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第3話 ケチケチ王とウジウジ側近

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「え……お、王様?」

「だぁーかぁーらぁー! 先遣隊は入口付近まで調べてすぐ退かせたのぉ! 文句あっか! お!? ん!?」

 突然人が変わったようにフランク過ぎる態度を取る王に、ラルフは動揺するしかない。

「あ、あの。なんか、キャラが」

「キィーッ!! うっせえーっ! 疲れたの僕もう疲れたの王様やんの疲れたのぉー!」

 それなりに老いているはずの王は、まるで赤子のように顔を真っ赤にし、手足をばたつかせている……。

「どっかの国の王様よりはマシだろ! 近所の遺跡から宝玉を取り返してくるだけだよ? 他所の王様なんて竹槍や旅人の服程度しか援助せぇへんねんぞ!? いーからとっとと『憎悪の泪』取り返して来いやあーっ!! ったく、威厳たっぷりな王様ぶるのしんどい! 肩凝るわァーっ!!」

 ラルフは思わず苦笑いで頭を抱えて俯いた。

「……なんか、急降下的に世界救うモチベーション落ちてきたなー……で、でも! いくら俺でも何の援助も無しに単身で敵地に赴くとか、無理ありますよ!? なんちゃらの酒場的な施設でも紹介し――――」

「嫌っぷー♪ 嫌っぷー♪ んな酒場無いっぷー♪ 無いっぷー♪」

「イラッ☆」

 子供が子供をからかっているとしか思えぬ素振りに、思わずラルフは二歩三歩と前に出て腰元の剣を抜きそうになる。

「らっ、ラルフ殿! どうか抑えて! 気を鎮めてっ! 我が君はこんな子なんです! これでもレチア王国に必要な君主なのですッ!」

 王の側近が慌ててラルフを諫めに入った。

「我が国は所詮は小国! 他国への観光業やケチケチ財政でしかやっていけない、御世辞にも富める国とは言えないのです! 他国へ支援を請うようならたちまち国が傾きます!!」

 側近もまた苦渋に満ちた顔をしながら、レチア王国の財政の裏事情について語り、ラルフを説得する。心なしか目が泳いだり明後日の方向を向いている気がしているのもまたその説得力を増していた。

「……そうか……いや、だからと言って、俺一人ではいくら何でも……」


「……アッ! そ~れ~な~ら~……この国に来ている観光客や冒険者に戦力になってもらえればいんじゃね? 他所の国から来た連中ならいくら傷んでも構わんし~。冒険者数人に出す程度なら褒美は問題ないよ?」

「……それ、他人に頼りっぱなしの発想から外れてないし……」

「……アーッ! 贅沢言うな! いいからホレ!」

 一種のアダルトチルドレンの匂いが隠し切れない王は、何やら筆記具を取り出し、急いで書類をしたためた。

 待つこと3分。

「……これ! 今書いたワシ直筆の書状じゃ! この王国に外から来た者に限り! ラルフ、そちに協力した者に褒美を弾むって書いといたから!」

 王は書いたばかりの書状を、ラルフの顔にぴしゃり、と貼り付けんばかりの勢いで強引に押し付けた。インクの香りがぷーんとする。

「……むう……」

 唸り声を上げ釈然としないラルフに、王は続ける。

「まだ気に入らんか? ……ならば、この城の宝物庫にある代物を持っていくがよい。ワシが許す!」

「えっ……いいんですか? それって王様からしたら本末転倒じゃあ――――」

「うっ、うるせー! それぐらい由々しき事態なんだよ! ウチの国で解決できて、なおかつ他国への支援は一切要請しないようなっ!! どうせそんなスタンスでウチの国はやって来たから……冒険の役に立ちそうな代物など……む、無用の、長物じゃい……」

 最後の方はどこか遠くを見るように王は呟く。

(ああ、本当は城の宝も渡したくないんだな……それでも譲歩しようとしている……この王にしては頑張ってる方なのかも……)

 ラルフは密かにそう思った。顰めた眉の緊張を解く。

「……それに、もう一声助成を授けようではないか……ロレンス! 我が忠臣たる、ロレンスよ!」

「はっ……御前おんまえに……」

 先ほどから王とラルフのやり取りを手伝っては元の立ち位置(王の真左2m)に戻って忙しなく動いていた側近が前に出て、ラルフの隣に移動し、王に正面から跪いた。

 真面目モードに戻ってきた王が、再び威厳のある口調で告げる。

「我が王国の宮廷魔術師として右に出る者のない家臣・ロレンスをこの任務の副長として、ラルフ。そちに随行させる。お主たちの働き……期待しておるぞ……」

 少し間があってから、ロレンスと呼ばれた男は立ち上がり、ラルフに恭しく頭を下げてから、握手を求めて右手を伸ばしてきた。

「我が君より御紹介に預かりました、宮廷魔術師のロレンスでございます。共に! と! も! に! 宝玉『憎悪の泪』を取り戻す為に尽力しましょうぞ、ラルフ殿!」

「……あ? ……ああ、よろしく頼む、ロレンス」

 ラルフは会釈して握手をした。

 すると、握手するロレンスの手に力が入る。

「……でないと……この人私一人で賊共の潜む遺跡に行かせる気なんだもん……この人いっつも無茶苦茶だ……先遣隊に随行した時も死にかけた……ああ、恐かった……恐かったよう……ぐすっ」

「……あー。やっぱり国家公務員の人でも苦労してるんだなー……こんな王様じゃあ無理もないか……」

 王の家臣・ロレンス。黙っていれば金色の長髪に知的な顔立ちの、なかなかの美形に見えないこともないが……ウェットな感情丸出しで涙と鼻水を垂らす彼にはそんな魅力は伝わって来そうもない。

 子供じみた王に付き合っているせいか、相当の苦労人と想像に難くない。生真面目そうな態度ではあるのだが。

 ラルフはロレンスを哀れに思い、肩をポンポン、と優しく叩いてあげた。

 彼はハンカチを取り出し、涙と鼻水を拭う。

「ぐすっ……ま、まあ……勇者であるラルフ殿と……仲間を集めるのであればだいぶ安心感があります……で、では、その書状を持って城下を巡りましょう!」

「わかった」

 ラルフが了承し、王も、うむ、と頷き、命じた。

「では行けぃ! 勇者・ラルフ! 我が臣・ロレンスよ!!」

 ――――かくして、宝玉『憎悪の泪』奪還へ勇者は動き始めた。まずは仲間集めだ!! 
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