マグナムブレイカー

サカキマンZET

文字の大きさ
上 下
146 / 169
第4章 覇気使い四天王。

第146話 黒星。

しおりを挟む
 冬の寒い空気が屋上へ吹き込む。
 時刻は五時なのに一気に周辺は暗くなった。
 東京に設置されている街頭だけが辺りを照らす。

「……寒いな」

 こうなるならカイロ一つでも持っておけば良かったと内心後悔しながら忍は待っていた。

「……」

 そしてホテルから客を一人残らず避難させた高島は、忍の動きを下で待っていた。

「あの~?」

 そこへ高島の気迫に負けたホテルマンが尋ねて来た。

「何かな?」

 高島はホテルから目を離すことなく返事をする。

「本当に爆弾なんてあるのですか?」

「あぁ、それも国家権力でも解除できない爆弾だ。もうこのホテルは諦めるしかないな」

「それって……」

「そう君達は明日から無職となる。だが、それを踏まえて私は責任を持って君達を雇おう。『アトラス財団』はホテルも運営しているからね、それにオーナーからホテルを高額で買った。これで君達は私の従業員となった。私が今からオーナーであり、このホテルを爆破しようが潰そうが自由だってことだ」

「は、はあ……」

 急な展開に脳が追い付かないホテルマン。

「さて、従業員諸君。私は警察の事情聴取がある。オーナーである私からの命令は、私の名刺を持って副社長とアポを取り、『アトラス財団』が管理するホテルへ転職してくれ。そして君達には精神的苦痛があると思うから、来社は来週から来てくれ」

「は、はい……」

 状況が理解できないまま、ホテルマンは考えるのを諦め、高島から離れたのだ。

「あのさ~? 前から言ってんだけどよ。お前達が戦うだけビル一つ破壊する被害を出すのは止めてくれって覚えてる?」

 そこへ草臥れた表情で颯爽と現れのは刑事だった。
 灰色のトレンチコート、その下は上下とも黒のスーツで統一され、ネクタイは悪趣味で大量の髑髏がプリントされた物。
 手入れされていない黒色の癖毛、瞳は鮮血のような紅く、体調不良な青白い肌の男だった。

「お久し振りです。皆木刑事、今回は相手が相手なんでね」

 高島から呼ばれた男は皆木一太みなぎいった
 東京中央警察署在籍で高島とも繋がりがある刑事だ。

「噂の神崎忍かな?」

「えぇ、『覇気使い最強』の……ですが、少し気がかりな事がありまして……」

「……まあ、こっちは手間賃さえ貰えれば文句ないから、そっちのゴタゴタには巻き込まないでくれよ?」

「はい、大丈夫ですよ。そちら・・・には迷惑かけません」

「そうだといいが……機動隊全体は至急にホテルから脱出しろ。そろそろ爆発する」

 皆木は無線機を使い爆発処理に向かわせた機動隊へ指示していた。

「でも、爆弾が……」

「野次馬共を下がらせろ、お前等が死ぬことは責任を持った俺が許さん。さっさとしないと俺が殺しに行くぞ?」

「は、はい! 全員撤収!」

 皆木はトランシーバーを仕舞い、高島へ目を向ける。

「今日は幾らにしておきましょう?」

「いつも通りの金額でいい。お前とは別の案件で、また頂くから安くしておく」

「それはそれは……始まりましたね。神崎忍の攻撃が」

 高島の宣言通りに異変は起きた。
 ホテルから地響きが発生していたのだ。

「な、なんだ!? なんだ!?」

「地震!」

   ホテル周辺に集まっている野次馬は騒ぐが、高島と皆木だけは冷静な表情で見ているだけだ。

「機動隊は全員避難しました?」

「あぁ、もう五分前に完了している。多分だが測ってたんだろうな神崎忍も」

 高島の質問に皆木は淡々と返事をする。

「これ以上は人殺ししたくないという事ですかね? でも、それは綺麗事ですよ。やった事はずっと追いかけて来ます。それは死ぬまで解放されない呪いですから。殺人というのは……」

「それはお前側・・・の考え方だろ?」

「そうでしたね……」

 愚問だったなという表情で高島は自己解決していた。
 そんな会話をしている中、ホテルの下から黒い渦が出現していた。

「ほう、あんな小さいブラックホールを作れるとは腕を上げたようだ」

「能力は上がっていますが、身体だけは異常なほど下がっています。今の私なら簡単に倒せます」

「ふ~ん? まあ、お前が余裕あるのはいいぞ。けど慢心すぎて寝首を掻かれないようにな?
東京は闇深い所だ。裏切りなんて日常茶飯事の眠らない都市だ」

「警告ありがとうございます。以後気をつけておきます……さて移動したみたいですし、俺は追いかけます」

「また後で」

「はい、また後で」

 高島はそう言い残し、現場から歩き去った。
 そして物の数分後にはホテルだけがブラックホールに飲み込み、自ら消滅した。

「ありがたいね。ホテルだけを飲み込み、他に被害を出さない配慮。好きだよ、そういう……気配り? 気遣いか? まあいい。それより残念だな、もう少しだけ長生きしてたら、一度だけの顔を合わせる事もなかったのにな」

 そんな意味深なことを残し、後の事は部下に任せて、皆木も何処かへ去った。


 人通りの多い銀座の道で、人混みを紛れる様に隠れて歩く人物がいた。

「……」

 疲労困憊な忍だった。
 宇宙の覇気のブラックホールは大幅に体力を消費する為、集中力がいるダークネスホールを開いて移動するのに遠くへ行けないので、近くの道へワープし、屈辱的だが高島から逃走していた。

(今の俺では高島には勝てない。ここは頼るべきではないが、魔界連合に保護してもらうしかないな。どうか伊波と出会さないように……)

 フラフラな身体を精神だけで振り絞り、六本木へ向かう新橋駅へ向かう。

(こうなるなら東京の町を観光しておくべきだった)

 所詮短期間の任務だと思い、忍だけは東京を観光せず、一人でせっせと事務作業をし、終わるまでワインの事ばかり考えていた。
 ダークネスホールは自分の記憶にある物や、思い浮かべられる背景ではないとワープできない仕組みになっている。
 適当な所へワープしてしまうと岩の中や、宇宙へ放り出される事故を招く。
 ならば魔界連合ならワープできるだろうと考えるが、魔界連合の本部は移動要塞となっており、その場にあった物がなくなっている事案が幾つもあったのだ。
 ウロボロスの時は事前に場所を知らされていたからワープできたが、今回は誰もが忍は知っているだろうという先入観で判断し、場所を教えていないのだ。

(あの高島のことだ。事務所に逃げ込んでも、そんなの見越して来るだろうな。品川から食らったダメージがデカすぎる……後悔ばかりだな。輝とは喧嘩するし、閻魔には言い様に扱われる……)

 忍は立ち止まり、疲れた身体を休ませ、暗くなった空を見上げる。

(品川、もしかしたらお前との決着は永遠につかなくなるだろうな……その時は閻魔に頼れ。それしか言えないな今は……)

 僅かに体力を回復させ、引き続き歩み始めた。
 肩で息を繰り返し、疲労で意識が遠くなりながらも歩いた。

「おっと、前向いて歩けよ!」

「……あぁ、すまない」

 フラフラして歩いているのでサラリーマンの通行人に衝突する。
 面倒な事になりたくないので喧嘩だけは起こさないように謝罪した。

(駅まで、後少しだ)

 銀座から新橋まで歩いて目指していたのは駅だった。
 忍は裏をかいたのだ。
 高島は忍がダークネスホールで遠く移動したんだろうと思い詮索している。が、闇の覇気を頼らず身近に、しかも徒歩で移動するとは思わないだろうと考え、行動へ移していた。

(ちゃんとダークネスホールが使えてたら、こんな馬鹿みたいな行動しなくても良かったんだが……贅沢は言ってられないからな)

 地下鉄へ潜り、そのまま六本木駅まで行く切符を買おうとする。
 だが……

「……」

 切符売り場の前で忍は立ち尽くしてしまった。

(そう言えば切符ってどうやって購入するんだ? いつも雅に頼んでいたから買い方なんて分からんぞ)

 普段は新幹線以外は基本的に車等やワープなので、切符なんて物は買ったことのない忍。

(財布はある。だが、買い方が分からない。クソっ!)

 忍は大量に額を発汗させながら前へ進めなくなっていた。

(どうする? 駅員に聞くか? いや、いい年したオッサンが切符の買い方を聞くのは恥ずかしいか? それより急がないと高島に追い付かれるのでは……)

 忍の中で思考が混じり、冷静に細かく見れば分かる物が分からなくなっていた。

「そこのオジさ~んさぁ、早くしてくんなぃ?」

 そこへガングロギャルが立ち尽くす忍へ声を掛けた。

「お、オジ……さん……」

 自分で爺臭いことを言っておいて、他人から言われるとショックを受けていた。

「もしかしてぇ~? 買い方分からないとかぁ? ちょ~ウケるんですけど」

 ケタケタと笑われ馬鹿にされる忍だった。

(このアマぁ、人が困ってんのに助けようという気持ちになんねぇのか? 見てろよ、俺だって切符ぐらい買える……やっぱ無理だ)

 財布から一万円を取り出し、券売機へ入れようとする。が、機械オンチな忍にとっては無理な課題だった。

「オジさ~ん、お金あんじゃん。ここにお金を入れて、行きたい所の値段を買えば行けるし」

 なんと嫌悪していたギャルから、忍に切符の買い方を教えてくれたのだ。

「……すまないな健康的な褐色肌の……変な言語を使う高校生よ」

「何ソレ? つーか長すぎだし」

 忍はギャルという単語を知らないのだ。

「これは礼だ。少ないとは思うが助かった」

 忍は財布から十万円程度をギャルに手渡し、六本木までの切符を購入し、そそくさと電車へ乗って行ったのだ。
 それにお釣りなんて気にせず、忍は行ってしまった。

「……マジ、パネェあのサングラスオジさん」

 礼金が常識はずれな額なのでギャルが困惑していた。
 そしてなんとか乗り継ぎやら迷わずに六本木駅まで辿り着いた忍は、掲示板の地図を見て位置を確認する。

(よし、ここから少し離れた所に、結界が貼られた魔界連合の所へ行ける。ダサくて格好悪いが、今は命を守るのが優先だ)

 忍が目指した場所は港区にある鳥居坂だった。
 魔界連合の屋敷は、ある手順を踏まない限り侵入できない仕様となっていた。
 そうしないと一般人が迷い込み、神隠し事件が起こるので、安全策として結界に入れる人物を限定していた。

(久し振りだから、あってるどうか分からないがやってみるしかないな)

 忍は鳥居坂へ辿り着き、坂を上がる前に準備をする。
 先ず魔力を身体に纏い、歩く速度で坂を上がる。こうしなければ結界は反応せず屋敷へ通してくれないのだ。

(閻魔にどう報告するか……頼りたくなかったが、俺の身体能力を戻してもらうしかない。このままでは仕事どころの話じゃないな)

 今回の件が終わり次第、恩を作りたくないが閻魔に体力を戻してもらおうと、忍は集中しながら考えていた。

(だが、この危機感は久し振りだ。忘れないように覚えておかないとな)

 慢心を反省し、忍はもうすぐ辿り着く頂上へ目を向けた。
 そして目を大きく見開き、絶望の表情を浮かべていた。

「お気に入りのゲームをしながら待ってたら、スマホのモバイルバッテリーを会社に忘れてた事に気づいたよ。でも、もう待たなくていいと思ったら気は楽だよ」

 頂上には街灯で照らされた高島が待っていたからだ。

「ど、どうやって……」

「何故ここが分かったか? 最初は遠くに逃げたんだろうなって思った。部下に見張らせている、桜草刑事の家じゃなければ事務所にもいない。考えられるのは一つだったけど、魔界連合の入口は複数あるからね。一つに絞り込むには時間がかかる……説明する前に、やっておく事があるね」

 そう言って高島が右手を上げた。
 その瞬間、忍の左足が鮮血と共に切断され吹き飛び、バランスを崩し倒れた。

「!」

 激痛で声にならない悲鳴を上げ、悶え苦しみ、発汗させて、涙目になりながら、切断された左足にダークネスホールを開いた。
 流血した血液をダークネスホールで血管へワープさせ、出血多量で死なないように対応した。

「これで話ができる。これ以上逃げられたら面倒だし、殺すって言ったから有言実行でもある。まあ、死ぬ前のネタバラシタイムだよ」

 そう言いながら高島は忍へゆっくりと接近する。
 目に隈を作り、顔色が悪く中でも息を整えながら、忍は高島を見ていた。

「ネットというのは便利だよね、スマホの形として持ち歩ける。小型のパソコン。しかもSNSっていうのは素人でも扱える優れものだ」

 高島はTwitterを開き、画面にある物を見せていた。

「ダークネスホールが使えない君は、ただの一般人。それに行動が目立ち過ぎたな」

 そこには券売機の前で忍が立ち尽くす写真だった。
 それも無数に投稿され、電車内でも怪しい男として写っていた。

(ソーシャルネットワークサービスSNSごときに負けただと!)

 危機的状況なのに、忍はそれしか考えていなかった。

「プライバシーもクソもないね。だけど見つけるのには苦労しなかったから、ここにいる。説明終わり。それじゃあトドメを……」

 高島は右手を上げて何かを仕掛けようとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...