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第217話 最期の父と子
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――――それから間もなく…………この星が約50億年をかけて滅んだ後、再生したことを全ての勢力の知るところとなり、この場にいる全ての勢力は情報確認の為一時休戦となった。
――だが、もはや趨勢は決しようとしていた。
ガラテア軍はエリーの猛攻で軍の大半を失い、途方もない時間の経過による経年劣化のせいか、複雑な機構の兵器やサイボーグ、改造兵の類いはほとんどがその動きを不能としていた。
加えて、一度乱戦が収まって冷静に思案すれば、ガラテア軍以外の冒険者たち、『震える星』、クリムゾンローズ盗賊団は皆、反ガラテアの勢力に相違ない。
全員が共同戦線を張った今、ガラテア軍の敗北はもはや決定づけられたようなものだった。
――そして、サイボーグであるヴォルフガングは――――
「――――まだだ…………ッ!! まだ終わってはいない…………!! 創世樹がこの世から完全に消えたことなど、確認されていないっ……創世樹と我らがアルスリアの力を以てッ――――全人類が+10000の世界を実現するのだ……全人類に配布するのだ!! それまでは……まだ、死ねんのだ…………ッ!!」
――ほぼ全身を機械化していたヴォルフガングは、既に満身創痍であった。死は目前に迫り、その運命は逃れようはずもない。
弱り切り、四肢もろくに動かぬ身体で、ヴォルフガングは妄執だけで這いずり回り、創世樹跡地周辺を右往左往していた。
「――――もう、終わりです。全て決しました。ヴォルフガング中将、否。ヴォルフガング=ヴァン=ゴエティア。」
「――――!!」
リオンハルトは数m背後から、大型拳銃をヴォルフガングの後頭部に向けていた。狙われているのを察し、ヴォルフガングも固まる。
「――本当はもうとっくにお気付きでしょう。ガラテア軍が大敗を喫していること。創世樹はもう手の届かぬ処へ消え去ったこと。そして、機械化した我らの生命はもうとっくに尽きようとしていること――――」
――ヴォルフガングは身体中から、眠っている間に植物の種子でも混入したのだろうか。茨のような植物が繁茂し、単なる力なき異形と化している。そして、大型拳銃を突き付けるリオンハルト自身もまた、サイボーグ化した身体中から植物が繁茂し、余命幾ばくも無いようだ。
「………………。」
「――我らは長く生き過ぎました。生命の理を超えて長く、長く生き過ぎました。これは恐らく、創世樹からの報いのようなものでしょう。純然たる生命ではない異形の我々は……もうこの星には必要無いのです――――これから本当の意味での生命あるものの新時代が来る。我らに、ガラテアにそれを享受する資格は微塵もありません。」
――言葉だけは氷雪のようにヴォルフガングを射抜くリオンハルト。だが、リオンハルト自身も、何とも複雑な苦笑いを浮かべていた。悲愴な宿願が達成される一瞬の喜びと、それを失った後の自身の破滅を享受した虚無的な感情。
あらゆる『どうにもならない』といった想いを綯い交ぜにして苦笑しつつも、ヴォルフガングへの、ガラテアへの『王手詰み』だけは執行する。それが今のリオンハルトが自身に課した使命だ。
「――――お前が、最後か。リオンハルト…………お前が、私へ最期を下すのか――――。」
――ヴォルフガングは、笑った。
それは逆襲の策があるわけでも、共に朽ち逝く息子への嘲笑でもない。
ただただ、己のあらゆる罪業へ引導を渡すのが、身体が朽ちた自死などではなく、実の息子に最期を迎えさせてくれる、というある種の満足感だった。
ガラテア軍高官として何百年を生き、息子と違いあらゆる感情が熱を失い、虚無を生きるのみだった己の人生の幕引きの待遇の良さに、彼は満足出来たのだ――――
「――――ふっ。ならば是非もない。甘んじて受けるさ――――がっ!! ……ふう――――」
――その言葉を聞き、リオンハルトは、撃った。
ついに、己同様ガラテア軍人として罪業の塊であった父に引導を……そして僅かな救いを与えた。
――今際の際。ヴォルフガングは幻を見た。
目の前に佇むのはアルスリア――――ではなく、アルスリアに瓜二つの、亡き妻の幻影だった。
「――――もう、よろしいのですよ、貴方。長い、長い間、苦しかったですね――――」
「――――。」
――幻影の中の妻は、そう悲しげに呟いたように感じた。
ヴォルフガングは、思い出の中の愛する妻の温もりを思い出しながら…………瞼を閉じ、息を引き取った。
――撃ったリオンハルト自身も身体の苦痛にへたり込みながら、父の亡骸に呟く。
「――――一先ず、おさらばです。私はもう少しだけやることがあるので、先に逝って待っていてください。私もすぐ向かいますから――――父上。」
――リオンハルトは身体を引き摺るようにしながら、『震える星』の本隊へと連絡を取りながら、戦場を後にした。
――――とうとう、長く続いたガラテア帝国の終わりが間近に迫った――――
――だが、もはや趨勢は決しようとしていた。
ガラテア軍はエリーの猛攻で軍の大半を失い、途方もない時間の経過による経年劣化のせいか、複雑な機構の兵器やサイボーグ、改造兵の類いはほとんどがその動きを不能としていた。
加えて、一度乱戦が収まって冷静に思案すれば、ガラテア軍以外の冒険者たち、『震える星』、クリムゾンローズ盗賊団は皆、反ガラテアの勢力に相違ない。
全員が共同戦線を張った今、ガラテア軍の敗北はもはや決定づけられたようなものだった。
――そして、サイボーグであるヴォルフガングは――――
「――――まだだ…………ッ!! まだ終わってはいない…………!! 創世樹がこの世から完全に消えたことなど、確認されていないっ……創世樹と我らがアルスリアの力を以てッ――――全人類が+10000の世界を実現するのだ……全人類に配布するのだ!! それまでは……まだ、死ねんのだ…………ッ!!」
――ほぼ全身を機械化していたヴォルフガングは、既に満身創痍であった。死は目前に迫り、その運命は逃れようはずもない。
弱り切り、四肢もろくに動かぬ身体で、ヴォルフガングは妄執だけで這いずり回り、創世樹跡地周辺を右往左往していた。
「――――もう、終わりです。全て決しました。ヴォルフガング中将、否。ヴォルフガング=ヴァン=ゴエティア。」
「――――!!」
リオンハルトは数m背後から、大型拳銃をヴォルフガングの後頭部に向けていた。狙われているのを察し、ヴォルフガングも固まる。
「――本当はもうとっくにお気付きでしょう。ガラテア軍が大敗を喫していること。創世樹はもう手の届かぬ処へ消え去ったこと。そして、機械化した我らの生命はもうとっくに尽きようとしていること――――」
――ヴォルフガングは身体中から、眠っている間に植物の種子でも混入したのだろうか。茨のような植物が繁茂し、単なる力なき異形と化している。そして、大型拳銃を突き付けるリオンハルト自身もまた、サイボーグ化した身体中から植物が繁茂し、余命幾ばくも無いようだ。
「………………。」
「――我らは長く生き過ぎました。生命の理を超えて長く、長く生き過ぎました。これは恐らく、創世樹からの報いのようなものでしょう。純然たる生命ではない異形の我々は……もうこの星には必要無いのです――――これから本当の意味での生命あるものの新時代が来る。我らに、ガラテアにそれを享受する資格は微塵もありません。」
――言葉だけは氷雪のようにヴォルフガングを射抜くリオンハルト。だが、リオンハルト自身も、何とも複雑な苦笑いを浮かべていた。悲愴な宿願が達成される一瞬の喜びと、それを失った後の自身の破滅を享受した虚無的な感情。
あらゆる『どうにもならない』といった想いを綯い交ぜにして苦笑しつつも、ヴォルフガングへの、ガラテアへの『王手詰み』だけは執行する。それが今のリオンハルトが自身に課した使命だ。
「――――お前が、最後か。リオンハルト…………お前が、私へ最期を下すのか――――。」
――ヴォルフガングは、笑った。
それは逆襲の策があるわけでも、共に朽ち逝く息子への嘲笑でもない。
ただただ、己のあらゆる罪業へ引導を渡すのが、身体が朽ちた自死などではなく、実の息子に最期を迎えさせてくれる、というある種の満足感だった。
ガラテア軍高官として何百年を生き、息子と違いあらゆる感情が熱を失い、虚無を生きるのみだった己の人生の幕引きの待遇の良さに、彼は満足出来たのだ――――
「――――ふっ。ならば是非もない。甘んじて受けるさ――――がっ!! ……ふう――――」
――その言葉を聞き、リオンハルトは、撃った。
ついに、己同様ガラテア軍人として罪業の塊であった父に引導を……そして僅かな救いを与えた。
――今際の際。ヴォルフガングは幻を見た。
目の前に佇むのはアルスリア――――ではなく、アルスリアに瓜二つの、亡き妻の幻影だった。
「――――もう、よろしいのですよ、貴方。長い、長い間、苦しかったですね――――」
「――――。」
――幻影の中の妻は、そう悲しげに呟いたように感じた。
ヴォルフガングは、思い出の中の愛する妻の温もりを思い出しながら…………瞼を閉じ、息を引き取った。
――撃ったリオンハルト自身も身体の苦痛にへたり込みながら、父の亡骸に呟く。
「――――一先ず、おさらばです。私はもう少しだけやることがあるので、先に逝って待っていてください。私もすぐ向かいますから――――父上。」
――リオンハルトは身体を引き摺るようにしながら、『震える星』の本隊へと連絡を取りながら、戦場を後にした。
――――とうとう、長く続いたガラテア帝国の終わりが間近に迫った――――
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