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第191話 裏切りの刃
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「――――ォォおお……あのエリーとか言う女……マジかぁあああ…………屈強な兵士共も戦車も戦闘機も何もかもボロ雑巾みてえにズダボロにしちまってんじゃあねえかああァァァ……」
――エリーが戦っている処よりガラテア軍から見て後方に位置する陣地で、バルザックは感嘆した。
改造兵部隊は一般兵のように歩兵として前線に投じられるのではなく、自身の練気と身体能力を強化する強化機械装甲を装着して迎撃態勢を取っていた。
「――マジかよ…………あいつマジかよ!? いくら何でもこりゃあ…………勝ち目ねえぜ!!」
「――本当ぉ。近付いたら黒焦げになるんじゃあ済まないわン…………。」
――人間らしい感受性……もちろん、戦闘における恐怖心も取り戻したライネスとメランだけが、遠くに見える鬼神の如きエリーの姿に怯えていた。
「――――へッ……ふへへへへ。上等じゃん、上等じゃん!! ようやく……あたしらも派手に戦っておッ死ぬ時が来たんじゃあないのォ、これェ!?」
「――ヌハハハ、きっとそうさァ!! もとより、あの創世樹とか言う馬鹿でかい樹を死んでも守れと上は仰ってる……敵前逃亡は即処刑と来た。俺らの生命の捨て時が来たってことだぁなあああああっ!?」
――――だが、バルザックと改子だけは……目の前の圧倒的な脅威を肌身に感じても、病んだ闘争心に突き動かされてしまう。明らかに勝ち目の無い戦いにすら、高揚感や闘争心が勝ってしまっている。
「――ちっくしょう…………このままじゃあ俺ら、犬死にじゃあねえかよ…………!」
「――させないわン。」
「――えっ!?」
――狼狽しかけるライネスに、突然、メランが普段見せないような、毅然とした顔つきと声で言った。
「そんなこと、させないわン。何があってもぉ…………絆だけは、消させない。」
――バルザックと改子は戦意に猛り聞いてもいなかったが……ライネスは何か感じ取った。メランの、身も心も傷だらけのはずの戦士が発する、ただ戦って死ぬだけではない覚悟と執念のようなものを…………。
「……メラン、お前――――あっ?」
メランに注意が行きかけたライネスだったが、突如、近くの戦艦から射出された、戦闘員を乗せたカプセルポッドに気付いた。
そして、改造兵としてマサイ族並の視力を誇るライネスは、そのカプセルポッドに乗っている者の姿がハッキリと解った。
「――待てよ、おいおい…………あいつは、まさか――――」
射出されたカプセルポッドの行方を、彼は凝視した。その行方は――――アルスリアとグロウのもとへ向かうセリーナとイロハ、そしてガイの方向だった――――
「――!? イロハ、一旦止まれ!! 何か来るっ!!」
「――うおっととっとと…………あれは……戦闘員を放つカプセルポッド……またニルヴァ市国の時みたいなイカレた改造兵ッスかね!?」
「――改造兵……違う。これは、何か――――?」
すぐ目の前に落ちて来たカプセルポッド。ゆっくりとカプセルの蓋が開いた――――
「――ふむ。あのエリー=アナジストンという『鬼』混合ユニットがあそこまで強くなったことは存外だが……我らの計画に支障は無いだろう――――いつか会うだろうと思っていたぞ…………テイテツ。否……ヒッズ=アルムンド。」
「――追いついたが……テイテツ……の本名を知ってやがる、だと? まさかてめえは――――」
「――――ルハイグ。何故お前が戦場の前線にいるんだ――――?」
――――ルハイグ。目の前の白衣を着て不遜に嗤う科学者らしき男を見ながらその名を聞いて、イロハもセリーナも驚く。
「――何!? ルハイグとは……確か、テイテツの昔の科学者仲間の――」
「確かに、そんな人がなんでこんなトコに飛ばされて来てんスか!?」
――一行に動揺が走るが、ルハイグは不遜な笑みのままテイテツの後に、セリーナを睨んだ。
「――――ふ~む……ふふん。ここまで順調に事が進んでいると思わず笑ってしまうな。だが、あのエリー=アナジストンは万一の場合、アルスリア中将補佐を止めるかもしれん……念の為、こうしておくか――――」
ルハイグが徐に懐からリモコンのようなものを取り出し、スイッチを入れると――――
「――――!! うっ……ううううう…………ッ!! あ、頭が――――!!」
「――セリーナ=エイブラム。俺が自ら執刀しておいてなんだが、よくもまあ改造手術を受けて本当に精神操作だけは免れたと『思い込めた』ものだ。我らガラテアに捕まって、強化手術だけを受けて逃げられるとでも、本気で思っていたのか――――?」
「――セリーナさん!? ま、まさか……本当に奴らに――――」
――――セリーナの頭の中で激しい痛みと共に、記憶がフラッシュバックする。
ニルヴァ市国からガラテア式の転移玉で飛ばされた時、運悪くガラテア軍の陣地近くに落ちてしまったこと。
抵抗も虚しく、アルスリアに捕縛され……殺されかけていた所を、ルハイグが身柄を引き受けたこと――
<<
「――君がこのセリーナ=エイブラムを貰い受けたいと? モルモットなら足りているんじゃあないのかい?」
「――いいえ。生まれながらに『種子の女』として高い能力を持っていた中将補佐閣下には及ばないまでも……この『素体』は大変優秀です! 改造兵として素晴らしい兵士になるに違いない……!!」
「……ならば、こうしたらどうだい? こいつはエリー=アナジストン一派の仲間だ。強化手術だけでなく、記憶操作も施す。『いざという時に、すぐにエリー=アナジストン一派を裏切れるように』と。ラッキーなことに、この女には単なる闘争心だけでなく、戦士として遙かに強いエリー=アナジストンなどへのコンプレックスの精神性が感じられる。そこを利用するのだ。どうだい?」
「――アルスリア中将補佐閣下。貴女様の発想力は我ら科学者から見ても素晴らしい限りですよ――――」
<<
「――――さあ、行け! セリーナ=エイブラム。勝つことまでは不可能だろうが、半身に埋め込んだ装備と練気を以て、エリー=アナジストンと戦うのだッ!!」
「――――!!」
「――セリーナ!? おい、セリーナ――――!!」
――戦闘戦斗。そして単なるバトルマシーンと化したセリーナは、遠方で戦うエリーへとまっしぐらに練気の龍を向け、飛び去った――――
――エリーが戦っている処よりガラテア軍から見て後方に位置する陣地で、バルザックは感嘆した。
改造兵部隊は一般兵のように歩兵として前線に投じられるのではなく、自身の練気と身体能力を強化する強化機械装甲を装着して迎撃態勢を取っていた。
「――マジかよ…………あいつマジかよ!? いくら何でもこりゃあ…………勝ち目ねえぜ!!」
「――本当ぉ。近付いたら黒焦げになるんじゃあ済まないわン…………。」
――人間らしい感受性……もちろん、戦闘における恐怖心も取り戻したライネスとメランだけが、遠くに見える鬼神の如きエリーの姿に怯えていた。
「――――へッ……ふへへへへ。上等じゃん、上等じゃん!! ようやく……あたしらも派手に戦っておッ死ぬ時が来たんじゃあないのォ、これェ!?」
「――ヌハハハ、きっとそうさァ!! もとより、あの創世樹とか言う馬鹿でかい樹を死んでも守れと上は仰ってる……敵前逃亡は即処刑と来た。俺らの生命の捨て時が来たってことだぁなあああああっ!?」
――――だが、バルザックと改子だけは……目の前の圧倒的な脅威を肌身に感じても、病んだ闘争心に突き動かされてしまう。明らかに勝ち目の無い戦いにすら、高揚感や闘争心が勝ってしまっている。
「――ちっくしょう…………このままじゃあ俺ら、犬死にじゃあねえかよ…………!」
「――させないわン。」
「――えっ!?」
――狼狽しかけるライネスに、突然、メランが普段見せないような、毅然とした顔つきと声で言った。
「そんなこと、させないわン。何があってもぉ…………絆だけは、消させない。」
――バルザックと改子は戦意に猛り聞いてもいなかったが……ライネスは何か感じ取った。メランの、身も心も傷だらけのはずの戦士が発する、ただ戦って死ぬだけではない覚悟と執念のようなものを…………。
「……メラン、お前――――あっ?」
メランに注意が行きかけたライネスだったが、突如、近くの戦艦から射出された、戦闘員を乗せたカプセルポッドに気付いた。
そして、改造兵としてマサイ族並の視力を誇るライネスは、そのカプセルポッドに乗っている者の姿がハッキリと解った。
「――待てよ、おいおい…………あいつは、まさか――――」
射出されたカプセルポッドの行方を、彼は凝視した。その行方は――――アルスリアとグロウのもとへ向かうセリーナとイロハ、そしてガイの方向だった――――
「――!? イロハ、一旦止まれ!! 何か来るっ!!」
「――うおっととっとと…………あれは……戦闘員を放つカプセルポッド……またニルヴァ市国の時みたいなイカレた改造兵ッスかね!?」
「――改造兵……違う。これは、何か――――?」
すぐ目の前に落ちて来たカプセルポッド。ゆっくりとカプセルの蓋が開いた――――
「――ふむ。あのエリー=アナジストンという『鬼』混合ユニットがあそこまで強くなったことは存外だが……我らの計画に支障は無いだろう――――いつか会うだろうと思っていたぞ…………テイテツ。否……ヒッズ=アルムンド。」
「――追いついたが……テイテツ……の本名を知ってやがる、だと? まさかてめえは――――」
「――――ルハイグ。何故お前が戦場の前線にいるんだ――――?」
――――ルハイグ。目の前の白衣を着て不遜に嗤う科学者らしき男を見ながらその名を聞いて、イロハもセリーナも驚く。
「――何!? ルハイグとは……確か、テイテツの昔の科学者仲間の――」
「確かに、そんな人がなんでこんなトコに飛ばされて来てんスか!?」
――一行に動揺が走るが、ルハイグは不遜な笑みのままテイテツの後に、セリーナを睨んだ。
「――――ふ~む……ふふん。ここまで順調に事が進んでいると思わず笑ってしまうな。だが、あのエリー=アナジストンは万一の場合、アルスリア中将補佐を止めるかもしれん……念の為、こうしておくか――――」
ルハイグが徐に懐からリモコンのようなものを取り出し、スイッチを入れると――――
「――――!! うっ……ううううう…………ッ!! あ、頭が――――!!」
「――セリーナ=エイブラム。俺が自ら執刀しておいてなんだが、よくもまあ改造手術を受けて本当に精神操作だけは免れたと『思い込めた』ものだ。我らガラテアに捕まって、強化手術だけを受けて逃げられるとでも、本気で思っていたのか――――?」
「――セリーナさん!? ま、まさか……本当に奴らに――――」
――――セリーナの頭の中で激しい痛みと共に、記憶がフラッシュバックする。
ニルヴァ市国からガラテア式の転移玉で飛ばされた時、運悪くガラテア軍の陣地近くに落ちてしまったこと。
抵抗も虚しく、アルスリアに捕縛され……殺されかけていた所を、ルハイグが身柄を引き受けたこと――
<<
「――君がこのセリーナ=エイブラムを貰い受けたいと? モルモットなら足りているんじゃあないのかい?」
「――いいえ。生まれながらに『種子の女』として高い能力を持っていた中将補佐閣下には及ばないまでも……この『素体』は大変優秀です! 改造兵として素晴らしい兵士になるに違いない……!!」
「……ならば、こうしたらどうだい? こいつはエリー=アナジストン一派の仲間だ。強化手術だけでなく、記憶操作も施す。『いざという時に、すぐにエリー=アナジストン一派を裏切れるように』と。ラッキーなことに、この女には単なる闘争心だけでなく、戦士として遙かに強いエリー=アナジストンなどへのコンプレックスの精神性が感じられる。そこを利用するのだ。どうだい?」
「――アルスリア中将補佐閣下。貴女様の発想力は我ら科学者から見ても素晴らしい限りですよ――――」
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「――――さあ、行け! セリーナ=エイブラム。勝つことまでは不可能だろうが、半身に埋め込んだ装備と練気を以て、エリー=アナジストンと戦うのだッ!!」
「――――!!」
「――セリーナ!? おい、セリーナ――――!!」
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