創世樹

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第184話 この世の悲しみ

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 ――――アルスリアがグロウを攫って去り、プレッシャーが解けたとほぼ同時に、ガイの携帯端末に着信があった。



「――ちっくしょう…………あの女!! 着信は――ゴッシュのおっさんからか!!」




 即座に端末を操作し、応答すると緊張感が漲るゴッシュの怒号にも似た声が響いた。




「――聴こえるか、ガイ!! 一体何があったのだ!? ガラテア軍に強襲されているッ!! それに――――」




「――おっさん!! すぐ戻るから――――」





「――軍隊に襲われているならまだ抵抗のしようもあるが――――始祖民族たちが狂い始めた!! 突然同士討ちを始めたぞ!?」




「――――な…………に…………っ!?」





 ――ただガラテア軍に見付かり、奇襲されたのなら集落の民たちもきっと抵抗するだろう。




 だが、ゴッシュは『彼らが同士討ちを始めた』と告げた――――信じられない連絡に一行の背中に氷雪のようなものが走った――――





「――――恐らく、アルスリアが酋長に命じたのでしょう。『効率よく殺伐する為に、自害、あるいは同士討ちするように』と――」




 ――プレッシャーから立ち上がりながら、テイテツが分析する。事は深刻と言うにも余りある…………。





「――糞ったれが……ッ!! おめえら、今すぐ戻るぞ!! 1人でも多く助けるんだ!!」





「――言われんでもそのつもりっス!!」





 ガイやイロハを始め、一行は激昂しつつ帰り道の魔法陣へと走った――――





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「――これが…………あの穏やかだった集落の奴らかよ…………ッ!?」





 ――集落奥地の洞窟から戻って来たガイは、改めて眼前の惨禍を見て絶句した。




 遠くにガラテア軍の戦艦も見えるが、兵士たちはそれほど戦闘をしていない。





 しかしアルスリアを通じて酋長に命じた通り、平和的だったはずの始祖民族の民たちは意思の無い虚ろな目をしたまま……ある者は手に持った刃物で同胞を刺し殺し、ある者は練気チャクラで同胞を焼き殺している。





 ガラテア軍たちも、無駄な弾薬や薬品などを消耗するのは避けたいらしい。銃器などを構えているが、遠巻きに様子を見ているだけで何もしていない。




 既に遠くを往く戦艦から、その地獄絵図をアルスリアとグロウは見ていた。





「――ふむ。やはり酋長も支配しておいて正解か……私の種子を精神に乗せて拡散し、始祖民族は勝手に滅びる。弾薬を消費する必要も無かったな……。」





「――――なんて……なんてことをッ!! アルスリアッ!! 自分が何をしているのか解ってるのか!?」





 ――捕縛されながらも、義憤に震えるグロウはアルスリアに問うた。





「――私が、何を? 見ての通りさ――――大量殺戮ジェノサイドだよ。これから私とダーリンの2人で創世樹の中で生命の刷新進化アップデートを行なうんだ。旧き人類などとうとうと滅んでしまえばいい。もし、私たち『種子の女』『養分の男』の初夜に悪影響があるかもしれない不安分子は始末して然るべきだ。それに――――」




「――それに!?」





「――今、目の前で行なわれている大量殺戮など、人類の歴史から見れば氷山の一角程度のレベルだ。私でなくとも、人間など放っておくだけで勝手にその他大勢を鏖殺して滅する。それを人間は飽きもせず繰り返してきたのだよ。この程度、新世界の創造の前の破壊と大差ない。」





「……アルスリア…………お前ッ!! よくも……よくも――――ッ!!」





 ――――実にセフィラの街で目亘改子の非道な闘いで抱いた時以来、否、それを遙かに上回る強い感情に…………純真無垢であったグロウはとうとう胸の奥が焼け爛れるような熱毒と血が沸騰するような痛みと穢れを――――目の前の妖女に対する憎悪を知ってしまった。




「――結ばれる直前の私を憎むかい、花婿様? それもいいだろう。私の所業への憎しみは即ち、人類への憎しみ。打ち捨てるべきは人間賛歌。人を尊ぶ精神など忘れてしまえ。君も人間に絶望し憎悪すれば――――刷新進化を終えた先の世界に、人間など要らぬと悟るだろう――――」





 ――人類が繰り返していた殺戮。生命の刷新進化という大異変の前の、これは愚かな旧人類への見せしめとばかりに殺戮を執行したアルスリアは、そのグロウの憎悪すら手玉に取るかのように、やはり不敵に嗤った――――





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「――くそおっ……お願い、止まってッ!!」



「目を醒ますッス! みんなッ!!」




 ――エリーたちは必死に、集落の始祖民族たちを止めるべく戦った。彼らの殺傷能力を削ぐ為に血涙を流す想いで彼らを打ち据えた。




 ――だが、もはや彼らに生気と、生への執着心は欠片も残されてはいなかった。




 刃物を振り回す腕をもがれても練気で再生して暴走し、中には自ら練気の生命のエネルギーの流れを断って自害していく者も…………もう、彼らの破滅を止めることは出来なかった――――





「――始祖民族、殲滅……いや、自滅確認。これよりふねへ帰投する――――」





 ――ガラテア軍はとうとう弾丸の一射もすることなく殺戮を見届け、自らの艦へ去っていった。





 ――残されたのは屍の山と血の匂い。炎だった。





「――――うわああああああああああーーー…………ッッッ!!」





 ――それはまるで、自身が暴走状態になった後の惨禍そのもの。エリーの魂は激しく揺さぶられ、堪らず悲鳴を上げた――――
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