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第29話 夜の酒場にて
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ラルフ一行は、ギルドで受け取った軍資金を早速市場で使い、装備を調えなおした。
武具をワンランク上の物に買い換えたのは勿論、傷薬、弾薬、探索用具などの道具類も充実させ、かなりの蓄えをした。
一行が改めて準備を終えた頃、陽はすっかり落ちて夜の闇が広がっていた。
心身の疲れを癒すため……ラルフたちは宿に泊まり、併設してある王国で評判の酒場で英気を養うことにした。
「あら。いらっしゃーい。昼間来た人たちだっけ? 夜も来てくれてありがとねー」
酒場のママさんが気だるげに、しかし気さくに話しかけてくる。
「……何度もすみません。今回は美味しい食事でもいただいて英気を養いに来ました。宿の手続きもお願いします」
「あ、それは私が行ないます。……全く、我が君は……せめて宿代や食事代ぐらいは王国で負担すればいいのに…………」
ロレンスが小言を言いながら、ママさんの隣の宿の旦那に話しかけ、宿帳を記入していく。
「……なんかあんたら、疲れてない? 何て言うか、精神的に……なんかあったー?」
ママさんが心配そうに尋ねてくる。ブラックが答えた。
「……何のことはない。仕事だよ。仕事で、盗賊らとやりあってきただけさ……」
「……やっぱ、あんたら戦いに行ってたんね~。昼間来た時からどこかピリピリした雰囲気だったもん」
「とにかく、一泊ついでに食事を貰おうか。この店のオススメをな――――特に……私の後ろで通夜のような顔をしているご婦人2人にはしっかりと、な…………」
「あいよー」
指図されたのは、勿論ベネットとルルカである。
「ア、アチキならダイジョーブにゃっ! 猫人の気持ちの切り替えの早さはトップアスリート並みにゃよ!!」
「強がるんじゃあない。帰りは比較的楽な道だったはずだが、明らかに君たち2人のメンタル面の消耗は激しい。さもなければ――――ルルカなら帰りの道中の、ヴェラの歌のお陰で戦う必要性もない魔物を傷めつけたり、ベネットならそんなルルカに明るい言葉のひとつもかけないでいるものか」
「にゃッ……そ、それは~…………」
「……申し訳ございません。ブラック様…………」
ただでさえ細い2人の身体が……尚更小さく、か弱く感じられるようだった。
喩え、持っている力が強くとも…………。
「で、でもよおブラックのおっさん! 2人のお陰でオレたち勝って、戻ってこれたんだぜ!? そこまで大ごとにしなくても――――」
「勘違いするな。私が疲れただけだ。……ただ、美術館での戦いでは少々言葉が過ぎたことは謝る。2人には引き続き宝玉奪還まで同行して欲しい……勿論、本人の自由意思で、だがな……」
「でもよお――」
「いいのです、ヴェラ様。『突然、殺人狂になられれば迷惑』、当然のことですわ。お言葉に甘えて……まずは休ませていただきましょう」
「……ふん。精々、滋養を取ることだ。心身ともにな」
「……はい…………」
「……王国の宮廷魔術師。それも王の側近が供廻りになるような団体さんか~……いかにもワケありって感じだね。いいよ、今夜は貸し切りにしたげる。ちょうど今は客いないしね」
「え? よろしいのですか? だ、代金は多めに――」
「いいのいいの。あんた、ロレンスさんだっけ? 王様が国を廻る度に目にするけど、もうちょい肩の力抜いたら? 今夜ぐらい遠慮しなさんなって! 大事なことをこれからやろうとしてんだろ?」
「……むう……そうですな。では、お言葉に甘えて……恩に着ます」
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それからラルフ一行は、貸し切りになった酒場でしばし憩いのひと時を過ごすことになった。島国レチアでとれる果物や海産物、近隣国との交易で得られる甘味菓子や獣肉など、豪勢な食事を味わうこととなった。
「ほら、この葡萄も食べてみなさいよ、一口。……美味いもんでしょ? 少ないけども自家製でやってんのよお~」
「……本当だ。こんな瑞々しい、爽やかな甘みの果物は…………何時振りだろうな…………」
勇者・ラルフは、カウンターでママさんが自慢する、レチア王国名産の食事を味わっていた。
「……ウチの食事が美味いのは、まあそこそこ評判なのもあるけどさ……あんた――――ただの人間じゃあないでしょ? 料理どころか、美味いもんひとつ食ったことないって反応だったよ。バレバレ」
「……解る人には、解りますか……実際、普段は冒険用の携帯食料ばかり食べているし、それで充分だと思ってます」
「全く、勿体ない事だねえ…………酒も料理もオンナも嗜まない。かと言って苦行僧とも何か違う。なかなかイイオトコなのに。生まれついての聖人か何か~? ま、生まれとか育ちがどんなか、なんてのは本人が語る自由だけども、さ」
「ご想像にお任せします」
ラルフは内心はどうあれ、少し愛想笑いをして返した。
「……でも……確かに。確かに、人間と言うモノは……いや、自分以外の人間は一体どんな風に生きているのか、時たま気にはなります」
「ハハ。そりゃあそうさね。人間、生きてりゃあ、どんなに自分の世界に閉じこもって生きていても……ふと、他人がどう思い、何を信じ、生きているのか……気になっちまうもんさ。――――どうだい? 気になるならあんたのお仲間さん、見てきたら? 本当は心配なんだろ?」
「それは――――」
「なァに。心配しなさんな。アタシが見た限りじゃあそこまで懐の狭い人間にゃあ見えないね。バレそうになったらアタシが助け舟出したげるからさ……様子、見て来なよ。」
「……ありがとうございます。」
――――ランプと暖炉の火が薄明るく、疲れ、揺らぐそれぞれ心をそのまま照らし出しているような酒場で……勇者・ラルフは席を立ち…………密かに仲間たちの様子を見に行くことにした――――
武具をワンランク上の物に買い換えたのは勿論、傷薬、弾薬、探索用具などの道具類も充実させ、かなりの蓄えをした。
一行が改めて準備を終えた頃、陽はすっかり落ちて夜の闇が広がっていた。
心身の疲れを癒すため……ラルフたちは宿に泊まり、併設してある王国で評判の酒場で英気を養うことにした。
「あら。いらっしゃーい。昼間来た人たちだっけ? 夜も来てくれてありがとねー」
酒場のママさんが気だるげに、しかし気さくに話しかけてくる。
「……何度もすみません。今回は美味しい食事でもいただいて英気を養いに来ました。宿の手続きもお願いします」
「あ、それは私が行ないます。……全く、我が君は……せめて宿代や食事代ぐらいは王国で負担すればいいのに…………」
ロレンスが小言を言いながら、ママさんの隣の宿の旦那に話しかけ、宿帳を記入していく。
「……なんかあんたら、疲れてない? 何て言うか、精神的に……なんかあったー?」
ママさんが心配そうに尋ねてくる。ブラックが答えた。
「……何のことはない。仕事だよ。仕事で、盗賊らとやりあってきただけさ……」
「……やっぱ、あんたら戦いに行ってたんね~。昼間来た時からどこかピリピリした雰囲気だったもん」
「とにかく、一泊ついでに食事を貰おうか。この店のオススメをな――――特に……私の後ろで通夜のような顔をしているご婦人2人にはしっかりと、な…………」
「あいよー」
指図されたのは、勿論ベネットとルルカである。
「ア、アチキならダイジョーブにゃっ! 猫人の気持ちの切り替えの早さはトップアスリート並みにゃよ!!」
「強がるんじゃあない。帰りは比較的楽な道だったはずだが、明らかに君たち2人のメンタル面の消耗は激しい。さもなければ――――ルルカなら帰りの道中の、ヴェラの歌のお陰で戦う必要性もない魔物を傷めつけたり、ベネットならそんなルルカに明るい言葉のひとつもかけないでいるものか」
「にゃッ……そ、それは~…………」
「……申し訳ございません。ブラック様…………」
ただでさえ細い2人の身体が……尚更小さく、か弱く感じられるようだった。
喩え、持っている力が強くとも…………。
「で、でもよおブラックのおっさん! 2人のお陰でオレたち勝って、戻ってこれたんだぜ!? そこまで大ごとにしなくても――――」
「勘違いするな。私が疲れただけだ。……ただ、美術館での戦いでは少々言葉が過ぎたことは謝る。2人には引き続き宝玉奪還まで同行して欲しい……勿論、本人の自由意思で、だがな……」
「でもよお――」
「いいのです、ヴェラ様。『突然、殺人狂になられれば迷惑』、当然のことですわ。お言葉に甘えて……まずは休ませていただきましょう」
「……ふん。精々、滋養を取ることだ。心身ともにな」
「……はい…………」
「……王国の宮廷魔術師。それも王の側近が供廻りになるような団体さんか~……いかにもワケありって感じだね。いいよ、今夜は貸し切りにしたげる。ちょうど今は客いないしね」
「え? よろしいのですか? だ、代金は多めに――」
「いいのいいの。あんた、ロレンスさんだっけ? 王様が国を廻る度に目にするけど、もうちょい肩の力抜いたら? 今夜ぐらい遠慮しなさんなって! 大事なことをこれからやろうとしてんだろ?」
「……むう……そうですな。では、お言葉に甘えて……恩に着ます」
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それからラルフ一行は、貸し切りになった酒場でしばし憩いのひと時を過ごすことになった。島国レチアでとれる果物や海産物、近隣国との交易で得られる甘味菓子や獣肉など、豪勢な食事を味わうこととなった。
「ほら、この葡萄も食べてみなさいよ、一口。……美味いもんでしょ? 少ないけども自家製でやってんのよお~」
「……本当だ。こんな瑞々しい、爽やかな甘みの果物は…………何時振りだろうな…………」
勇者・ラルフは、カウンターでママさんが自慢する、レチア王国名産の食事を味わっていた。
「……ウチの食事が美味いのは、まあそこそこ評判なのもあるけどさ……あんた――――ただの人間じゃあないでしょ? 料理どころか、美味いもんひとつ食ったことないって反応だったよ。バレバレ」
「……解る人には、解りますか……実際、普段は冒険用の携帯食料ばかり食べているし、それで充分だと思ってます」
「全く、勿体ない事だねえ…………酒も料理もオンナも嗜まない。かと言って苦行僧とも何か違う。なかなかイイオトコなのに。生まれついての聖人か何か~? ま、生まれとか育ちがどんなか、なんてのは本人が語る自由だけども、さ」
「ご想像にお任せします」
ラルフは内心はどうあれ、少し愛想笑いをして返した。
「……でも……確かに。確かに、人間と言うモノは……いや、自分以外の人間は一体どんな風に生きているのか、時たま気にはなります」
「ハハ。そりゃあそうさね。人間、生きてりゃあ、どんなに自分の世界に閉じこもって生きていても……ふと、他人がどう思い、何を信じ、生きているのか……気になっちまうもんさ。――――どうだい? 気になるならあんたのお仲間さん、見てきたら? 本当は心配なんだろ?」
「それは――――」
「なァに。心配しなさんな。アタシが見た限りじゃあそこまで懐の狭い人間にゃあ見えないね。バレそうになったらアタシが助け舟出したげるからさ……様子、見て来なよ。」
「……ありがとうございます。」
――――ランプと暖炉の火が薄明るく、疲れ、揺らぐそれぞれ心をそのまま照らし出しているような酒場で……勇者・ラルフは席を立ち…………密かに仲間たちの様子を見に行くことにした――――
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