マグナムブレイカー

サカキマンZET

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第3章 東と西 黒の追憶編。

第119話 悪魔の歓迎。

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 周囲は白く深い霧で全く視認できなかった。

「おいおい、邪魔者はここで始末するっていうヤバイ状況か?」

 身の危険を感じ、吹雪は車外へとドアノブを触り脱出しようとした。が、忍に左肩を捕まれ静止される。

「やめとけ。ここを一歩でも出てみろ、奴等の餌食になるぞ?」

 真剣な表情で忍が停止していたので、これはただ事ではないと吹雪は感じた。

「な、なんの餌食に?」

 畏怖に駆られた吹雪が、に襲われるのか忍へ尋ねた。

「この霧は閻魔が依頼した結界師による魔術結界だ。それも防犯・・用のな?」

 するとリムジンへ接近する異形の影が、窓に写ったのだ。
 それは大きくつぶらな瞳だった。

「ま……!」

 吹雪が驚愕して大声を上げようとした瞬間、忍によって口を左手で防がれる。

「シィー」

 右人差し指で吹雪を優しく口止めしていた。
 吹雪は驚いたままだが、無言で縦に頷いて了承した。

「な、なんなんだアレ・・は?」

 冷静となった吹雪は、もはや小声というより掠れた声と仕草で、忍に霧の中にいる化け物を尋ねた。

アレ・・は、地獄の番犬ケルベロスだ。魔王時代の閻魔が魔界で拾って、一生懸命育てた三つ首の犬だ」

 こちらも口パクに近い声で返答する。

「ファンタジーの中だけだと思ってたのに、実在すんなよ……」

「デカさだけでも、ウルトラマンで三分の一の大きさだ」

「滅茶苦茶デケェじゃねぇかよ。馬鹿じゃねぇのか! なんで、そんな馬鹿デカイ犬を飼うんだよ。何処に飼育する場所があんだよ?」

「ここは空間をねじ曲げて、一般人が進入できない構図になってる。許可のない者が入ってもすり抜ける形だ。けれど、結界設定で魔界連合に敵意ある者や屋敷に不法進入した者を始末するのが、ケルベロスの役目だ」

「じゃあ、こんなコソコソして行動しなくても良いんじゃね?」

「だが、残念な事にケルベロスだけが敵の認識が曖昧すぎて、誰構わず襲い掛かるから、こうやってんだよ」

 ケルベロスの弱点を認識すると、吹雪は納得していた。

「おい、ポチ。ここは良いからアッチで遊んで来い!」

 そこへケルベロスの飼い主である閻魔が、ポチをリムジンから離れさせる。
 ポチは窓から目を離し、ドシンドシンと轟音を鳴らしながら、霧奥深くへと消えた。

「出てきて良いぞ。暫く、ここには戻ってこない」

 その閻魔の合図で、勢いよく吹雪が大きく飛び出した。

「あ~死ぬかと思った!」

 やっと狭い車内で極度の緊張から解放され、深呼吸し思いっきり大きな声で自由を喜ぶ吹雪だった。

「悪かったな。キナ臭い情報と輩共が多いから、警備を配置したんだ。一々、全て対応なんて面倒な事をしたくないから、首相から許可を貰ったんだ」

 深い霧の中から、ベースが紫色、黄金に輝く花鳥風月の刺繍を入れた着物で、閻魔は出現した。
 ここは着物に合わせて下駄も穿いていた。

「だから、俺は何時も『ダークネスホール』から進入するんだよ。こういう面倒くせぇ手順が嫌だから……今回だけは礼儀として、ちゃんと玄関から来たぞ?」

 下車しながら閻魔へ向けて文句を言う忍。
 けれど、親しき仲にも礼儀ありという事で、真っ正面から入門したのだ。

「まあ、それは俺との仲だ。今日は周りがうるせぇから、玄関からお願いしただけだ……こんな感じでな?」

 閻魔が指パッチンすると霧が一瞬にして晴れ、視界は良好となった。が、吹雪達を囲っていたのは現実離れした異形の者だった。

「お、おい……」

 吹雪は驚き慌てふためきそうになった。が、落ち着かせる為、忍は左肩を掴んだ。

「安心しろ、ここにいる奴等は閻魔の命令でしか動けない。もし許可なく動こうとすると、コイツ等の魂が消滅する」

 吹雪を安心させる為、忍は襲われない状況を解説していた。
 それを聞いて吹雪は取り敢えず一安心した。

「あぁ、コイツ等は俺と盃契約を交わした。クロード以外はな?」

 数ヶ月前に吹雪が戦ったクロードだけ、除いてと不穏な言葉を閻魔は残した。

「おいおい、俺ってアイツに殺されかけたぞ……」

「ちゃんと解決しただろ? まあ、あの時人一人死んでいたら、クロードは二度と転生できない様にしてたと思うな」

「え!? そんな事できんの!」

「一応、俺の権限で魂の消滅と転生を決める事はできる。許される基準値を越えなければ異世界に転生して、余裕に暮らせるぐらいはできるぞ?」

 夢と物語で見た異世界転生して何不自由なく暮らせる事が出来ると聞いた途端、吹雪は目を輝かせる。

「……うわっ、キモ。」

 そんな吹雪の表情を、冷たい目で雅はドン引きしていた。

「異世界転生なんて誰でも夢じゃねぇか! だってさ、自分勝手に生きれてさ、女の子にはモテ放題だし、お金なんか水のように沸き上がる理想な世界だろ!」

 そこで異世界経験のアリそうな忍は、微妙な表情を浮かべていた。

「……」

「物語とか漫画では、そう表現はされている。だが、これは出来の悪いシステムだ。それなら、まだシムシティとマインクラフトをやった方がマシだ」

 それは閻魔も否定しており、神様と魔神なのにビデオゲームをやっている事に驚きは隠せなかった。が、何故かと疑問に思った。

「え? なんで?」

「異世界転生は知識と記憶が引き継がれて、人生リスタートみたいな表現はされている。そうなっても、やる事は同じだ。王様、魔王、超越者になっても……それは人間のエゴであり、何も成長しないループなクソ世界だ」

「……」

 ここに存在する極道の言葉は説得力があった。魔王を一撃で仕留め、更には出生が明らかという証拠があるから、吹雪は納得するしかなかった。

「自分が娯楽で楽しむのは良いが、悪く言えば魂の牢獄だな。能力は成長できても何も満たされない、どんだけ良い女や人種を抱いても癒されない、沸き上がる金があっても必ず対価として周りが不幸になる……そんな世界の何が良い? 結局は今やってる現代社会と異世界は一緒だ」

「でも、それって物の考え方だよな?」

「人間というのは繰り返して、反省する神の子でな。どれだけ神話においても必ず汚点はある。ゼウス、ロキ、アポロン、こんな凄い奴等でもやらかす。綺麗事で世界は確かに幸せにはなるな、一時でもな。けれど、それにも限界がある……」

「じゃあ、アンタの……いや、閻魔さんの考え方は?」

 色々と突っ込まれ落ち込み、不貞腐れる吹雪だったが、ここは閻魔の考えを聞いてみた。

「俺か? 取り敢えず、この世界を天国文明・・・・にする。独裁主義と自由主義の良い所を取って廃止させ、世の中が真に平等となっている事を気づかせる。おやじの考えは、また世界を一つにする。そして悪が栄えない、他人の優しい世界を目指すのを協力するのが、俺の役目だ」

「……なあ? その天国文明っていうのは何だ?」

「死んだら地獄へ向かうのは嫌だろ? だったら、現界を天国みたいにして、死んだ後に魂が自動的に天国へ向かえる様にしたら、痛いとか苦しい思いせず、普通に暮らせる計画だ」

 もの凄く分かりやすい解説だったので、妙に吹雪は納得した。

「おい、客人を立ち話させるつもりか?」

 そこへ痺れを切らした忍が本題へと戻した。

「あぁ、そうだったな。皆様、屋敷までどうぞ? 伊波、その血だらけのリムジンは丁寧に洗浄しろよ?」

「はい、親っさん!」

 命令を下されると伊波はイキイキとリムジンへと乗り込み、洗浄器械付きのガソリンスタンドまで向かったのだ。

「暫くは戻ってきそうにないな。それじゃあ行きましょう」

 吹雪と雅は荷物を持ち、閻魔の後ろへ付いて歩いて行く。

「……悪いな品川、伊波に売って」

 いるはずもない品川を伊波へ売った事を謝罪し、屋敷へと向かうのだった。
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