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【1話完結掌編】殉教者の夢
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――――こんな夢を見た。
気が付くとそこは何やら式典の最中で、豪奢な祝い装飾や馳走が所狭しと並べられている。
『彼』は式典の主役だ。
式典の、皆が注目を集める中……美女が何人も座席の近くに歩み寄って跪いて来た。
どうやら彼は王族らしい。目の前の女性たちから結婚相手を選べるという。
――だが、彼は美しく知的な王族の姫ではなく、式典の端の方に引っ込んでいた、ぼろを着たような貧しい女性を選んだ。
王家からは「身分違いの者を選ぶなど何たる親不孝者」と嘆き、彼を王家から勘当した。結婚相手に選んだ貧しい女性とも二度と会うことはなかった。
――在野に下った彼は、理不尽な世の人のしがらみに苦しむ者たちを救いたいと志し、勘当されたその足で強制労働させられている奴隷たちが集う建築現場に向かった。
奴隷たちは碌な報酬も貰えず、ただただ感情を殺して建造物の塗装に終始していた。
彼は穏やかに微笑みながら奴隷たちから塗料をかき集め、絵筆を執るようにあちこちの壁に思い思いの絵を描いて行った。初めは戸惑っていた奴隷たちも、何だか楽しくなってきて、やがて彼と共に自由に絵を描いて行き、陽気に歌い出した。
騒ぎを聞き付けた奴隷たちの番人がやってきて、仕事の邪魔をする彼を追い払った。
だが、ほんの僅かの間でも理不尽な労働の苦しみから楽しいひと時をもたらし、解き放たれた奴隷たちは彼に感謝の言葉を贈った。
次に彼は、芸を仕込まれている犬のいる広場にやってきた。
人のしがらみに苦しむ犬は彼を目にしても、恐れているような、悲しいような、とにかく警戒していた。
彼はやはり穏やかに犬に語りかけ、辛抱強く犬とコミュニケーションを取ろうとした。
やがて警戒心が解けてきた犬は、彼の前で喜び飛び跳ねて躍動した。
「もう、人に飼い慣らされる必要など無いのだよ。」
彼がそう言葉を掛けると、犬は嬉しそうにひと鳴きした。
やがて、彼の行動を聞いて彼に賛同し、味方しようという一団が生まれ、彼に対し諸手を挙げて賞賛した。
だが、同時に彼のすることで自分の仕事や事業で割りを食う者もいたので、「彼は偽善者だ」と糾弾する一団も現れた。
このままでは賛同者と反対者で争いが起きる。そう察した彼はとうとう人里を離れ、荒れ野へと身一つで飛び出して行った。
――彼は、その後ただただ歩き続けた。
食糧も尽き、彼は瞬く間に痩せ細っていった。
そしてそのまま、雪山の道の端で寒さで凍え死んだ。彼は、彼の信じる思想と行動に従って殉教したのだ。
やがて、彼の死を知り、彼の生きた足跡を知った最初の式典で選ばれた妻は、神殿へ招かれた。
「ここから、彼の魂が何処へ旅立ったのか。君だけが確かめに行くことを許そう。」
そう神の声を聞き、空間の『ひずみ』から彼女は旅立った。
そこで目が覚めた。
奇しくも、2月14日のバレンタインデーの早朝。この日に殉教した聖人の為の日にこの夢を見たことに、不思議な縁のようなものを感じてしまうのだった。
気が付くとそこは何やら式典の最中で、豪奢な祝い装飾や馳走が所狭しと並べられている。
『彼』は式典の主役だ。
式典の、皆が注目を集める中……美女が何人も座席の近くに歩み寄って跪いて来た。
どうやら彼は王族らしい。目の前の女性たちから結婚相手を選べるという。
――だが、彼は美しく知的な王族の姫ではなく、式典の端の方に引っ込んでいた、ぼろを着たような貧しい女性を選んだ。
王家からは「身分違いの者を選ぶなど何たる親不孝者」と嘆き、彼を王家から勘当した。結婚相手に選んだ貧しい女性とも二度と会うことはなかった。
――在野に下った彼は、理不尽な世の人のしがらみに苦しむ者たちを救いたいと志し、勘当されたその足で強制労働させられている奴隷たちが集う建築現場に向かった。
奴隷たちは碌な報酬も貰えず、ただただ感情を殺して建造物の塗装に終始していた。
彼は穏やかに微笑みながら奴隷たちから塗料をかき集め、絵筆を執るようにあちこちの壁に思い思いの絵を描いて行った。初めは戸惑っていた奴隷たちも、何だか楽しくなってきて、やがて彼と共に自由に絵を描いて行き、陽気に歌い出した。
騒ぎを聞き付けた奴隷たちの番人がやってきて、仕事の邪魔をする彼を追い払った。
だが、ほんの僅かの間でも理不尽な労働の苦しみから楽しいひと時をもたらし、解き放たれた奴隷たちは彼に感謝の言葉を贈った。
次に彼は、芸を仕込まれている犬のいる広場にやってきた。
人のしがらみに苦しむ犬は彼を目にしても、恐れているような、悲しいような、とにかく警戒していた。
彼はやはり穏やかに犬に語りかけ、辛抱強く犬とコミュニケーションを取ろうとした。
やがて警戒心が解けてきた犬は、彼の前で喜び飛び跳ねて躍動した。
「もう、人に飼い慣らされる必要など無いのだよ。」
彼がそう言葉を掛けると、犬は嬉しそうにひと鳴きした。
やがて、彼の行動を聞いて彼に賛同し、味方しようという一団が生まれ、彼に対し諸手を挙げて賞賛した。
だが、同時に彼のすることで自分の仕事や事業で割りを食う者もいたので、「彼は偽善者だ」と糾弾する一団も現れた。
このままでは賛同者と反対者で争いが起きる。そう察した彼はとうとう人里を離れ、荒れ野へと身一つで飛び出して行った。
――彼は、その後ただただ歩き続けた。
食糧も尽き、彼は瞬く間に痩せ細っていった。
そしてそのまま、雪山の道の端で寒さで凍え死んだ。彼は、彼の信じる思想と行動に従って殉教したのだ。
やがて、彼の死を知り、彼の生きた足跡を知った最初の式典で選ばれた妻は、神殿へ招かれた。
「ここから、彼の魂が何処へ旅立ったのか。君だけが確かめに行くことを許そう。」
そう神の声を聞き、空間の『ひずみ』から彼女は旅立った。
そこで目が覚めた。
奇しくも、2月14日のバレンタインデーの早朝。この日に殉教した聖人の為の日にこの夢を見たことに、不思議な縁のようなものを感じてしまうのだった。
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