LIVE FOR HUMAN

mk-2

文字の大きさ
上 下
35 / 43

第35話 凶兆、そして産声あがる

しおりを挟む
 ラルフ達の獅子奮迅の活躍により……行く手を阻む魔物の気配は消えた。

 毒々しく、悍ましい壁と地面を抜けると――――奥に、さらに禍々しい気配を感じる…………。

 美しく蠱惑的で、殊更禍々しい光を放つ玉が…………人影と共に見える。

 そう。



 ついに――――

「――辿り着いたぞ! 宝玉・『憎悪の泪』……そして賊共め!!」

「……間違いないですぞ、ラルフ殿。あれこそ宝玉、そして手配中の盗賊団の首魁!!」

 ――――これまでの門番たちの凶悪さ、強さから想像していた首魁は――――

「――な、なんだあ、てめえら。う、う、上の階を守ってた野郎どもは……ど、ど、何処行きやがったんだ!?」

 予想に反し、ラルフ達の姿を目にしただけで狼狽えている。首魁の隣に2人魔術師と思しきフードを目深に被った取り巻きがいる。

「お前の手下……ジャミル、ミラディ、そして美術館ミュージアムらは、我らが打ち破り、今は我がレチア王国の監獄だ。――賊ども、投降し、すぐにその宝玉・『憎悪の泪』を返せ! さもなくば……王国の名の下にこの場で断罪するッ!!」

 ロレンスは王国属宮廷魔術師の紋章エンブレムを掲げ、強い口調で賊たちに告げる。

「ち、ちち、チキショウ! あと、ほん~のちょっとで……『魔王様』から救いの力を頂けるってのによオ~ッ! 数で圧倒的に不利じゃあねえかああああ…………」

 盗賊の首魁は、頭を抱え、しばし狼狽する。

「……『魔王様』……またそれかね…………まるで神か何かでも崇めるような口ぶり。一体、何があるというのだ…………?」

「……どうせ、魔を崇める狂信者ファナティックにでも吹き込まれたのでしょう。しかし、『救いの力』を頂くとは――――やはり貴様ら、宝玉からこの異常な力を引き出すつもりでいたな!!」

 狼狽していた首魁が――――ゆっくりと頭をもたげ上げ、その淀んだ目をこちらに向ける。

「――――こうなりゃあ、しょうがねエ。やぶれかぶれだ! いくぜオメエら! バラせッ!!」

「来るぞ!!」

 首魁と取り巻きは、ナイフと魔術杖を手にこちらに襲い掛かる。

 だが。

「ふんッ! だりゃあッ!!」

「ぐおおっ!!」

 まず突出してきた首魁のナイフを受けたウルリカだが、まるで手応えを感じなかった。すぐさま切っ先を戦斧で逸らしたのち、強烈な中段蹴りを叩き込む。あっさりと吹っ飛ぶ首魁。

「YAAAAAAAAAAAAOOOOOOOO!!」

 続けて、ヴェラが改造ギターを駆使した音波動を放つ。人体は魔族のような体組成では無いので直接効かないが――――

「ぎゃああああ、ぐべええええろおおおお」

 その凄まじい音圧は、まともに喰らえば耳へのダメージは避けられないだろう。ラルフ達は辛うじて耳を塞いでいたが、音波動の直撃を喰らった取り巻きの一人は三半規管がやられたのか、吐瀉物をまき散らしながら泡を吹いて倒れる。

「風よ!!」

 ロレンスが風魔法でもう一人の取り巻きを薙いだ。バランスを崩して魔術杖を落とす刹那――

「――隙アリだ。」

 ブラックが拳銃を抜き、すかさず麻酔弾を撃ち、腿に命中した。たちまち崩れ落ちる。



「? こんなものか…………」



 なんと。



 もう決着がついてしまった。


 相手に攻撃する隙も無く、修羅場をくぐったラルフ達の技と装備で、全力を出すこともなく、終わってしまった。



「へっ! なーんでーえい! てーんで弱っちいの!!」

 ヴェラが勝利の角笛ファンファーレよろしく、ギターを掻き鳴らして勝利を祝した。

「ぐ……ちき、しょう…………」

 首魁は朦朧としながら、辛うじてそれだけ吐き捨てる。

「どうやら、終わったようだな」

「やったー! これでひと財産ねー!!」

「くひひ。ど~やらあ、俺様の務めもぉ、こ~こまでがあ~……」

「やりましたな、ラルフ殿! すぐにこの賊どもを捕縛しますゆえ、貴方は宝玉を――――?」

 何か。



 何か、様子がおかしい。



「――――あ、アア、ア……ア…………」



 ――――ラルフは、ラルフだけが、ひと際強く感じていた。



 目の前の宝玉・『憎悪の泪』が、まるでとてつもない生物の卵の如く……獰猛に拍動していることを。

 

 ドッド…………ドッド…………ドッド…………



 どんどん、得体のしれぬ拍動は強まる――――!



「え? なになに?」

「ニャニャ!! 宝玉が……まさか――――」






 K Y O O O O O O O O O O O O O O ッ ッ ッ ! ! 




 ――――この世の物とは思えぬ、否。





 この世ならざるモノの、異形の産声が――――世界の総てを呪わんとする邪悪の化身の雄叫びが、遺跡全体を鳴動させた――――




 宝玉は砕け――――中から、『それ』は現界した。



「魔……王――――!!」



 ラルフの面持ちは、今朝見た得体のしれぬ悪夢に怯えたそれと同じになっていた――――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...