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第4話 ようこそクラウスト王国へ。

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 あれから和解したアーシェと忍の二人は平原を歩き続けていた。
 流石に一日で着く筈もなく、野宿しながら旅を続けては、相変わらず忍は魔物と遭遇しては無視を決め込み、アーシェは合わせるように付き添う。

「…クラウスト王国は遠いな。」

「ダッカ村から遠いですからね。」

 流石にクラウスト王国まで着くのが暇になったのか、珍しく忍からアーシェに話し掛けた。

「アーシェ・ドラグナは何処の出身だ?」

「なんでフルネームですか? 賢者の里、エルミーニョです。」

「なんか、食べ物みたいな名前だな。」

「シノブさんは?」

「大阪府大阪市海道区。」

「オ、オオサカ? カイドウク?」

 アーシェは忍がいた世界を知らない為、正直戸惑っていた。

「大阪っていう町は天下の台所って昔から言われてて、他の地域からは異端児扱いされてた。」

「な、なんだか凄い町ですね。」

 アーシェは頬を引き吊らせ、なんとか機嫌を損ねないように興味深く話をする。

「アーシェ、もしお前が大阪に来る事になったらには気をつけろよ…アレは俺でも勝てん。」

 忍はアーシェの肩を右手で触り、真剣な表情と脂汗を流し忠告した。

(オ、オバハン! …シノブさんが勝てないぐらいの強さなんですか! その化物は!)

 アーシェは本人が聞けば大惨事になる失礼な事を思いながら忍の言葉を真に受けた。
 だが、忍の言う通り大阪のオバチャンオバハンは、とてもつなく強いのは確かだった。
 そして忘れていた忍が大阪出身だという事に。

(俺じゃなく大阪のオバチャンを召喚してたら勝ってたと思う。なんで俺なんだ?)

 今更な事を忍は深く思い、旅を続けた。

「やっと着きましたよ。クラウスト王国に…。」

 暫く歩いているとアーシェ達の目に写ったのは、敵の侵入を防ぐ巨大なレンガで作られた城壁があり、門まで辿り着くと前には、槍を持った門番が二人いた。

「止まれ! そこの二人、所在地と役職と目的を言え!」

「私は賢者の里エルミーニョ出身、賢者アーシェ・ドラグナです。仲間を探しにここに来ました。」

「…エルミーニョ出身、アーシェ・ドラグナ…分かった。隣のお前は?」

 門番は入国者の出身と名前と目的を紙に記入していた。
 そして所得を持っていない忍の番がやってきた。

「大阪府大阪市海道区出身、神崎忍です。…見習いワイナリーをしています。隣の人と同じく仲間を探しに来ました。」

「そんな複雑な町は聞いた事ないぞ? 方言を言ってみろ。」

 いきなりの要求に忍は困った顔をして、どうしようかなと考えたが仕方ないので渋々、関西弁を使う事にした。

「お兄さん、そりゃ困りますよ。そんなんいきなり方言ゆえってゆわれましてもね。恥ずかしいわ、なんか俺だけギャグが滑ってる感じですやん。ワシ素人ですねん、勘弁してくれまへんか?」

 言い終わると忍は下唇を噛み、羞恥で顔を俯かせ頬が赤く染まり、早く終わる事を祈っていた。
 アーシェと門番は、あまりにも忍のギャップ差に笑いを耐えてのに必死だった。

「オ、オオサカ…ぷっ…オオサカ…しっ…カイドウ…くっの…カン…ザキ…シノブ…だな。よ、ようこそ…クラウスト…王国へ…。」

 門番は笑いを堪えながら仕事を続ける。が、やはりインパクトが強すぎた為、所々で笑いを漏らしていた。
 扉は両開きにより大きく開かれる。が、感情の大差は激しかった。
 門を潜ると忍には門番が顔を隠しヒソヒソと笑う声が聞こえたり、アーシェがクスクスと笑う声が聞こえ複雑な心境だった。
 背後で門が閉まると忍は立ち止まり、肩をプルプルと震えさせてアーシェに告げる。

「…こ、この話は…だ、誰にも言うなよ?」

「覚えておきますやん。」

 ニッコリとアーシェは忍の真似なのか、変なイントネーションと下手な関西弁を披露し、茶目っ気でイジっていた。

「…行くぞ、もう! 早く町を案内しろ。」

 アーシェが面白がって忍をイジっている。と、遂に忍は機嫌を損ねてそっぽを向き拗ねてしまった。

 ここはクラウスト王国、この国に集まる人々は色々な目的を持って入国する事が多い。
 騎士になりたい者、魔法使いになりたい者、貴族になりたい者、豊な暮らしを夢見て移住する者等々がクラウスト王国に集まる。
 ここはそんな者の夢と希望を叶える国。

「もうシノブさん、そんなに怒らないでくださいよ。」

 石で作られた道を歩きながら、未だに拗ねている忍を宥めていたアーシェだった。

「……。」

「ほら、集会場まで行って仲間を集めましょう。もしかしたら気が紛れるかもしれませんよ?」

「……。」

 流石に度が過ぎたのか忍は何も答えてくれなかった。

「ご飯も奢りますから、機嫌直してください。」

「…何処の集会場だ。」

 やっと機嫌が直ったのか忍はアーシェに話かけた。

「じゃあ私が先導するので付いて来てください。ハンターズギルドで依頼して仲間を募集します。」

「一つ聞くが、そこに所属しなくてもいいんだな?」

「はい。あくまで魔王討伐は依頼なので私達が負担をしなければなりませんが、腕が立つ人は一杯いると思います。」

「…あぁ、そうか。」

 忍は何か引っ掛かりを感じ、アーシェの計画が少し不安に思っていた。
 そしてアーシェに誘導されるがままに辿り着いたのが、丸い屋根、ハンターズギルドの紋章が刻み込まれた看板、茶色レンガで綺麗に作られた三階建ての建物だった。
 アーシェ達は入り口の前で立ち止まり建物を傍観していた。

「……。」

「圧巻ですね。」

「意外と小さいな。」

 アーシェは建物のサイズに興奮し気持ちが高ぶっていた。が、忍は自分が住んでいた家を比べてしまい逆に空虚な感想を述べてしまった。

「さあ、行きましょう!」

 アーシェに連れられるがまま、忍はギルドの門を叩き入門する。
 先ず二人の目に映ったのは、木製のテーブルを囲いながら豪快に酒を飲み交わす屈強な男達、切磋琢磨と注文された物を運ぶ女性ウェイトレス達、掲示板に何枚も多く貼られている依頼書、そして依頼を受注と発注を受け付けるカウンターだった。

 アーシェは初めて国のギルドに入ったので、新鮮な気持ちと初めての依頼する事に希望を抱き憧れの目で見ていた。

 対する忍は、オッサンが酒を飲みながら口から少し溢して笑う事が生理的に受け付けなかったり、急いでるウェイトレスにもっと落ち着いて仕事してほしいと思ったり、こんなに依頼書が溜まってるのに呑気に酒なんか飲んで仕事が回るのかと施設に対してではなく人間的に不満全開だった。
 少女と青年の価値観はどうなっても分かり合えない物になっていた。

「凄いですね! シノブさん!」

「…後は任せるから外で待ってていい?」

 アーシェは目をキラキラさせながら忍に問い掛ける。が、忍は頭を抱えて何か諦めていた。

「どうしました? 気分でも悪くなりました?」

「…いや、なんでもない。依頼を済ませて俺達は待機しているか。」

 二人はギルドの中へ入り、依頼を受け付けるカウンターまで進んだ。

「いらっしゃいませ。依頼でしょうか? それともギルドの加入ですか?」

 カウンターの奥から一人の女性が姿を現し忍達を対応していた。
 女性の髪型はフィッシュボーンの金髪、白いワイシャツ、胸には蝶々結びされた細いリボン、上着は黒のベスト、下は黒いミドルスカートとストッキングの組み合わせ、ハイヒールを履いた。あどけなさが残った受付嬢だった。

「依頼をお願いしたいのですが?」

「依頼ですね。それでは、この書類に名前と住所と討伐対象と報酬額を記載して頂けますか?」

 アーシェは黙々と差し出された書類に情報を記載していく。
 忍は書類を覗きこんで見ていた。が、日本語や英語ではない異世界文字だったので何が書かれているのか理解できなかった。

「…はい、できました。」

 記載し終わったアーシェは書類を受付嬢に渡す。

「それでは確認します。お名前はアーシェ・ドラグナさん、住所はエルミーニョですね。討伐対象は…嘘…。」

 受付嬢は次の項目内容に顔を青ざめさせ、今にでも倒れそうな頭痛が襲った。

「え? どうしたんですか?」

 受付嬢の反応を見てアーシェは焦った表情で尋ねた。

「…どうやら魔王という単語に引っ掛かったな。」

「あの…ご冗談でしたら他のギルドでしてくれませんか?」

「え!? あの報酬額が足りませんでした?」

「いえ、そう言う訳では…なく…。」

「この反応から察するに魔王はとても強く何人も犠牲が出るか分からないから、こんな依頼に人権は分担できないって訳だな。」

 受付嬢が申し訳なさそうな表情をしたので忍が代わりに代弁した。

「お隣の方が言った通りです。報酬額には問題ありませんが、あまりにも危険度が高く、助かる確率も極めて低いので、そちらに力を増員する事ができません。」

「そんな…。」

 仲間を集められなかった事と依頼できなかった事に落ち込む、アーシェの肩に忍は左手を乗せ励ます。

「多分、他の所を探しても同じ答えだ。時間は掛かるが、俺の提案を聞くか?」

「何かあるのですか?」

「アーシェこの先、魔王討伐する為に欲しい人間は三人だ。二人はここで見つける。一人は外で見つける。お姉さん、ここに依頼書を貼って勝手に受けるのは個人の自由ですか?」

「えぇ、この依頼内容でギルドは受け付ける事は出来ませんが、依頼主と受注者で個人契約を結ぶのは違反しない限り自由です。でも、この依頼内容を見て受け付けてくれる人は到底いるとは思えないです。」

「アーシェ、欲しい人材はどんな奴だ?」

「えっと…熟練の魔術師、聖騎士、魔法剣士ぐらいです。」

「熟練の魔術師はいらないな、アーシェ・ドラグナがいる。後は控えだ。」

「そ、そんな! 詠唱に凄く時間が掛かるのに…」

 忍にキッパリと断られたので、更に落ち込むアーシェだった。

「俺に頼れ、敵に攻撃されそうになったら俺が引き付けておいてやる。お姉さん…すみません名前は?」

「ナタリーです。ナタリー・グラウディです。」

「ナタリーさん、暫く依頼書を掲示板に貼らせて貰います。使用料は俺が払いますので…。」

「え? シノブさん、この世界のお金なんて…。」

 突然と驚愕発言にアーシェは呆然としていた。

「ある訳ないだろ。だが、前の世界から俺が所有してた指輪とか宝石を売れば金になるだろ?」

「あ、あの! 掲示板に貼るだけなら使用料は要りませんよ。あくまで個人契約なので決めるのは依頼主と受注者ですからね。」

「分かった。それじゃあアーシェ・ドラグナは外でいい奴を見つけて俺に報告してくれ、どんな特徴なのかも纏めてな。俺はここで面接だ。」

 忍の指示通りにアーシェはクラウスト王国内で良い人材を探しに行った。
 異世界文字を知らない忍はナタリーに頼み、求人広告っぽい依頼書を作って貰っていた。内容は…

『アナタの力を生かしてみせませんか! 魔王討伐の契約はカンザキ・シノブの所まで来てください、その場で力試しで面接します。面接に来てくださった方には交通費としてダイヤモンドを差し上げます。』

 シンプルで胡散臭い依頼書が出来上がり、掲示板に貼られていた。

「…あの大丈夫なんですか? こんな依頼書を作って?」

 ナタリーは忍の行動に疑問を持ち申し訳なさそうな表情で尋ねた。

「金に目が眩めば嫌でも来ます。」

 ナタリーの質問に答えた忍は掲示板から離れ、誰もいない端側の席に座り、依頼に目を通した人が来るまで今まで貯めていたファッション雑誌を『ダークネスホール』から取り出し読んで待っていた。

「お! 新たに依頼書が貼ってあるぜ。」

「え~何々? 魔王討伐の依頼はカンザキ・シノブの所まで? 交通費としてダイヤモンドを差し上げます? なんだコレ?」

 そこに二人組の斧と剣を装備した男性ハンターが掲示板を見て不思議がっていた。

「面接するだけでダイヤモンドくれるのかよ気前のいい依頼者だな。」

「誰も魔王討伐依頼なんて受けないのに…一応、行ってみようぜ。ナタリーちゃん、このカンザキシノブっていう人は何処にいるの?」

「あそこの端で薄っぺらい本を読んでいる方ですよ。」

 男性ハンターは書類を運んでいたナタリーに声を掛けて忍の居場所を聞いた。
 ナタリーは忍に指を差し教えてあげる。

「…たまにはワイシャツ以外の服を着てみるのも良いな。」

「カンザキシノブさんってアナタですか?」

 忍がファッション雑誌を読みながら他の服に目移りして着てみようかとボヤいている。と、二人のハンターが近づき声を掛けた。

「ソチラは?」

「俺達、依頼書を見て来たんですよ。そしたら、ここで面接してるって聞いたので…。」 

「それではソチラにお座りください。」

 男性ハンターの二人は指示通りに座り面接が始まった。
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