創世樹

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第220話 事後の英雄たち

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 ――――それから間もなく、ガラテア帝国は完全に解体され、ライザ=トラスティが国主となる新国家が樹立された。




 エリーたちは奇跡的に機能していた戦艦フォルテ(武装などはほとんど破損してしまっていたが)に乗り、今後を思案していた。





「――デスベルハイム跡地に新国家樹立、ねえ…………これから世ん中、どうなると思う、テイテツ?」





 ――テイテツは経年劣化で幾ばくか鈍くなった端末のキーを弾きながら、つらつらと答える。





「――――グロウの残留意志によって一定以上の戦力を人間が持てなくなった以上、もう世界征服する国や世界大戦などは起こらないだろう。だが――――人間が他人を殺す力そのものを失ったわけではない。今までガラテア帝国の存在で抑止力となっていた。世界中の小国家やならず者たちはこれ幸いに、とばかりに世界中を荒らし回るだろう。この星が滅ぶほどではなくとも、争いの絶えない群雄割拠の時代の到来だ……。」




「――そっスか……いくらグロウくんでも、世界を完全に平和にするほどじゃあなかったんスね…………いや、ある意味人間らしさをこの星に少しでも残してくれた結果と受け止めた方がいいんスかね。」





 イロハが雑魚寝しながら会話する中、エリーは自分の練気チャクラを集中してみた。





「――――うん……あたしから『鬼』の力、失われてないし。さすがに、あんな創世樹の中で変身しちゃった時ほどの異常な力はもう出ないっぽいけど。リミッター無しで完全に練気を制御出来るのは大きいかなー……。」






 ――エリーは自分の呪われた力を、ほぼそのまま残した創世樹の意志を想った。先天的な呪いは呪いで、苦しみ生きろ、ということなのだろうか。





 セリーナも天井を見上げ、何やら思う。





「――群雄割拠になる、か…………」





「――セリーナ。また武者修行に出る気か? 今なら、戦いに勝てば国の1つ2つ手に入るかもしれねえもんな……。」





 ――セリーナは首を横に振った。





「――いや。まずはミラのもとへ帰ろうと思う。通信端末も壊れてしまったし、精密機器がほとんど損耗したこの世界状況だと買い替えるのも時間がかかるだろう。また武者修行に出るかは一先ず置いておいて――――ミラのところへ帰るよ。きっと心配している。」





「――ってことは……今度こそミラさんとのイチャコラ万歳な日々がとうとうセリーナさんのもとへ来るんスね~っ!? にっひっひっひっひ~。」





「……邪魔はさせんぞ。イロハ。お前は連れて行かないからな。お前こそどうするんだ?」





 ――イロハは俄然やる気と立ち上がった。





「――――んなの、決まってんじゃあないっスか!! 商売ッスよ! 鍛冶錬金術師の技磨きッスよ!! 世界が群雄割拠になるってんなら上等っス。商売相手もライバルも山ほど現れるはずっス! より面白くなる世界の為に、世界中駆けずり回って良い商売をするだけっスよ!!」





「……そうか…………エリーとガイは? 何処か当てはあるのか?」





 ――テイテツが端末を手に、エリーとガイの近くへ寄って来た。





「――それなんだが…………やはりガラテア帝国の跡地、旧デスベルハイムを目指すべきだと思っている。」





「えっ、マジで、テイテツ?」



「どういうつもりでだ?」




 意外な提案に驚く2人に、テイテツは端末からニュース記事を見せる。





 『――――新政権樹立するも、旧ガラテア帝国としての膨大な研究資料と設備、持て余す。』





「――新政権が旧ガラテアのような生命倫理を侵すような研究を手放したお陰で、研究施設だけは充実している。当然エリーの『鬼』遺伝子混合ユニットの研究も。そこを使えば――――」





「――――エリーと、俺の子が儲けられるかもしれねえってことか!!」





 ――突然、降って湧いた希望。今までガラテア軍が危険でデスベルハイムなど行けなかったのだが、解体された今ならば研究施設は民間の手にあった。当然、そこにはテイテツと懇意な研究者も生き延びていた。





「――マジっスか、テイテツさん!! こりゃあめでたいっス!! 今までセックスだけでほぼ生まれなかったエリーさんとガイさんの子が――――!!」






 ――――新時代の到来と共に、エリーたちは新たな希望へと前進し始めた――――





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 ――一方、火事場泥棒でガラテア戦艦をぶん盗ってそのまま幻霧大陸の外まで逃れたクリムゾンローズ盗賊団も健在だった。





「――いいかい、アタシのかわいい息子たちよ。世は新時代、ガラテア帝国の無い平和が来た、なーんてのたまってるけどね。群雄割拠して世界中、ならず者が荒らし回る時代が来たのさ。この意味が解るかい?」




 ――ローズの下僕たちは顔を突き合わせてどよめいた。




「――――決まってんじゃあないのさ!! つまりは、アタシたち盗賊団の時代なんだよ!! ガラテアという巨悪がいなくなった以上…………アタシらが目指すのは世界中のお宝をブン盗ることのみッ!!」





 ――俄かに、下僕たちは沸き立った。





「――幻霧大陸ではガラテア軍に一発カマしてやった。アタシらにはつよーい星の下の運が味方してる!! これからも変わらず――――暴れまくるよ、アタシのかわいい息子たちィィィーーーッッッ!!」




「――オオオオオオオーーーッッッ!!」





 ――小悪党には小悪党なりの希望があるようだ。たとえ乗っている船が大船だろうと泥船だろうと、彼らは今日も元気に世界を駆けていくのだった――――
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