創世樹

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第213話 神と神の対話

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 ――――創世の光は瞬く間に星全体を覆い、生命の刷新進化《アップデート》が始まった。





 だが…………初めから人類だけでなく、生命全てを消滅させるつもりだったアルスリアの意志により、この星は生命が一切存在しない死の星と化してしまった。




 ――創世樹と一体となったグロウとアルスリアは、真っ白い光の空間にいるようだった。





「――――ここは……何処なんだ!? お姉ちゃんたちは――――」




「――――エリーなら死んだよ。いや、エリーだけじゃない。この星の生命体は私たちを残して全て消し去ったんだ。私たち二人だけの創世樹によってね。」




「……そんな!?」





「――ここは創世樹の内部であり、融合した私たち二人の『内側』だ。ここに存在するのはグロウと私の二人だけ…………永遠の世界だ。これからずっと一緒だよ。」





「……そんな、勝手な!! みんなを元へ戻せ!!」





 二人の精神の『内側』で、二柱の神と化したグロウとアルスリアは問答する。





「――それは出来ない。いや……それは嫌だ、と言った方が近いか。せっかく星ごと滅ぼしたんだ。人間が蔓延る星なんて害悪。地獄そのものでしかない。このまま人間が出現する可能性を0%のまま……私たちの好きにこの箱庭を生きればいいんだよ。」





「――僕たちの身勝手で……生命を選別するなんて、出来ないよ!!」





 ――創世樹と一体となり、巨大な2つの自我となったグロウとアルスリア。だが、一体化してもなお、グロウとアルスリアの心は分かたれたままだ。





「――――やれやれ……ここまで来てまだ人間なんかに未練が残るのかい。君は人間の悪辣な本性と言うものを知らなすぎるのだよ――――今から私と、創世樹に蓄積された『人間』の情報を同期する。彼らの本性を知れば、少しは理解してくれるだろう――――」





 精神空間の中。アルスリアは徐にグロウに近付き、額に手を添えた――――





「――――!!」





 ――――途端に、グロウに流れ込んでくる、人類のあらゆる記憶と歴史。






 幾度となく戦争は繰り返され、どんな終末期にも人間は争うことをやめなかった。滅びへと向かう時はいつでも、人類が自らの手で、それも他の生命を穢し尽くして滅びへと向かっていった。





 人間の所業の大なるところはそんなものだが、もっと細かいレベルでの悪行も見えて来た。





 過去の経験や歴史から何も学ぶことはせず、何か問題を起こしても他者任せ。見返りと救いだけは求め、果てなく怠惰と強欲にまみれていってしまう。





 テクノロジーのみ進化し、テクノロジーのみを賛美し、全体の幸福も、弱者への救済も何も履行せず、形だけの利益のみを求める。相手が弱いことをいいことに、多くを『力』で解決してきた。





 風体なき自由と平和を絵空事のように求め、そして結局は誰もが悔やみ、泣いて過ごした。後に残るのは知性と理性を捨てた他者を排除するほどの欲望にのみ突き動かされた、下賤な人間たち。





 搾取される者はさらに弱者から搾取し、力を持たぬ者は一生涯に渡って――――否。何世代も末代までその人生を損なわれ、非業の最後を遂げていく。当の加害者はのうのうと素知らぬ顔で、己の幸福だけは守る。






 ――――そんな断片的ではあるものの、人間が長い歴史で飽きることもなく繰り返してきた邪悪さが、そのイメージが…………グロウの精神に一気に流れ込んできた。





「――――これはっ…………そんな――――」





 ――創世樹と一体化した強大な存在になれば大した負荷では無いが…………もし今の邪悪な情報の注入、同期が人間の身体で行なわれていたなら、吐き気を催すどころか、発狂し、ショック死していただろう。





「――解るだろう。私だってつらかったんだ。人間の似姿を取って生まれてきて、こんな邪悪な人間の為に生を全うするなんて、嫌だったんだ――――だからグロウ。君のような清らかな花婿様を望んだんだよ…………。」





 ――アルスリアは、初めて悲しみに満ちた顔つきをして、静かにグロウを抱擁した。





 思えば、アルスリアとて創世樹の『種子の女』としての役目だけを除けば、ガラテア軍という悪意の総合体、結晶のような組織で非道の限りを思い知らされたのだ。





 彼女にとって生まれた意味、生涯の最大にして唯一の喜びが、自分と結ばれる運命にあるグロウの存在だった。だから強く、強く執着したのだろう。





 グロウを宥めつつ、その意志を読み取る。





「――――そうか。ここまで理解しても……なお人間を憐れみ、生きていて欲しいと願うのか、君は。グロウは、本当に優しい、清らかな神様だね…………。」





 ――グロウは首を横に振って答えた。





「――――本当は、解ってた。人間が邪悪なことを。エンデュラ鉱山都市で男たちに犯されかけた時も。セフィラの街近くで改子に騙し討ちされかけた時も。アルスリアが幻霧大陸の始祖民族たちを死なせた時も…………あまり意識しないようにしてた――――それでも信じたいんだ。人間を。人間の強さを――――一緒に、もう一度星を蘇らせてくれないかい…………?」






 ――なおも毅然とアルスリアを見上げるグロウ。アルスリアは弱々しく微笑む。





「――グロウ。君の希望は根深いね。もう私は君で、君は私同然の存在だと言うのに…………複雑な、何重もの自我とペルソナを持つのも人間由来だからか。困ったね……」




 アルスリアは、アルスリアの魂はグロウから少し離れて、何もない白の空間に何やら念じた。




「――なら、こういうのはどうだい? 今、この星の神は私たちなんだ……これぐらい容易いよ?」





 ――白い空間に、色彩を帯びた心象が浮かぶ――――
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