マグナムブレイカー

サカキマンZET

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第3章 東と西 黒の追憶編。

第113話 クレイジードレッド

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「悪魔じゃなく『覇気使い』を雇ったのか? それも若頭補佐で!?」

 通常、魔界連合は悪魔が殆どの構成員組織である。ごく稀に多種族の吸血鬼、魔女、人狼、サキュバス等が極道になる事もあり、ならばと言う事で盃を交わすことはあった。
 でも、忍が驚愕したのは人間、もとい『覇気使い』が悪魔の幹部として、君臨しているのが信じられなかった。

「あぁ……奴には力もあり、資金力もある。十年で若頭補佐まで登り詰めた。そこは認知しなければならない」

 閻魔が伊波を若頭補佐と決めた理由わけは、他と違い行動力もあり、更には上納金も他より多く出していた。
 これほど実力があれば本物である。けれど問題はあった……

「他の幹部連中は納得してんのか? 実力はあっても人格破綻者を幹部にするんだぞ?」

 伊波を幹部にした事を、忍は真剣な表情で閻魔を諌めた。

「……俺が決めた事だ。教会側のお前に口出される必要はないだろ?」

 この忍と閻魔による言い合いにより、部屋の空気は一辺した。それも氷点下以上の極寒で裸にいる気分へさせられた。

「……あぁ、そうだったな。余計な口を出して悪かった……アンタ等の問題であり、俺には関係なかったな」

 ここは忍が折れて、閻魔へ謝罪し穏便に済ませた。

「……やはり変わったな。五年前なら即とっ掴み合いの喧嘩になってたのにな?」

 閻魔の表情に変化はないが、ここは穏やかな表情には違いないので、修羅場は発展せずやり過ごした。

「俺は変わってない。ただ、見方を変えた。もう現実だけ追い掛けても、辿り着けないって分かったからだ。だったら、一層いっそことできる所まで遠回りするさ……『アトラス財団』の件は承った。この神崎忍、司祭として神である貴方の試練に感謝します。ありがとうございます」

 最後に忍は教会の人間として、正座で頭を深々と下げて閻魔へ感謝した。

「細かい事は追って話すとしよう……今日はお疲れさん、よろしく頼むぞ」

「あぁ、ちゃんとするさ。それじゃあ……」

 野暮用は終わり忍は立ち上がって、閻魔へ背中を見せた。『ダークネスホール』を開き、ズブズブと闇の中へと入り帰宅した。

「……品川といい、忍といい、伊波も俺の関係者は問題児ばかりだな。」

 嬉しそうに愚痴りながら、閻魔は本日五百二十六本目のスピリタスへ突入した。

「兄貴、失礼します。この大量注文したスピリタスの請求書がウチに来たんですが、心当たりはありませんか?」

 そこへ鬼塚が入って来る。部屋にあった大量のスピリタスを見て、どうやら納得していた。

「お前も飲むか?」

「兄貴、少しは自重してください。いくら腐るぐらい金あっても、ゴミを捨てる人の身にもなってくださいよ」

「悪かった」

 鬼塚へ無表情で苦言を呈されながらも閻魔は持っているスピリタスを最後にした。


 眠らない町、新宿歌舞伎町。電球で町は煌びやかに照らされ、眩しい程だった。
 そこへ閻魔のスピリタスを持ち、ラッパ飲みしながら伊波は悠々自適に歩いていた。

「あ! 伊波くん!」

 そこへ赤いドレスを着たキャバ嬢が伊波へと近づく。

「アヤカちゃんじゃない? どうした? また変な客に嫌がらせされたのか? それとも良い酒でも入ったのか?」

 伊波もキャバ嬢と友好関係を持たなければならないので、狂わず普通に対応する。

「違うよ~今日はお店に来てくれないの?」

「……あ~悪い。今日は……」

「おい、お前確か魔界連合若頭補佐の伊波だろ? こんな所で遊んでいいのかよ?」

「……誰だ? 名乗る事ぐらいしろよ。バ~カ」

 そこへアロハシャツを着たチンピラとスーツ姿の顔に傷があるヤクザの二人が現れた。
 挑発されると先程とは打って変わって、険しい表情で伊波は挑発し返す。

「おっと、すまなかった。コイツは最近入った奴で躾が足りなかった。ここは穏便に済ませくれねぇか?」

 どうやら伊波にちょっかい掛けて来たのはチンピラらしく、兄貴分のヤクザが前へ出て謝罪していた。

「わ、私仕事に戻るね?」

 修羅場で怖くなったキャバ嬢は伊波達から走って去る。

「だったら尚更、今喧嘩すんの間違いだって事を教えておけ。テメェそれでも指導係か? テメェのオツムは何も理解してねぇのか?」

 謝罪しただけでは収まらなかったのか、更に罵詈雑言を二人へ浴びせる。

「……まあまあ落ち着いて。ここでは他の人に迷惑が掛かるから、ちょっとアソコで話をしましょう」

 他人に迷惑が掛かると言い、ヤクザは薄暗い路地裏へと親指で指し示し、そこへ話をしようと提案した。

「あぁ、良いぜ。ここじゃあ迷惑かかるよな? だったら、とことん話し合おうぜ?」

 伊波はヤクザの提案を了承し、先行しながら大人しく路地裏へと入って行く。
 その先はビルに囲まれた少し狭い空間だった。

「よし、じゃあ話っていうのは何だ? わざわざ俺に絡んで来たことには意味があんだろ?」

 無法者二人が意味なく近づくことないと、思っていた伊波は壁へ凭れ腕組みし尋ねる。

「閻魔会長の盃を寄越せ。それだけだ」

「自分で探しやがれ、あの人は意外と近くにいるもんだぜ?」

 伊波は胸ポケットから黒いパッケージのアメリカンスピリットという煙草を取り出し、一本だけ咥えた。
 ヤクザがポケットからライターを取り出し、煙草に着火させようとした。が、伊波は右手を出して拒否した。
 内ポケットからマッチ棒一本取り出し、マッチ箱の側面をスライドさせる。すると摩擦でマッチ棒は着火し、煙草へ近づけて燃えるまで待つ。
 アメリカンスピリットは普通の煙草と違い、葉っぱがギッシリと詰め込まれている為、着火には時間が掛かるからだ。
 そして大きく力強くニコチンを肺まで吸い込み、天へ向けて紫煙を吐き出した。

「……あの正体不明な組織に近づけた奴はテメェだけだ。ここは結託して、甘い汁を啜ろうじゃねぇか? そして魔界連合の会長を暗殺して、俺達の物にしようぜ?」

 ヤクザが伊波へ提案したのは組織の裏切りと結託だった。

「馬鹿かテメェ? 自分で探すことなんかせず、俺なんか捕まえて近くことしか能しかねぇ連中が魔界連合に入れると思ってんのか?」

 だが、伊波の返答はノーだけだった。

「テメェさっきから下手に出てりゃあイイ気になりやがって……」

 埒が明かないと判断したヤクザは伊波を痛い目に合わせて、どうしても居場所を吐かせようとした。
 そのヤクザの舎弟であるチンピラは指をコキコキ鳴らしながら伊波へと近づいた。が、その行動が仇となってしまった。
 チンピラが間合いに入った瞬間、伊波はスピリタスの瓶底を上にし、容赦なく顔へ目掛けて叩き込んだ。
 メキメキとチンピラの鼻が粉砕される鈍い音が路地裏に響く。

「ぐあぁぁぁぁぁッ!」

 チンピラは鼻を抑えて苦悶の表情で猛烈な痛みで絶叫した。

「て、テメェ!」

 そんな容赦ない人道から外れた行動に恐れたヤクザは、懐から自動拳銃を取り出して伊波へ向けた。
 拳銃を向けられて伊波は大きくニンマリと笑い、ヤクザへと歩きながら接近する。

「く、来るな! ま、マジで殺すぞ!」

 必死によるヤクザの脅迫は伊波には通じなかった。畏怖の念でヤクザは伊波へ向かって数発は発砲した。
 すると伊波の身体に被弾している筈なのに血液は流れていなかった。それ処か拳銃なんか恐れずに近づいて目前まで来ていた。

「……わ、悪かった。降参だ! ほら、銃は捨てるから……ぶべっ!」

 ヤクザは助かる為、命乞いとして銃を捨てようとした。が、真っ先に伊波は銃を持たせたまま、瓶で左頬を叩き込んだ。

「な、なんで! もう降参だって言ってんだろ!」

 ヤクザは戦意損失し、腰を抜かしながら後方へと身体を引き摺りながら伊波から離れる。
 だが、伊波の左前蹴りで銃を持っている右腕を折られる。

「ぐあぁぁぁぁぁッ!」

 いきなりの激痛でヤクザは苦悶の表情で、涎を垂らしながら絶叫した。

「これで銃は手離せねぇな?」

 ヤクザは気づく。この状況かでどっちが有利かと思われると、瓶の伊波より、銃を持っている自分だという事に……。

「テメェの定規ものさしで俺と会長を語ってんじゃねぇよ……それと俺が何で世間から『クレイジードレッド』って呼ばれてるか知ってるか?」

 急な伊波による問い掛けに、ヤクザは恐怖で返答できずにいた。

「笑顔で人をグチャグチャに……殺害・・するからだよ」

 そう言うと伊波は瓶を大きく振りかざし、勢いよく頭へ目掛けて振り下ろした。
 それでは飽きたらず、肩、肋骨、腹等を瓶で四方八方へヤクザの身体に叩き付けていた。
 それも狂気な笑顔で何度も何度も繰り返しては瓶で叩く。ヤクザの返り血が服や顔にも付着していく。
 そのヤクザが意識不明になっても停止する事なく……それは相手が生き絶えるまで続けるつもりだ。
 そこへ伊波の肩を優しく触れる人物がいた。

「?」

 暴走行為を停止させ、伊波はゆっくりと振り向いた。

「もう……やめて……その人……死んじゃう……」

 伊波を停止させたのは、先程逃げたキャバ嬢だった。恐怖で震える声を必死に出しながら止めていた。

「……良かったな? アヤカちゃんが止めてくれて……じゃあな、また余裕があったら店に顔出すよ」

 伊波は落ち着きを取り戻し、キャバ嬢へ別れの挨拶をして、フラフラと路地裏から去って行った。
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