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第21話 仕掛けの妙
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MUSICのみが道を開く。
立て看板のこの言葉に反応したのは勿論――
「おおっ! 丁度いいステージがあるじゃあねえか! ヤッホーイ!!」
「ヴェラ様、本当に懲りない方ね……」
仲間たちの言葉も省みず、ステージに立ち歌を披露する。
「♪Red like rose~not,this is my pride of blood~YEAH~♪」
一際楽しそうに、かなりの声量で歌う。
「ヴェラ、すまないけど必要以上に歌うのは……敵に感づかれ――ん?」
「――おお?」
突然、ごごごご……と重々しい地響きが辺りを揺らした。
驚いたヴェラが歌うのをやめると――――再びごごごご……と地響きがした。
「……こりゃあ、重い物が動いて、また戻った音だな。もしかしてさっきの鉄球なんじゃあねえのか?」
「……もしかして、あれは音に反応する仕掛けなのか?」
ラルフの推理に、ヴェラはその硬い肩を叩いた。
「考えてるだけで解るかよ! ……確かめて来いよ。オレはここで一人リサイタルin遺跡と洒落込んどくからよ!」
ヴェラの申し出に、ルルカが苦言を呈す。
「確かにその音の仕掛けである可能性は高そうですわ。でも、ヴェラ様一人ここに置いていくのは、危険過ぎますわ」
「……じゃあどうする? 誰か一緒に残るかよ?」
「私が残ろう。良い機会だ、ヴェラの発声のメカニズムを調べてみたい」
ブラックが守役を買って出た。この闇医者は随分と例のごとく不遜な笑みを浮かべているが、ヴェラはお構い無しのようだ。
「まあ、一人でもオーディエンスがいるのは楽しいもんだ! じっくり聴いてけよ、おっさん!」
「うむ。しばし聴かせてくれたまえ」
<<
<<
ヴェラとブラックを残し、一行は鉄球が道を塞いでいた場所まで戻ってきた。ヴェラの演奏が聴こえている。
思った通り、鉄球は音に反応して開く仕掛けだった。何tもあろうかと思われる巨大な鉄球は、地面を砕きながら右へ転がって移動しており、道を開けている。
しかし……進んだ先には一見何も無い。例によって『見えない壁』によって阻まれているだけで、見た目にはただ砂漠が広がっているようにしか見えない。
ベネットは改めて鼻をきかせた。
「――ムムムム! この見えない壁のずっと上の方……どうやらさっきの邪魔なワープゾーンを解除する仕掛けがあるようにゃ!!」
「……ずっと上って、どのくらいだ?」
「とにかく高い位置にゃ! 高いたかーい!!」
「……面倒だな。ロレンス、強めに頼む」
「承知致しました……皆さん、少し下がって――風よ! 上昇気流!!」
ロレンスはかざした魔術杖に一際魔力を込め、見えない壁の足元からはるか数十メートル上まで気流を放った。バリバリバリバリ、と砂塵が空を巻いて舞う音が耳を劈く。
「……あっ! もしかしてあれではなくて?」
風で砂塵を吹き飛ばした壁の上には、何やら切り替えレバーのようなものが見える。
――見えるのだが――――
「おお、あれか……って無理だろ、この高さ。ここまで高いとは……」
ここに来て弱音ひとつ吐かなかったラルフが苦笑いと共に眉を顰めた。
そう。問題は高さだった。レバーを切り替えるだけならば容易いこと。
しかし、見えない壁を見上げると、遥か15メートルはある高さにレバーは浮かんでいる。否、見えない壁のせいで浮いて見えるだけだが。
「弱りましたな……ウルリカ殿、よじ登れますかな?」
「うーん……普通の岩壁ならロッククライミングなり、武器で足場を作るなりしてよじ登れるんだけど、壁肌が見えないんじゃなー……命綱も巻きようが無いじゃん。落ちたら全力で受け止めて――――え?」
「皆様、ちょっと退いてくださいまし――――たあーーーっ!!」
――なんと、いつの間にか助走をつけて勢い良く……ルルカが見えない壁の上を目指し、思いっ切り跳躍した!!
「「化け物ーーーッ!?」」
ラルフとロレンスが思わず顔のデッサンを崩すほどの驚きと声。
それもそうだ。ルルカは身一つのジャンプで、15メートルの高さまで跳び、レバーのすぐ近くの、壁の足場らしき所に両手でしがみついたのだ。尋常ではない脚力とバネである。
「おおおおお……お姉様の御御足だけでにゃく、お尻まで――――このベネット。生きててヨカッタ…………」
「――んんんっ……よいしょっと。」
邪な目で凝視し、一人で勝手に悦に浸るベネットを気にする余裕もなく、見えない壁の上にルルカはよじ登った。
「――むっ。こ、これは私にはちょっと――――」
「駄目だロレンス。安全に降りてくるまで見守らなくては。いざとなれば君の転移魔法の出番だからな」
下から見上げれば、距離があるとはいえミニスカートのルルカは召し物も玉のような脚も丸見えである。ロレンスは目を逸らそうとするも、心を鬼にしてラルフはロレンスに言い聞かせる。
「これですわね。――よいしょっ」
ルルカがレバーを切り替えた。
俄に、ぶぅぅぅん、と空間が変質するような鈍い空圧音が鳴った。
「ウルリカさん、ワープゾーンはどうですか?」
「通れるようになってるなってる! 触れても何ともないわ!」
「よし……だが、どうやって降ろそう……やはりロレンスに頼むかな」
「う、うむ、そうですな……」
ロレンスは目のやり場に困りつつも、高所のルルカに魔術杖をかざした。
「――転移! 仲間を戻したまえ……はあっ!」
魔力がルルカを包み、一瞬にしてルルカは転移した。
だがしかし――――
「――えっ? いやあああっ!!」
「――馬鹿な!?」
――ロレンスの手応えでは、確かに魔術は発動し、転移した。
転移はしたのだが――――ルルカが転移したのはラルフたちの待つ地面ではない……10メートルはあろうかと思われる宙から、頭から真っ逆さま――――ルルカは急降下し、落ちてくる!!
――――怪異な遺跡に、どっ、と鈍い音と共に砂煙が上がった――――
立て看板のこの言葉に反応したのは勿論――
「おおっ! 丁度いいステージがあるじゃあねえか! ヤッホーイ!!」
「ヴェラ様、本当に懲りない方ね……」
仲間たちの言葉も省みず、ステージに立ち歌を披露する。
「♪Red like rose~not,this is my pride of blood~YEAH~♪」
一際楽しそうに、かなりの声量で歌う。
「ヴェラ、すまないけど必要以上に歌うのは……敵に感づかれ――ん?」
「――おお?」
突然、ごごごご……と重々しい地響きが辺りを揺らした。
驚いたヴェラが歌うのをやめると――――再びごごごご……と地響きがした。
「……こりゃあ、重い物が動いて、また戻った音だな。もしかしてさっきの鉄球なんじゃあねえのか?」
「……もしかして、あれは音に反応する仕掛けなのか?」
ラルフの推理に、ヴェラはその硬い肩を叩いた。
「考えてるだけで解るかよ! ……確かめて来いよ。オレはここで一人リサイタルin遺跡と洒落込んどくからよ!」
ヴェラの申し出に、ルルカが苦言を呈す。
「確かにその音の仕掛けである可能性は高そうですわ。でも、ヴェラ様一人ここに置いていくのは、危険過ぎますわ」
「……じゃあどうする? 誰か一緒に残るかよ?」
「私が残ろう。良い機会だ、ヴェラの発声のメカニズムを調べてみたい」
ブラックが守役を買って出た。この闇医者は随分と例のごとく不遜な笑みを浮かべているが、ヴェラはお構い無しのようだ。
「まあ、一人でもオーディエンスがいるのは楽しいもんだ! じっくり聴いてけよ、おっさん!」
「うむ。しばし聴かせてくれたまえ」
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ヴェラとブラックを残し、一行は鉄球が道を塞いでいた場所まで戻ってきた。ヴェラの演奏が聴こえている。
思った通り、鉄球は音に反応して開く仕掛けだった。何tもあろうかと思われる巨大な鉄球は、地面を砕きながら右へ転がって移動しており、道を開けている。
しかし……進んだ先には一見何も無い。例によって『見えない壁』によって阻まれているだけで、見た目にはただ砂漠が広がっているようにしか見えない。
ベネットは改めて鼻をきかせた。
「――ムムムム! この見えない壁のずっと上の方……どうやらさっきの邪魔なワープゾーンを解除する仕掛けがあるようにゃ!!」
「……ずっと上って、どのくらいだ?」
「とにかく高い位置にゃ! 高いたかーい!!」
「……面倒だな。ロレンス、強めに頼む」
「承知致しました……皆さん、少し下がって――風よ! 上昇気流!!」
ロレンスはかざした魔術杖に一際魔力を込め、見えない壁の足元からはるか数十メートル上まで気流を放った。バリバリバリバリ、と砂塵が空を巻いて舞う音が耳を劈く。
「……あっ! もしかしてあれではなくて?」
風で砂塵を吹き飛ばした壁の上には、何やら切り替えレバーのようなものが見える。
――見えるのだが――――
「おお、あれか……って無理だろ、この高さ。ここまで高いとは……」
ここに来て弱音ひとつ吐かなかったラルフが苦笑いと共に眉を顰めた。
そう。問題は高さだった。レバーを切り替えるだけならば容易いこと。
しかし、見えない壁を見上げると、遥か15メートルはある高さにレバーは浮かんでいる。否、見えない壁のせいで浮いて見えるだけだが。
「弱りましたな……ウルリカ殿、よじ登れますかな?」
「うーん……普通の岩壁ならロッククライミングなり、武器で足場を作るなりしてよじ登れるんだけど、壁肌が見えないんじゃなー……命綱も巻きようが無いじゃん。落ちたら全力で受け止めて――――え?」
「皆様、ちょっと退いてくださいまし――――たあーーーっ!!」
――なんと、いつの間にか助走をつけて勢い良く……ルルカが見えない壁の上を目指し、思いっ切り跳躍した!!
「「化け物ーーーッ!?」」
ラルフとロレンスが思わず顔のデッサンを崩すほどの驚きと声。
それもそうだ。ルルカは身一つのジャンプで、15メートルの高さまで跳び、レバーのすぐ近くの、壁の足場らしき所に両手でしがみついたのだ。尋常ではない脚力とバネである。
「おおおおお……お姉様の御御足だけでにゃく、お尻まで――――このベネット。生きててヨカッタ…………」
「――んんんっ……よいしょっと。」
邪な目で凝視し、一人で勝手に悦に浸るベネットを気にする余裕もなく、見えない壁の上にルルカはよじ登った。
「――むっ。こ、これは私にはちょっと――――」
「駄目だロレンス。安全に降りてくるまで見守らなくては。いざとなれば君の転移魔法の出番だからな」
下から見上げれば、距離があるとはいえミニスカートのルルカは召し物も玉のような脚も丸見えである。ロレンスは目を逸らそうとするも、心を鬼にしてラルフはロレンスに言い聞かせる。
「これですわね。――よいしょっ」
ルルカがレバーを切り替えた。
俄に、ぶぅぅぅん、と空間が変質するような鈍い空圧音が鳴った。
「ウルリカさん、ワープゾーンはどうですか?」
「通れるようになってるなってる! 触れても何ともないわ!」
「よし……だが、どうやって降ろそう……やはりロレンスに頼むかな」
「う、うむ、そうですな……」
ロレンスは目のやり場に困りつつも、高所のルルカに魔術杖をかざした。
「――転移! 仲間を戻したまえ……はあっ!」
魔力がルルカを包み、一瞬にしてルルカは転移した。
だがしかし――――
「――えっ? いやあああっ!!」
「――馬鹿な!?」
――ロレンスの手応えでは、確かに魔術は発動し、転移した。
転移はしたのだが――――ルルカが転移したのはラルフたちの待つ地面ではない……10メートルはあろうかと思われる宙から、頭から真っ逆さま――――ルルカは急降下し、落ちてくる!!
――――怪異な遺跡に、どっ、と鈍い音と共に砂煙が上がった――――
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