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第196話 タチアナ=ツルスカヤの想い
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「――――メラ……ン…………そんな…………そんな、嘘だろ――――」
――ライネスを庇って致命傷を負ったメラン。致命傷も致命傷。ほぼ即死と言っていいダメージだった。
――――死に逝くメラン=マリギナ…………本来の名をタチアナ=ツルスカヤと言った女の脳裏に、これまでの様々な記憶と想いが錯綜する。走馬灯というものだろうか――――
(――――ああ。私……とうとう死んじゃうのねン。ライネスを庇って……ルハイグ博士に歯向かって。ああ……やっぱりいっそ改造兵として闘争の歓喜だけに生きていれば……こんなに苦しまずに済んだのかしらン…………)
――タチアナ嬢として裕福な家庭での、今思えば窮屈ながら安穏とした日々の過去。改造兵の中では珍しく、己の長い人生の貧相さに絶望し、自ら改造兵を志願して、ライネス、バルザック、改子と共に人を殺め続けて来た現在に至るまでの想い。そして僅かに夢想した、軍を抜けて果樹農家に転身し……ライネスたちと共に穏やかに暮らしたいと願った未来――――その全ての生涯を清算し、幕を閉じようとする瞬間が目前に来た。
微かに、メランの濁った瞳には、ボロボロになりながらもルハイグが、片腕に仕込んだ銃火器でライネスたちを始末しようと構えるのが見える――――
(――――結局……私は幸福になれないまま生涯を終えちゃうのねン……きっと、みんなも…………悲しいなあ。悲しいわン。でも…………最後に、これだけはやっておくわ――――)
――メランは、最後の力を振り絞り、練気を最大限集中させ――――ルハイグが放ったエネルギー弾にも負けないほどの力が籠った気弾を、残った片腕から撃ち放った!!
「――――ごあああああ…………ッ!!」
――気弾は当たった。遂に、ルハイグの装備する全ての武器を破壊し……彼を道連れにするような形となった。
気弾を撃った反動でそのまま意識が途絶えかけたが――――少しすると、僅かに声が聴こえる。
「――――ン…………メランッ!! 返事してくれよ!! 死ぬんじゃあねえッ!!」
「――俺らぁぁぁ……今一体何を…………メラン、何で死にかけてる――――?」
「――まさか……メランあんた、またあたしらを庇った…………? 死ぬの――――?」
一瞬前まで自我を失っていたバルザックと改子も、一体何が起きたのか、と呆然と血にまみれたメランと彼女を抱くライネスを見て立ち尽くしている。
「――おいっ!! ガイとかっつったそこのおめえ!! 回復法術使えんだろ!? 後生だぜ、全力で――――」
「……無駄だぜ。こいつぁ身体の組織を半分以上失ってる上に、出血も並みじゃあねえ。いくら回復法術でも手遅れだ…………。」
「――マジで言ってんのか、てめえッ!? 気合入れて治しやがれ!! さもねえとぶっこ――――っ!?」
――逆上し、メランの血に染まったライネスの頬を――――メランは震える片手で、優しく撫でた。ライネスが気付き、微かにメランの吐息混じりの声が聴こえる。
「――――い……い……の…………わた、し……死んでも……構わなかった…………これ、まで殺し続けて、きた……人たち、に……比べたら…………安いぐらい、の、最期……だから。でもね――――」
――メランの目は、どんどんと生気を失っていく。もはや、ライネスたちの顔も見えてはいない。
それでも彼女は、最期に心に仲間を想い、言葉につなげる…………。
「――わた、わたし、たち……人、ごろし……だけど…………た、かっ…………たのし……かった。ライネス……改子……隊長……と、4人、で……楽しかった……のよ――――」
「メランッ……!!」
「メランよお……」
「あんた……」
メランが『自分たちは許されない存在だけれど、共に過ごした日々は楽しかった』。そう告げながら、ライネスの頬を優しく撫でる――――もう、メランの手の感覚にはライネスの体温も感じられてはいなかったが。
――――メランの心に、走馬灯の最後の光が去来する――――夢にまで見た、4人で楽しく静かに暮らす風景――――
「――ライネス……改子……隊、長――――ずっと……ずっと大好き、よ――――」
「……メラン……おい…………メラン――――」
――とうとう、メランの生命の灯火は、尽きた。ライネスを撫でていた腕は地に落ち、瞼は塞がり――――失った片目のセンサーアイも、光らなくなった。
半身を失い、夥しい血にまみれていたが…………最期を迎えたメラン――――否。タチアナ=ツルスカヤは微笑みを浮かべた、穏やかな死に顔であった――――
「――くっ…………うおおおおおおおーーーーッ!!」
――別離の痛みと悲しみに、ライネスは堪らず吼えた。その声を聴く者は僅かだが、戦場の空へ彼の痛ましい慟哭は確かに響き渡った。
「――俺ら改造兵は、悲しみや慈しみなんて、とうの昔に捨て去っちまった。だから涙も出ねえ――――だが、妙な…………気分だぜ。メランはもう、いねえんだなあぁ。」
「――派手にぶっ殺して、ぶっ殺されて、んでおっ死ぬ。あたしら4人の改造兵の中で、綺麗なくらいそんな死に方先にしちゃってさ。あたしもそれで構わねえって思ってたのに……わかんない。あたしにはさっぱり、わかんない。メランとライネスの気持ち――――」
――悲しみ、泣いて咽ぶライネス。だが、その想いは痛烈なれど、ある意味幸福であったのかもしれない。仲間の死を悲しめるだけ…………改子とバルザックはその悲しみを理解出来ないまま、ただ呆然としていた――――
――ライネスを庇って致命傷を負ったメラン。致命傷も致命傷。ほぼ即死と言っていいダメージだった。
――――死に逝くメラン=マリギナ…………本来の名をタチアナ=ツルスカヤと言った女の脳裏に、これまでの様々な記憶と想いが錯綜する。走馬灯というものだろうか――――
(――――ああ。私……とうとう死んじゃうのねン。ライネスを庇って……ルハイグ博士に歯向かって。ああ……やっぱりいっそ改造兵として闘争の歓喜だけに生きていれば……こんなに苦しまずに済んだのかしらン…………)
――タチアナ嬢として裕福な家庭での、今思えば窮屈ながら安穏とした日々の過去。改造兵の中では珍しく、己の長い人生の貧相さに絶望し、自ら改造兵を志願して、ライネス、バルザック、改子と共に人を殺め続けて来た現在に至るまでの想い。そして僅かに夢想した、軍を抜けて果樹農家に転身し……ライネスたちと共に穏やかに暮らしたいと願った未来――――その全ての生涯を清算し、幕を閉じようとする瞬間が目前に来た。
微かに、メランの濁った瞳には、ボロボロになりながらもルハイグが、片腕に仕込んだ銃火器でライネスたちを始末しようと構えるのが見える――――
(――――結局……私は幸福になれないまま生涯を終えちゃうのねン……きっと、みんなも…………悲しいなあ。悲しいわン。でも…………最後に、これだけはやっておくわ――――)
――メランは、最後の力を振り絞り、練気を最大限集中させ――――ルハイグが放ったエネルギー弾にも負けないほどの力が籠った気弾を、残った片腕から撃ち放った!!
「――――ごあああああ…………ッ!!」
――気弾は当たった。遂に、ルハイグの装備する全ての武器を破壊し……彼を道連れにするような形となった。
気弾を撃った反動でそのまま意識が途絶えかけたが――――少しすると、僅かに声が聴こえる。
「――――ン…………メランッ!! 返事してくれよ!! 死ぬんじゃあねえッ!!」
「――俺らぁぁぁ……今一体何を…………メラン、何で死にかけてる――――?」
「――まさか……メランあんた、またあたしらを庇った…………? 死ぬの――――?」
一瞬前まで自我を失っていたバルザックと改子も、一体何が起きたのか、と呆然と血にまみれたメランと彼女を抱くライネスを見て立ち尽くしている。
「――おいっ!! ガイとかっつったそこのおめえ!! 回復法術使えんだろ!? 後生だぜ、全力で――――」
「……無駄だぜ。こいつぁ身体の組織を半分以上失ってる上に、出血も並みじゃあねえ。いくら回復法術でも手遅れだ…………。」
「――マジで言ってんのか、てめえッ!? 気合入れて治しやがれ!! さもねえとぶっこ――――っ!?」
――逆上し、メランの血に染まったライネスの頬を――――メランは震える片手で、優しく撫でた。ライネスが気付き、微かにメランの吐息混じりの声が聴こえる。
「――――い……い……の…………わた、し……死んでも……構わなかった…………これ、まで殺し続けて、きた……人たち、に……比べたら…………安いぐらい、の、最期……だから。でもね――――」
――メランの目は、どんどんと生気を失っていく。もはや、ライネスたちの顔も見えてはいない。
それでも彼女は、最期に心に仲間を想い、言葉につなげる…………。
「――わた、わたし、たち……人、ごろし……だけど…………た、かっ…………たのし……かった。ライネス……改子……隊長……と、4人、で……楽しかった……のよ――――」
「メランッ……!!」
「メランよお……」
「あんた……」
メランが『自分たちは許されない存在だけれど、共に過ごした日々は楽しかった』。そう告げながら、ライネスの頬を優しく撫でる――――もう、メランの手の感覚にはライネスの体温も感じられてはいなかったが。
――――メランの心に、走馬灯の最後の光が去来する――――夢にまで見た、4人で楽しく静かに暮らす風景――――
「――ライネス……改子……隊、長――――ずっと……ずっと大好き、よ――――」
「……メラン……おい…………メラン――――」
――とうとう、メランの生命の灯火は、尽きた。ライネスを撫でていた腕は地に落ち、瞼は塞がり――――失った片目のセンサーアイも、光らなくなった。
半身を失い、夥しい血にまみれていたが…………最期を迎えたメラン――――否。タチアナ=ツルスカヤは微笑みを浮かべた、穏やかな死に顔であった――――
「――くっ…………うおおおおおおおーーーーッ!!」
――別離の痛みと悲しみに、ライネスは堪らず吼えた。その声を聴く者は僅かだが、戦場の空へ彼の痛ましい慟哭は確かに響き渡った。
「――俺ら改造兵は、悲しみや慈しみなんて、とうの昔に捨て去っちまった。だから涙も出ねえ――――だが、妙な…………気分だぜ。メランはもう、いねえんだなあぁ。」
「――派手にぶっ殺して、ぶっ殺されて、んでおっ死ぬ。あたしら4人の改造兵の中で、綺麗なくらいそんな死に方先にしちゃってさ。あたしもそれで構わねえって思ってたのに……わかんない。あたしにはさっぱり、わかんない。メランとライネスの気持ち――――」
――悲しみ、泣いて咽ぶライネス。だが、その想いは痛烈なれど、ある意味幸福であったのかもしれない。仲間の死を悲しめるだけ…………改子とバルザックはその悲しみを理解出来ないまま、ただ呆然としていた――――
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