34 / 43
第34話 夢か現か
しおりを挟む
<<
<<
<<
<<
<<
――――闇。
ただただ黒で塗りつぶされたような、深遠の闇。
その黒の塊のような何かから、途切れ途切れに…………何かが聴こえる。
「勇…………愚か……り…………」
「お任…………王…………」
「わた…………なんの…………戦って…………」
「魔……王…………」
――――真っ黒な闇が、だんだんと…………赤黒い、禍々しい景色へと変わってくる。
そして、その胸には心も肉体も焦熱させるような、狂おしい想いが幾度も去来する。
――――ふと。フラッシュバック。
何やら、沢山の墓。
無数の亡骸が眠っているであろう、無数の墓の前に――――人影が見える。
(――――なん……だ…………これは…………お前は…………誰だ…………?)
その人影は、その背中を見た限りでも、若き青年だと感じた。
鍛え抜かれた逞しき体躯に、朝日を思わせる美しい長髪。若草色のたなびくマント。
(――――え?)
だが。その青年が佇む空間ごと…………禍々しいプレッシャーと共に歪んで、淀んでいく…………。
その青年の手に握られし白銀の剣も…………鮮血と汚泥がない交ぜになったような何かで、悍ましき得物に変わり果てていくのだった。
――――青年は、何事か呟いた――――
「――――人間…………人間…………勇者…………勇者…………魔王…………」
その青年が振り返り、こちらを向いた瞬間――――
「――――赦さぬ。この世の森羅万象。何よりも――――」
その顔を確認出来るか出来ないかの瞬間――――天から、百鬼夜行の魑魅魍魎の総てがぐちゃぐちゃになったまま迫ってくるような――――混沌の魔が、どす黒い呪いが、総てを埋め尽くしていく――――!
<<
<<
<<
<<
「――――はっ! ……ぜえっ……ぜえっ…………」
次の瞬間。
気が付くとそこは、寝室だった。窓の外から、温かでまぶしい日光が射しこんできている。
「……なんだ…………これは…………」
悪夢や、己の魂の根源に触れるような夢を見た時……人は起きてからも、しばらくここが現実なのか、それとも虚構の世界なのか。自分は何者なのか。今は何時なのか。それを理解するのに時間がかかることがある。
そんな混濁した意識を、何とか落ち着かせ…………ラルフは、今のが悪夢で、ここがレチア王国の宿の一室。今が朝であると理解した。
だが――――単なる悪夢と言うには、あまりに悍ましく、あまりに恐ろしいものだった。勇者・ラルフは今なお恐怖に怯え、全身は汗だくで、その両の手は寒気と怖気から震えていた…………。
「――夢。夢、なのか…………本当に、今のが?」
ラルフはふらつきながらも立ち上がり……近くの鏡を覗き込んだ。
――――間違いなく、ラルフ。自分の顔だ。だがその表情は汗と得体のしれぬ恐怖心から、酷く弱々しい若者に見えた。
恐らく、この姿のままではレチア王国の王と謁見した時のような『勇者』などではなく……ただの怯えた青年に見えることだろう。
「……そうだ。ここは……レチア王国。俺は、ラルフだ。……仲間たちと共に――――宝玉・『憎悪の泪』を…………取り返す。」
ラルフは自分の使命。そして仲間との目的を思い出し…………ようやく正気を取り戻し、平生の冷静で、凛々しい、『勇者』としての顔を取り戻した。
<<
<<
<<
「む。ラルフ殿。おはようございます」
「起きたかね。意外だな……存外に起きてくるのが遅いじゃあないか」
酒場には、既に仲間たちが準備をして待っていた。
「……いや……寝つきが悪かったのか、ちょっと嫌な夢を見た……」
「夢、ですと?」
「嫌な夢……か。私も度々見るよ。若き日の嫌な雑念が丸々掘り起こされるような夢を、な……しかし、『勇者』も人間のように悪夢に魘れることがあるのだな……興味深い」
「――うわ! なーんかラルフ、寝起きの顔恐くない? だいじょぶ~?」
「ラルフ様、具合が悪いのですか? ご無理をなさらないでくださいね……」
「……大丈夫だ。直にシャキッとするさ……」
心配そうに声をかけるウルリカとルルカに、ラルフは手を振って答える。
「ううううう。昨日飲み過ぎたにゃ~……頭と、昨夜お姉様とまぐわったトコロがジンジンと――」
「だあーッ!! オメエら暗くなりすぎだぜ!! オレの歌で今すぐシャキッとせんかぁーッ!!」
「ギミャアアアアア五月蠅いニャアアアアーーッ!! 頭響くゥ!!」
ベネットとヴェラがせわしなく大声を張り上げる。どうやら昨夜のような辛い過去に囚われていた心は、しばしほぐれたようだ。
「カッカッカ。あ~さからァ騒がしいパーティだぜええええ~。しっかりと仕切ってくれよオ、『勇者』ラルフちゃんんんんんん~。い~つまでもぉ、暗い顔はダメダメダメよ駄目なのよぉおおぉ♪」
セアドも平生通り、凶悪な笑みと暑苦しい声で嗜めてくる。
「お前に言われるまでもないさ、セアド。やり遂げて見せる――――改めて、みんな。準備はいいか?」
結成してほんの一日、二日程度のはずのラルフ一行。即席に等しい集まり。
しかし……遺跡から宝玉を奪還するというこの一件だけで……8人とも皆、なかなかに良い団結をしたようだ。皆がそろって頷いた。
「――――よし。では、いくぞ」
「はっ。――――転移ッ!!」
<<
<<
<<
ロレンスの転移魔術によって、一行は一瞬にして遺跡の、美術館のいた演劇場に辿り着いた。
「下へ降りる階段は……よし。開いたままだな。降りていくぞ」
一行は、闇が広がる階下へ、一段、一段、降りていく……。
<<
<<
<<
「――――これは…………!」
しばらく降りると、ラルフを始め、皆が絶句した。
――――壁という壁は、生物の体内とも、熱帯雨林の植物とも似つかないものが脈打ち、毒々しい色彩を放っている。しばらく通路が伸びているが……常人ならばこの壁のサイケデリックな何かを見ているだけで怖気が走りそうだ。
「――空も――――!」
見上げると、先ほどの美術館がいた階層は雲一つない青空に太陽が照っている空間だったが――――今度は、『宇宙』。万物の根源たる宇宙そのものが広がっているかのような、明らかに異質な空間であった。
「……これも、宝玉が……『魔王』が放つ異常な魔力の影響ですな……遺跡の地下がますます禍々しい空間に。なんと悍ましい…………」
一端の冒険者や魔術師であっても下手をすればこの異常な空間だけで士気が下がってしまいそうなものだが――――
「――だが、ここまではっきりと『憎悪の泪』の波動が影響を与えているなら、目標まであと僅かのはずだ。俺も感じるぞ……遠い父祖が戦いを挑んだであろう、『魔王』の気を――――奴を解き放つ前に、すぐに取り返せば、全てが上手くいく!」
目標まで僅か。
悍ましい空間が広がっているからこその、ラルフなりの信憑性ある言葉。そしてラルフなりの皆への鼓舞であった。
深遠な、目標までの距離も見えないような旅ならば、鼓舞されたところで滅入ってしまう者も多いだろう。
だが、これは目標まで肉薄しているという、目標地点が体感的に見えているという鼓舞。
――ラルフ一行は、怯むことなく、掴みかけている戦果を意識し、静かに笑った。ここまで来た猛者たちにはラルフのその言葉で充分であった。
「改めて……行くぞ。雑魚なら俺が蹴散らしてやる!」
「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」
スポーツマンのように円陣を組まないまでも、一行はひと声、勇者の鼓舞に応じた。
<<
<<
<<
行く手を阻む敵は、ますます獰猛で、凶悪な魔物たちばかりだった。最早、魔、そのものの巣窟。真っ黒な悪しきモノ以外の気配は感じられなかった。
現れる魔物も、一体一体が強力な魔力と腕力を誇る悪魔族ばかりであった。
「キシャアアアアアアッ!!」
猛スピードで飛びかかってくる悪魔。
「――バーストストリームッ!! はああああっ!!」
正確にして破壊力抜群のロレンスの魔術が炸裂する。
「――ゴアアアアアアーッッ!!」
盛り上がった筋肉で、途方も無い怪力を伴った腕を振り下ろす悪魔。
「――ふんッ!! ……こんッのおッ!!」
ブラックが密かに改良を重ねていた筋力増強剤の助けで、パワーファイターのウルリカが戦斧で受け流し、身体ごと回転して、太い腕をぶった斬る!!
「傷口を見せたかね。喰らえッ!!」
すかさず後ろから銃を構えたブラックが、同じく改良した麻酔弾を撃つ! ――傷口から直に麻酔物質が駆け巡る。さすがの巨躯の悪魔も倒れ伏した。
「キケケケケケケケ!!」
素早い身のこなしの吸血鬼もいる。幻術と併用し、その身を捉えきれない。5つ、6つにも分身して見える。
「――――どこを見ているの!!」
だが、その速さにルルカも負けていない。幻術と足した数より多い、10を超えるほどの残像を見せるほどの超スピードだ。――第二人格に頼ってはいない。ブラックの能力向上系の薬剤の中には、神経伝達物質の流れを早くする物もあったのだ。辛うじて依存性などは無い。
「グッギギ!? ギッ! ギャアアアアアーーーッ!!」
吸血鬼にも捕捉出来ない速さで、ルルカは無尽に駆け回り、吸血鬼を切り裂き……やがて塵に還した。
「ギャアッ、ギャアッ、ギャアアアア」
今度は、翼を持つ無数の悪魔が襲い来る。
「くっ……詠唱が間に合わない――――」
「任せろ! ――――AHHHHHHHHHHHHHHH!!」
ヴェラが高々と吼える。これまでの彼女なら、人間の感覚を強化する歌か、魔物が嫌がる音波を出すだけだったが――――
「!? キイヤアアアアアオオオオオオンンンンン…………」
――改造したヴェラのギターには、小型ながらマイクが備わっていた。そして、マイクが拾ったヴェラの声を――――ギターのサウンドホールから波動エネルギーに変換して撃ち放った!! もろにエネルギー波を受けた悪魔は跡形もなく消し飛んだ。
「ギャイイイイイイイイ!!」
しかし、当たらなかった悪魔たちが、轟然とヴェラに、鋭いかぎ爪を突き立てる!!
「――計算済みだぜえ!! ♪WAOOOOOOOOO~!!」
ヴェラがギターを掻き鳴らし、唱法を変えると――――今度はラルフ達を包む結界へと波動が姿を変えた! 爪を突き立てた悪魔から、先ほどの悪魔同様バリバリッ、と電撃のような音と共に消し飛んでいく。
だが、数が多い。なおも悪魔の群れは、一斉に襲い掛かる! 果たして結界がもつのか――――
「オメエら、知らねえのか。音ってのはなあ――――反響すんだぜ!!
――――すなわち、反響定位。を、出鱈目な圧力で凝縮、および拡散した波動。
ただですら強烈な音波が、壁を反響して拡散し、また何重にも複雑な重複を経て悪魔たちに降り注いだ!!
「キシャアアアアアアア…………」
避ける隙間など微塵もなく、エネルギー波は空間を跳ねまわり、悪魔を鏖殺した。しかも人間にはほぼ無害――――まあ、気を付けなければ、鼓膜が破れるが。
「ムムムム……全く、本人の人格通り、無茶苦茶な技にゃね~……――おオッ!?」
「ウフフフフフ……」
今度は、淫魔であるサキュバスが現れた。ベネットたちを挑発し、魅了を以て操ろうとする――――
「――うわあーいっ!! またもキレイでエロいおねいさんにゃああああーーーっ!!♡」
――またも、ベネットは……色欲の赴くままに、サキュバスの豊満な肉体に突入した。
瞬殺(?)するかと思いきや――――
ぼよよん。
「あらァん♡ ふふふふっ……」
「にゃ、にゃ、ありゃアーッ!? お、おねいさん……規格外にゃねん……色んニャー意味で、色んニャーとこが…………♡」
性豪たるベネットは、目の前の情欲の塊にひとたび、肌で触れてみて……己の手に余る、自分で平らげきれないほどの情欲の塊…………。食べ物に例えると、とても脂が乗っていて美味そうだが、脂が強過ぎて確実に腹を下して毒素が身体を蝕むような肉の塊、そんな相手であることを悟った。
それはそれで、平らげてみたいと思いかけるベネットだったが――――
「――――ベネット~???」
後ろで構えるルルカが、青黒く冷たい殺気を放つ。
「ハウアーッ!! ひひひゃい! 勿論、ジョーダンですトモッ!! 昨夜愛を語り合ったソウルメイトを裏切るような……そんにゃ、3歩進んだら恩を全て忘れるようにゃそこらの泥棒猫とは違いますニャーッッッ!!」
事実、サキュバスは一体ではなく、複数出てきた。単なる破壊衝動で動く悪魔より、なお始末が悪そうだ。
「正に、戦闘モードの猫の如く、とーうっ!! 手に負えにゃーい!!」
サキュバスが、情欲の虜にしようと抱擁する手から素早く飛び退き、他の皆の攻撃を待つ。
「――――ニャーんて、思ったかブミャアアアアアーーーッッッ!?」
「!?」
違和感を覚えるサキュバス。
よく見ると……その腹部に何か、貼り付いている!
「――オトコに頼るのは嫌にゃけども、そこは愛するルルカお姉様の為にゃ!! ロレンスの石頭と、ブラックの変態おっさんに造らせた、法力倍加の触媒の御札ニャーッ! 法力のもとに、シビれる罰を喰らうがよいにゃーーーっ!!」
そう叫ぶと共に、近付いた一瞬で貼り付けた御札に向かって、ベネットは聖なるエネルギーを浴びせた!! 激しい雷鳴が響き渡る!!
「あギャギャギャギャギャギャー!!」
倍加された法力のエネルギーは、傍にいる悪魔に連鎖反応を起こした。サキュバスの群れを一網打尽にし……美しく艶やかな見た目からは想像もつかぬ濁った悲鳴を上げ、サキュバスたちは絶命した。
「ふうー……ひとまず、片付いた――――」
「グオオオオオオッ!!」
「ってまだいたにゃーーーっ! お助けぇーーーっ!!」
突如、後ろから、またも筋骨隆々とした悪魔が襲いかかって来た!!
純粋なパワー型の的に肉薄されれば、ベネットになす術はない――――
――――と――――
「オォオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーーッッッ!!」
悪魔の真横から、悪魔を超えるような獰猛な絶叫と共に――――セアドが突撃し、両手に1本ずつ戦斧を持って乱打を浴びせた!!
「ぐびゃあああああああ!!」
悪魔は目を潰され、耳を削がれ、鼻を折り……やがて無数の乱打で肉体を粉々に粉砕し、滅した。
「あー! 今のって……あたしのー!!」
驚いたのはウルリカ。
「ひひひひ。あぁんま技巧的なのは無理だがよォォ……ウルリカちゃんみてえなパワータイプの奥の手ぐれぇなぁらあ……俺様にだってよく目を凝らしゃあ、真似出来らあ……両手で手数も倍にしてなあ♪」
「うわ! 頼もしいけど……腹立つわー!!」
筋肉増強剤が効いているウルリカは、己の得意技を味方とはいえ簡単に真似されたのを見て激昴し、近くの壁を殴って粉砕した。
「……全く……俺一人で頑張るぐらいのつもりだったが……今回の仲間の人間達は……頼もしい限りだな……」
悪夢のせいか、些か気負っていたラルフ。仲間達の強さ、タフさに呆れるような、安心するような……複雑な面持ちで溜息をつく。
「……え? わっ! なに、これぇ!?」
と、ふと見ると、ウルリカが砕いた壁が――――一瞬、空間が歪んだように見えた次の瞬間、ぱっと砕かれる前の元通りの壁になってしまった。
「……この空間では……壁や地面が損傷しても再生するのか……む?」
ラルフが見遣ると、奥からまたも夥しい数の悪魔達がなだれ込んできた。
「うひゃあー……キリないよ、これぇー!!」
「正に五里霧中だな……」
倒しても倒しても湧いて出る悪魔達に、思わずウルリカとブラックも弱音が出る。
このままだと消耗戦だが――――
「――――好都合だ。みんな! 俺の後ろに下がってろ!!」
「え……何をなさるおつもり?」
「いいから、俺の後ろ、出来るだけ離れて!」
ラルフが統率し、皆を後衛に退かせる。
「……ふうー……我が根源よ。我が光の源よ……無尽の力となりて、解き放て…………」
ラルフが剣を真っ直ぐに構え、目を閉じると――――全身から、緑色の英気が立ち上ってくる。温かで、力強い、『勇者』の英気が、剣の切っ先にまで行き渡り……見る見るその輝きを増していく。
「ラルフ様! もう敵が――――!」
「ラルフ殿!!」
ルルカとロレンスが言う通り、悪魔の群れはもうかなり肉薄している。このままでは間に合わない!
と、瞬間、目を開き、光を伴う剣を脇に構えたラルフは――――
「輝刃……――――はああああっ!!」
――――一閃。
一瞬、まばゆい光を伴う剣による一閃。
他の仲間が目を開けた時には――――
「――――あれだけの悪魔共を、一撃、ですと――――!?」
そう。
『勇者』の英気を伴った秘剣・輝刃《レディアントブレード》。
悪魔のように、悪しき魂で蠢く存在を塵も残さず浄化せしめる、正に必殺剣であった。
「――――むっ!」
剣圧が届かなかったのだろうか。一体だけ、取り残された悪魔が、後から駆けてくる。
今の光を受けただけで怯んではいるが、普通に戦えば骨が折れそうなほどに頑丈そうだ。
「――まだだ。まだ皆、後ろにいてくれ」
今度は、腰だめに突きの構えを以て、英気を剣の切っ先に集中させる――――
一際巨大な悪魔が近付いた、瞬間――――
「六重神風……――でぇやあああああ!!」
――――目にも映らぬ速さで、悪魔に6つの光の穴が開いた。そしてその穴から光が走り――――六芒星を描く!!
シュワアアアアア…………。
悪魔は、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、光の粒となって浄化した。
「す、すげぇ……」
「ラルフ殿、こんな奥の手を……」
「――て言うか、なんで今までそれ、やらなかったのよ!?」
仲間達から驚きの声。
「……飽くまで遺跡の中だからな……建物の中でこの技を使うのは――――建物ごと崩壊しそうで危険だから封印していたんだ。だが、少なくともこの階層は……どんなに傷めてもすぐに再生するから、大技を出しても崩落する危険が無い。これから先は使っていく」
「……なるほど、な。我々を巻き添えにしない為に、手加減していたというわけかね。やれやれ……」
「すっげえ……すっげえじゃん、ラルフ!! 正に『勇者』の必殺技だな!! FOO~♪」
ヴェラは思わず、歓喜のギターを掻き鳴らす。
「……どうやら、今ので悪魔共は倒し切ったようだな……それらしい気配はない。在るのは――――」
「……魔王が封印されし、『憎悪の泪』。そして、盗賊団の首魁というわけですな……」
「迷ったり、恐れている暇はない。一刻も早く、先に進むぞ……」
ラルフは1度剣を鞘に収め、先陣を切って先を歩き始めた。
――――どこか、自分の中の恐怖心に、言い聞かせるように――――
<<
<<
<<
<<
――――闇。
ただただ黒で塗りつぶされたような、深遠の闇。
その黒の塊のような何かから、途切れ途切れに…………何かが聴こえる。
「勇…………愚か……り…………」
「お任…………王…………」
「わた…………なんの…………戦って…………」
「魔……王…………」
――――真っ黒な闇が、だんだんと…………赤黒い、禍々しい景色へと変わってくる。
そして、その胸には心も肉体も焦熱させるような、狂おしい想いが幾度も去来する。
――――ふと。フラッシュバック。
何やら、沢山の墓。
無数の亡骸が眠っているであろう、無数の墓の前に――――人影が見える。
(――――なん……だ…………これは…………お前は…………誰だ…………?)
その人影は、その背中を見た限りでも、若き青年だと感じた。
鍛え抜かれた逞しき体躯に、朝日を思わせる美しい長髪。若草色のたなびくマント。
(――――え?)
だが。その青年が佇む空間ごと…………禍々しいプレッシャーと共に歪んで、淀んでいく…………。
その青年の手に握られし白銀の剣も…………鮮血と汚泥がない交ぜになったような何かで、悍ましき得物に変わり果てていくのだった。
――――青年は、何事か呟いた――――
「――――人間…………人間…………勇者…………勇者…………魔王…………」
その青年が振り返り、こちらを向いた瞬間――――
「――――赦さぬ。この世の森羅万象。何よりも――――」
その顔を確認出来るか出来ないかの瞬間――――天から、百鬼夜行の魑魅魍魎の総てがぐちゃぐちゃになったまま迫ってくるような――――混沌の魔が、どす黒い呪いが、総てを埋め尽くしていく――――!
<<
<<
<<
<<
「――――はっ! ……ぜえっ……ぜえっ…………」
次の瞬間。
気が付くとそこは、寝室だった。窓の外から、温かでまぶしい日光が射しこんできている。
「……なんだ…………これは…………」
悪夢や、己の魂の根源に触れるような夢を見た時……人は起きてからも、しばらくここが現実なのか、それとも虚構の世界なのか。自分は何者なのか。今は何時なのか。それを理解するのに時間がかかることがある。
そんな混濁した意識を、何とか落ち着かせ…………ラルフは、今のが悪夢で、ここがレチア王国の宿の一室。今が朝であると理解した。
だが――――単なる悪夢と言うには、あまりに悍ましく、あまりに恐ろしいものだった。勇者・ラルフは今なお恐怖に怯え、全身は汗だくで、その両の手は寒気と怖気から震えていた…………。
「――夢。夢、なのか…………本当に、今のが?」
ラルフはふらつきながらも立ち上がり……近くの鏡を覗き込んだ。
――――間違いなく、ラルフ。自分の顔だ。だがその表情は汗と得体のしれぬ恐怖心から、酷く弱々しい若者に見えた。
恐らく、この姿のままではレチア王国の王と謁見した時のような『勇者』などではなく……ただの怯えた青年に見えることだろう。
「……そうだ。ここは……レチア王国。俺は、ラルフだ。……仲間たちと共に――――宝玉・『憎悪の泪』を…………取り返す。」
ラルフは自分の使命。そして仲間との目的を思い出し…………ようやく正気を取り戻し、平生の冷静で、凛々しい、『勇者』としての顔を取り戻した。
<<
<<
<<
「む。ラルフ殿。おはようございます」
「起きたかね。意外だな……存外に起きてくるのが遅いじゃあないか」
酒場には、既に仲間たちが準備をして待っていた。
「……いや……寝つきが悪かったのか、ちょっと嫌な夢を見た……」
「夢、ですと?」
「嫌な夢……か。私も度々見るよ。若き日の嫌な雑念が丸々掘り起こされるような夢を、な……しかし、『勇者』も人間のように悪夢に魘れることがあるのだな……興味深い」
「――うわ! なーんかラルフ、寝起きの顔恐くない? だいじょぶ~?」
「ラルフ様、具合が悪いのですか? ご無理をなさらないでくださいね……」
「……大丈夫だ。直にシャキッとするさ……」
心配そうに声をかけるウルリカとルルカに、ラルフは手を振って答える。
「ううううう。昨日飲み過ぎたにゃ~……頭と、昨夜お姉様とまぐわったトコロがジンジンと――」
「だあーッ!! オメエら暗くなりすぎだぜ!! オレの歌で今すぐシャキッとせんかぁーッ!!」
「ギミャアアアアア五月蠅いニャアアアアーーッ!! 頭響くゥ!!」
ベネットとヴェラがせわしなく大声を張り上げる。どうやら昨夜のような辛い過去に囚われていた心は、しばしほぐれたようだ。
「カッカッカ。あ~さからァ騒がしいパーティだぜええええ~。しっかりと仕切ってくれよオ、『勇者』ラルフちゃんんんんんん~。い~つまでもぉ、暗い顔はダメダメダメよ駄目なのよぉおおぉ♪」
セアドも平生通り、凶悪な笑みと暑苦しい声で嗜めてくる。
「お前に言われるまでもないさ、セアド。やり遂げて見せる――――改めて、みんな。準備はいいか?」
結成してほんの一日、二日程度のはずのラルフ一行。即席に等しい集まり。
しかし……遺跡から宝玉を奪還するというこの一件だけで……8人とも皆、なかなかに良い団結をしたようだ。皆がそろって頷いた。
「――――よし。では、いくぞ」
「はっ。――――転移ッ!!」
<<
<<
<<
ロレンスの転移魔術によって、一行は一瞬にして遺跡の、美術館のいた演劇場に辿り着いた。
「下へ降りる階段は……よし。開いたままだな。降りていくぞ」
一行は、闇が広がる階下へ、一段、一段、降りていく……。
<<
<<
<<
「――――これは…………!」
しばらく降りると、ラルフを始め、皆が絶句した。
――――壁という壁は、生物の体内とも、熱帯雨林の植物とも似つかないものが脈打ち、毒々しい色彩を放っている。しばらく通路が伸びているが……常人ならばこの壁のサイケデリックな何かを見ているだけで怖気が走りそうだ。
「――空も――――!」
見上げると、先ほどの美術館がいた階層は雲一つない青空に太陽が照っている空間だったが――――今度は、『宇宙』。万物の根源たる宇宙そのものが広がっているかのような、明らかに異質な空間であった。
「……これも、宝玉が……『魔王』が放つ異常な魔力の影響ですな……遺跡の地下がますます禍々しい空間に。なんと悍ましい…………」
一端の冒険者や魔術師であっても下手をすればこの異常な空間だけで士気が下がってしまいそうなものだが――――
「――だが、ここまではっきりと『憎悪の泪』の波動が影響を与えているなら、目標まであと僅かのはずだ。俺も感じるぞ……遠い父祖が戦いを挑んだであろう、『魔王』の気を――――奴を解き放つ前に、すぐに取り返せば、全てが上手くいく!」
目標まで僅か。
悍ましい空間が広がっているからこその、ラルフなりの信憑性ある言葉。そしてラルフなりの皆への鼓舞であった。
深遠な、目標までの距離も見えないような旅ならば、鼓舞されたところで滅入ってしまう者も多いだろう。
だが、これは目標まで肉薄しているという、目標地点が体感的に見えているという鼓舞。
――ラルフ一行は、怯むことなく、掴みかけている戦果を意識し、静かに笑った。ここまで来た猛者たちにはラルフのその言葉で充分であった。
「改めて……行くぞ。雑魚なら俺が蹴散らしてやる!」
「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」
スポーツマンのように円陣を組まないまでも、一行はひと声、勇者の鼓舞に応じた。
<<
<<
<<
行く手を阻む敵は、ますます獰猛で、凶悪な魔物たちばかりだった。最早、魔、そのものの巣窟。真っ黒な悪しきモノ以外の気配は感じられなかった。
現れる魔物も、一体一体が強力な魔力と腕力を誇る悪魔族ばかりであった。
「キシャアアアアアアッ!!」
猛スピードで飛びかかってくる悪魔。
「――バーストストリームッ!! はああああっ!!」
正確にして破壊力抜群のロレンスの魔術が炸裂する。
「――ゴアアアアアアーッッ!!」
盛り上がった筋肉で、途方も無い怪力を伴った腕を振り下ろす悪魔。
「――ふんッ!! ……こんッのおッ!!」
ブラックが密かに改良を重ねていた筋力増強剤の助けで、パワーファイターのウルリカが戦斧で受け流し、身体ごと回転して、太い腕をぶった斬る!!
「傷口を見せたかね。喰らえッ!!」
すかさず後ろから銃を構えたブラックが、同じく改良した麻酔弾を撃つ! ――傷口から直に麻酔物質が駆け巡る。さすがの巨躯の悪魔も倒れ伏した。
「キケケケケケケケ!!」
素早い身のこなしの吸血鬼もいる。幻術と併用し、その身を捉えきれない。5つ、6つにも分身して見える。
「――――どこを見ているの!!」
だが、その速さにルルカも負けていない。幻術と足した数より多い、10を超えるほどの残像を見せるほどの超スピードだ。――第二人格に頼ってはいない。ブラックの能力向上系の薬剤の中には、神経伝達物質の流れを早くする物もあったのだ。辛うじて依存性などは無い。
「グッギギ!? ギッ! ギャアアアアアーーーッ!!」
吸血鬼にも捕捉出来ない速さで、ルルカは無尽に駆け回り、吸血鬼を切り裂き……やがて塵に還した。
「ギャアッ、ギャアッ、ギャアアアア」
今度は、翼を持つ無数の悪魔が襲い来る。
「くっ……詠唱が間に合わない――――」
「任せろ! ――――AHHHHHHHHHHHHHHH!!」
ヴェラが高々と吼える。これまでの彼女なら、人間の感覚を強化する歌か、魔物が嫌がる音波を出すだけだったが――――
「!? キイヤアアアアアオオオオオオンンンンン…………」
――改造したヴェラのギターには、小型ながらマイクが備わっていた。そして、マイクが拾ったヴェラの声を――――ギターのサウンドホールから波動エネルギーに変換して撃ち放った!! もろにエネルギー波を受けた悪魔は跡形もなく消し飛んだ。
「ギャイイイイイイイイ!!」
しかし、当たらなかった悪魔たちが、轟然とヴェラに、鋭いかぎ爪を突き立てる!!
「――計算済みだぜえ!! ♪WAOOOOOOOOO~!!」
ヴェラがギターを掻き鳴らし、唱法を変えると――――今度はラルフ達を包む結界へと波動が姿を変えた! 爪を突き立てた悪魔から、先ほどの悪魔同様バリバリッ、と電撃のような音と共に消し飛んでいく。
だが、数が多い。なおも悪魔の群れは、一斉に襲い掛かる! 果たして結界がもつのか――――
「オメエら、知らねえのか。音ってのはなあ――――反響すんだぜ!!
――――すなわち、反響定位。を、出鱈目な圧力で凝縮、および拡散した波動。
ただですら強烈な音波が、壁を反響して拡散し、また何重にも複雑な重複を経て悪魔たちに降り注いだ!!
「キシャアアアアアアア…………」
避ける隙間など微塵もなく、エネルギー波は空間を跳ねまわり、悪魔を鏖殺した。しかも人間にはほぼ無害――――まあ、気を付けなければ、鼓膜が破れるが。
「ムムムム……全く、本人の人格通り、無茶苦茶な技にゃね~……――おオッ!?」
「ウフフフフフ……」
今度は、淫魔であるサキュバスが現れた。ベネットたちを挑発し、魅了を以て操ろうとする――――
「――うわあーいっ!! またもキレイでエロいおねいさんにゃああああーーーっ!!♡」
――またも、ベネットは……色欲の赴くままに、サキュバスの豊満な肉体に突入した。
瞬殺(?)するかと思いきや――――
ぼよよん。
「あらァん♡ ふふふふっ……」
「にゃ、にゃ、ありゃアーッ!? お、おねいさん……規格外にゃねん……色んニャー意味で、色んニャーとこが…………♡」
性豪たるベネットは、目の前の情欲の塊にひとたび、肌で触れてみて……己の手に余る、自分で平らげきれないほどの情欲の塊…………。食べ物に例えると、とても脂が乗っていて美味そうだが、脂が強過ぎて確実に腹を下して毒素が身体を蝕むような肉の塊、そんな相手であることを悟った。
それはそれで、平らげてみたいと思いかけるベネットだったが――――
「――――ベネット~???」
後ろで構えるルルカが、青黒く冷たい殺気を放つ。
「ハウアーッ!! ひひひゃい! 勿論、ジョーダンですトモッ!! 昨夜愛を語り合ったソウルメイトを裏切るような……そんにゃ、3歩進んだら恩を全て忘れるようにゃそこらの泥棒猫とは違いますニャーッッッ!!」
事実、サキュバスは一体ではなく、複数出てきた。単なる破壊衝動で動く悪魔より、なお始末が悪そうだ。
「正に、戦闘モードの猫の如く、とーうっ!! 手に負えにゃーい!!」
サキュバスが、情欲の虜にしようと抱擁する手から素早く飛び退き、他の皆の攻撃を待つ。
「――――ニャーんて、思ったかブミャアアアアアーーーッッッ!?」
「!?」
違和感を覚えるサキュバス。
よく見ると……その腹部に何か、貼り付いている!
「――オトコに頼るのは嫌にゃけども、そこは愛するルルカお姉様の為にゃ!! ロレンスの石頭と、ブラックの変態おっさんに造らせた、法力倍加の触媒の御札ニャーッ! 法力のもとに、シビれる罰を喰らうがよいにゃーーーっ!!」
そう叫ぶと共に、近付いた一瞬で貼り付けた御札に向かって、ベネットは聖なるエネルギーを浴びせた!! 激しい雷鳴が響き渡る!!
「あギャギャギャギャギャギャー!!」
倍加された法力のエネルギーは、傍にいる悪魔に連鎖反応を起こした。サキュバスの群れを一網打尽にし……美しく艶やかな見た目からは想像もつかぬ濁った悲鳴を上げ、サキュバスたちは絶命した。
「ふうー……ひとまず、片付いた――――」
「グオオオオオオッ!!」
「ってまだいたにゃーーーっ! お助けぇーーーっ!!」
突如、後ろから、またも筋骨隆々とした悪魔が襲いかかって来た!!
純粋なパワー型の的に肉薄されれば、ベネットになす術はない――――
――――と――――
「オォオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーーッッッ!!」
悪魔の真横から、悪魔を超えるような獰猛な絶叫と共に――――セアドが突撃し、両手に1本ずつ戦斧を持って乱打を浴びせた!!
「ぐびゃあああああああ!!」
悪魔は目を潰され、耳を削がれ、鼻を折り……やがて無数の乱打で肉体を粉々に粉砕し、滅した。
「あー! 今のって……あたしのー!!」
驚いたのはウルリカ。
「ひひひひ。あぁんま技巧的なのは無理だがよォォ……ウルリカちゃんみてえなパワータイプの奥の手ぐれぇなぁらあ……俺様にだってよく目を凝らしゃあ、真似出来らあ……両手で手数も倍にしてなあ♪」
「うわ! 頼もしいけど……腹立つわー!!」
筋肉増強剤が効いているウルリカは、己の得意技を味方とはいえ簡単に真似されたのを見て激昴し、近くの壁を殴って粉砕した。
「……全く……俺一人で頑張るぐらいのつもりだったが……今回の仲間の人間達は……頼もしい限りだな……」
悪夢のせいか、些か気負っていたラルフ。仲間達の強さ、タフさに呆れるような、安心するような……複雑な面持ちで溜息をつく。
「……え? わっ! なに、これぇ!?」
と、ふと見ると、ウルリカが砕いた壁が――――一瞬、空間が歪んだように見えた次の瞬間、ぱっと砕かれる前の元通りの壁になってしまった。
「……この空間では……壁や地面が損傷しても再生するのか……む?」
ラルフが見遣ると、奥からまたも夥しい数の悪魔達がなだれ込んできた。
「うひゃあー……キリないよ、これぇー!!」
「正に五里霧中だな……」
倒しても倒しても湧いて出る悪魔達に、思わずウルリカとブラックも弱音が出る。
このままだと消耗戦だが――――
「――――好都合だ。みんな! 俺の後ろに下がってろ!!」
「え……何をなさるおつもり?」
「いいから、俺の後ろ、出来るだけ離れて!」
ラルフが統率し、皆を後衛に退かせる。
「……ふうー……我が根源よ。我が光の源よ……無尽の力となりて、解き放て…………」
ラルフが剣を真っ直ぐに構え、目を閉じると――――全身から、緑色の英気が立ち上ってくる。温かで、力強い、『勇者』の英気が、剣の切っ先にまで行き渡り……見る見るその輝きを増していく。
「ラルフ様! もう敵が――――!」
「ラルフ殿!!」
ルルカとロレンスが言う通り、悪魔の群れはもうかなり肉薄している。このままでは間に合わない!
と、瞬間、目を開き、光を伴う剣を脇に構えたラルフは――――
「輝刃……――――はああああっ!!」
――――一閃。
一瞬、まばゆい光を伴う剣による一閃。
他の仲間が目を開けた時には――――
「――――あれだけの悪魔共を、一撃、ですと――――!?」
そう。
『勇者』の英気を伴った秘剣・輝刃《レディアントブレード》。
悪魔のように、悪しき魂で蠢く存在を塵も残さず浄化せしめる、正に必殺剣であった。
「――――むっ!」
剣圧が届かなかったのだろうか。一体だけ、取り残された悪魔が、後から駆けてくる。
今の光を受けただけで怯んではいるが、普通に戦えば骨が折れそうなほどに頑丈そうだ。
「――まだだ。まだ皆、後ろにいてくれ」
今度は、腰だめに突きの構えを以て、英気を剣の切っ先に集中させる――――
一際巨大な悪魔が近付いた、瞬間――――
「六重神風……――でぇやあああああ!!」
――――目にも映らぬ速さで、悪魔に6つの光の穴が開いた。そしてその穴から光が走り――――六芒星を描く!!
シュワアアアアア…………。
悪魔は、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、光の粒となって浄化した。
「す、すげぇ……」
「ラルフ殿、こんな奥の手を……」
「――て言うか、なんで今までそれ、やらなかったのよ!?」
仲間達から驚きの声。
「……飽くまで遺跡の中だからな……建物の中でこの技を使うのは――――建物ごと崩壊しそうで危険だから封印していたんだ。だが、少なくともこの階層は……どんなに傷めてもすぐに再生するから、大技を出しても崩落する危険が無い。これから先は使っていく」
「……なるほど、な。我々を巻き添えにしない為に、手加減していたというわけかね。やれやれ……」
「すっげえ……すっげえじゃん、ラルフ!! 正に『勇者』の必殺技だな!! FOO~♪」
ヴェラは思わず、歓喜のギターを掻き鳴らす。
「……どうやら、今ので悪魔共は倒し切ったようだな……それらしい気配はない。在るのは――――」
「……魔王が封印されし、『憎悪の泪』。そして、盗賊団の首魁というわけですな……」
「迷ったり、恐れている暇はない。一刻も早く、先に進むぞ……」
ラルフは1度剣を鞘に収め、先陣を切って先を歩き始めた。
――――どこか、自分の中の恐怖心に、言い聞かせるように――――
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる