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第166話 発進
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――――ゴッシュが聞きつけた情報の『3日後』よりも、ガラテア軍は早くやってきた。およそ1日半だ。
今まさに、何重にも方陣を敷いたガラテア軍の侵攻を、要塞都市・アストラガーロは受けている。
「――――こちらリオンハルト。要塞都市・アストラガーロはさすがに堅牢な守りだ。国の防衛軍だけでなく、冒険者ギルドを通じて強力な冒険者も雇っている。陥落するまでかなりの時間と労苦、人員の命と弾薬を消耗するだろう。各員、命令無しに無謀な突貫は避けられたし。」
「――――こちらアルスリア。了解…………だが、確実にダーリ……いや、『養分の男』はここにいる。今度は一切の容赦はしないよ、グロウ…………そして、アストラガーロの深部には――――」
「――――幻霧大陸より来たりし始祖民族の物と思しき戦艦があると言いましたな。レーダー類にも違和感を感知しています。貴女の『種子の女』としての能力で感知出来ませんか?」
「――――ふふっ……おぼろげながら、だがね。私と『養分の男』に共通する気配は感じるよ。もしそれが動くのだとしたら厄介だ……動き出す前にここで撃墜しておくべきだろうね。」
「……全く。相も変わらず戦場でも気ままに振る舞いなさる。このペースで攻撃を続ければ、要塞都市・アストラガーロとてもちますまい。余計な兵の死傷者を出すまでも無い。くれぐれも貴女の一存で兵に突撃命令など出されませんように。」
「……ふふふふ。善処するとも。以上。」
「……ふん。以上。」
――リオンハルトとアルスリアは、それぞれ別のガラテア軍旗艦に乗って攻略しているが、通信越しでもいつもの通り険悪な雰囲気のままだ。
逐一アルスリアは、片手を掲げて練気を出し、例のグロウにマーキングしたエネルギーの羅針盤を見遣る。羅針盤は激しく明滅し、すぐ近くにグロウがいることを指し示している。
「――――今度は逃がさない。グロウ。君もいい加減私に身も心も委ねるべきなんだ――――。」
――偏愛と妄執に燃えるアルスリアは、なおその禍々しい眼光を鋭くし、恍惚と微笑んだ。
<<
「――やべえぜ、エリー! 奴ら、まさかこんなに予想より早く来やがるとは…………!!」
「――くっそお……もうちょい考えさせてよ……!!」
――アストラガーロは要塞都市の強みを活かし、門を閉めて硬く分厚い壁でガラテア軍の砲撃などに耐えているが、空中からの敵は抑えきれない。ガイとエリーが修羅場でパラシュート部隊や戦闘機からの爆撃と戦いながら、必死にこの国を守る。
「――レーダーの反応も、冒険者ギルドからの情報も正しかった。ただ、ガラテア軍が我々の想像以上に進軍が速かったと言う他はないですね……。」
「――呑気に分析している場合か!! このままだといずれ制圧されるぞ!!」
――テイテツは光線銃改で、セリーナは大槍と練気の龍で戦いながら、ガラテア軍の強兵と凌ぎを削る。
「――どうやら、完璧にこの要塞都市・アストラガーロごと包囲されちまってるみたいっすね――――グロウくん。もうアレしかないっスよ!!」
「――――解ってる。覚悟は決めた――――」
――もはや、手札に残された切り札は1枚しか存在しない。けたたましいサイレンが鳴り響く中、国中への通信で、国主たるゴッシュの声が聴こえて来た――――
「――――エリーたち。そして我らがアストラガーロの国民と冒険者たちよ。もはや時は無く、手段も1つ限りしか無い。大至急、全員手を携えて中央庁舎まで来るのだ。繰り返す。全員、中央庁舎まで来るのだ。」
「――ゴッシュ…………もうそうするしか、ないわよね…………」
「――行くぞ、おめえら!! 戦艦に乗ってここを脱出するんだッ!!」
<<
「――――こちらリオンハルト。要塞都市・アストラガーロ内にいる全人員……国民や役人を含め、冒険者たちも全員が国の中央部へ集結している模様。やはり『戦艦』の存在は確実か……アルスリア中将補佐、ご意見を乞う。」
「――――こちらアルスリア。確実に『養分の男』はこの国の中央庁舎に向かっている。そして中央庁舎の地下から感じるこの気配…………やはり『戦艦』を発進させてこの戦場を離脱しようという作戦で間違いはないようだね――――戦艦はかなりの強度を誇っているかもしれない。中央庁舎を大型瑠爆弾で吹き飛ばして『戦艦』を丸裸にしよう。」
「――馬鹿な。そんなことをすれば無関係の者どころか、『養分の男』すらも――――」
「――はははは、冗談だとも。私がつがいたる『養分の男』グロウ=アナジストンごと殺すことなどするものか。」
「――ちっ…………作戦行動中に部下も見ている中、戯言を申されるな!! 次第によっては軍法会議に掛けますぞ!!」
「――解ってる、解ってる。そうして君が部下の前でいつもの冷静さを欠いて激昂している不格好な様子も、通信で全軍が知っているよ。お父様のヴォルフガング中将閣下にもね。」
「……くっ――――パラシュート部隊全投下完了!! 速やかに中央庁舎を制圧せよ!!」
――そうリオンハルトが号すると同じタイミングで、中央庁舎地下で動きがあった――
「――みんな、戦艦の中に入ったけど…………結局どうすんの!? 動きはするけど、どうやって動かすの!?」
ややパニック気味のエリーだが、ゴッシュは至って冷静にブリッジに向かい、告げた。
「――慌てるな。操舵手ならいる。この私だ――」
「――動力部、出力上昇!! いつでも飛び立てます、『キャプテン』!!」
「――アストラガーロよ。とうとう我々はこの地から離れることになった。この地を捨てることを赦せ――――全員、生きてガラテア軍から逃げ切る!! 戦艦……『フォルテ』発進!!」
――――ゴッシュはそう号令を出し、自ら目の前の巨大な操縦桿を切った――――
今まさに、何重にも方陣を敷いたガラテア軍の侵攻を、要塞都市・アストラガーロは受けている。
「――――こちらリオンハルト。要塞都市・アストラガーロはさすがに堅牢な守りだ。国の防衛軍だけでなく、冒険者ギルドを通じて強力な冒険者も雇っている。陥落するまでかなりの時間と労苦、人員の命と弾薬を消耗するだろう。各員、命令無しに無謀な突貫は避けられたし。」
「――――こちらアルスリア。了解…………だが、確実にダーリ……いや、『養分の男』はここにいる。今度は一切の容赦はしないよ、グロウ…………そして、アストラガーロの深部には――――」
「――――幻霧大陸より来たりし始祖民族の物と思しき戦艦があると言いましたな。レーダー類にも違和感を感知しています。貴女の『種子の女』としての能力で感知出来ませんか?」
「――――ふふっ……おぼろげながら、だがね。私と『養分の男』に共通する気配は感じるよ。もしそれが動くのだとしたら厄介だ……動き出す前にここで撃墜しておくべきだろうね。」
「……全く。相も変わらず戦場でも気ままに振る舞いなさる。このペースで攻撃を続ければ、要塞都市・アストラガーロとてもちますまい。余計な兵の死傷者を出すまでも無い。くれぐれも貴女の一存で兵に突撃命令など出されませんように。」
「……ふふふふ。善処するとも。以上。」
「……ふん。以上。」
――リオンハルトとアルスリアは、それぞれ別のガラテア軍旗艦に乗って攻略しているが、通信越しでもいつもの通り険悪な雰囲気のままだ。
逐一アルスリアは、片手を掲げて練気を出し、例のグロウにマーキングしたエネルギーの羅針盤を見遣る。羅針盤は激しく明滅し、すぐ近くにグロウがいることを指し示している。
「――――今度は逃がさない。グロウ。君もいい加減私に身も心も委ねるべきなんだ――――。」
――偏愛と妄執に燃えるアルスリアは、なおその禍々しい眼光を鋭くし、恍惚と微笑んだ。
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「――やべえぜ、エリー! 奴ら、まさかこんなに予想より早く来やがるとは…………!!」
「――くっそお……もうちょい考えさせてよ……!!」
――アストラガーロは要塞都市の強みを活かし、門を閉めて硬く分厚い壁でガラテア軍の砲撃などに耐えているが、空中からの敵は抑えきれない。ガイとエリーが修羅場でパラシュート部隊や戦闘機からの爆撃と戦いながら、必死にこの国を守る。
「――レーダーの反応も、冒険者ギルドからの情報も正しかった。ただ、ガラテア軍が我々の想像以上に進軍が速かったと言う他はないですね……。」
「――呑気に分析している場合か!! このままだといずれ制圧されるぞ!!」
――テイテツは光線銃改で、セリーナは大槍と練気の龍で戦いながら、ガラテア軍の強兵と凌ぎを削る。
「――どうやら、完璧にこの要塞都市・アストラガーロごと包囲されちまってるみたいっすね――――グロウくん。もうアレしかないっスよ!!」
「――――解ってる。覚悟は決めた――――」
――もはや、手札に残された切り札は1枚しか存在しない。けたたましいサイレンが鳴り響く中、国中への通信で、国主たるゴッシュの声が聴こえて来た――――
「――――エリーたち。そして我らがアストラガーロの国民と冒険者たちよ。もはや時は無く、手段も1つ限りしか無い。大至急、全員手を携えて中央庁舎まで来るのだ。繰り返す。全員、中央庁舎まで来るのだ。」
「――ゴッシュ…………もうそうするしか、ないわよね…………」
「――行くぞ、おめえら!! 戦艦に乗ってここを脱出するんだッ!!」
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「――――こちらリオンハルト。要塞都市・アストラガーロ内にいる全人員……国民や役人を含め、冒険者たちも全員が国の中央部へ集結している模様。やはり『戦艦』の存在は確実か……アルスリア中将補佐、ご意見を乞う。」
「――――こちらアルスリア。確実に『養分の男』はこの国の中央庁舎に向かっている。そして中央庁舎の地下から感じるこの気配…………やはり『戦艦』を発進させてこの戦場を離脱しようという作戦で間違いはないようだね――――戦艦はかなりの強度を誇っているかもしれない。中央庁舎を大型瑠爆弾で吹き飛ばして『戦艦』を丸裸にしよう。」
「――馬鹿な。そんなことをすれば無関係の者どころか、『養分の男』すらも――――」
「――はははは、冗談だとも。私がつがいたる『養分の男』グロウ=アナジストンごと殺すことなどするものか。」
「――ちっ…………作戦行動中に部下も見ている中、戯言を申されるな!! 次第によっては軍法会議に掛けますぞ!!」
「――解ってる、解ってる。そうして君が部下の前でいつもの冷静さを欠いて激昂している不格好な様子も、通信で全軍が知っているよ。お父様のヴォルフガング中将閣下にもね。」
「……くっ――――パラシュート部隊全投下完了!! 速やかに中央庁舎を制圧せよ!!」
――そうリオンハルトが号すると同じタイミングで、中央庁舎地下で動きがあった――
「――みんな、戦艦の中に入ったけど…………結局どうすんの!? 動きはするけど、どうやって動かすの!?」
ややパニック気味のエリーだが、ゴッシュは至って冷静にブリッジに向かい、告げた。
「――慌てるな。操舵手ならいる。この私だ――」
「――動力部、出力上昇!! いつでも飛び立てます、『キャプテン』!!」
「――アストラガーロよ。とうとう我々はこの地から離れることになった。この地を捨てることを赦せ――――全員、生きてガラテア軍から逃げ切る!! 戦艦……『フォルテ』発進!!」
――――ゴッシュはそう号令を出し、自ら目の前の巨大な操縦桿を切った――――
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