創世樹

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第178話 先住民族の心

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 ――――フォルテが不時着した先は、始祖民族の集落の近くだった。人間と思しき人影が近付いて来る。




 ――彼らの容姿は、我々幻霧大陸の外から来た人間とそう変わらないように見えた。




 背丈は我々とそう変わらず、肉体の特徴も見るだけではそれほど変わったものには見えない。浅黒い肌の至る所に白い、樹木を想起させるような文様が見えるが、刺青などの類いではなくどうやら生まれながらに浮かび上がっているもののようだ。




「――――。」




 ――民の1人が声を掛けて来た。しかし、他の国との交流を気の遠くなるほどの年月閉ざしていた民の言葉。まるで理解出来ない。彼は何を言っているのか。




「……テイテツ、解るか?」




「――不明。やはり全く未知と言っていい言語です。ですが――――」





 テイテツは、後ろにいるグロウを見遣った。




「――今、彼が話した言語は、以前セフィラの街へ行く途中で遭遇したドルムキマイラと赤い容姿の魔物にグロウが放った言葉と共通のパターンがいくつか感じられます。やはり、彼らとコミュニケーションを取るのはグロウが鍵かと。」




 ――やはり、現時点で始祖民族と接触出来るのはグロウしかいないらしい。グロウは、本当に未知の地の民と交流など出来るのか不安そうな顔つきだ。




「……グロウ。駄目で元々ぐらいの気持ちでいるから、上手く話せなくても大丈夫よ。あの人たちと話をしてみて?」




 エリーが優しくポンポン、とグロウの肩を叩き、交流を試みるように促す。




「――やってみるよ。」





 グロウは前へと歩み出て、話しかけて来る民と相対した。




「――――。――――?」



「……え、ええっと……」




 彼らはグロウに話しかけて来るが、グロウは彼らの言語に応えられない。セフィラの森で九死に一生を得た時とはわけが違うらしい。





「――僕たち、あの、ふねに……乗って来た。怪我した人、いっぱい、出て、困ってる。力、貸して。お願い……。」




 ――グロウは取り敢えず片言混じりの言葉でボディランゲージを交えて彼らと対話を試みた。




「――? ――――。――――……。」




 だが、彼らも首を傾げるばかり。やはり伝わってはいないようだ。いや、落ちて来た戦艦を見てただならぬ状況であることぐらいは伝わっているだろうが、要旨がなかなか伝わらない。




 ――始祖民族との対話は全く未知と言っていい異文化コミュニケーションだが、彼らからすればグロウたちの方が侵略者エイリアンに見えなくもない。常時立ち込めているはずの濃霧が晴れ、空の彼方から物々しい戦艦が墜ちて来た。




 エリーは『駄目で元々』と言ったものの、もし誤解を与えれば彼らと望まぬ戦争になる可能性すらある。そこは何としても避けたい。




「――うーん……どうすれば伝わるんだろう――――ん?」




 グロウが何かに気が付いた。




「……もしかして…………僕の練気チャクラを見てる?」




 ――グロウは、彼らの目がグロウの表情や口元だけでなく、グロウの全身から立ち昇る練気の微妙な色彩や圧などの霊的な何かを見ているらしいことに気が付いた。




 よくよく見れば、始祖民族も見渡す限り全員が練気を纏っている。実に穏やかなエネルギーの流れだ。




「……練気には纏う本人の精神も反映されるはず…………だったら――――」




 ――グロウは意識を集中し、練気を強く練った。目は俄かに碧色に輝き、その全身のオーラに様々な意志が籠るよう念じてみた。




(僕たちは敵じゃない。敵じゃない……創世樹の定めを悪用させないために来たんだ…………戦艦を君たちの地に落としてしまったことは、この通り謝る。だから……今は怪我をした僕たちを助けて欲しい――――)




 グロウは、この幻霧大陸へと至った切なる目的と、助けを乞う意志を込めて練気を大きく立ち昇らせる。




 すると――――




「――――!! ――!! ――――! ――――!!」




 グロウと最前列で交流を試みていた民が、何か感じ取ったようだ。言語は解らないが、大きな声で後ろの民たちに呼び掛ける。




「……ま、まさか……このまま戦闘になったりしねえよな…………? もしこいつらが予想以上に強かったら――――」




 ガイは、敵と誤解させてしまったか、と身構える。




 だが、逃げる間もなく、何人もの先住民族が走ってこちらに向かってくる。




「――やる気か? だが……」




 セリーナは、戦う必要があるならやむを得ない、と大槍を構えようとするが…………。




「こいつら……武器を何も持っていない…………素手で私たちを倒せると思っているのか…………?」




 ――半ば逆上、半ば訝りと言った感覚のセリーナだったが……戦いを始めるつもりなら必ず発するはずの気配――――殺気を全く感じないことに気が付いた。




 先住民族の民の、小柄な子供と見える者が、ガイの近くまで歩み寄り、ガイが不時着の衝撃で切り傷を負った額に手を翳した。そして何やら念じる――




「――何だと……こいつぁ――――」





 ――ガイの紫がかった傷が、碧色の光と共に塞がっていく。




 この子供だけでなく、駆け寄ってきた者たちは次々と怪我人に手を翳し、傷を治していく。




 ――――そう。この民たちは全員が生まれながらに練気使いだったのだ。グロウと同じ、治癒の力を当たり前のように使う…………戦いどころか、彼らは皆手を差し伸べてくれた。




 ガイとセリーナは、闘争に慣れ過ぎていた己を恥じて、表情を緩めながらも舌打ちをするのだった――――
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