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第165話 哀惜
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「――――改めて見ると……すっごい大きいわね…………」
「――――ああ。幻霧大陸からの始祖人類とでも言うべき民族が……その多くが新天地を求めて乗り込んだ方舟なのだ。見えている部分以外にも、かなりの人員が乗れるだけのスペースとパワーがある。」
――エリーとガイは、ゴッシュに断って、改めて戦艦を見に来ていた。
「……これで…………世界中逃げ回れるかしら…………」
「――エリー。」
――――グロウの行く末を、ひいては世界の行く末を案じ、エリーはどこか虚ろな目のままそう呟いた。ガイも思わず痛ましく思いつつも、エリーに言葉を掛ける。
「……まだ本当に逃げ続けることになると決まったわけじゃあねえ。グロウが…………あいつが自分の意志で幻霧大陸へ行きたいって言やあ――――」
「――言わないで。」
「――エリー。前にも何度となく言ったが……これは俺らの問題と言うより、グロウ自身の意志と決断で決める問題だぜ。あいつだって、むざむざガラテアの鳥頭野郎共の好き勝手にさせるつもりはないはずだ。あいつの決断と意志を尊重してやらねえと、それは押し付け――――」
「――やめて! 言わないでっ!!」
――エリーは思わず声を荒らげ、戦艦の前の柵に上半身をへたり込ませて、震えている――――
「…………解ってる…………解ってるよ……そんなことは解ってる…………でも駄目。あたしのあの子への想いが…………感情が納得してくれないの。何百遍も心に言い聞かせてもさ……あの子への愛情が止められないのよ――――」
――もしもグロウが逃げないことを選んだのなら――――否。十中八九、彼は創世樹の意志と本能に従い、幻霧大陸へと向かってしまうだろう。ほぼ確実と言っていい、迫り来る惜別の時。エリーは未だ納得できず、大きく葛藤していた。
「――エリー…………やっぱ……グロウ。あいつとは出逢うべきじゃあなかったかもしれねえな…………。」
「――嘘ばっかり。ガイだってそんなこと1ミリも思ってない癖に。確かにグロウと出逢わなければこんなに苦しまなかった。でもあたしたちはグロウを愛せた。助けられた。何より、一緒に旅出来て楽しかったのよ――――!!」
「………………」
ガイも告げる言葉が浮かばない。黙ってエリーに歩み寄り、静かに抱き寄せた。
「――悲しい……いや、寂しいよな。確かに。俺も最初は、こんな気持ちになるくらいなら突き放して……グロウと共に行かない道を選ぼうとしてた。だが…………あいつはもうただのかつてのグロウのそっくりさんでも、ましてや単なるガキでもねえ。仲間だ。俺たちは…………束の間とはいえ、もう一度だけ……弟分を手に入れられたんだよ。それ自体は決して悪いことじゃあなかったはずだぜ――」
「――ううっ……うっ…………うっ…………」
――ガイの胸の中ですすり泣くエリー。ガイはただただエリーを抱きとめ、頭を撫でて慰めていた。
「――よしよし……前にも言ったが…………これが今生の別れとは限らねえ。創世樹が起こす世界システムなんざ、本当のところ何がどうなるかなんてわかりゃあしねえんだ。わかってたまるもんかよ。例えグロウと離れても、きっと希望はある…………離れていても、きっとお互い生きていけるさ。」
――確証の無い言葉。しかし、ガイにエリーを慰め、励ませることなどこれくらいしかなかった。確証の無い、おぼろげな希望。それに縋るしかないのだろうか。
「――それに、な。一緒にいるのは、俺じゃあ駄目か…………? グロウが離れても、俺はここにいる。俺はエリーと共に在るし、おめえを幸せにするまではもう二度と離れてたまるか。なあ……それでいいだろ…………? いつか授かる、俺たちの子が……きっと新たな希望だぜ。」
「………………。」
――愛する恋人の愛の言葉と温もりに、エリー自身も己の涙を拭い去ろうとする。
だが、この場にいて、沈痛な想いをしている者は、もう1人――――
「………………。」
――エリーとガイが戦艦に向かったと聞いて後をついてきたグロウ。立ち聞きするつもりは無かったが、エリーとガイの切なる想いを聞き、すんなりとその場に踏み込むことが出来なかった。
「――――エリー。ガイ。残念だが、お前たちには決断に悩んでいる時間は、あまりない――――」
「――えっ?」
「――何だと?」
しばらく遠巻きに見ていたゴッシュが、いつもと変わらぬ鉄面皮で2人に告げる。
「――ギルドからの連絡網でついさっき知った。3日後にガラテア軍が攻めて来る。『反ガラテア勢力を滅ぼす』ことは建前だろうが、目的はこの戦艦の接収か……それとも――――そこにいるグロウを再び狙っているのか。3日後までには決めねばならん。さもなくば、我々は皆死ぬだろう――――」
「――――3日後!?」
「――グロウ…………。」
「――いたのか…………。」
――――逃げるにせよ、運命に従うにせよ、戦艦を以てこの地を離れなければ、また多くの命が失われる。
グロウは両の拳を握って葛藤し続けていたが――――是も非もない状況に決意を固め、凛々しいその顔を上げた――――
「――――ああ。幻霧大陸からの始祖人類とでも言うべき民族が……その多くが新天地を求めて乗り込んだ方舟なのだ。見えている部分以外にも、かなりの人員が乗れるだけのスペースとパワーがある。」
――エリーとガイは、ゴッシュに断って、改めて戦艦を見に来ていた。
「……これで…………世界中逃げ回れるかしら…………」
「――エリー。」
――――グロウの行く末を、ひいては世界の行く末を案じ、エリーはどこか虚ろな目のままそう呟いた。ガイも思わず痛ましく思いつつも、エリーに言葉を掛ける。
「……まだ本当に逃げ続けることになると決まったわけじゃあねえ。グロウが…………あいつが自分の意志で幻霧大陸へ行きたいって言やあ――――」
「――言わないで。」
「――エリー。前にも何度となく言ったが……これは俺らの問題と言うより、グロウ自身の意志と決断で決める問題だぜ。あいつだって、むざむざガラテアの鳥頭野郎共の好き勝手にさせるつもりはないはずだ。あいつの決断と意志を尊重してやらねえと、それは押し付け――――」
「――やめて! 言わないでっ!!」
――エリーは思わず声を荒らげ、戦艦の前の柵に上半身をへたり込ませて、震えている――――
「…………解ってる…………解ってるよ……そんなことは解ってる…………でも駄目。あたしのあの子への想いが…………感情が納得してくれないの。何百遍も心に言い聞かせてもさ……あの子への愛情が止められないのよ――――」
――もしもグロウが逃げないことを選んだのなら――――否。十中八九、彼は創世樹の意志と本能に従い、幻霧大陸へと向かってしまうだろう。ほぼ確実と言っていい、迫り来る惜別の時。エリーは未だ納得できず、大きく葛藤していた。
「――エリー…………やっぱ……グロウ。あいつとは出逢うべきじゃあなかったかもしれねえな…………。」
「――嘘ばっかり。ガイだってそんなこと1ミリも思ってない癖に。確かにグロウと出逢わなければこんなに苦しまなかった。でもあたしたちはグロウを愛せた。助けられた。何より、一緒に旅出来て楽しかったのよ――――!!」
「………………」
ガイも告げる言葉が浮かばない。黙ってエリーに歩み寄り、静かに抱き寄せた。
「――悲しい……いや、寂しいよな。確かに。俺も最初は、こんな気持ちになるくらいなら突き放して……グロウと共に行かない道を選ぼうとしてた。だが…………あいつはもうただのかつてのグロウのそっくりさんでも、ましてや単なるガキでもねえ。仲間だ。俺たちは…………束の間とはいえ、もう一度だけ……弟分を手に入れられたんだよ。それ自体は決して悪いことじゃあなかったはずだぜ――」
「――ううっ……うっ…………うっ…………」
――ガイの胸の中ですすり泣くエリー。ガイはただただエリーを抱きとめ、頭を撫でて慰めていた。
「――よしよし……前にも言ったが…………これが今生の別れとは限らねえ。創世樹が起こす世界システムなんざ、本当のところ何がどうなるかなんてわかりゃあしねえんだ。わかってたまるもんかよ。例えグロウと離れても、きっと希望はある…………離れていても、きっとお互い生きていけるさ。」
――確証の無い言葉。しかし、ガイにエリーを慰め、励ませることなどこれくらいしかなかった。確証の無い、おぼろげな希望。それに縋るしかないのだろうか。
「――それに、な。一緒にいるのは、俺じゃあ駄目か…………? グロウが離れても、俺はここにいる。俺はエリーと共に在るし、おめえを幸せにするまではもう二度と離れてたまるか。なあ……それでいいだろ…………? いつか授かる、俺たちの子が……きっと新たな希望だぜ。」
「………………。」
――愛する恋人の愛の言葉と温もりに、エリー自身も己の涙を拭い去ろうとする。
だが、この場にいて、沈痛な想いをしている者は、もう1人――――
「………………。」
――エリーとガイが戦艦に向かったと聞いて後をついてきたグロウ。立ち聞きするつもりは無かったが、エリーとガイの切なる想いを聞き、すんなりとその場に踏み込むことが出来なかった。
「――――エリー。ガイ。残念だが、お前たちには決断に悩んでいる時間は、あまりない――――」
「――えっ?」
「――何だと?」
しばらく遠巻きに見ていたゴッシュが、いつもと変わらぬ鉄面皮で2人に告げる。
「――ギルドからの連絡網でついさっき知った。3日後にガラテア軍が攻めて来る。『反ガラテア勢力を滅ぼす』ことは建前だろうが、目的はこの戦艦の接収か……それとも――――そこにいるグロウを再び狙っているのか。3日後までには決めねばならん。さもなくば、我々は皆死ぬだろう――――」
「――――3日後!?」
「――グロウ…………。」
「――いたのか…………。」
――――逃げるにせよ、運命に従うにせよ、戦艦を以てこの地を離れなければ、また多くの命が失われる。
グロウは両の拳を握って葛藤し続けていたが――――是も非もない状況に決意を固め、凛々しいその顔を上げた――――
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