創世樹

mk-2

文字の大きさ
上 下
221 / 223

第220話 事後の英雄たち

しおりを挟む
 ――――それから間もなく、ガラテア帝国は完全に解体され、ライザ=トラスティが国主となる新国家が樹立された。




 エリーたちは奇跡的に機能していた戦艦フォルテ(武装などはほとんど破損してしまっていたが)に乗り、今後を思案していた。





「――デスベルハイム跡地に新国家樹立、ねえ…………これから世ん中、どうなると思う、テイテツ?」





 ――テイテツは経年劣化で幾ばくか鈍くなった端末のキーを弾きながら、つらつらと答える。





「――――グロウの残留意志によって一定以上の戦力を人間が持てなくなった以上、もう世界征服する国や世界大戦などは起こらないだろう。だが――――人間が他人を殺す力そのものを失ったわけではない。今までガラテア帝国の存在で抑止力となっていた。世界中の小国家やならず者たちはこれ幸いに、とばかりに世界中を荒らし回るだろう。この星が滅ぶほどではなくとも、争いの絶えない群雄割拠の時代の到来だ……。」




「――そっスか……いくらグロウくんでも、世界を完全に平和にするほどじゃあなかったんスね…………いや、ある意味人間らしさをこの星に少しでも残してくれた結果と受け止めた方がいいんスかね。」





 イロハが雑魚寝しながら会話する中、エリーは自分の練気チャクラを集中してみた。





「――――うん……あたしから『鬼』の力、失われてないし。さすがに、あんな創世樹の中で変身しちゃった時ほどの異常な力はもう出ないっぽいけど。リミッター無しで完全に練気を制御出来るのは大きいかなー……。」






 ――エリーは自分の呪われた力を、ほぼそのまま残した創世樹の意志を想った。先天的な呪いは呪いで、苦しみ生きろ、ということなのだろうか。





 セリーナも天井を見上げ、何やら思う。





「――群雄割拠になる、か…………」





「――セリーナ。また武者修行に出る気か? 今なら、戦いに勝てば国の1つ2つ手に入るかもしれねえもんな……。」





 ――セリーナは首を横に振った。





「――いや。まずはミラのもとへ帰ろうと思う。通信端末も壊れてしまったし、精密機器がほとんど損耗したこの世界状況だと買い替えるのも時間がかかるだろう。また武者修行に出るかは一先ず置いておいて――――ミラのところへ帰るよ。きっと心配している。」





「――ってことは……今度こそミラさんとのイチャコラ万歳な日々がとうとうセリーナさんのもとへ来るんスね~っ!? にっひっひっひっひ~。」





「……邪魔はさせんぞ。イロハ。お前は連れて行かないからな。お前こそどうするんだ?」





 ――イロハは俄然やる気と立ち上がった。





「――――んなの、決まってんじゃあないっスか!! 商売ッスよ! 鍛冶錬金術師の技磨きッスよ!! 世界が群雄割拠になるってんなら上等っス。商売相手もライバルも山ほど現れるはずっス! より面白くなる世界の為に、世界中駆けずり回って良い商売をするだけっスよ!!」





「……そうか…………エリーとガイは? 何処か当てはあるのか?」





 ――テイテツが端末を手に、エリーとガイの近くへ寄って来た。





「――それなんだが…………やはりガラテア帝国の跡地、旧デスベルハイムを目指すべきだと思っている。」





「えっ、マジで、テイテツ?」



「どういうつもりでだ?」




 意外な提案に驚く2人に、テイテツは端末からニュース記事を見せる。





 『――――新政権樹立するも、旧ガラテア帝国としての膨大な研究資料と設備、持て余す。』





「――新政権が旧ガラテアのような生命倫理を侵すような研究を手放したお陰で、研究施設だけは充実している。当然エリーの『鬼』遺伝子混合ユニットの研究も。そこを使えば――――」





「――――エリーと、俺の子が儲けられるかもしれねえってことか!!」





 ――突然、降って湧いた希望。今までガラテア軍が危険でデスベルハイムなど行けなかったのだが、解体された今ならば研究施設は民間の手にあった。当然、そこにはテイテツと懇意な研究者も生き延びていた。





「――マジっスか、テイテツさん!! こりゃあめでたいっス!! 今までセックスだけでほぼ生まれなかったエリーさんとガイさんの子が――――!!」






 ――――新時代の到来と共に、エリーたちは新たな希望へと前進し始めた――――





 <<




 ――一方、火事場泥棒でガラテア戦艦をぶん盗ってそのまま幻霧大陸の外まで逃れたクリムゾンローズ盗賊団も健在だった。





「――いいかい、アタシのかわいい息子たちよ。世は新時代、ガラテア帝国の無い平和が来た、なーんてのたまってるけどね。群雄割拠して世界中、ならず者が荒らし回る時代が来たのさ。この意味が解るかい?」




 ――ローズの下僕たちは顔を突き合わせてどよめいた。




「――――決まってんじゃあないのさ!! つまりは、アタシたち盗賊団の時代なんだよ!! ガラテアという巨悪がいなくなった以上…………アタシらが目指すのは世界中のお宝をブン盗ることのみッ!!」





 ――俄かに、下僕たちは沸き立った。





「――幻霧大陸ではガラテア軍に一発カマしてやった。アタシらにはつよーい星の下の運が味方してる!! これからも変わらず――――暴れまくるよ、アタシのかわいい息子たちィィィーーーッッッ!!」




「――オオオオオオオーーーッッッ!!」





 ――小悪党には小悪党なりの希望があるようだ。たとえ乗っている船が大船だろうと泥船だろうと、彼らは今日も元気に世界を駆けていくのだった――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお
SF
 いまから二百年の未来。  前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。  その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。  折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。  火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?

水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

オワコン・ゲームに復活を! 仕事首になって友人のゲーム会社に誘われた俺。あらゆる手段でゲームを盛り上げます。

栗鼠
SF
時は、VRゲームが大流行の22世紀! 無能と言われてクビにされた、ゲーム開発者・坂本翔平の元に、『爆死したゲームを助けてほしい』と、大学時代の友人・三国幸太郎から電話がかかる。こうして始まった、オワコン・ゲーム『ファンタジア・エルドーン』の再ブレイク作戦! 企画・交渉・開発・営業・運営に、正当防衛、カウンター・ハッキング、敵対勢力の排除など! 裏仕事まで出来る坂本翔平のお陰で、ゲームは大いに盛り上がっていき! ユーザーと世界も、変わっていくのであった!! *小説家になろう、カクヨムにも、投稿しています。

虹のアジール ~ある姉妹の惑星移住物語~

千田 陽斗(せんだ はると)
SF
時は近未来、フロンティアを求め地球から脱出したわずかな人々は新たな銀河系にあたらしい文明を築きはじめた しかし惑星ナキの「虹」と名付けられた小さな居住空間にはサイバー空間から発生した怪獣(バグスター)があらわれる 双子姉妹のヤミとヒカリはサイバー戦士として怪獣退治を命じられた 

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...