創世樹

mk-2

文字の大きさ
上 下
216 / 223

第215話 人間と言う微かな希望

しおりを挟む
「――――!? 何だ…………この感覚は――――」





 ――――グロウ側から生命の同期を行なうと…………アルスリアが経験し、感じ取ったものとはまた違うものが流れ込んできた――――





 ――それは、まさしくエリーたちとの旅の日々。エリーたちから向けられた、自然体で温かな人間の情だった。





 強大な力を持って生まれ、その力を呪いつつも優しさと心根の温かさを持つエリー。自分を責めてしまいがちで弱さを持ちつつも、大切なものの為に勇敢に生きて来たガイ。





 一度は傷めつけられ、病んでいた精神性を持ちながらもそれでも前進することをやめなかった、自分の希望に真っ直ぐであったセリーナ。





 激情がゆえに周囲と衝突を繰り返し、力は持っても孤独の中で生きて来たテイテツ。自分の欲に忠実でありながらも、その欲で他人を不必要に傷付けまいと成長したイロハ。





 ――さらにはこれまでの旅で出会った全ての人々。





 ナルスの街で外界を夢見て、エリーの誠意を信じてくれた少女。セフィラの街で出会ったミラをはじめ親切で愛情に満ちた町人たち。娯楽都市・シャンバリアの病院で触れ合った患者や、障がい者や子供たち。ニルヴァ市国で稽古をつけてくれたヴィクターとカシム、グロウを検査してくれたタイラーに、飯処で出会った盲者の僧。要塞都市・アストラガーロのゴッシュ=カヤブレー。





 ――旅をしていて、邪悪な者や、弱き心の者は確かに沢山いた。




 だが、グロウの心にはもっと豊かで、もっと愛情に満ち、もっと勇気と信念、誇りを大切に持っている人たちがいたのだ。それは今や、グロウの心の一部であり――――そしてたった今伝えているアルスリアの一部でもあった。





「――――何だ。この温かいものは…………こんなもの知らない。私が見て来た人間は、こんなはずでは――――これは何なんだ。人間とは何なんだ…………!!」





「――――確かに、人間は邪悪なものを持っている。でも、温かい、美しいものだってあるんだ。自分の中の矛盾を認め、それでも前へと進む勇気。気持ち。魂あるものの本質だよ!!」





 ――――俄かに、アルスリアの心に、それまで認識して来たものとは異なる人間へのイメージが溢れかえる。大量に吐き出されるエラー。





「――私は……間違っているのか…………? 間違っている私は、このまま君に吸収され、消えるのか。」





 ――グロウは首を横に振り、否定した。





「――――アルスリア。君は消えはしない。もう僕の一部であり、僕そのものだから。それに……星の生命が全て滅んだ今、進み、滅んだものはもう戻らない――――なら、新たに創り直せばいい。これだけ創造の力が僕たちにはあるんだ。もう創世樹も『養分』も『種子』も必要ない……『ただの星』を創造すればいいんだ!!」





「――――これ、は…………思い出した――――」






 ――アルスリアの意識に、遠い過去が去来する。





 ――――遠い日のヴォルフガングと、リオンハルトが浮かぶ。





「――――君は……私に見付けられたとはいえ、私にその人生を左右する権利など無い。最大限支援はするから……ガラテアの支配圏の外でひっそり暮らさないか…………?」




 ――アルスリアと出会って間もない頃のヴォルフガングは、確かに最初は亡くした妻と瓜二つのアルスリアを妻の代わりにしようとした。だが、同時にヴォルフガングはそれをエゴだと充分に理解し、ガラテア軍とは無関係な、平和な国で密かに暮らす人生の選択肢を与えてもいたのだ。





「――アルスリア…………? 貴女が、私と義兄弟に――――?」





 ――在りし日のリオンハルトのことも思い出した。





 母を失い、父は苦悩し悲しんだまま向き合ってくれない孤独の中、長い長い年月を生きて来た中でアルスリアと出会った。






「――――貴女が誰なのか、よくわかりませんが…………これから家族になると言うなら喜んで! 仲良くしましょう、アルスリア……えーっと……お姉様!!」




 ――そう。リオンハルトとは最初から険悪な義兄弟と言うわけではなかった。むしろ、リオンハルトの方から新しい家族の一員として、手を差し伸べてくれていたはずなのだ。






 何故、ほんのわずかでも他人から向けられた愛情を無駄にしてしまっていたのか。





 ガラテア軍人としての非道な行ないの限りを見て来たせいか。『種子の女』としての使命にがんじがらめにされたからか。それとも自分は生まれながらの他人を愛せないサイコパスだったのか。





 ――どれもそれらしい理由ではあるが、結果としてアルスリアは己で己を不幸へと陥れてしまっていたことを思い出し、気付いた。





 自分の辿るべき道はガラテア軍人として非道の限りを尽くし、他者を恐れさせ、グロウと結ばれることのみを唯一の幸福と決めつけて…………。





「――そうか……私自身、見ないように、気付かないようにしていただけなのか。人間は100%が邪悪と……思い込んでいたのか。」





「――理解してくれたかい?」




 ――アルスリアは、悲嘆に暮れたような面持ちながらも、声は毅然と言い放つ。




「――うん。見落としていたことを気付かせてくれてありがとう、グロウ。だが、それでも私は人間を許すことは出来ない。認められない。ここからは創世樹として君との『審議』に入ろう。あの星を生命溢れる星にするか、否か――――きっと時間がかかるよ……。」




「――それでいいんだ。もう僕たちは創世樹で……君は花嫁で、僕は婿なんだから。どんなに時間がかかっても付き合うさ。時間は――――無限にある。」





 ――――それから、創世樹の中でグロウとアルスリアは、星に再び生命を芽吹かせるか、審議に入った。長い長い時が流れた。





 数百年…………そして数千年。





 人間にとっては気の遠くなるほどの長い年月が流れた時、ついに決をとった。





 創世の光が、星を。そして宇宙の彼方まで眩く照らし、覆っていった――――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

人間の恋人なんていらない。

みらいつりびと
SF
お仕事恋愛長編小説です。全43話。 地方公務員の波野数多は内気で異性と話すのが苦手。 貯金して高性能AIを搭載した美少女アンドロイドを購入し、恋人にしようと思っている。 2千万円貯めて買った不良少女型アンドロイドは自由意志を持っていた。 彼女と付き合っているうちに、職場の後輩からも言い寄られて……。

王立ミリアリリー女学園〜エニス乙女伝説〜

竹井ゴールド
ファンタジー
 ミリアリリー王国の王立ミリアリリー女学園。  生徒が被害に遭い、現在、ヴァンパイア騒動で揺れるミリアリリー女学園に1人の転校生がやってくる。  その転校生の功績の数々はいつしか伝説となってミリアリリー女学園に語り継がれるのだった。 【2022/11/3、出版申請、11/11、慰めメール】 【2022/11/25,出版申請(2回目)、12/5、慰めメール】

呟怖あつめ

山岸マロニィ
ホラー
━━━━━━━━━━━━━━━      呟怖ORG.加入       呟コラOK ご希望の方は一声お掛けください ━━━━━━━━━━━━━━━ #呟怖 タグでTwitterに掲載したものをまとめました。 #このお題で呟怖をください タグのお題をお借りしています。 ── 呟怖とは ── 136文字以内の恐怖文芸。 【お題】…TL上で提供されるテーマに沿って考えたもの 【お題*】…自分が提供したお題 【自題】…お題に関係なく考えたネタ ※表紙画像は、SNAO様(pixiv)のフリー素材作品を利用しております。 ※お題の画像は、@kwaidanbattle様 または フリー素材サイト(主にPAKUTASO様、photoAC様)よりお借りしたもの、もしくは、自分で撮影し加工したものを使用しております。 ※お題によっては、著作権の都合上、イメージ画像を変更している場合がございます。 ※Twitterから転載する際の修正(段落等)により、文字数がはみ出す場合もあります。 ■続編『呟怖あつめ【おかわり】』の連載を開始しました。  そちらも良しなに。 ノベルデイズ他でも公開しています。

Re:Beat-たとえ世界が終わっても、君とともに動悸する恋

久槻 紗久
恋愛
【始まる前から終わっていた、セカイ系恋愛物語】 *登場人物が9割、二人だけなので、読みやすいと思います。 【あらすじ】 記憶喪失の少年、響谷アヤセは紡希茅野と出会う。 二人以外に誰もいない、そんな世界で——。 街に溢れていたのはニヒルと呼ばれる未知のナニか、 たった二人だけの世界で日々を謳歌するアヤセと茅野だったが、 徐々にその世界の衝撃的な事実に近づいていく。 どうして、その世界に二人しかいないのか。 ニヒルとはなんなのか、記憶喪失前の真相とは。 すべての謎が明かされた時に ——この物語は動き出す。 どんなに距離が遠くても、 心の奥底で繋がっている二人の恋愛物語。 *全六章+プロローグ&エピローグで構成されます。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~

テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。 大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく―― これは、そんな日々を綴った物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...