195 / 223
第194話 生命を弄ぶ狂科学
しおりを挟む
――――ルハイグとの乱戦に割って入ったライネス。ガイたちの窮地を救ったものの、その胸中は複雑なようだ。依然、悲しげな顔つきをしている。
「――てめえ……敵味方も解んなくなってんのか……? 何故俺たちを助ける。」
――ライネスは固くつぶった瞼になお力を入れたまま、苦悩する心と同じく頭を左右に振っている。
「――わかんねえ…………俺にも、俺自身の心が――――だがよオ…………。」
ライネスはただただ哀愁を帯びた目で、地に倒れ伏すルハイグを見遣る。
「――俺、思い出したんだよ。人を改造兵にする時……人間らしい心、ってのか? そいつを奪っちまう改造手術を施す時、必ずこいつが関わってたことによオオ~……俺だけじゃあなく……多分、メランも隊長も改子も……もっと他の改造兵の奴らも――――それを思った途端、何か胸が熱く、苦しくなってよオ。こいつを許せなくなっちまったんだよ――――ああ、ホント俺、何してんだ? 友軍を攻撃するなんて命令違反もいいとこだぜ…………。」
「おめえ…………。」
――ライネスは、未だ己の行動原理が理解出来ずに混乱の中のようだ。だが、ガイは目の前の青年がただの闘争心のみで殺戮を執行することを悦びとする改造兵ではなく、ただの青年になりつつあることを感じ取った。
「――どうやら、ただの敵とは少しばかり事情が違っちまったみてえだな――――大丈夫か、イロハ。」
ルハイグに脚を掴んで地にめり込むほど叩き付けられたイロハ。イロハも練気発動サプリで練気を纏っているとはいえ、ダメージはなかなかに大きい。掴んだ脚は折られ、地に叩き付けられた衝撃で左腕も折れている――――すぐにガイは回復法術でイロハを治療した。
――回復法術の青白い光が灯り、イロハの折れた手足がゴキゴキと鈍い音を立てながら回復していく。
「――ヒッ……痛たたたた、痛い痛い痛い痛い痛い――――かあっ!! ふーっ……回復法術も今更ながら痛みを伴うこと多いっスね~……何なら折れた瞬間より痛いじゃあないっスかあ~……」
痛みに歯を食いしばりながらも、すぐに治癒した手足を使って、イロハはゆっくり沈み込んだ土から立ち上がった。
「――!? がっ、ガイさん!!」
「――何ッ!? ぐあっ!!」
イロハが驚き呼びかけたが、背後を向くと同時にガイは鉄塊のようなもので横薙ぎに吹っ飛ばされた。
「――うおッ!? な、何なんだこいつ…………身体を上半身と下半身に真っ二つにされたってのに、動いてやがる!! 血も出てねえ!?」
――――純然たる改造兵のままだったならきっと戦慄することも無かったライネス。身体を断たれたはずのルハイグを見て、恐怖する。
「ガイッ!」
「――はははははッ!! 俺は絶対に死なん! 死なんぞ!! 貴様を殺すまではなあ、ヒッズ!!」
テイテツが駆け寄り、ガイを診る。何とか打撲程度で済んだようだ。
「――ガイの自在活殺剣は命あるものの肉体を一度両断し、その直後回復法術の応用で治癒・浄化させつつも戦力として不能にする奥義。それが効かないということは、ルハイグ、お前は――――」
「――その通り!! 忌々しい『ガラテア最高の頭脳』めが!! 俺の身体はもう純然たる肉体はほとんど残っちゃいない! 有機生命体としてはほとんど『死んでいる』に等しい! 切っても突いても血は出ない。だがなあ――――」
――ルハイグが何やら練気を集中すると…………斬られた身体の断面、上半身と下半身から繊維質の管のような物が伸びて来た。それらは見る間にお互いを繋いでいき――――
「――機械の身体が……損傷した自らの身体を自己修復したのか。」
――ルハイグの身体は、多少斬られた皮膚の切れ目が残っているものの、ほとんど元の状態へと問題なく自己修復した。エリーなどの物とも違う、機工学的な自己修復機能だ。
「――これで元通りだ。こんな俺を……肉体を失った俺を憐れむか? ――ふざけるな、俺はサイボーグ化したことでどんな人類の肉体をも超えた究極の身体になったのだ!! 最新の改造兵なしでもかなり戦えるさ――――貴様らを抹殺する程度にはなァ!!」
――ルハイグは、自ら捨てた肉体を悲しむこともせず、むしろ誇らしくなおも猛り狂った。
「――ちっ。マジかよ……こりゃあ簡単には倒せねえ…………時間はねえってのに!」
――ガイは殴られた痕をすぐさま回復法術で治療しつつも、ルハイグの予想以上のしぶとさに焦りを募らせる。
「――おぉお~イッ!! ライネス、お前一体一人で抜け出して何やってんだあああアアァ!?」
「――ライネスぅ! そ、そこにいるのはぁ……私たちを改造兵にした人ぉ――――!!」
「――ひひひ。敵味方問わず強い奴に殺し合い吹っ掛けるなんざ…………いっちばん戦いに飢えてんのはライネス。あんたじゃあねえのおおォ!?」
――ライネスが突貫したのを見て、バルザック、メラン、改子も駆けつけて来た。胸中は様々だったが――――
「――都合が良い。純然たる闘争心を忘れた改造兵など、もはや不要ッ!! ライネス=ドラグノン…………『失敗作』である仲間たちに殺されるがいい――――!!」
――ルハイグが何やら電子音と共に念じると――――バルザックと改子の動きがぴたり、と止まった。
「――あ……あ……?」
「――ぐぐっ……こ、ろす――――」
「――隊長……?」
「――改子ぉ!?」
――途端に赤黒い練気が立ち昇り、2人の瞳は真っ赤に光った――――
「――てめえ……敵味方も解んなくなってんのか……? 何故俺たちを助ける。」
――ライネスは固くつぶった瞼になお力を入れたまま、苦悩する心と同じく頭を左右に振っている。
「――わかんねえ…………俺にも、俺自身の心が――――だがよオ…………。」
ライネスはただただ哀愁を帯びた目で、地に倒れ伏すルハイグを見遣る。
「――俺、思い出したんだよ。人を改造兵にする時……人間らしい心、ってのか? そいつを奪っちまう改造手術を施す時、必ずこいつが関わってたことによオオ~……俺だけじゃあなく……多分、メランも隊長も改子も……もっと他の改造兵の奴らも――――それを思った途端、何か胸が熱く、苦しくなってよオ。こいつを許せなくなっちまったんだよ――――ああ、ホント俺、何してんだ? 友軍を攻撃するなんて命令違反もいいとこだぜ…………。」
「おめえ…………。」
――ライネスは、未だ己の行動原理が理解出来ずに混乱の中のようだ。だが、ガイは目の前の青年がただの闘争心のみで殺戮を執行することを悦びとする改造兵ではなく、ただの青年になりつつあることを感じ取った。
「――どうやら、ただの敵とは少しばかり事情が違っちまったみてえだな――――大丈夫か、イロハ。」
ルハイグに脚を掴んで地にめり込むほど叩き付けられたイロハ。イロハも練気発動サプリで練気を纏っているとはいえ、ダメージはなかなかに大きい。掴んだ脚は折られ、地に叩き付けられた衝撃で左腕も折れている――――すぐにガイは回復法術でイロハを治療した。
――回復法術の青白い光が灯り、イロハの折れた手足がゴキゴキと鈍い音を立てながら回復していく。
「――ヒッ……痛たたたた、痛い痛い痛い痛い痛い――――かあっ!! ふーっ……回復法術も今更ながら痛みを伴うこと多いっスね~……何なら折れた瞬間より痛いじゃあないっスかあ~……」
痛みに歯を食いしばりながらも、すぐに治癒した手足を使って、イロハはゆっくり沈み込んだ土から立ち上がった。
「――!? がっ、ガイさん!!」
「――何ッ!? ぐあっ!!」
イロハが驚き呼びかけたが、背後を向くと同時にガイは鉄塊のようなもので横薙ぎに吹っ飛ばされた。
「――うおッ!? な、何なんだこいつ…………身体を上半身と下半身に真っ二つにされたってのに、動いてやがる!! 血も出てねえ!?」
――――純然たる改造兵のままだったならきっと戦慄することも無かったライネス。身体を断たれたはずのルハイグを見て、恐怖する。
「ガイッ!」
「――はははははッ!! 俺は絶対に死なん! 死なんぞ!! 貴様を殺すまではなあ、ヒッズ!!」
テイテツが駆け寄り、ガイを診る。何とか打撲程度で済んだようだ。
「――ガイの自在活殺剣は命あるものの肉体を一度両断し、その直後回復法術の応用で治癒・浄化させつつも戦力として不能にする奥義。それが効かないということは、ルハイグ、お前は――――」
「――その通り!! 忌々しい『ガラテア最高の頭脳』めが!! 俺の身体はもう純然たる肉体はほとんど残っちゃいない! 有機生命体としてはほとんど『死んでいる』に等しい! 切っても突いても血は出ない。だがなあ――――」
――ルハイグが何やら練気を集中すると…………斬られた身体の断面、上半身と下半身から繊維質の管のような物が伸びて来た。それらは見る間にお互いを繋いでいき――――
「――機械の身体が……損傷した自らの身体を自己修復したのか。」
――ルハイグの身体は、多少斬られた皮膚の切れ目が残っているものの、ほとんど元の状態へと問題なく自己修復した。エリーなどの物とも違う、機工学的な自己修復機能だ。
「――これで元通りだ。こんな俺を……肉体を失った俺を憐れむか? ――ふざけるな、俺はサイボーグ化したことでどんな人類の肉体をも超えた究極の身体になったのだ!! 最新の改造兵なしでもかなり戦えるさ――――貴様らを抹殺する程度にはなァ!!」
――ルハイグは、自ら捨てた肉体を悲しむこともせず、むしろ誇らしくなおも猛り狂った。
「――ちっ。マジかよ……こりゃあ簡単には倒せねえ…………時間はねえってのに!」
――ガイは殴られた痕をすぐさま回復法術で治療しつつも、ルハイグの予想以上のしぶとさに焦りを募らせる。
「――おぉお~イッ!! ライネス、お前一体一人で抜け出して何やってんだあああアアァ!?」
「――ライネスぅ! そ、そこにいるのはぁ……私たちを改造兵にした人ぉ――――!!」
「――ひひひ。敵味方問わず強い奴に殺し合い吹っ掛けるなんざ…………いっちばん戦いに飢えてんのはライネス。あんたじゃあねえのおおォ!?」
――ライネスが突貫したのを見て、バルザック、メラン、改子も駆けつけて来た。胸中は様々だったが――――
「――都合が良い。純然たる闘争心を忘れた改造兵など、もはや不要ッ!! ライネス=ドラグノン…………『失敗作』である仲間たちに殺されるがいい――――!!」
――ルハイグが何やら電子音と共に念じると――――バルザックと改子の動きがぴたり、と止まった。
「――あ……あ……?」
「――ぐぐっ……こ、ろす――――」
「――隊長……?」
「――改子ぉ!?」
――途端に赤黒い練気が立ち昇り、2人の瞳は真っ赤に光った――――
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
ちゃんばら多角形(ポリゴン)
柚緒駆
SF
二十四世紀のある日、実験用潜宙艦オクタゴンは、亜空潜行中にトラブルを発生、観測員ナギサが緊急脱出装置によって艦外に強制転移させられた。
一方、後の世に言う安土桃山時代、天正十一年十二月の末、会津の刀工『古川兼定』の三代目、孫一郎は旅の途中、和泉国を訪れる。そこで人さらいに追われる少女を助けようとした際、黒い衣を着た謎の女法師と出会う。彼女こそオクタゴンの観測員ナギサであったのだが、孫一郎はそれと知らず旅の道連れとなる。
セブンス・ヘブンズ・オーソリティ -SEVENTH HEAVEN'S AUTHORITY-
ヴァルヴィリヤ=B=リースフェルト
ファンタジー
とある北欧の小さな村に住む少年は、幼き頃より類まれなる魔法の才覚を備えていた。ところがある日、神様の実験台に選ばれた彼は、この世界の<主人公>にされてしまう。
神々の緞帳の向こうに隠されたこの世界の綻びを解き明かすべく、彼は魔法研究のために高等学院へ通うことになる。そこで沢山の仲間と出会っていく中で、彼と同じように天啓を受けた一人目の<登場人物>を見つける。
そして彼は初めて神様の課題を知る。
『世界はあと五年で崩壊する。七人の賢者で世界を救え』と。
神様の課題に立ち向かう選ばれし開拓者(スティリスタ)たち――七人の賢者。
どうすれば世界の崩壊を食い止めることができるのか、世界の理そのものに抗うべく、魔法の成り立ちや仕組みを科学的・化学的に解明し、彼がたどり着いた答えは――想像を遥かに超える、まさに驚愕すべき世界の真実が明らかになる。
魔法とは一体何なのか。
神様とは一体何なのか。
世界とは一体何なのか。
身を滅ぼしかねないほど知的好奇心の旺盛過ぎる少年と、その個性的過ぎる仲間たちによる、魔法と理系(とロマンス)が交錯する稀代の北欧ハイファンタジー冒険譚。
世界の秘密を知ってしまった少年たちの末路や如何に。
『さあ、君の世界をはじめよう』
今、未曾有の伝説が始まろうとしている――
空色のサイエンスウィッチ
コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』
高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》
彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。
それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。
そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。
その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。
持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。
その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。
そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。
魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。
※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。
※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。
※2022/10/25 完結まで投稿しました。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
カラー・マン
上杉 裕泉 (Yusen Uesugi)
SF
とある金曜日の夕方のこと。週末のゴルフの予定を楽しみにする朝倉祐二外務省長官のもとに、一人の対外惑星大使が現れる。その女性――水野は、ウルサゴ人と適切な関係を築くため、彼らの身にまとう色を覚えろと言う。朝倉は、機械の力と特訓により見違えるように色を見分けることのができるようになり、ついに親睦パーティーへと乗り込むのだが……
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる