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エッセイ2020年9月13日。兄と甥が来た&チェンソーマンと鬼滅の刃

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 5日の土曜から兄が甥っ子を連れて我が家に泊まりで遊びに来た。

 甥は2歳11ヶ月。毎月のように兄からLINEなどで画像や動画を送られてくるので成長の過程をある程度は知っているのだが、今年初めの正月振りだったか。改めて会うと健やかに成長しているようだ。背も伸びていた。

 甥は嫁さんの家系の影響なのか、とても筋肉質な身体付きをしている。力も強いし、実際手脚は凄く太く強い。

 嫁さんは小児科の医師にある日深刻そうな面持ちで呼び出され、「何だ、何だ病気か!?」と不安になっていたら、


「お母さん……」

「はい……」



「息子さんに何かスポーツをさせることをお勧めします! とても恵まれた身体をしています!! 未来のオリンピック選手とまではいきませんが……」



 紛らわしいわーい。最後の一言も余計じゃーい。



 でも、何はともあれ将来に希望が持てそうなエピソードだ。



 甥については語りたいことが山ほどあるが、所詮は親戚の子のこと。あまり叔父が主観をもって綴ることでも無いかもしれない。おいおい良いエピソードがあれば語るとしよう。



 話は変わって、最近チェンソーマン、そして鬼滅の刃の原作単行本を読み始めた。


 8月の末ぐらいからチェンソーマン(原作:藤本タツキ)を読んでいる。




 最初は鬼滅の刃以外にもジャンプには凄い漫画があるらしいぞ、というよりも……藤本タツキ氏本人の常識離れした精神性に惹かれて、半ば恐いもの見たさで単行本を買い始めた。


 例えば、氏は『漫画を本格的に描く前から漫画を描いていた』。


 どういうことかはWikipediaなどを見れば解るが、学生時代から脳内でジャンプのような漫画誌を想像し、常に同時進行で7本以上の漫画を連載(というイメージ)していた。それぐらいならば漫画が大好きな少年の『ぼくのかんがえたおもしろいまんがざっし』ぐらいで済みそうだが、藤本氏は、イメージしていて「この漫画、面白く無くなってきたな……」と感じると『打ち切り』にし、新作と入れ替えていたらしい。

 ただの漫画好きなら、恐らくわざわざ『打ち切り』としなくても無尽蔵に脳内漫画が増えていくはず。精々興味を無くして忘却するぐらいだ。


 だが、氏の漫画への思い入れは尋常では無い。



 脳内で連載している漫画がクライマックスを迎えたり、登場人物が悲しい最期を遂げたりした場合、本気で感情が昂ってきて泣いたりするらしいのだ。学生時代もあやうく授業中に泣き出しそうになったのを必死に堪えた、と。


 これだけで藤本タツキは「ああ、漫画家になるべくしてなったんだな……」と妙に納得した。きっとまともな精神性の人間に漫画は描けないのだろう。そういう意味では氏は狂人と言っていいのかもしれない。

 他にも『高圧的な女性が好き』で、自分を虐めてくる酷い女子に駐輪場で自転車をひっくり返され「オマエの自転車をひっくり返してやったぞハハハ!!」と理不尽に罵られると、




「俺はなんて幸せな人間なんだ」



 と幸福に感じたらしい。度を越したマゾヒストではないか!!



 他にも氏の精神性に特異なエピソードはあるが、まあそんなこんなで少なくとも脳内で漫画誌を作ったりドMだったりと、高い知的能力と適性を知ったので、氏の漫画を読んでみることにした。


 チェンソーマンより前に、Twitterで本人が期間限定公開していた読み切り『妹の姉』を読んでいた僕は、少なくとも高い画力と独特な素朴さを感じる作風に既に惹かれるものがあった。


 同じようなノリなのかな? そう思いつつチェンソーマンをECショップでポチり、読む。



 これは酷い。最初っからクライマックスじゃあねーか!! よく少年ジャンプで連載出来てるな!!


 貶すつもりでも自分に合わなかったからでもない。率直にそう思わずにいられなかった。



 社会の底辺を這いずるようにして運命に巻き込まれていくアタマのネジがユルユルの主人公。危険人物で無い人物を探す方が難しいキャラクター群。強烈なスプラッタ描写。青年誌を読んでいると錯覚するほどギリギリな貞操観念の描写。そして絶望感と退廃的な快楽が混沌と転がる世界観。それを表現し切っている高い画力。


 これほど読者のメンタルを抉ってくる漫画は、それも少年ジャンプで連載しているのが未だに信じられない。


 だが、よくよく思い出してみれば、少年ジャンプは最もメジャーな漫画誌ゆえに『最もスタンダードな漫画誌』とよく混同されがちなようだ。


 ひと昔前は幽☆遊☆白書などでもメンタルに来るようなキツい描写は多かったし、チェンソーマンの世界より遥かに救いが無く、登場人物を殺しまくっている作品もある。ギャグな表現ならすごいよ!マサルさんのように退廃的なものもあったし、ボボボーボ・ボーボボのようにひたすらカオスなものもあった。エロティックな表現の漫画なら僕の世代ならI‘sやいちご100%などでドキドキした。


 単に僕が30代まで成長して精神的に変化し、イカれてる(最上級の褒め言葉)漫画から感じとる感性が変わったのだろうか?

 それもあるだろうが、やはり少年ジャンプは今や少年少女というよりは、読者の年齢層が上がって青年誌ぐらいのレーティングの作品が増えているのだと思う。一時『腐女子ジャンプ』とも揶揄されたが、女子に人気なのは内包しつつ高まる読者の年齢層に対応しているうちに、益々、唯一無二の漫画誌へとなってきているのか。『青年ジャンプ』……それともぶっちゃければ『おっさんジャンプ』か? 30代になって腰痛に苦しみながら単行本を読んでいる自分自身と重ねてそう夢想した。


 チェンソーマンは少年誌ギリギリのラインを爆走しながら、ディストピア世界を展開していく。3巻辺りまで読んだ時点で「もう、もう勘弁してくれ」と呻き声を上げながら、気が付けば書店やECサイトで続きを購読している。麻薬か何かか。既に僕の言葉で表現しきれない退廃的な快感のようなモノに病みつきになっているのか。恐ろしい。


 そして、4巻辺りを手に取って、ジャンプ本誌で一際ショッキングな回があった。そしてTwitterで僕はそのメンタルに致命傷を与えかねないネタバレを喰らってしまった。唯一の癒し要員が…………うげえ。最悪だ。

 ネタバレを喰らってしまったものは仕方がない。最後まで読むと決めたのなら、単行本でそのショッキングな回が来ることを覚悟する猶予(こう書くとまるで死刑囚への理不尽な拷問のようだが)を貰えたと受け取ることにする。


 そんなチェンソーマンのような、倫理観とか道徳観とかをハンマー投げよろしく投げ飛ばしてしまったような漫画に惹かれる反面。


 鬼滅の刃はアニメから入ったのだが、原作との違いについて実際に単行本を読み始めてチェンソーマンとは違う魅力を改めて感じた。


『誠実』。



『とにかく誠実』なのだ。



 鬼滅の刃もド派手なバトルに伴い殺傷表現が際立つのだが、その要所要所には必ず人の情けや悲しみ、優しさ、苦悩や苦痛、そして慈しみを感じる。


 そんな大きな愛を、単行本を読んでみてアニメとはまた違う温かみを感じた。


 何というか、絵にも単行本の端々の作者の描き込みにも深い慈しみを感じるのだ。


 鬼滅の刃が人気爆発したのは間違いなくアニメ化の影響だろう。技術はアニメの方が優れている。

 そう思って、「いっそ原作には触れずに、アニメのハイクオリティを楽しんでおこうか」などと考えていたが、原作を勧める知人もいたので、まあ、せめてアニメ化されたエピソード以前の巻数なら……と買って読んでみたら、アニメとはまた違う感動。心の深い裡が強く震えるのを感じた。やられた!! という感じ。



 アニメから入っていたのと、世間がどこもかしこも鬼滅を讃えるので、客観視を無くして多少暗示のようなものにでもかかっているかもしれない。だがそれも加味しても深い慈しみや優しさに溢れている。


 もしかしたら、作者の吾峠先生自身、とても真面目で、深く辛い人生経験を経て来たのでは……そう推測したくなってくるほど、単行本から伝わってくる作者本人のメッセージは謙虚で、温かいものがある。


 ここで、自分が惹かれるものは一体なんなのか、やや葛藤が起きている。



 チェンソーマンのような仁義も慈しみも無く殺意の高い(ついでに作者も精神的にヤバい)漫画に惹かれる自分と、鬼滅の刃のような誠実さ、真っ直ぐさに惹かれる自分との葛藤だ。


 今のところ、アニメも観てきているせいか鬼滅の刃に「こっちだよ。君が心の拠り所にするのはこっちだよ」と惹かれて、呼ばれているような感覚がある。


 だが、漫画というものに優劣はあれど、正解など存在しない。



 ただただ、自分の琴線に触れる、魂が動く作品を愛し、己の血肉にして生きていくだけなのだ。


 だが敢えて言うなれば。




 創作者の端くれとして、自分はどんな作品、作風に比重を置くべきなのか。バトルものを描こうが、ジュブナイルを書こうが揺れてしまうものなのだ。


 誰か、僕の最適解、納得解を教えてくれエエエエエエエ!!


 嘘だああああ!! 自分で何とか見つけてみせるううううう!!



 荒ぶってしまった。もっと色んな作品を鑑賞して、自分なりの答えを探そう。それしかなさそうだ。
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