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第38話 絶望の運命
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「――がはっ……」
さすがの勇者・ラルフも、ロレンスたちの連携攻撃によって地に倒れ伏し、血を吐いた。
ラルフも、ロレンスたちも共に満身創痍だ…………。
そこで――――ラルフの身体から例の寒気が立ち昇り、再び形を成した。
「ちっ……こんなものか、現代の勇者は。買い被りだったか……使えぬ…………」
ラルフを冷たく一瞥し、魔王は自らの後方に何やら黒い魔方陣を張った。ブオオオオオ……と禍々しい魔力の反響音がする…………。
「そこの魔方陣から外へ出てこい、下賤な人間共よ! 人類を消滅させる前に、まず貴様らを滅して肩慣らしとしてくれるわ!! ――――断じて逃げられはせぬぞ。」
そう言い残して、魔王は踵を返して悠然と歩き……魔方陣から闇に消えた。
「――――ラルフ!!」
「ラルフ殿ッ!!」
比較的傷の浅いブラックとロレンスから、倒れるラルフへと駆け寄った。
「……うう…………」
ラルフは、何事か言おうとしているようにも見えるが――――ダメージが大きすぎて喋ることもままならない…………。
「――やはり、重傷か。すぐに手当てをしなければ――――ロレンス、皆をなるべく近くへ寄せるんだ! ラストエリクサーを使う!」
「……はい!!」
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全員を一か所に集めた。ブラックとロレンス以外は皆、口もきけぬほどに重傷だ。
ブラックは体力、精神力共に大きく瞬時に回復させる妙薬・ラストエリクサーの瓶を開けた。医術的措置で的確に皆に服用させていく。
「――だが、わからん。奴は…………如何に魔王とは言え、何故こうも容易くラルフに憑依することが出来たのだ……?」
「――ケホッ……はあっ……アチキ、『匂い』を嗅ぎ取ってたんだけど……魔王が憑依してた時……魔王とラルフの『匂い』は完全一致してたにゃ…………フツーにゴーストとかの類いが憑りついたって、あんにゃシンクロ率は弾き出せにゃいにゃ――――まるで、魔王とラルフが………初めっから同一人物だったみたいに――――」
回復薬で喋れるまで回復したベネットは……薄々、皆も感じていたであろうことに信憑性を与える事実を告げた。
あの恐ろしい『魔王』と、『勇者』ラルフは――――何か断ち切れぬ因縁がある。
「――――一体、何が起こったのでしょう。あの魔王とラルフ様に、一体何の関係が…………」
ルルカも回復し、しかしあまりに突然の展開に動揺と、絶望感を隠し切れない。それは皆一様に同じであった。
「……うう……そ、それよりも、さ……あいつ、あたしらと完全に……戦う気じゃん…………逃がさないって…………!! 相手は伝説で聞いたほどの『魔王』なのよ……
!? それを今から――――?」
「――ぐぐ…………全くぅ…………冗談キツイにもオオオ……ほどがあらあぁぁ……だがぁ、いよいよこうなったらぁ――――腹を括るしかぁ、あるめエ。」
「――ゲホッ、ゲホッ……やるしかねえってことか……オレら、勝ち目ねえだろ…………あのドス黒いプレッシャーを放つバカでかいSOULを持った敵に――ちくしょう! ラルフも痛めつけちまうしよ……!!」
妙薬・ラストエリクサーの効能は確かだ。たちまちロレンスたちは適量を服用しただけで、かなり回復できた。
だが――――
「…………ラルフ様のご容態は? このまま戦えますの…………?」
「――――無理だ。我々はラルフを殺すつもりで戦った……それぐらいの覚悟でなければ、魔王の前にラルフに殺されていた。我々と比較にならぬほど重傷だ…………」
ラストエリクサーを以てしても、ラルフの気力、体力は回復しない。もはや如何に妙薬と言えど、医学的措置や法術でも癒し切れないほどの傷み方だった。
「な、ならば、ラストエリクサーをもう一つ使えば、或いは――――」
「それも駄目だ。この後に魔王と戦わねばならん。ここで使ってしまうと、万に一つの勝機が――――億にも京にもなってしまうぞ。」
そして……俄かに、遺跡全体が、ごごごご……と揺らぎ始めた。徐々に割れた石が落ちてくる……。
「――奴の……魔王の鳴動です。……この遺跡に影響を及ぼしていた魔王が現界し、もはや奴の強大な魔力は解き放たれました。この遺跡は間もなく崩れ去るでしょう――――それも、今すぐに脱出しなくては…………ラルフ殿を安全な場所へ移す時間も……いや、安全な場所など存在しないでしょう――――選択肢は、無いようですな。…………ブラック殿。仮に奴を撃退できたとして……その後にラルフ殿を急ぎ治療して、助かる可能性は…………?」
「――――ほとんど。否。全く、無い…………」
ブラックは、怒りと悔しさのあまり、拳骨を地に打ち付ける。
「――――そんにゃ…………!!」
「ラルフ様…………!」
ベネットもルルカも、絶望と悲しみのあまり落涙する。
「――行こう。やるしかない。我々が生き残る為に……願わくば、全世界の人間を救う為に――――さしずめ、『勇者』の代わりにな…………」
遺跡の揺れは、ますます強くなってくる。魔王が、ロレンスたちを急かしているかと思いたくなるほどに。
「ラルフ…………すまん! 許せとは言わん…………おそらくすぐにお前と同じ最期を辿るだろう。その前に……あの魔王相手に、最後の足掻きをさせてくれ!」
ブラックは立ち上がり、皆、頷く。
誰もが、絶望している。勝ち目など砂漠の砂粒ほども無いと。
だからこそ。
だからこそ、戦うと決めた。
ラルフは、仲間に剣を向けたとはいえ、憑依する前は覚悟を携え、勇気を振り絞り……魔王に立ち向かおうとした。圧倒的な力の差を感じていた上で、だ。
目の前の巨悪に対して、人間を守る為に使命を全うしようとした。
人間の為に力を振るおうとしたラルフに、敬意を持っているからこそ……『人間』として生存するという『義務』を果たしたいと……皆がそう思っていたのだ。
「――行きますぞ。準備は……覚悟は、よろしいか。奴の許へ……」
ロレンスは身体と声を震わせながらも……先陣を切って前進した。皆も後に続いた。
憎悪の権化、魔王の許へと……黒い魔方陣に入り、闇に消えていった。
さすがの勇者・ラルフも、ロレンスたちの連携攻撃によって地に倒れ伏し、血を吐いた。
ラルフも、ロレンスたちも共に満身創痍だ…………。
そこで――――ラルフの身体から例の寒気が立ち昇り、再び形を成した。
「ちっ……こんなものか、現代の勇者は。買い被りだったか……使えぬ…………」
ラルフを冷たく一瞥し、魔王は自らの後方に何やら黒い魔方陣を張った。ブオオオオオ……と禍々しい魔力の反響音がする…………。
「そこの魔方陣から外へ出てこい、下賤な人間共よ! 人類を消滅させる前に、まず貴様らを滅して肩慣らしとしてくれるわ!! ――――断じて逃げられはせぬぞ。」
そう言い残して、魔王は踵を返して悠然と歩き……魔方陣から闇に消えた。
「――――ラルフ!!」
「ラルフ殿ッ!!」
比較的傷の浅いブラックとロレンスから、倒れるラルフへと駆け寄った。
「……うう…………」
ラルフは、何事か言おうとしているようにも見えるが――――ダメージが大きすぎて喋ることもままならない…………。
「――やはり、重傷か。すぐに手当てをしなければ――――ロレンス、皆をなるべく近くへ寄せるんだ! ラストエリクサーを使う!」
「……はい!!」
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全員を一か所に集めた。ブラックとロレンス以外は皆、口もきけぬほどに重傷だ。
ブラックは体力、精神力共に大きく瞬時に回復させる妙薬・ラストエリクサーの瓶を開けた。医術的措置で的確に皆に服用させていく。
「――だが、わからん。奴は…………如何に魔王とは言え、何故こうも容易くラルフに憑依することが出来たのだ……?」
「――ケホッ……はあっ……アチキ、『匂い』を嗅ぎ取ってたんだけど……魔王が憑依してた時……魔王とラルフの『匂い』は完全一致してたにゃ…………フツーにゴーストとかの類いが憑りついたって、あんにゃシンクロ率は弾き出せにゃいにゃ――――まるで、魔王とラルフが………初めっから同一人物だったみたいに――――」
回復薬で喋れるまで回復したベネットは……薄々、皆も感じていたであろうことに信憑性を与える事実を告げた。
あの恐ろしい『魔王』と、『勇者』ラルフは――――何か断ち切れぬ因縁がある。
「――――一体、何が起こったのでしょう。あの魔王とラルフ様に、一体何の関係が…………」
ルルカも回復し、しかしあまりに突然の展開に動揺と、絶望感を隠し切れない。それは皆一様に同じであった。
「……うう……そ、それよりも、さ……あいつ、あたしらと完全に……戦う気じゃん…………逃がさないって…………!! 相手は伝説で聞いたほどの『魔王』なのよ……
!? それを今から――――?」
「――ぐぐ…………全くぅ…………冗談キツイにもオオオ……ほどがあらあぁぁ……だがぁ、いよいよこうなったらぁ――――腹を括るしかぁ、あるめエ。」
「――ゲホッ、ゲホッ……やるしかねえってことか……オレら、勝ち目ねえだろ…………あのドス黒いプレッシャーを放つバカでかいSOULを持った敵に――ちくしょう! ラルフも痛めつけちまうしよ……!!」
妙薬・ラストエリクサーの効能は確かだ。たちまちロレンスたちは適量を服用しただけで、かなり回復できた。
だが――――
「…………ラルフ様のご容態は? このまま戦えますの…………?」
「――――無理だ。我々はラルフを殺すつもりで戦った……それぐらいの覚悟でなければ、魔王の前にラルフに殺されていた。我々と比較にならぬほど重傷だ…………」
ラストエリクサーを以てしても、ラルフの気力、体力は回復しない。もはや如何に妙薬と言えど、医学的措置や法術でも癒し切れないほどの傷み方だった。
「な、ならば、ラストエリクサーをもう一つ使えば、或いは――――」
「それも駄目だ。この後に魔王と戦わねばならん。ここで使ってしまうと、万に一つの勝機が――――億にも京にもなってしまうぞ。」
そして……俄かに、遺跡全体が、ごごごご……と揺らぎ始めた。徐々に割れた石が落ちてくる……。
「――奴の……魔王の鳴動です。……この遺跡に影響を及ぼしていた魔王が現界し、もはや奴の強大な魔力は解き放たれました。この遺跡は間もなく崩れ去るでしょう――――それも、今すぐに脱出しなくては…………ラルフ殿を安全な場所へ移す時間も……いや、安全な場所など存在しないでしょう――――選択肢は、無いようですな。…………ブラック殿。仮に奴を撃退できたとして……その後にラルフ殿を急ぎ治療して、助かる可能性は…………?」
「――――ほとんど。否。全く、無い…………」
ブラックは、怒りと悔しさのあまり、拳骨を地に打ち付ける。
「――――そんにゃ…………!!」
「ラルフ様…………!」
ベネットもルルカも、絶望と悲しみのあまり落涙する。
「――行こう。やるしかない。我々が生き残る為に……願わくば、全世界の人間を救う為に――――さしずめ、『勇者』の代わりにな…………」
遺跡の揺れは、ますます強くなってくる。魔王が、ロレンスたちを急かしているかと思いたくなるほどに。
「ラルフ…………すまん! 許せとは言わん…………おそらくすぐにお前と同じ最期を辿るだろう。その前に……あの魔王相手に、最後の足掻きをさせてくれ!」
ブラックは立ち上がり、皆、頷く。
誰もが、絶望している。勝ち目など砂漠の砂粒ほども無いと。
だからこそ。
だからこそ、戦うと決めた。
ラルフは、仲間に剣を向けたとはいえ、憑依する前は覚悟を携え、勇気を振り絞り……魔王に立ち向かおうとした。圧倒的な力の差を感じていた上で、だ。
目の前の巨悪に対して、人間を守る為に使命を全うしようとした。
人間の為に力を振るおうとしたラルフに、敬意を持っているからこそ……『人間』として生存するという『義務』を果たしたいと……皆がそう思っていたのだ。
「――行きますぞ。準備は……覚悟は、よろしいか。奴の許へ……」
ロレンスは身体と声を震わせながらも……先陣を切って前進した。皆も後に続いた。
憎悪の権化、魔王の許へと……黒い魔方陣に入り、闇に消えていった。
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