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第4話 黒衣の男
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城を出る前に、ラルフたちは王から許可された通り、宝物庫へと向かった。
「……あまり期待は出来ませんよー……何せ我が君は我が君ですから……」
そうボヤきながらロレンスは城の宝物庫へと案内する。
小さな城。すぐに宝物庫に着いてロレンスが番兵に事情を説明した。
が、番兵もロレンス同様のどこか浮かない顔をしている。
「……もしかして。」
ラルフの予想は的中した。
宝物庫の重い扉を開けると、中には黄金や銀、鉄で出来た宝箱が綺羅を張るようにギッシリと並んでいた。
だが…………。
「やっぱり、掛けられてますね……錠前が……はぁ」
宝箱には全て固そうな錠前が掛けられていた。ロレンスは天を仰ぎ溜め息をつく。
「……何で、宝を渡すつもりが無いのに許可したんだ? あの王は……」
「つまらぬプライドです。理屈では宝を持って行ってよい。持っていけるものなら……という所です。先ほどの謁見で王の人格を見れば、やはり想像は付きますよね……」
「…………」
「……ラルフ殿?」
錠前を触って何やら考え込むラルフにロレンスは尋ねた。
「いや……『開けられさえすれば』持って行っていいんじゃあないかと思ってな」
「……ラルフ殿、開けられるのですか?」
「いや。だが――」
辺りの宝箱を一瞥し、ラルフは小さく頷いた。
「――もしかしたら、今後開けられるようになるかもしれない。可能性はゼロじゃあないさ。宝玉『憎悪の泪』を無事奪還するのに比べれば……ここの宝箱を開けるぐらいはな」
ロレンスは思わずラルフの顔を覗き込み、問う。
「……それは、冒険の経験による勘、ですか?」
「うん? うーん……まあ、そんな所だな……ともかく、今は仲間を捜しに城下へ行こう。案内してくれ、ロレンス」
そう言って宝物庫を後にするラルフをロレンスは急いで追った。
<<
宝物庫に名残惜しさを残しつつも、二人は城下町へ出た。
「まずは、遺跡で傷んだ時の為の回復役が不可欠だ……ロレンス、君は回復魔法が使えるか?」
ロレンスは申し訳なさそうに首を横に振る。
「面目ありません。私が得意とする魔法は主に攻撃や敵を鈍らせる系統のものなのです」
「じゃあ、回復や補助魔法に長けたヒーラーか、医者が必要だな……この町にヒーラーか医者が立ち寄りそうな所はあるか?」
「……王立教会や病院、と言いたい所ですが……書状の条件では『外国から来た者のみ』とのことですからね。やれやれ……」
ロレンスはまたも物憂げな表情で息を漏らす。王の側近としての気苦労もそうだが、この金色の髪の青年は元々苦労を背負いやすい性分のようだ。
それでも一旦顎に手を当て、しばし考えている。
「……医者ならば、この近くの王立図書館に来ているかもしれません。レチア王国の医学・薬学は……自慢ではないですがなかなかのものですから。特に薬品に使えそうな資源の資料などが……後は市場の薬売りですかね」
「そうか。確か、市場はまだ開いてはいなかったな……」
ラルフはこの王国へ足を踏み入れたばかりの時に市場を見かけたが、まだ商人の気配も疎らであったことを思い出した。
「よし。図書館に行ってみよう。『憎悪の泪』について解ることもあるかもしれないしな」
「わかりました。ではこちらです……」
<<
王立の図書館というだけあって、その建物はすぐ近くにあった。白い石造りで切りそろえられた外観は、やや殺風景ながら知的な雰囲気が漂う。
中へ入ると学者と見られる人が何人も本棚を覗いたり、机で読書をしていた。
「うーん。今日もまた人が多いですな……医者を探すのも一苦ろ……むっ!」
突然、何やらロレンスは机の一角へと詰め寄って行く。
「……ロレンス?」
「……ごほんっ! そこの黒いコートを着ている御方。……そう、今コーヒーを飲んでいる貴方です! ここは飲食禁止ですよ。すぐにコーヒーを処分するか、図書館を出てください……」
そこに座っていたのは、ロレンスの言う通り黒いコートに身を包んだ白髪の男だった。
「……む。そうだったのか。これはすまん。読書をする時は決まってコーヒーを飲むのでな……他所で飲むことにするよ」
「……むっ!」
立ち上がり去ろうとする男をロレンスは遮った。
「……貴方……血と薬品の匂いがプンプンしますよ……それにその口ぶりだと外国からの方ですね? 念の為、身分を証明出来る物を提出してください。私はこの王国の臣下です」
ロレンスは毅然と、自分の身分証たる、王家の紋章が刻印された手帳を男に見せた。
(……血と薬品……確かに。犯罪者か?)
しかし、男は逃げる様子もなく、懐から身分証らしき書類と通行手形を見せてきた。
「おいおい……勘違いしないでもらおうか。私はこう見えても医者だよ。まぁ……少々日陰者ではあるがね……」
医者と名乗る黒衣の男は口角を上げ不敵に微笑んだ。何か異様な、ただならぬ雰囲気をラルフは感じた。
「……その通行手形……は、確かに我がレチアへのパス……医師免許は……偽造では無さそうですな」
「本物の医者だったか……すみません、私たちに協力して頂けませんか?」
「うん……?」
ラルフは丁寧に、自分たちの目的を説明した。
「――ふむ。あの遺跡……それも賊共が潜む所へ行くのか……くくくく……」
「……何がおかしいのですか! 王国だけでない、世界の一大事なのですぞ!」
ロレンスは不審な男に不快感を露わにする。男はなおも不気味に微笑み、答える。
「いや、なに……久しぶりに大きなヤマが転がってきたものだ……と思っただけさ」
「……大きなヤマ?」
ラルフが訊くと、黒衣の医者は鼻を鳴らして続ける。
「危険な所へ赴くならば、私のボディガードを務めてもらわねば。突発的な傷病……この場合は君たちのことだな。沢山現れるだろうから、その治療費……諸々の手当を付けて、と……」
「ちょっと、何を――――」
「70000000」
「……は?」
「聴こえなかったのかね? 『70000000』ゴールドで引き受けよう。足りないようならば……君たちの肉体を貰おう」
「なっ……!?」
ロレンスは血の気が引いた。
「君たちは二人共健康そうじゃあないか……血液も、骨も、筋繊維も高値で売れそうじゃあないか……そうなれば、何処かの死に損ないが万々歳だな。くっくっくっく…………」
――――暴利を要求する黒衣の闇医者は、肩を震わせて笑った。
「……あまり期待は出来ませんよー……何せ我が君は我が君ですから……」
そうボヤきながらロレンスは城の宝物庫へと案内する。
小さな城。すぐに宝物庫に着いてロレンスが番兵に事情を説明した。
が、番兵もロレンス同様のどこか浮かない顔をしている。
「……もしかして。」
ラルフの予想は的中した。
宝物庫の重い扉を開けると、中には黄金や銀、鉄で出来た宝箱が綺羅を張るようにギッシリと並んでいた。
だが…………。
「やっぱり、掛けられてますね……錠前が……はぁ」
宝箱には全て固そうな錠前が掛けられていた。ロレンスは天を仰ぎ溜め息をつく。
「……何で、宝を渡すつもりが無いのに許可したんだ? あの王は……」
「つまらぬプライドです。理屈では宝を持って行ってよい。持っていけるものなら……という所です。先ほどの謁見で王の人格を見れば、やはり想像は付きますよね……」
「…………」
「……ラルフ殿?」
錠前を触って何やら考え込むラルフにロレンスは尋ねた。
「いや……『開けられさえすれば』持って行っていいんじゃあないかと思ってな」
「……ラルフ殿、開けられるのですか?」
「いや。だが――」
辺りの宝箱を一瞥し、ラルフは小さく頷いた。
「――もしかしたら、今後開けられるようになるかもしれない。可能性はゼロじゃあないさ。宝玉『憎悪の泪』を無事奪還するのに比べれば……ここの宝箱を開けるぐらいはな」
ロレンスは思わずラルフの顔を覗き込み、問う。
「……それは、冒険の経験による勘、ですか?」
「うん? うーん……まあ、そんな所だな……ともかく、今は仲間を捜しに城下へ行こう。案内してくれ、ロレンス」
そう言って宝物庫を後にするラルフをロレンスは急いで追った。
<<
宝物庫に名残惜しさを残しつつも、二人は城下町へ出た。
「まずは、遺跡で傷んだ時の為の回復役が不可欠だ……ロレンス、君は回復魔法が使えるか?」
ロレンスは申し訳なさそうに首を横に振る。
「面目ありません。私が得意とする魔法は主に攻撃や敵を鈍らせる系統のものなのです」
「じゃあ、回復や補助魔法に長けたヒーラーか、医者が必要だな……この町にヒーラーか医者が立ち寄りそうな所はあるか?」
「……王立教会や病院、と言いたい所ですが……書状の条件では『外国から来た者のみ』とのことですからね。やれやれ……」
ロレンスはまたも物憂げな表情で息を漏らす。王の側近としての気苦労もそうだが、この金色の髪の青年は元々苦労を背負いやすい性分のようだ。
それでも一旦顎に手を当て、しばし考えている。
「……医者ならば、この近くの王立図書館に来ているかもしれません。レチア王国の医学・薬学は……自慢ではないですがなかなかのものですから。特に薬品に使えそうな資源の資料などが……後は市場の薬売りですかね」
「そうか。確か、市場はまだ開いてはいなかったな……」
ラルフはこの王国へ足を踏み入れたばかりの時に市場を見かけたが、まだ商人の気配も疎らであったことを思い出した。
「よし。図書館に行ってみよう。『憎悪の泪』について解ることもあるかもしれないしな」
「わかりました。ではこちらです……」
<<
王立の図書館というだけあって、その建物はすぐ近くにあった。白い石造りで切りそろえられた外観は、やや殺風景ながら知的な雰囲気が漂う。
中へ入ると学者と見られる人が何人も本棚を覗いたり、机で読書をしていた。
「うーん。今日もまた人が多いですな……医者を探すのも一苦ろ……むっ!」
突然、何やらロレンスは机の一角へと詰め寄って行く。
「……ロレンス?」
「……ごほんっ! そこの黒いコートを着ている御方。……そう、今コーヒーを飲んでいる貴方です! ここは飲食禁止ですよ。すぐにコーヒーを処分するか、図書館を出てください……」
そこに座っていたのは、ロレンスの言う通り黒いコートに身を包んだ白髪の男だった。
「……む。そうだったのか。これはすまん。読書をする時は決まってコーヒーを飲むのでな……他所で飲むことにするよ」
「……むっ!」
立ち上がり去ろうとする男をロレンスは遮った。
「……貴方……血と薬品の匂いがプンプンしますよ……それにその口ぶりだと外国からの方ですね? 念の為、身分を証明出来る物を提出してください。私はこの王国の臣下です」
ロレンスは毅然と、自分の身分証たる、王家の紋章が刻印された手帳を男に見せた。
(……血と薬品……確かに。犯罪者か?)
しかし、男は逃げる様子もなく、懐から身分証らしき書類と通行手形を見せてきた。
「おいおい……勘違いしないでもらおうか。私はこう見えても医者だよ。まぁ……少々日陰者ではあるがね……」
医者と名乗る黒衣の男は口角を上げ不敵に微笑んだ。何か異様な、ただならぬ雰囲気をラルフは感じた。
「……その通行手形……は、確かに我がレチアへのパス……医師免許は……偽造では無さそうですな」
「本物の医者だったか……すみません、私たちに協力して頂けませんか?」
「うん……?」
ラルフは丁寧に、自分たちの目的を説明した。
「――ふむ。あの遺跡……それも賊共が潜む所へ行くのか……くくくく……」
「……何がおかしいのですか! 王国だけでない、世界の一大事なのですぞ!」
ロレンスは不審な男に不快感を露わにする。男はなおも不気味に微笑み、答える。
「いや、なに……久しぶりに大きなヤマが転がってきたものだ……と思っただけさ」
「……大きなヤマ?」
ラルフが訊くと、黒衣の医者は鼻を鳴らして続ける。
「危険な所へ赴くならば、私のボディガードを務めてもらわねば。突発的な傷病……この場合は君たちのことだな。沢山現れるだろうから、その治療費……諸々の手当を付けて、と……」
「ちょっと、何を――――」
「70000000」
「……は?」
「聴こえなかったのかね? 『70000000』ゴールドで引き受けよう。足りないようならば……君たちの肉体を貰おう」
「なっ……!?」
ロレンスは血の気が引いた。
「君たちは二人共健康そうじゃあないか……血液も、骨も、筋繊維も高値で売れそうじゃあないか……そうなれば、何処かの死に損ないが万々歳だな。くっくっくっく…………」
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