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第153話 克つための挑戦
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――――露天風呂でのやや狂宴じみたはしゃぎ方をしてから一夜明け、昨日と同じく壁に囲われている為薄暗い朝を迎えているエリー一行。
エリーとガイは、先の研究所での救出作戦以来離別の苦しみを味わったことが尾を引いているのか、ベタベタと絡み合ってしまうことが多くなってしまっていたが……今後待ち受けているかもしれない苦難を思えばいつまでも睦み合っているわけにもいかない。エリー、ガイ、グロウ、そしてセリーナは早朝のうちから日課のトレーニングと練気《チャクラ》を練る訓練をしていた。
だが、そんな一行でひと際奮い立っている者がいた――――
「――――テイテツさん、さっきの動力部を基にしたシミュレーション動画、見せてくださいッス。」
「――はい。安定して稼働している状態ならばまだ良いのですが…………」
――傍でイロハの設計する『黒風』のレーシング用への改造の計算などをアシストしているテイテツ。動力部から見直した新たな改造バイクの駆動シミュレーション動画を端末から見せるが――――
「――――むうう~……やっぱこのまま稼働していればまだ安全っスけど……実際のレースでは外部から沢山の刺激に晒されるっスからねえ~……高速で走ることによる風圧、かかるG、そんで他のレーサーからの攻撃――――」
――2人の危惧する通り、今現在の動力部ならば速く疾走することが可能だが、シミュレーション動画を見れば、外部からの様々な圧が掛かると…………『黒風』は安定した走行を失い、無惨に爆発四散する……という結果を予見していた。
「――こうなれば、動力を多少弱めると同時に……外圧や攻撃に備える為、装甲を強化するのが得策では――――」
「――いや、動力部は弱めないっス。それに、装甲を強化するなら外部からではなく、動力部の稼働に耐えられるだけの……内圧に耐える為の装甲っスね!」
「……え? しかし……それでは速さと小回りはともかく、操縦するイロハ……貴女への安全性が…………」
――危険な改造のディレクションに、珍しくテイテツも心配するような素振りを見せた。だが、イロハは臆せず健啖を吐く。
「任せて欲しいっス!! 敵の攻撃を受けるなら、避ければいいんス!! 外圧が掛かるなら、ウチ自身の耐久力《フィジカル》で持ち堪えて見せるっス!! それに……」
「……それに?」
「――工夫出来ることは他にもあるっス!! 風圧やGを軽減する形状、パワーを落とさずに最後までフルスピードで走り切れるだけの燃料の合成。細かいパーツを1ミリでも加工して小回りや柔軟性を上げる。あと、タイヤとホイールも素材から見直すことが出来るっスね!!」
――己の生命の危険は多少度外視してでも、『黒風』の機動性を高めるあらゆる工夫を提示する。素材から組み上げられるだけでもかなり高等なことだが……それ以上に実に本番において豪胆な精神性で改造を手掛けるイロハ。その創造性と心身の強さは、テイテツの予想すら超えていた。
「――――ふむ。そうですか…………ならば……後方と正面。この2点に特に圧が掛かることが予想されます。ここを……このように形状を変えれば、少しでも外圧を逃がしつつ、内圧にも耐えるボディに出来るのでは?」
「――おおっ!! それ採用っス!! いただきっスねえー!! にひひひひ。となると次は燃料を調合することからっスねえ――――」
――――忌憚のない意見と専門的な知見からなる提案をし合い、イロハはテイテツと共におよそ6日後に迫っているあのコロッセオ……要塞都市・アストラガーロの中心部に近い位置にある円形闘技場で繰り広げられるであろうレーシング勝負へ調整を進めていく。
「――ふうーっ…………俺らにはこうやって日課の鍛練を怠らないことと、買い出しを頼まれる程度しか出来ねえが…………やっぱイロハ、自分が主に戦うとなってビビるどころかあんなに積極的に改造を進めていくたぁな……専門外の俺ら、入り込める余地ねえよ。」
「――一生懸命なのは、テイテツも一緒だよー。いっくら何でもありなイロハちゃんでも、この短期間に大会で勝てるようなバイクに仕上げるなんて無理あるもん。少しでも仲間の安全を思うからこそ計算とか協力してるのよ、きっと……」
「……どうだかな。テイテツ……あいつに本当に仲間の死を恐れる心があるか、疑わしいものだ。」
「――ちょっとセリーナ! そんな言い方しなくっても……」
「――それに…………いくらイロハでも、あれはしっかりと恐怖しているはずだ。練気を目に集中してよく視てみろ。」
「――えっ…………ホントだ。表情からわかんないけど、あの練気の揺らぎはマジだわ…………」
――普段通り、元気いっぱいに振る舞い、為すべきことを為そうとするイロハだが…………感情のエネルギーがダイレクトに出る練気をよく見れば――――練気発動サプリを使っていない状態でも解るほどに、イロハの背に立ち昇る練気は、不安と恐怖で揺らいでいた。
生命を懸けた挑戦で、恐怖心を捨てることが出来ればどれほど楽だろうか。
だが、ここにいる全員が知っていた。
人は恐怖心をしっかりと受け入れ、危険を知り、可能な限り回避し、その上で己に克つことで限界を超えたパフォーマンスが初めて出来ることを。トップアスリートや格闘家、冒険家に通ずる精神だ。
あるいは、恐怖心を振り払う為に、イロハは懸命に自分主体で改造を進めたいのだろう。自分の目と手で少しでも勝利と生還を手繰り寄せ――――何かあっても己の実力不足だと納得して事に挑みたいのだ。
「――――エリーさんたち~っ!! 朝のトレーニング、そろそろ終わりっスよねー!? ちょっと、またすんませんけど買い物してきて欲しいっスー!!」
「――そらまた来た。しゃあねえ。俺らだけでも、ましてやイロハだけでもこの勝負には勝てねえかもしれねえ――――ここでも俺らが団結しなくっちゃあな。」
「了解っ!!」
「それこそ、仲間の為だな……」
「あと6日。僕らみんなで頑張ろうよ!!」
――――単なる戦闘や、極地を拓くこととはまた違う、迫り来る冒険。イロハをはじめ、一行は勝利の為に――――何としても『戦艦』を得る為にさらなる団結を固めていった――――
エリーとガイは、先の研究所での救出作戦以来離別の苦しみを味わったことが尾を引いているのか、ベタベタと絡み合ってしまうことが多くなってしまっていたが……今後待ち受けているかもしれない苦難を思えばいつまでも睦み合っているわけにもいかない。エリー、ガイ、グロウ、そしてセリーナは早朝のうちから日課のトレーニングと練気《チャクラ》を練る訓練をしていた。
だが、そんな一行でひと際奮い立っている者がいた――――
「――――テイテツさん、さっきの動力部を基にしたシミュレーション動画、見せてくださいッス。」
「――はい。安定して稼働している状態ならばまだ良いのですが…………」
――傍でイロハの設計する『黒風』のレーシング用への改造の計算などをアシストしているテイテツ。動力部から見直した新たな改造バイクの駆動シミュレーション動画を端末から見せるが――――
「――――むうう~……やっぱこのまま稼働していればまだ安全っスけど……実際のレースでは外部から沢山の刺激に晒されるっスからねえ~……高速で走ることによる風圧、かかるG、そんで他のレーサーからの攻撃――――」
――2人の危惧する通り、今現在の動力部ならば速く疾走することが可能だが、シミュレーション動画を見れば、外部からの様々な圧が掛かると…………『黒風』は安定した走行を失い、無惨に爆発四散する……という結果を予見していた。
「――こうなれば、動力を多少弱めると同時に……外圧や攻撃に備える為、装甲を強化するのが得策では――――」
「――いや、動力部は弱めないっス。それに、装甲を強化するなら外部からではなく、動力部の稼働に耐えられるだけの……内圧に耐える為の装甲っスね!」
「……え? しかし……それでは速さと小回りはともかく、操縦するイロハ……貴女への安全性が…………」
――危険な改造のディレクションに、珍しくテイテツも心配するような素振りを見せた。だが、イロハは臆せず健啖を吐く。
「任せて欲しいっス!! 敵の攻撃を受けるなら、避ければいいんス!! 外圧が掛かるなら、ウチ自身の耐久力《フィジカル》で持ち堪えて見せるっス!! それに……」
「……それに?」
「――工夫出来ることは他にもあるっス!! 風圧やGを軽減する形状、パワーを落とさずに最後までフルスピードで走り切れるだけの燃料の合成。細かいパーツを1ミリでも加工して小回りや柔軟性を上げる。あと、タイヤとホイールも素材から見直すことが出来るっスね!!」
――己の生命の危険は多少度外視してでも、『黒風』の機動性を高めるあらゆる工夫を提示する。素材から組み上げられるだけでもかなり高等なことだが……それ以上に実に本番において豪胆な精神性で改造を手掛けるイロハ。その創造性と心身の強さは、テイテツの予想すら超えていた。
「――――ふむ。そうですか…………ならば……後方と正面。この2点に特に圧が掛かることが予想されます。ここを……このように形状を変えれば、少しでも外圧を逃がしつつ、内圧にも耐えるボディに出来るのでは?」
「――おおっ!! それ採用っス!! いただきっスねえー!! にひひひひ。となると次は燃料を調合することからっスねえ――――」
――――忌憚のない意見と専門的な知見からなる提案をし合い、イロハはテイテツと共におよそ6日後に迫っているあのコロッセオ……要塞都市・アストラガーロの中心部に近い位置にある円形闘技場で繰り広げられるであろうレーシング勝負へ調整を進めていく。
「――ふうーっ…………俺らにはこうやって日課の鍛練を怠らないことと、買い出しを頼まれる程度しか出来ねえが…………やっぱイロハ、自分が主に戦うとなってビビるどころかあんなに積極的に改造を進めていくたぁな……専門外の俺ら、入り込める余地ねえよ。」
「――一生懸命なのは、テイテツも一緒だよー。いっくら何でもありなイロハちゃんでも、この短期間に大会で勝てるようなバイクに仕上げるなんて無理あるもん。少しでも仲間の安全を思うからこそ計算とか協力してるのよ、きっと……」
「……どうだかな。テイテツ……あいつに本当に仲間の死を恐れる心があるか、疑わしいものだ。」
「――ちょっとセリーナ! そんな言い方しなくっても……」
「――それに…………いくらイロハでも、あれはしっかりと恐怖しているはずだ。練気を目に集中してよく視てみろ。」
「――えっ…………ホントだ。表情からわかんないけど、あの練気の揺らぎはマジだわ…………」
――普段通り、元気いっぱいに振る舞い、為すべきことを為そうとするイロハだが…………感情のエネルギーがダイレクトに出る練気をよく見れば――――練気発動サプリを使っていない状態でも解るほどに、イロハの背に立ち昇る練気は、不安と恐怖で揺らいでいた。
生命を懸けた挑戦で、恐怖心を捨てることが出来ればどれほど楽だろうか。
だが、ここにいる全員が知っていた。
人は恐怖心をしっかりと受け入れ、危険を知り、可能な限り回避し、その上で己に克つことで限界を超えたパフォーマンスが初めて出来ることを。トップアスリートや格闘家、冒険家に通ずる精神だ。
あるいは、恐怖心を振り払う為に、イロハは懸命に自分主体で改造を進めたいのだろう。自分の目と手で少しでも勝利と生還を手繰り寄せ――――何かあっても己の実力不足だと納得して事に挑みたいのだ。
「――――エリーさんたち~っ!! 朝のトレーニング、そろそろ終わりっスよねー!? ちょっと、またすんませんけど買い物してきて欲しいっスー!!」
「――そらまた来た。しゃあねえ。俺らだけでも、ましてやイロハだけでもこの勝負には勝てねえかもしれねえ――――ここでも俺らが団結しなくっちゃあな。」
「了解っ!!」
「それこそ、仲間の為だな……」
「あと6日。僕らみんなで頑張ろうよ!!」
――――単なる戦闘や、極地を拓くこととはまた違う、迫り来る冒険。イロハをはじめ、一行は勝利の為に――――何としても『戦艦』を得る為にさらなる団結を固めていった――――
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