれは人間がやって良い事じゃないですよ!」

「す、すまん。少し雷攻撃には苦手というより警戒してしまって…。」

 アイザックに非人道的な行為をツッコまれ、ちゃんと謝罪し反省する忍だった。

「それより、まだやるかい? クラウスト王国の王子様よ。」

 忍はエミールの正体を見破っていた。忍の発言に冷静を取り戻したアーシェとアイザックは驚きの表情を顕にした。

「…何処で分かりました?」

「剣の紋章で分かった。一般向けに販売されている剣は普通で、クラウストを代表する証、鷹の紋章は刻まれていなかった。」

 忍は剣に指差しながらエミールが王子である理由を述べた。

「もしかしたら、私だけが特別持ってたという話はありませんでした?」

「じゃあなんで俺に構う? 勇者に興味がなかったら話掛けないし、そんな真剣な表情で対応するのもおかしいだろ?」

「…正解です。私がクラウスト王国第三王子のレオ・エミール・クラウストです。」

 これ以上、隠しても仕方ないと思ったのか王子である事を認めたエミールだった。

「意外だな。第三王子とは…。」

 忍はしっかりとしている王子が第三という身分に少し驚いていた。

「良く言われます。それより私達と同行してほしいんですよ。色々と私も王に伝えなければならない事もありますので…。」

「俺は王族が嫌いだ。第三王子だろうが、王家に関係してる奴の言う事を聞くと思っているのか?」

「じゃあ私も力を使わないといけないですね。“我、覚醒する者。汝の血族に従い、歯向かう者を殲滅する…。”」

 エミールが詠唱を行うと周りの空気は一変し、重苦しくなっていた。そしてアーシェはエミールが何の魔法を使うのか気づき、忍に近づき耳打ちする。

「シノブさん、この魔法は国一つを滅ぼす力があります。流石に私も早死にしたくないので考え直してくれないですか?」

「またか。しょうがねぇな…おい、手加減知らない王子様よ。話ぐらいならしてやるから危険そうな魔法を使うのを止めろ。」

 忍は呆れた表情を浮かべて停止を要求した。エミールは詠唱を止め、微笑みを浮かべた。

「それじゃあ王宮に案内します。」

 上機嫌のエミールがスキップしながら先行で王宮までの道を歩く。

「おい、アイザック。美味そうな飯が食えるかもしれねぇから行くぞ。」

「はーい。」

 王族からの命令で不機嫌状態の忍はアイザックに適当な理由を付けて同行させた。
 アイザックは承諾し、槍を担ぎ上げ忍に付いて行った。
 アーシェは大丈夫かなという心配を胸に忍の後を追い掛けた。

 そして何時間も待たされる羽目になり、アーシェが文句を垂れ、アイザックがひもじそうにし、忍が呑気に寝ている状況までの経緯だった。
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