創世樹

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第185話 戦地に赴く

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 ――――再びグロウが攫われ、始祖民族が撫で斬りにされ…………エリー一行は深い悲しみと怒りの底にいた。




 ――だが、立ち竦んでその悲しみと怒りに浸って泣いている暇すらない。




「――エリー。この集落の者たちは皆この地に丁重に弔わせてもらった。戦艦フォルテの整備も済んだ――――ガラテアの奴らの暴挙を止めるのに時間が惜しい。すぐに乗るんだ…………。」




 ――エリーは、ゴッシュの呼びかけに何度も泣き腫らした顔ながらも、強い目をして応えた。




「――ええ。行こう。グロウを助けに…………奴らの野望を砕きに――――!!」




「――そうだぜ。行くぜ、おめえら。」





 エリーが声を上げ、ガイが呼びかけると同時に一行はフォルテに乗り込んだ。





 始祖民族たちの亡骸を弔う作業にたった今まで手伝っていた一行。皆エリー同様、深い悲しみと怒りに沈んではいたが、誰も首をもたげることもなく、強い目をしたまま後に続くのだった。





 『苗床』による初期化修復《システムリカバー》を封じられ、グロウを攫われ、さらにはアルスリアからグロウ……種子の女から養分の男への精神干渉《ハッキング》の術さえ知られてしまった以上、選択肢は1つだ。





 ――もはや退路は無い。





 このままガラテアとアルスリアの好きにこの星の生命を作り変えられるのを待つか。それとも可能な限りガラテアに抵抗し藻掻き……グロウを救い出すか。





 救い出したところで、アルスリアが邪悪に染まっている以上、正しい生命の刷新進化《アップデート》を行なわれる保証は無い。ガラテアの全軍に対して戦いを挑み、生還する可能性もまた砂粒よりも小さいだろう。





 だが、エリーたちは抗うことにした。





 抗わなければ気が済まない――――これは人間の生命の……魂の抵抗だった。





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「――――ガラテア軍……そしてアルスリアが向かった方角は、ちょうどこの大陸の中心地帯だ。広い平野部の中に、異常なまでのエネルギー反応が見られる…………それが創世樹と見て間違いないだろう。アストラガーロを脱出してからもとより我々は逃げ場も無い身。もう、迷いは無いな…………?」





 艦長《キャプテン》たるゴッシュがブリッジに集まるエリーたちを見て声を掛ける。





 エリーたちの顔つきは、もうとうに覚悟を決めた様子だ。ゴッシュが、皆が首肯するのを確認するまでも無い。




「――よし。ならば行くぞ。創世樹へ。ガラテア軍と明日を懸けた…………最後の闘いへ――――戦艦フォルテ、全速前進!!」





 ――――この分の悪い戦いの行方を知る者は、もしかしたら世界にそれほどいないかもしれない。それどころか、まかり間違えば全人類が死滅するかもしれない。





 なれど、エリーたちは運命の賽を投げる。そうすることが人間の務めであり、自分たちが決断することと信じて――――





 <<





 <<





 ――――一方、ガラテア軍も、さすがにガラテア帝国始まって以来の大作戦、星の生命を選別するとなると、平常心でいられる者はそういない。誰もが浮足立つのを堪えるのが手いっぱいだった。



 ある戦艦内でのやり取りがあった。



「――――おい……俺、正直この作戦のことよく解んねえんだけどよぉ……要するに、創世樹とか言う馬鹿でかい樹に俺らは向かってて、そいつを守ればいいんだよな……?」





「…………」





「――な、なア。何とか言ってくれよオ。これから同じ作戦に参加する仲間じゃあねえか。なあ?」





「…………」





 ――鋼鉄の強化機械装甲《パワードスーツ》に身を包んで静止している何人もの兵士たち。だが、彼らはまるで返事をしない。心まで冷たい鋼鉄のようだ…………。





 ……以前のリオンハルトからの進言で軍を除隊することも出来たが、緑色に染色した髪の青年は――――ライネス=ドラグノンは結局、ガラテア軍特殊部隊として戦いの場に出ることを選んだ。





「――おオ、ライネス。こんなトコにいたかぁあ。」




「――うおおぇッ!?」




「? なぁに今更ビビってやがる。作戦決行は予定通りなら明日の正午頃だァ。しっかり飯食って睡眠を取ってろォん。」



「――ひひひ。あたしも詳しい内容いまいちわからんけど…………何でも世界に一気に影響出るような大規模なやつらしいじゃあん? こりゃあ、派手なぶっ殺し合いに期待出来そうじゃあん♪」




 ――突然声を掛けられて驚くライネスだが、バルザックと改子はやはり平生通り……病んだ戦闘狂そのままだった。




 しかし――――





「――――その人たちにはもう話しかけても無駄なのよン。ライネス…………」
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