マグナムブレイカー

サカキマンZET

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第2章 魔導使い襲来。

第64話 第一戦、最強と消滅。

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「いつまで偉そうに座っているつもりだ? 俺と殺りたいんだろ?」

 そろそろ戦闘を始めたい忍は手始めに練魔へ挑発する。

「…お得意の皮肉だな。」

 よっこいせと練魔は呟きながら玉座から立ち上がり、薄気味悪い笑みを浮かべて忍と対峙した。
 そして練魔が玉座に触れる。と、玉座はたちまち独りでに消滅した。

「触れられたら一発でアウト…っていう訳でもなさそうだな。」

「さあな? その軽い頭で精々考えな!」

 練魔は言葉と同時、忍の目前へと驚異的な早さで近づき、頭を捕らえようとした。が、忍は練魔の動きは目で追えていた。
 ただでは掴ませないと音速の動きで背後へと回り、背中を蹴った。
 練魔は無抵抗にダメージを受け、タイルの壁へと頭からめり込み、大きなクレーターも作った。

「不意討ちにしては遅いな? もしかしてそれが実力だったのなら謝るよ。」

 練魔の不意討ちが失敗に終わると、忍は腕組みし、挑発していた。

「いや、気にすんなグラサン野郎。まだまだ序ノ口って所だ。」

 練魔はもがきながら頭をすっぽりと引っこ抜き、振り向き忍の挑発に対して、余裕だと返していた。

(不気味だな。)

 忍は今まで下級悪魔と幻魔しか戦ってこなかったので、初めて戦う練魔が不気味に思い警戒していた。

「なあ、神崎忍? ここに来る時、天使がいたよな? それもクソみたいな穏やかな光を纏い、心地いい幸福感を与える上級天使にな?」

「…まさか神に復讐する俺が、命惜しさで心変わりしたとか言うんじゃないだろうな?」

「はあ? チゲぇよ。魔界ここに来る時、鍵を使っただろ? その入口は開けぱなっしだよな? まあ、お前等の事だ。入口には結界貼って通れなくしてるつもりだろうがな!」

 練魔は天井に向かって、何かを発射した素振りを見せた。

「…ちっ、こうなるのか。」

 舌打ちしながら忍の不穏な予感は的中していた。練魔の狙いは主力となる『覇気使い』が不在している人間界へ悪魔を送る事だった。
 そして見えない何かを、放ったのは『消滅の魔導』による攻撃だった。それで結界を消滅させて、人間界へ進入させる策だった。

「こうなったら行くしかねぇよな? けどよ、地下っていう意味にもあるんだぜ。ここは魔王様の所まで行かないと、後戻りできない仕組みになっている。良く考えられてるよな?」

「出れないなら作るまでだ。」

 忍はダークネスホールを作り、入口近くに外へ出ようとした。が、見えない壁に阻まれワープできなかった。

「無理無理。この城に入った時点で外に出る事が許されない。『魔界連合』が俺達に貼った結界を模倣させてもらった。三ヶ月が仇となったな?」

「…だったら早く終わらせて、先へ進むだけだな。」

「それができたらな?」

 忍が油断している隙に、練魔は背後へと回り込んで後頭部を右手で掴んだ。そして勢いよく膂力を込めて地面へと叩きつけた。
 忍は油断していた為、『闇の覇気』の透過能力が使えず、顔から無抵抗に叩きつけられた。
 反撃される素振りを見せたので練魔は忍から少し離れて様子見していた。

「おっと悪い。無抵抗なもんだったんで、つい不意討ちしちまったぜ。もしかして、不意討ちに対応できいのが実力だったのなら謝るよ。」

 練魔は忍から言われた事を嘲笑いながら、そのまま返していた。
 忍はうめき声を上げながら立ち上がり、レンズが粉砕されたサングラスを捨て、練魔へ見ていた。

「気にすんなクソ悪魔、まだまだ序ノ口だ。」

 忍は完全にお気に入りのサングラスを粉砕された事でキレていた。が、不気味に笑い練魔が言った事をそのまま返していた。

「やっぱ戦いは面白れぇな! この理不尽に命を取り合う戦いはな!」

 練魔は頬を限界まで吊り上げて、狂喜的な高笑いを上げ、完全に戦闘を楽しんでいた。

「…勝手に言ってろ。」

 忍は鼻血を拭い、練魔へと音速の早さで接近した。そして右足を頭上まで高く上げ、目にも留まらぬ早さでハイキックを繰り出した。
 練魔は欠伸をしながらマトモに忍の攻撃を喰らった。

「あ~終わり?」

 先程とは違う練魔の反応で少し動揺した忍だった。が、構わず色々な攻撃を試した。
 左ハイキック、右ローキック、左右で脇腹を狙ったミドルキック、普段は使わない右フックを連続で繰り出していた。
 そして最後に急所の顔を右ストレートで殴った。

「もう終わりだな。」

 だが、練魔は平気な表情だった。一度も苦悶な表情を浮かべず、ただ忍の攻撃を受けて無抵抗に立っていただけだ。

「…お前、えげつない事をやりがったな。俺でも『魔導』を習得して出来るかどうかは分からんが、攻撃してきた“エネルギー”を全て消滅させるとはな。」

 忍は練魔に対し、若干恐怖が生まれた。防御する訳でも避ける訳でもなく、全ての攻撃エネルギーを消滅させた事にだった。
 その事実を知ったのは練魔を触れた瞬間、反動で伝わるエネルギーが来なかったからだ。

「長年生きてると器用な事ができる。それも気が遠くなるような数千年という、つまらない時間を感じながらな。だが、今は違う…好きな様に人間を狩る事ができるからな!」

 練魔は忍の右腕を掴み、勢いよく捻った。忍は空中で体が大きく横回転し、無抵抗に地面へと倒れた。
 初めて忍の苦痛に歪め、悪魔に苦戦を強いられていた。

「もう一丁!」

 練魔は容赦なく倒れている忍の腹へ目掛けて、蹴った。忍は無抵抗に蹴られ、壁際まで背中から激突した。

「…久し振りだな、この俺が悪魔ごときに苦戦するとはーーちょっとイラっときたぜ。」

「だったら『もう一つの覇気』を使って来いよ。まあ、それさえも消滅させてやるけどな。」

「テメェごときに使うのが勿体ないんだよ。使うなら閻魔光とウロボロスぐらいだ。」

「お前ごときが魔神である閻魔様を呼び捨てにするとは…身の程をわきまえろ。」

 魔界の神である閻魔光が呼び捨てされた事で、不機嫌になった練魔は忍を睨んでいた。

「だったら呼び捨てされねぇように早めに決着つければいい話だろうが。そんな事も分かんねぇのか?」

 忍は大分ダメージを受けたのかフラフラと立ち上がり、立腹している練魔へ更に煽り立てていた。

「…舐めてんじゃねぇぞ? 人間ごときが地上を支配しているからと言って、偉そうにしやがって。本来なら地上を支配していたのは天使と悪魔だ。だが、神が人間という弱い生き物を創造し、地上を支配させた。」

「歴史の勉強をしにきたんじゃねぇよ。」

「まあ、聞け。人間が地上を支配し、神は更に人間に知恵を与え、欲を与え、文明を発展させた。だが、人間は神から与えられた物を争いの道具に使った。そんな愚かなゴミに支配されていると虫酸が走る。」

「それで人間を滅ぼすってか? 神が産み出した物はどんな理由があろうと悪魔が関与できる範囲が制限されてんだろうが…そんな考えで人間を滅ぼしてみろ、悪魔という必要悪が意味がなくなるぞ。」

「だから、これは神への見せしめだ。俺達は死ぬなら閻魔様の手でだ。」

「…テメェ等が神へ見せしめする前に、俺が神へ先に復讐するのが筋だ! テメェ等の勝手で譲るほど優しくねぇんだよ。」

 忍は怒りで闇を体へ纏い、構えていた。

「だったら、この戦いで生き残った方が正しい事になるな? それだったら話は簡単だ、テメェをズタズタに引き裂いて、ぶち殺してしまえば済むんだからな?」

「だから、俺はそんなに優しくねぇって言ってんだろうが!」

 練魔と忍は戦闘態勢に入る。と、一瞬にして二人の姿が早さで消えた。その速度は音速ではなく光速だった。
 光速の世界では、縦横無尽に駆け回り隙があれば互いに攻撃していく。
 忍は練魔に攻撃エネルギーが消滅されるのは承知で、何処かに油断する隙を狙い、急所や関節を攻撃していた。
 一方の練魔も負けじとエネルギーが消滅できない所は避けては防御し、油断した所を突くスタイルに徹していた。

(流石、『覇気使い最強』。こんなにダメージを受けても戦闘を続行するスタミナ、精神力、どれにおいても素晴らしい。だが、人間の肉体は制御の塊だ。)

 そして練魔は仕掛けた。ただ立ち止まり、忍の動きを見て不適に笑っていた。

(…何か仕掛けたてくるな。あんまり使いたくなかったが、ワープ戦法に変える。)

 忍は闇の渦を無数に展開させた。そして闇の世界へと進入し、穴から練魔を覗き見て、どう仕掛けるか考えていた。
 そして油断している練魔の背後から、奇襲を掛けた忍だった。
 けれど練魔は分かっていた様に、華麗な動きで避け、忍の素早い動きを巧みに利用し、左ミドルキックを繰り出した。
 忍はマトモに脇腹でキックを喰らい、メキメキと鈍い音が鳴り響いた。

「ぐあぅ!」

 あまりの激痛に忍は苦痛な声を上げ、ダークネスホールが消滅し、倒れ込んでしまった。

「今の音は肋骨が折れたな。これで素早い動きができないだろう…な!」

 練魔はチャンスと言わんばかりに、忍がダメージを負っている脇腹へ、容赦なく勢いよく目掛けて蹴る。

「ぐああああッ!」

 大人でも普段から折る事がない骨を蹴られて、忍は鋭く響く痛みで、苦悶な表情を浮かべて悶絶していた。

「良いね! そうだよ。戦いは汚い綺麗もないだろ? 死ぬか生きるかだ! だが、今回は俺が生きる事になるな。何故なら、もう終わりだからだ。」

 練魔は無抵抗な忍の毛髪を左手で掴み、軽々と腕力のみで胸の高さまで持ち上げた。

「中々楽しめたぞ『覇気使い最強』。もうこれから悪魔と戦わなくて良いぞ。それに復讐も終わりだ。この俺が怨みを引き継いでやるよ。」

 そして練魔は忍に死の宣告を告げる。と、右手を突きの形で構え…心臓へ目掛け、奥まで突き刺した。


 その頃、六人は走って次の部屋まで目指していた。
 輝はいきなり立ち止まった。兄弟としての直感なのか、忍の身に何かあった事を察知していた。

「輝さん?」

 いきなり立ち止まった輝を心配し、修二は戻って来た。

「…大丈夫だよ。兄さんは負傷した事があっても絶対に生還するから…さあ、早く行こう。兄さんなら追い付くと思うから…。」

 輝は不安を押し殺し、修二に目的地まで向かおうと提案した。

「…輝さん、この件が終わり次第、俺は忍と約束を果たす。どちらかの一方は確実に負ける。その時、輝さんがどっちについても俺は恨まねぇし、気にしたりしねぇ…それだけは分かってください。」

 真剣な表情で修二は自分なりの励まし方で輝へ、これからの計画を話していた。

「…あぁ。じゃあ早く魔王を倒さないとね。」

 輝は忍が生きて追って来る事を信じ、先へと進み始めた。


「あ…あ、有り得ない! ふ、ふざけやがって!」

 練魔は口から紫色の血液を流し、瞼が限界まで見開き驚愕していた。

「…攻撃エネルギーを消滅させるのに集中して、『闇の覇気』の透過能力を忘れていたな?」

 忍は胸が刺される前に透過能力を使い、練魔の顎へと右膝蹴りを繰り出していたのだ。その反動で練魔は髪の毛を離し、忍は完全に自由となり遠く離れた。

「だが、もうこんな奇跡は起きない。覇気能力を消滅させれば終わりだからな!」

「…悪いな、もう終わりなのはお前だ。もう時間切れだ。」

 練魔は忍が言っている事を理解できず呆然としていた。そして忍が気狂いしたかと思い、余裕で笑っていたのだ。

「馬鹿め! 終わり? 時間切れ? それはそっちだろうが! 実力差も分からなくなったのか?」

「…少し勿体ないが、こっちも早く終わらせないとならないからな。使うぞ、『もう一つの覇気』を。」

 忍は全身の力を抜き、瞼を閉じて深呼吸し、リラックスしていた。
 その隙に練魔は忍の背後、悪魔らしく死角へと入り奇襲したのだ。

「……。」

 だが、目を閉じて見えない筈の忍は背後から奇襲を掛けた練魔に、素早く顔面へ左肘打ちを喰らわせていた。
 ダメージを受けた練魔は急いで忍から離れて、状況を見ていた。

(目を閉じている筈だ。何故! 何故! 俺の位置が分かった!?)

「理解できない様子だな。」

 練魔は思考回路と神経を張り巡らせて、忍から完全に目を離していなかった。
 はずだったのに背後から静かに忍が現れていたのだ。油断した訳でも見逃した訳でもなく背後にいたのだ。

「…これが俺の『もう一つの覇気』の能力だ。ダークネスホールとは違い、ノーモーションでワープでき、お前の居場所さえも分かる。」

「に、人間ごときが!」

 練魔は忍に初めて恐怖を抱いた。己が見下していた人間に、自尊心を砕かれ、屈辱も受けて負けようとしていたからだ。
 一心不乱に練魔は忍へ攻撃をする。が、何故か体は軽くなり浮き、まるで無重力にいる感覚だった。

「俺の『もう一つの覇気』の名前は…『宇宙の覇気』。二つ目に神殿で受け取った『覇気』であり、『最強の覇気』だ。」

 その言葉と同時に練魔の体は絶対零度で足から凍結していた。練魔は急いで『魔導』を使い、消滅しようとしたが、巻き付く氷は消滅しなかったのだ。

「宇宙は消滅しない物だ。『魔導』でも可能な事と不可能な事がある。お前等のルールは通用しない。」

 そして練魔はもがき苦しみながら何かへ救いを求める様に完全に凍結した。

「…最後は何も言えずに凍ったか。悪魔にしては相応しい最後だな。」

 忍が瞼を開くと、瞳は無限に広がる宇宙空間となっていた。練魔との戦闘が終わった事を確認する。と、ダークネスホールから予備のサングラスを取り出し装着した。
 忍は次の部屋へ進もうとした。が、振り返り凍結して動けない練魔を黙々と見ていた。

「…『無限隕石インフェルニティメテオ』。」

 忍は最後の情けとして、凍結した練魔へ無数に降り注ぐ隕石をぶつけた。練魔の体と細胞組織はバラバラとなり、肉は焼かれ、完全に絶命した。

「今、行くぞ輝。」

 そして満身創痍な体で忍は五人を追い、ゆっくりと歩きだしたのだ。
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