4 / 43
第4話 黒衣の男
しおりを挟む
城を出る前に、ラルフたちは王から許可された通り、宝物庫へと向かった。
「……あまり期待は出来ませんよー……何せ我が君は我が君ですから……」
そうボヤきながらロレンスは城の宝物庫へと案内する。
小さな城。すぐに宝物庫に着いてロレンスが番兵に事情を説明した。
が、番兵もロレンス同様のどこか浮かない顔をしている。
「……もしかして。」
ラルフの予想は的中した。
宝物庫の重い扉を開けると、中には黄金や銀、鉄で出来た宝箱が綺羅を張るようにギッシリと並んでいた。
だが…………。
「やっぱり、掛けられてますね……錠前が……はぁ」
宝箱には全て固そうな錠前が掛けられていた。ロレンスは天を仰ぎ溜め息をつく。
「……何で、宝を渡すつもりが無いのに許可したんだ? あの王は……」
「つまらぬプライドです。理屈では宝を持って行ってよい。持っていけるものなら……という所です。先ほどの謁見で王の人格を見れば、やはり想像は付きますよね……」
「…………」
「……ラルフ殿?」
錠前を触って何やら考え込むラルフにロレンスは尋ねた。
「いや……『開けられさえすれば』持って行っていいんじゃあないかと思ってな」
「……ラルフ殿、開けられるのですか?」
「いや。だが――」
辺りの宝箱を一瞥し、ラルフは小さく頷いた。
「――もしかしたら、今後開けられるようになるかもしれない。可能性はゼロじゃあないさ。宝玉『憎悪の泪』を無事奪還するのに比べれば……ここの宝箱を開けるぐらいはな」
ロレンスは思わずラルフの顔を覗き込み、問う。
「……それは、冒険の経験による勘、ですか?」
「うん? うーん……まあ、そんな所だな……ともかく、今は仲間を捜しに城下へ行こう。案内してくれ、ロレンス」
そう言って宝物庫を後にするラルフをロレンスは急いで追った。
<<
宝物庫に名残惜しさを残しつつも、二人は城下町へ出た。
「まずは、遺跡で傷んだ時の為の回復役が不可欠だ……ロレンス、君は回復魔法が使えるか?」
ロレンスは申し訳なさそうに首を横に振る。
「面目ありません。私が得意とする魔法は主に攻撃や敵を鈍らせる系統のものなのです」
「じゃあ、回復や補助魔法に長けたヒーラーか、医者が必要だな……この町にヒーラーか医者が立ち寄りそうな所はあるか?」
「……王立教会や病院、と言いたい所ですが……書状の条件では『外国から来た者のみ』とのことですからね。やれやれ……」
ロレンスはまたも物憂げな表情で息を漏らす。王の側近としての気苦労もそうだが、この金色の髪の青年は元々苦労を背負いやすい性分のようだ。
それでも一旦顎に手を当て、しばし考えている。
「……医者ならば、この近くの王立図書館に来ているかもしれません。レチア王国の医学・薬学は……自慢ではないですがなかなかのものですから。特に薬品に使えそうな資源の資料などが……後は市場の薬売りですかね」
「そうか。確か、市場はまだ開いてはいなかったな……」
ラルフはこの王国へ足を踏み入れたばかりの時に市場を見かけたが、まだ商人の気配も疎らであったことを思い出した。
「よし。図書館に行ってみよう。『憎悪の泪』について解ることもあるかもしれないしな」
「わかりました。ではこちらです……」
<<
王立の図書館というだけあって、その建物はすぐ近くにあった。白い石造りで切りそろえられた外観は、やや殺風景ながら知的な雰囲気が漂う。
中へ入ると学者と見られる人が何人も本棚を覗いたり、机で読書をしていた。
「うーん。今日もまた人が多いですな……医者を探すのも一苦ろ……むっ!」
突然、何やらロレンスは机の一角へと詰め寄って行く。
「……ロレンス?」
「……ごほんっ! そこの黒いコートを着ている御方。……そう、今コーヒーを飲んでいる貴方です! ここは飲食禁止ですよ。すぐにコーヒーを処分するか、図書館を出てください……」
そこに座っていたのは、ロレンスの言う通り黒いコートに身を包んだ白髪の男だった。
「……む。そうだったのか。これはすまん。読書をする時は決まってコーヒーを飲むのでな……他所で飲むことにするよ」
「……むっ!」
立ち上がり去ろうとする男をロレンスは遮った。
「……貴方……血と薬品の匂いがプンプンしますよ……それにその口ぶりだと外国からの方ですね? 念の為、身分を証明出来る物を提出してください。私はこの王国の臣下です」
ロレンスは毅然と、自分の身分証たる、王家の紋章が刻印された手帳を男に見せた。
(……血と薬品……確かに。犯罪者か?)
しかし、男は逃げる様子もなく、懐から身分証らしき書類と通行手形を見せてきた。
「おいおい……勘違いしないでもらおうか。私はこう見えても医者だよ。まぁ……少々日陰者ではあるがね……」
医者と名乗る黒衣の男は口角を上げ不敵に微笑んだ。何か異様な、ただならぬ雰囲気をラルフは感じた。
「……その通行手形……は、確かに我がレチアへのパス……医師免許は……偽造では無さそうですな」
「本物の医者だったか……すみません、私たちに協力して頂けませんか?」
「うん……?」
ラルフは丁寧に、自分たちの目的を説明した。
「――ふむ。あの遺跡……それも賊共が潜む所へ行くのか……くくくく……」
「……何がおかしいのですか! 王国だけでない、世界の一大事なのですぞ!」
ロレンスは不審な男に不快感を露わにする。男はなおも不気味に微笑み、答える。
「いや、なに……久しぶりに大きなヤマが転がってきたものだ……と思っただけさ」
「……大きなヤマ?」
ラルフが訊くと、黒衣の医者は鼻を鳴らして続ける。
「危険な所へ赴くならば、私のボディガードを務めてもらわねば。突発的な傷病……この場合は君たちのことだな。沢山現れるだろうから、その治療費……諸々の手当を付けて、と……」
「ちょっと、何を――――」
「70000000」
「……は?」
「聴こえなかったのかね? 『70000000』ゴールドで引き受けよう。足りないようならば……君たちの肉体を貰おう」
「なっ……!?」
ロレンスは血の気が引いた。
「君たちは二人共健康そうじゃあないか……血液も、骨も、筋繊維も高値で売れそうじゃあないか……そうなれば、何処かの死に損ないが万々歳だな。くっくっくっく…………」
――――暴利を要求する黒衣の闇医者は、肩を震わせて笑った。
「……あまり期待は出来ませんよー……何せ我が君は我が君ですから……」
そうボヤきながらロレンスは城の宝物庫へと案内する。
小さな城。すぐに宝物庫に着いてロレンスが番兵に事情を説明した。
が、番兵もロレンス同様のどこか浮かない顔をしている。
「……もしかして。」
ラルフの予想は的中した。
宝物庫の重い扉を開けると、中には黄金や銀、鉄で出来た宝箱が綺羅を張るようにギッシリと並んでいた。
だが…………。
「やっぱり、掛けられてますね……錠前が……はぁ」
宝箱には全て固そうな錠前が掛けられていた。ロレンスは天を仰ぎ溜め息をつく。
「……何で、宝を渡すつもりが無いのに許可したんだ? あの王は……」
「つまらぬプライドです。理屈では宝を持って行ってよい。持っていけるものなら……という所です。先ほどの謁見で王の人格を見れば、やはり想像は付きますよね……」
「…………」
「……ラルフ殿?」
錠前を触って何やら考え込むラルフにロレンスは尋ねた。
「いや……『開けられさえすれば』持って行っていいんじゃあないかと思ってな」
「……ラルフ殿、開けられるのですか?」
「いや。だが――」
辺りの宝箱を一瞥し、ラルフは小さく頷いた。
「――もしかしたら、今後開けられるようになるかもしれない。可能性はゼロじゃあないさ。宝玉『憎悪の泪』を無事奪還するのに比べれば……ここの宝箱を開けるぐらいはな」
ロレンスは思わずラルフの顔を覗き込み、問う。
「……それは、冒険の経験による勘、ですか?」
「うん? うーん……まあ、そんな所だな……ともかく、今は仲間を捜しに城下へ行こう。案内してくれ、ロレンス」
そう言って宝物庫を後にするラルフをロレンスは急いで追った。
<<
宝物庫に名残惜しさを残しつつも、二人は城下町へ出た。
「まずは、遺跡で傷んだ時の為の回復役が不可欠だ……ロレンス、君は回復魔法が使えるか?」
ロレンスは申し訳なさそうに首を横に振る。
「面目ありません。私が得意とする魔法は主に攻撃や敵を鈍らせる系統のものなのです」
「じゃあ、回復や補助魔法に長けたヒーラーか、医者が必要だな……この町にヒーラーか医者が立ち寄りそうな所はあるか?」
「……王立教会や病院、と言いたい所ですが……書状の条件では『外国から来た者のみ』とのことですからね。やれやれ……」
ロレンスはまたも物憂げな表情で息を漏らす。王の側近としての気苦労もそうだが、この金色の髪の青年は元々苦労を背負いやすい性分のようだ。
それでも一旦顎に手を当て、しばし考えている。
「……医者ならば、この近くの王立図書館に来ているかもしれません。レチア王国の医学・薬学は……自慢ではないですがなかなかのものですから。特に薬品に使えそうな資源の資料などが……後は市場の薬売りですかね」
「そうか。確か、市場はまだ開いてはいなかったな……」
ラルフはこの王国へ足を踏み入れたばかりの時に市場を見かけたが、まだ商人の気配も疎らであったことを思い出した。
「よし。図書館に行ってみよう。『憎悪の泪』について解ることもあるかもしれないしな」
「わかりました。ではこちらです……」
<<
王立の図書館というだけあって、その建物はすぐ近くにあった。白い石造りで切りそろえられた外観は、やや殺風景ながら知的な雰囲気が漂う。
中へ入ると学者と見られる人が何人も本棚を覗いたり、机で読書をしていた。
「うーん。今日もまた人が多いですな……医者を探すのも一苦ろ……むっ!」
突然、何やらロレンスは机の一角へと詰め寄って行く。
「……ロレンス?」
「……ごほんっ! そこの黒いコートを着ている御方。……そう、今コーヒーを飲んでいる貴方です! ここは飲食禁止ですよ。すぐにコーヒーを処分するか、図書館を出てください……」
そこに座っていたのは、ロレンスの言う通り黒いコートに身を包んだ白髪の男だった。
「……む。そうだったのか。これはすまん。読書をする時は決まってコーヒーを飲むのでな……他所で飲むことにするよ」
「……むっ!」
立ち上がり去ろうとする男をロレンスは遮った。
「……貴方……血と薬品の匂いがプンプンしますよ……それにその口ぶりだと外国からの方ですね? 念の為、身分を証明出来る物を提出してください。私はこの王国の臣下です」
ロレンスは毅然と、自分の身分証たる、王家の紋章が刻印された手帳を男に見せた。
(……血と薬品……確かに。犯罪者か?)
しかし、男は逃げる様子もなく、懐から身分証らしき書類と通行手形を見せてきた。
「おいおい……勘違いしないでもらおうか。私はこう見えても医者だよ。まぁ……少々日陰者ではあるがね……」
医者と名乗る黒衣の男は口角を上げ不敵に微笑んだ。何か異様な、ただならぬ雰囲気をラルフは感じた。
「……その通行手形……は、確かに我がレチアへのパス……医師免許は……偽造では無さそうですな」
「本物の医者だったか……すみません、私たちに協力して頂けませんか?」
「うん……?」
ラルフは丁寧に、自分たちの目的を説明した。
「――ふむ。あの遺跡……それも賊共が潜む所へ行くのか……くくくく……」
「……何がおかしいのですか! 王国だけでない、世界の一大事なのですぞ!」
ロレンスは不審な男に不快感を露わにする。男はなおも不気味に微笑み、答える。
「いや、なに……久しぶりに大きなヤマが転がってきたものだ……と思っただけさ」
「……大きなヤマ?」
ラルフが訊くと、黒衣の医者は鼻を鳴らして続ける。
「危険な所へ赴くならば、私のボディガードを務めてもらわねば。突発的な傷病……この場合は君たちのことだな。沢山現れるだろうから、その治療費……諸々の手当を付けて、と……」
「ちょっと、何を――――」
「70000000」
「……は?」
「聴こえなかったのかね? 『70000000』ゴールドで引き受けよう。足りないようならば……君たちの肉体を貰おう」
「なっ……!?」
ロレンスは血の気が引いた。
「君たちは二人共健康そうじゃあないか……血液も、骨も、筋繊維も高値で売れそうじゃあないか……そうなれば、何処かの死に損ないが万々歳だな。くっくっくっく…………」
――――暴利を要求する黒衣の闇医者は、肩を震わせて笑った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

祝福の居場所
もつる
ファンタジー
動植物を怪物に変える、呪わしい<瘴気>が古代科学文明を滅ぼして数千年。人類は瘴気に怯えながら細々と暮らしていた。マーシャとジェラの暮らす小さな村もそのひとつだ。だが兄妹はある日、自らに瘴気への耐性があることを知る。その謎を解明するため、二人は古代文明の遺産に触れるが、古代文明はまだ存続し地上奪還を目論んでいた。祝福の因子を持つ兄妹に、怪物が、怪人が、空飛ぶ巨大戦艦が迫り、そしてかれらも知らない過去の因縁が襲いかかる――。
◇
Pixivで掲載していたオリジナル小説の改稿版です。
2022/08/23 『BLESSED VANQUISH』から改題しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる