マグナムブレイカー

サカキマンZET

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第1章 覇気使い戦争。

第27話 最強対リーゼント。

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 忍と修二が睨み合い、周りの者達は固唾を飲みながら誰が最初に動きだし、戦闘をするのか気になり緊迫した空気が漂った。

「……。」

「……。」

 お互いに一言も発する事もなく、ただ見ているだけの状態だった。
 だが、そんな沈黙の時間は終わりを告げた。
 最初に動き出したのは『覇気』を使わず普通の右ストレートで余裕な体勢を見せている忍の頬を目掛け殴りに掛かった修二だったからだ。
 修二の攻撃に対し、無表情な忍は軽く左片手で外に受け流す。
 だが、修二は負けじと左拳も使い疾風怒濤の連打が忍を追い込んでいく。


「は、早い! 品川のパンチが見えない!」

「な、なんだよ! アイツのパンチってあんなに早かったか!?」

「ゴン兄、見えるッスか?」

「いや、全てが残像に見える。」

 修二は今まで四人の前では力をセーブしながら戦っていたので、一言も発さずに真剣な表情で忍にパンチの嵐を浴びせていた。
 そんな一面に四人は鳩が豆鉄砲でも喰らったような呆けた顔で観戦していた。

「…流石、三流の馬鹿共だな。この程度で驚いて騒いでやがる。」

「神崎忍は右手をポケットに入れたままで、品川修二の攻撃を全て受け流してる。あんな音速を越えてそうなパンチを…俺も不意討ちでダメージを与えたとは言え、真っ正面で戦っていたらどうなっていたのか想像したくねぇな。」

 冷静に南雲と内藤は忍の動きだけを観察し、分析していた。
 だが、そんな化け物染みた忍の行動に内藤は難しい表情を浮かべ冷や汗を流していた。

「あのクソリーゼントが負ければ、次は俺の番だ。その時こそ、あの余裕ぶった顔を潰してやるぜ。」

 南雲も悔しそうに不機嫌な表情を浮かべてリベンジを決意した。


「…柏木さんに鍛えられて俺に勝てるとでも思ったのか?」

 忍は長時間に渡る沈黙が耐えきれなかったのか一生懸命に攻撃的している修二に声をかける。

「意外だな。アンタの方から話かけてくれるなんてな。」

「俺だって人間だ。話たい時に話すさ、まあ大した話じゃないがな…。」

「余裕ぶっこいてると足元をすくわれるぜ!」

 修二は不意討ちで忍の左太股に目掛けて猛烈な右ローキックを放つ。
 忍は修二の攻撃が分かっていた様に、左足だけでガードした。

「!」

「そう驚くな、お前が単調なだけで俺は何もしなくても…力任せの馬鹿は体力切れで自滅を待つだけでいいからな。」

 そんな煽り的な言葉にプライドが傷つけられたのか、額に血管を浮かべ怒りを露にし、拳に膂力を込め、人間の領域を越えた速度のパンチが、忍のがら空きボディに炸裂した。
 忍はパンチの威力で吹っ飛ばされそうになったが、幸いにも足が地に着いていたので、地面に力を込めて衝撃を全て後ろに逃がし後退した。
 後退した際に地面は忍の力に耐えきれなかったのか一色線に抉れ、綺麗だった草原は醜い土の通路に変貌したのだ。

「…。」

 あんな強烈なパンチをマトモに喰らった忍は何事も無かった様に涼しい顔をしていた。
 だが、そんな隙だらけでもお構い無しに修二はパンチやキックを組み合わせ忍に攻撃していく。
 だが、全ての攻撃は悉く受け流されていた。


「…駄目だ。目が追いつかねぇし、もう何してんのか分かんねぇよ。」

「うん、もう人間の戦いじゃない…。」

「……。」

「気をしっかり持て、一之。」

 四人は修二たちの次元が違う戦いを見て、戦意を損失し、やれる事は見守って結果を待つぐらいしかなかった。

「…まだ見えているか?」

 南雲は何気なく内藤に聞いた。

「いや、ローキック辺りから諦めて見てない。結果を待ってるぐらいだ。お前は?」

「『雷神』を得た時に、早さに慣れてるつもりだったが…もう黒い影しか写らなくなった。」

「そうか…。」

 二人もマトモに観戦するのを諦め、ここからはどっちが勝つのか結果だけを待っていた。


「決着がつきそうにないな。」

 忍は長時間に及ぶ戦闘で退屈になり、再び修二に問い掛ける。

「だったら降参するか?」

 必死に攻撃している修二は忍に皮肉めいた言葉で返答する。

「それも良いが、本来は『覇気使い最強』を決める戦いだ。『覇気』を使わずどうやって決着をつけるつもりだ?」

 忍は最もな正論を言うと、修二は攻撃を止めて汗をダラダラと流し、誤魔化すように顔を横に向けて目を合わせようとしなかった。

「…お前、忘れてたな。」

「…いや…なんとなく倒せるかなって思って…別に、『覇気』の事を忘れてた訳じゃねぇし…。」

 忍に核心をつかれ、なんとか言い訳の言葉を探すが修二の知恵では見つからないので諦め、両手に炎を纏わせ攻撃を続行する。
 いつも通りに忍は修二の攻撃を受け流そうとしたが、さっきまでとは違う早さと力があり、片手で捌く余裕がなくなったのか右手をポケットから出し、両手で受け流していた。

(炎を纏った瞬間に早くなった…成る程、炎で遠心力と噴流を活用して戦っているのか…多分、コイツの頭では思い付かない、誰かが教えない限りな。)

 そんな事を考えている間に、受け流したと思っていた右拳が忍の顎に直撃しようとしていた。が、忍は思わず右足で前蹴りを放ち修二を後退させた。

「そろそろ『覇気』を使わねぇとヤベェんじゃねぇのか?」

 今まで余裕ぶっていた忍が驚いたのを見て満足なのか修二は笑っていた。

「…少し舐めていた。お前みたいな馬鹿が、三銃士を倒せた事とここまで成長した事も…これぐらいなら少しは『覇気』を使っていいかもな。」

 澄ました顔で挑発するように発言する忍。
 そんな忍の態度に修二は気に入らなかったのか、両手に炎を纏い、攻撃する為に真っ直ぐ走り突っ込んだ。
 だが、忍の行動に注意深く見ていた周りの観客と修二本人でさえも理解できない現象が起きて戸惑い困惑した。

 その理由は修二の鼻から血が吹き出し、更には仰向けに倒れていたからだ。意識もあり、ちゃんと痛覚もあって鼻から殴られ倒れたのは理解できた。
 だが、修二が理解できなかったのは“何時、攻撃されたのか”だった。

「……。」

 そんな現象が不明になろうとも、修二は立ち上がり再び忍に攻撃を仕掛ける。が、また修二は倒れていた。

「理解できないっていう顔だな。自分が何をされて何が起こったのか。」

「アンタの能力は攻撃が通り抜けるんじゃねぇのか?」

「それは能力の一部だ。誰も通り抜けるだけが力とは言ってない。」

 冷静になった修二はもう一度立ち上がり、両手に再び炎を纏い忍に向かって走り出す。
 周りの誰もが、また倒されると思った中で修二は奇跡を起こした。
 それは小さな黒い渦から出現している忍の右腕をガッチリと掴んでいたからだ。

「……。」

「思い出したんだよ、アンタが俺たちを吹雪の所に案内する時、使ってた能力をな…屋敷から海道廃車処理場まで移動すんのに数時間掛かるけどよ、アンタの能力じゃ数秒だよな? 体だけじゃなく一部をワープできるのが、お前の能力だ。」

 修二の答案に忍はニヒルに笑っていた。

「半分正解で半分不正解だな。確かにワープ能力だが、俺の『覇気』は――そんな程度のレベルじゃないんだ。」

 その言葉と同時に黒い渦は大きくなり、そこから忍が出て来て左拳で修二の右頬を猛烈な一撃で地面に叩きのめす。
 修二は忍の一撃で掴んでいた腕を離してしまい、叩きつけられた衝撃で体の酸素が口から吐き出してしまう。

「お前と俺の違いを教えてやろうか? それは“経験”だ。お前等みたいに喧嘩ごっこで戦ってた訳じゃない、常に命を狙われる立場にあり、常に命を奪う側だったからだ。さあ、立て『覇気使い最強』は目の前にあるぞ、お前が『覇気使い戦争』を終わらせるんだよ。」

 忍は修二から距離を取り、人差し指で挑発する。
 なんとか起き上がった修二は忍の挑発を見て覚悟を決めた表情で…

「『M.O.F』!」

 四肢に炎を纏わせ、今まで危機を乗り越えた形態で忍と戦おうとしていた。

「言い忘れてた。その黒いワープホールは一つじゃない、俺でも数えるのが嫌になるぐらいある。」

 修二は驚愕し、拳が震え、一歩も前に進めなかった。それは修二の辺り一面が黒い渦に覆われ忍まで進む道を遮っていたのだ。

「関係ねぇ! このまま突っ走るだけだ!」

 こんな絶望的な状況でも修二は雄叫びを上げ、一直線に前へと進む。
 目の前に現れた黒い渦から忍の右拳でボディを殴られても、踏ん張り前へと進む。
 次々と嵐のような猛攻で、スカジャンが所々破けてそこから血が滲み出ても、顔が酷い痣だらけになっても、弁慶の泣き所とも言われている脛を蹴られても、修二は痛みを耐え抜き前へ進み…

「神崎ぃぃぃぃぃッ!」

 修二は飛翔し、忍の頬を目掛けて痛恨の一撃を与えようとした。周りは思った、今までも、危機を乗り越え全て勝ってきた修二だからこそ、全員は希望を抱き期待した。

「惜しかったな、触れる寸前だったのにな。」

 だが、現実は時に残酷な結果を残した。忍は修二の拳が当たる寸前に、右足で顎を蹴り上げ、意識を刈り取り、そして最後に踵落としで地面に叩きつけ頭を埋め込む形で倒した。
 忍と戦ってすらない全員は、実力を見せつけられ絶望の淵へと気持ちが沈んだ。

「…まだ、その程度じゃ俺を本気にさせるのは無理そうだな。まあ頑張った方だ。胸を張れ、お前は強い奴だ。」

 忍は賛辞の言葉を投げ、一休みしようと振り向き進もうとする。が、左足に違和感を感じ見てみると意識がない筈の修二が弱々しく裾を掴んでいた。

「…まだ…だ…終わって…ない…まだ…。」

 誰もが分かる通り声に力はなくなり、途切れ途切れで今にでも死にかけていた。

「…駄目だ。それ以上やると死ぬ、それに『覇気使い戦争』は終わった。これ以上は何もない、無駄は好きじゃないんだ。」

「…俺が…お前と…戦う理由はな…『覇気使い戦争』を終わらせる訳じゃねぇよ…テメェの心に秘めてる憎悪の正体が気に入らねぇんだよ!」

 修二の真意を探った言葉に、竹島と仲村の二人が今まで見た事のない、鬼のような形相を浮かべ、人をゴミみたいに蔑む目付きで怒り狂っていた忍がいた。

「憎悪が気に入らないって? ふざけんじゃねぇ! 関係のないテメェに何が分かる! 俺は今まで十年間、復讐の為に生きてきたんだよ! テメェ等に何か失った者があるのか? あぁ!?」

 忍は膂力を込めて容赦なく頭を踏みつけ、更には髪の毛を引っ張り、地面から引っこ抜き、仰向けにさせ馬乗りになり殴る。
 それも何度も何度も繰り返し殴り、手に血が付こうが、草原に血が飛び散ろうが、ズタボロになるまで殴った。
 忍は疲れたのか肩で息をしながら頭を冷静にするため修二から離れる。

「おい! 今のはやり過ぎだろうが!」

「兄貴、本当に死んだらどうするんッスか!」

「おい、馬鹿! 止めろ、こっちに被害が来るぞ!」

 忍が修二に過度な行為が吹雪をキレさせ、解散まで付き従っていた仲村でさえも心配し、南雲はとばっちりが来ないように静止する。

「…テメェ等、黙ってろよ。今、神崎と戦ってんのは俺だ! 口出すんじゃねぇ!」

 あれだけ殴られて意識を失ってもおかしくない状況で修二は立ち上がったが、怪我は酷かった。
 唇が切れダラダラと出血し、頬は大きく腫れ、リーゼントは崩れ顔が見えなくなっていた。

「……。」

 忍はボロボロの修二が立ち上がった事に、驚きを隠せなかった。

「お前、さっき言ってたよな? 失った者があるかって…お前こそふざけんじゃねぇ、テメェが特別不幸な訳じゃねぇだろうが! 世の中もっと、会いたくても会えねぇ奴がいんだよ! テメェだけだと思うなよ!」

 苦痛を歪め表情で修二の必死な怒号が響き、忍は下を向いていた。

「…そうか、それがお前の――遺言か。」

 忍は顔を上げ、額に血管を浮かべ殺気が満ちた目で修二を見ていた。
 そして大気がうねりをあげ、暴風が吹き、黒い靄が忍の背中に集まる。やがて黒い靄は翼へと形を成し、忍は上空に飛翔した。
 修二は忍を追いかけようと立ち上がろうとしたが、膝にダメージがあり震えて立ち上がれなかった。

「品川!」

 吹雪が走り出し、それを見た五人も後に続き修二を守る盾になる。

「奴は何をする気だ…。」

 内藤が冷や汗を流し呟く。

「…消えたいなら消してやる。海道の丘と共に…『ダークマター』!」

 忍は両手で巨大化な黒い玉を作り出し、その玉を六人に向けて放った。

「おい、逃げんぞ! 品川を担げ!」

 吹雪は迫り来る玉に脅威を感じ、五人に撤退を指示する。

「品川、逃げよう!」

 相川が修二の腕を引っ張り逃げようとする。

「うるせぇ、俺は逃げねぇ!」

 だが、修二は全員を振りほどき頑なに移動しようとしなかった。

「逃げないとヤバイッスよ! 俺たちまで死んでしまうッス!」

「こんな時にふざけんな!」

 吹雪は修二を気絶させてでも連れて行こうと殴る体勢になるが…

「全員の言う事は聞いた方がいいよ。」

 突然と声が聞こえた途端に、修二の目の前に輝が現れ、腹を蹴り追加で顎を蹴り気絶させた。
 そして右手に眩い光が包み込み、輝は光の玉を射出した。
 光の玉と黒い玉が激突すると余波で大地に振動が起こる。が、輝は光の玉を巧みに操り、黒い玉の軌道を変え、海道の丘近くにあった無人島に激突させる。
 激突した無人島は跡形もなく崩壊したのでなく消滅していた。

「輝、お前…。」

「悪いけど、兄さんに品川くんは殺させないよ。さあ皆、僕に捕まるんだ!」

「させるか!」

 忍は輝の行く手を阻もうとしたが、目の前に月が現れた。
 そして忍が気づいた時には遅かった。忍が立っていたのは月の上で、周りは散りばめられた星が漂い、目の前には地球があった。

「すまんが三日間は止まってもらうぜ忍。」

 何処からかエコーがかかった桐崎の声が響きいた。これが桐崎の能力だと理解していた忍は対策出来なかった事で更に怒りを露にした。

「桐崎ぃぃぃぃぃッ!」

 幻想の中で忍は閉じ込められた。
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