LIVE FOR HUMAN

mk-2

文字の大きさ
上 下
21 / 43

第21話 仕掛けの妙

しおりを挟む
 MUSICのみが道を開く。

 立て看板のこの言葉に反応したのは勿論――

「おおっ! 丁度いいステージがあるじゃあねえか! ヤッホーイ!!」

「ヴェラ様、本当に懲りない方ね……」

 仲間たちの言葉も省みず、ステージに立ち歌を披露する。

「♪Red like rose~not,this is my pride of blood~YEAH~♪」

 一際楽しそうに、かなりの声量で歌う。

「ヴェラ、すまないけど必要以上に歌うのは……敵に感づかれ――ん?」

「――おお?」

 突然、ごごごご……と重々しい地響きが辺りを揺らした。

 驚いたヴェラが歌うのをやめると――――再びごごごご……と地響きがした。

「……こりゃあ、重い物が動いて、また戻った音だな。もしかしてさっきの鉄球なんじゃあねえのか?」

「……もしかして、あれは音に反応する仕掛けなのか?」

 ラルフの推理に、ヴェラはその硬い肩を叩いた。

「考えてるだけで解るかよ! ……確かめて来いよ。オレはここで一人リサイタルin遺跡と洒落込んどくからよ!」

 ヴェラの申し出に、ルルカが苦言を呈す。

「確かにその音の仕掛けである可能性は高そうですわ。でも、ヴェラ様一人ここに置いていくのは、危険過ぎますわ」

「……じゃあどうする? 誰か一緒に残るかよ?」

「私が残ろう。良い機会だ、ヴェラの発声のメカニズムを調べてみたい」

 ブラックが守役を買って出た。この闇医者は随分と例のごとく不遜な笑みを浮かべているが、ヴェラはお構い無しのようだ。

「まあ、一人でもオーディエンスがいるのは楽しいもんだ! じっくり聴いてけよ、おっさん!」

「うむ。しばし聴かせてくれたまえ」

 <<

 <<

 ヴェラとブラックを残し、一行は鉄球が道を塞いでいた場所まで戻ってきた。ヴェラの演奏が聴こえている。

 思った通り、鉄球は音に反応して開く仕掛けだった。何tもあろうかと思われる巨大な鉄球は、地面を砕きながら右へ転がって移動しており、道を開けている。

 しかし……進んだ先には一見何も無い。例によって『見えない壁』によって阻まれているだけで、見た目にはただ砂漠が広がっているようにしか見えない。

 ベネットは改めて鼻をきかせた。

「――ムムムム! この見えない壁のずっと上の方……どうやらさっきの邪魔なワープゾーンを解除する仕掛けがあるようにゃ!!」

「……ずっと上って、どのくらいだ?」

「とにかく高い位置にゃ! 高いたかーい!!」

「……面倒だな。ロレンス、強めに頼む」

「承知致しました……皆さん、少し下がって――風よ! 上昇気流!!」

 ロレンスはかざした魔術杖に一際魔力を込め、見えない壁の足元からはるか数十メートル上まで気流を放った。バリバリバリバリ、と砂塵が空を巻いて舞う音が耳をつんざく。

「……あっ! もしかしてあれではなくて?」

 風で砂塵を吹き飛ばした壁の上には、何やら切り替えレバーのようなものが見える。

 ――見えるのだが――――

「おお、あれか……って無理だろ、この高さ。ここまで高いとは……」

 ここに来て弱音ひとつ吐かなかったラルフが苦笑いと共に眉を顰めた。

 そう。問題は高さだった。レバーを切り替えるだけならば容易いこと。

 しかし、見えない壁を見上げると、遥か15メートルはある高さにレバーは浮かんでいる。否、見えない壁のせいで浮いて見えるだけだが。

「弱りましたな……ウルリカ殿、よじ登れますかな?」

「うーん……普通の岩壁ならロッククライミングなり、武器で足場を作るなりしてよじ登れるんだけど、壁肌が見えないんじゃなー……命綱も巻きようが無いじゃん。落ちたら全力で受け止めて――――え?」

「皆様、ちょっと退いてくださいまし――――たあーーーっ!!」

 ――なんと、いつの間にか助走をつけて勢い良く……ルルカが見えない壁の上を目指し、思いっ切り跳躍した!! 

「「化け物ーーーッ!?」」

 ラルフとロレンスが思わず顔のデッサンを崩すほどの驚きと声。

 それもそうだ。ルルカは身一つのジャンプで、15メートルの高さまで跳び、レバーのすぐ近くの、壁の足場らしき所に両手でしがみついたのだ。尋常ではない脚力とバネである。

「おおおおお……お姉様の御御足だけでにゃく、お尻まで――――このベネット。生きててヨカッタ…………」

「――んんんっ……よいしょっと。」

 邪な目で凝視し、一人で勝手に悦に浸るベネットを気にする余裕もなく、見えない壁の上にルルカはよじ登った。

「――むっ。こ、これは私にはちょっと――――」

「駄目だロレンス。安全に降りてくるまで見守らなくては。いざとなれば君の転移魔法の出番だからな」

 下から見上げれば、距離があるとはいえミニスカートのルルカは召し物も玉のような脚も丸見えである。ロレンスは目を逸らそうとするも、心を鬼にしてラルフはロレンスに言い聞かせる。

「これですわね。――よいしょっ」

 ルルカがレバーを切り替えた。

 俄に、ぶぅぅぅん、と空間が変質するような鈍い空圧音が鳴った。

「ウルリカさん、ワープゾーンはどうですか?」

「通れるようになってるなってる! 触れても何ともないわ!」

「よし……だが、どうやって降ろそう……やはりロレンスに頼むかな」

「う、うむ、そうですな……」

 ロレンスは目のやり場に困りつつも、高所のルルカに魔術杖をかざした。

「――転移! 仲間を戻したまえ……はあっ!」

 魔力がルルカを包み、一瞬にしてルルカは転移した。

 だがしかし――――

「――えっ? いやあああっ!!」

「――馬鹿な!?」

 ――ロレンスの手応えでは、確かに魔術は発動し、転移した。

 転移はしたのだが――――ルルカが転移したのはラルフたちの待つ地面ではない……10メートルはあろうかと思われる宙から、頭から真っ逆さま――――ルルカは急降下し、落ちてくる!! 



 ――――怪異な遺跡に、どっ、と鈍い音と共に砂煙が上がった――――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

祝福の居場所

もつる
ファンタジー
 動植物を怪物に変える、呪わしい<瘴気>が古代科学文明を滅ぼして数千年。人類は瘴気に怯えながら細々と暮らしていた。マーシャとジェラの暮らす小さな村もそのひとつだ。だが兄妹はある日、自らに瘴気への耐性があることを知る。その謎を解明するため、二人は古代文明の遺産に触れるが、古代文明はまだ存続し地上奪還を目論んでいた。祝福の因子を持つ兄妹に、怪物が、怪人が、空飛ぶ巨大戦艦が迫り、そしてかれらも知らない過去の因縁が襲いかかる――。   ◇  Pixivで掲載していたオリジナル小説の改稿版です。  2022/08/23 『BLESSED VANQUISH』から改題しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...