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第6話 採用。

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 忍の作戦通りに冷静さを失っている男達は次々と酔い潰れていった。これ以上、嫌いなビールを飲まなくて済んだと一安心した。
 一人は気分を悪くしトイレに向かい嘔吐すれば、一人は安らかな表情で冷たい店の地面で眠っている人もいた。

「結局は腕相撲大会と飲み比べ大会になってたな。まあ、品川修二と戦うよりはマシだな。」

 忍はボヤきながら椅子から立ち上がり、今まで座っていたので固まった体をほぐすため、背伸びをする。オマケで首をポキポキと鳴らした。
 ギルドの窓から外を見渡すと真っ暗で夜になっていた。

「アーシェ・ドラグナ遅いな。何時まで人材探ししてるんだ。」

 忍は数時間前に人材探しに行かせ、まだ帰って来ないアーシェが気になっていた。

「あのさ、俺の腰ぐらいまでの身長で、桃色の髪で、杖を持った女の子をギルド内で見なかったか?」

 忍は近くにいたギルドの人物に声を掛けてアーシェがいるか尋ねた。

「いや、見てないな。」

「そうか、ありがとう。」

 忍は教えてくれたギルドの人に感謝した。忍は自分の足で探すかと結論を出し、ゆっくりとドアへ向かい外に出た。

 その頃、アーシェは大通りの道を歩き疲れヘトヘトになり項垂れながら暗い町中を彷徨いていた。

「…ギルド何処ですか…シノブさんも見つからないし…もう嫌!」

「お前は頭は良いのか悪いのか、たまに分からなくなるな。」

 ヘトヘトのアーシェは後ろから声が聞こえた主を見る為、振り向いた。
 そこにいたのは何か重たい物を片手で背負い、コップを持ってアーシェの行動に呆れた表情を浮かべている忍だった。

「シノブさん!」

 アーシェはいきなり現れた忍を見て元気を取り戻し、近づいた。

「…ご苦労さん、ほら飲んどけ。」

 忍は水一杯が入ったコップをアーシェに労を労い差し出した。
 差し出された水をアーシェは勢いよく飲んだ。が、器官に詰まり咳き込んだ。

「おいおい、ちゃんとゆっくり飲めって。」

 ゆっくりと背後に回った忍はアーシェの背中を擦り落ち着くまで介抱する。

「あ、ありがとうございます…や、優しいのですね。」

「まあな。帰るまでの間だが、お前には無事でいてもらいたいからな。」

「…なんか…照れ臭いです。」

 アーシェは心配された事が嬉しかったのか頬を赤く染めて頭を手に置き微笑んでいた。

「褒めてねぇよ。」

 忍は軽く呆れながらフッと軽く笑っていた。

「…それより、なんですか? その重い物は?」

 アーシェは忍が片手で背負ってる物が気になったのか尋ねた。

「新しい仲間。」

 すると忍はアーシェの背中を擦るのを止めて雑に地面に叩き置く。
 地面に転がったのは、身軽そうなブレストプレートの鎧を装備し、髪の毛が逆立った黒髪、二枚目の男が頭を殴られたのか、タンコブを作り気絶していた。

「槍使いだ。さっき知り合ったばっかだ。」

 淡々とした表情で簡単に名前を知らない人物を連れて来たと発言した。

「なんで知らない人を連れて来たんですか…もう犯罪ですよ。」

 忍の発言にアーシェは呆れ、犯罪紛いな行動に頭が痛くなった。

「勘違いするな、話はこうだ。」


 忍がアーシェと合流する前にて…

「…アイツ何処に行ってんだ?」

 忍は道を歩き見渡しながら、それらしい特徴の人物を探す。面倒臭くなって立ち止まり『ダークネスホール』でアーシェの居場所を探る。

「お兄さん、何か探してんの?」

 そこに突然、ぬるりと路地裏から現れた。武装した三人組の男が、忍を囲むようにして絡んだ。

「…お決まりのパターンだな。普段なら無視して警察を呼んでやるんだが…あのさ桃色の髪をした女を見なかったか?」

 忍は諦めと何かを悟った表情を浮かべながら一応、アーシェについて尋ねた。

「それよりお兄さん、俺達さ小遣いに困ってんだ。恵んでくれねぇか? その大きなダイヤモンドでね。」

 何の変哲もないロングソードを鞘に納めた男は忍が持っているダイヤモンドを寄越せと要求していた。

「…あのさ質問をしてんのはコッチなんだよな。今、嫌いなビールを飲まされて機嫌悪いんだ…喧嘩売ってるなら加減はしねぇぞ?」

 忍は機嫌悪そうな低い声で三人組に殺気を放ちながら恐喝していた。

「…う、うるせぇ! やっちまえ!」

 三人組は忍の殺気に怯えた。が、槍を持った男が声を、どもらせながらも強気に出た。
 三人組は一斉に忍を飛び襲いかかる。

「…結局、こうなるのかーーー嫌いだな、この面倒な世界。」

 忍はボヤきながら何もする事なく、立ち止まったままだった。
 だが、忍は何の仕草をしていないのに、三人組は突然と意識を失い地面に伏した。

「…もう少し手加減が必要だな。」

 力加減が上手くいかず気絶させてしまった事に反省し、都合よく近くに放って置かれていた頑丈なロープを見つけ三人組を縛る。
 少し時間が経つと三人組は意識を取り戻し状況を見て驚愕した。

「な、なんでだ!」

「いつの間に縛られてる!」

「また意識を失う前に聞きたいんだが、火炙り、股裂き、水責め、どれが良い?」

 忍はヤンキー座りで三人組に、どんな拷問を選ぶのか尋ねた。

「どうやって俺達を倒して縛った!?」

「どうやって言われても、音速のスピードで蹴ったんだよ。」

 忍は三人組には見えない素早さのハイキックで各一人ずつ確実に倒したのだ。それ以上を説明しろと言われても困るだけだった。

「ほどきやがれ!」

「まあ、別に縄をほどいてやっても良いが…俺を襲うって計画した奴は残れ。それ以外は何処でも行って良いぞ。」

 忍が実行犯以外は残れという提案に乗った三人組は一斉にして…

「え? 俺!」

 二人組は黒いツンツン頭の男を見捨てるように見ていた。彼は仲間を裏切りたくなかったのか忍だけを見ていた。が、予想もしない事が起きたので驚きを隠せなかったのだ。

「ふ~ん、お前なんだ。」

「あ、あぁ! そ、そうだよ。俺が提案したんだ…。」

 蔑む目と忍の圧力により、最後は声が消えるように押し黙った。
 すると風を切る音が耳に聞こえ、ツンツン頭の男以外は意識を失う。

「くだらねぇ嘘つきやがって、自分が庇ったら二人が助かると思ってたのか? こんな事を繰り返してたら裏切られて殺されるのがオチだ。身を持って感じただろ…。」

 冷静に忍はツンツン頭の男を説教しながらロープを手でほどき解放する。

「コイツ等とは知り合ったばっかで、ハンターズギルドじゃ俺は落ちこぼれだし…食って行くのに仕方なかったんだよ…。」

「一応、聞くが戦歴は?」

 忍は彼がハンターズギルドの一員だと分かると戦歴を聞いた。

「グールとコボルトぐらいの雑魚ばっかだよ…。」

 しょんぼりした彼は丸くなるように三角座りで忍と話す。

「自分を変えようとは思って、こんな下らない事に手ぇ出したのか…おい、こんな事するより魔王を倒してみる気はないか?」

 忍は膝を曲げ彼と目線を合わせるようにして向かい合って話す。

「魔王? 無理だよ、槍使いの俺じゃあ役に立たないし…うぐっ!」

 忍は弱音を吐く彼の胸ぐらを片手で掴み、悠々と持ち上げ、残った片手でサングラスを取り睨む。

「役に立つか立たないかじゃねぇ。“やる”か“やらないか”だ。俺がハンターズギルドで面接して来た奴は、どいつもこいつもヤル気のねぇ腑抜けばっかだ。一人ですら戯言を吐こうとしねぇ奴等、交通費をくすねようとする奴等、そんなくだらねぇ連中と同じなのか、お前は?」

 忍は本気で彼の心意を聞いた。

「…やります。やらせてください、俺も魔王を倒してギルド仲間に見返してやりたいです。戯言でも良いなら俺にもやらせてください。」

「あぁ、任せておけ。だが、命の保証だけは自分で管理しろ…俺は神崎忍。」

「俺はアイザック・シュバインです。」

 忍はアイザックの胸ぐらを離し、立ち上がり手を差し出す。

「暫くだが、頼むぞアイザック・シュバイン。」

「こちらこそシノブさん。」

 歓喜の表情を浮かべたアイザックは忍の手を取り、立ち上がった。

「良し、これで仲間一人確保。」

 忍はアーシェと合流する為、空間に『ダークネスホール』を作り出す。

「仲間の所に案内してやる。この穴に入れ。」

 アイザックは顔を強張らせ、忍が作りだした魔術の類いに緊張しながら恐る恐る入った。
 アイザックの目に映ったのは、さっきまで薄暗い小道だった場所が大通りに出たからだ。

「す、スゴい…がはっ!」

 アイザックは『ダークネスホール』に足を引っ掻けてしまい、横転し頭を木製のバケツにぶつけ気絶してしまった。
 後から追って来た忍は顔だけひょっこりと出し…

「コントでもやってんのか?」

 呑気に的外れな答えを発言していた。



「と言う訳だ。」

 数十分にも及ぶ説明でアーシェは納得した様子だった。

「…まあ、これで仲間は増えた事ですし良かったんじゃないですか。」

「それじゃあ後は頼んだ。酒を飲み過ぎて気分が悪いから、俺は寝る。」

 忍はアーシェにそう告げると『ダークネスホール』を作りだし、闇の中へと消えた。

「…二人だけにされた。」

 アーシェはどうやってアイザックを運びだすか考えていた。
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