創世樹

mk-2

文字の大きさ
上 下
149 / 223

第148話 太古の戦艦

しおりを挟む
 ――――クリムゾンローズ盗賊団との戦いの後。もう夜はとっくに明けていた。暁の空がしらじらと要塞都市・アストラガーロの朝の風景を照らしていた。四方を壁に囲まれている要塞都市ならでは、薄暗い朝の風景だ。



 あちこちに放火された後だったが、緊急時に対応出来るよう訓練された国中の警備、数多の修羅場を潜りぬけて来た百戦錬磨の冒険者たち、そしてどんな時でも冷静に的確な指示を出せる優秀な役人たち――――敵味方双方の読み通り練度の高い人々によって、被害は最小限に抑えられていた。あちこちに焦げ跡などが残るが、建物などは焼け落ちず。ほんの少し土建業者や塗装業者などがやる気を出せばすぐに修復出来そうな程度である。




 エリーたちは一旦宿へ戻り、食堂で朝食を取りながら……国長である『キャプテン』ことゴッシュの名刺とチケットを確認していた。




「――――あのおっさん、マジでここの国長なんだろうな、テイテツ? 実はあいつもクリムゾンローズ盗賊団とグルで俺らを騙そうとしてんじゃあねえのか?」



「――それはないです。要塞都市・アストラガーロの国主・ゴッシュ=カヤブレー。年齢、体格、名前……そしてこの名刺とチケットに捺印されている判子と署名の筆跡。間違いなく本人の物です。」




 ――テイテツがあらゆる信頼出来るサイトや資料を閲覧し、彼が本物の国主であることを保証した。



「……マジかよ。こりゃあ……ラッキーと見ていいのか、それとも何か裏があると見ていいのか――――」




 ガイは朝食のパンを齧りながら、チケットを手に取り字を見遣る。





『――――要塞都市・アストラガーロに来たりし勇敢なる戦士の挑戦を乞う!! アストラガーロ公式闘技大会・プレミアムチケット。命を懸けて戦う者を称え、勝者には【宝】を与えん――――』




 ――事はクリムゾンローズ盗賊団を追い払った後、数時間前に遡る――――




 <<




「――君たちの勇猛果敢な戦いぶり。実に気に入った。もしかしたら……君たちこそが、そのチケットで大会に出るべき真の勇者なのかもしれん。だから私が特別に招待しよう。命を懸けて戦う覚悟があるのなら、1週間後の定例大会にそれを持って是非挑戦してくれ。」




 ――証券に関わる書類を読むのは朝飯前なイロハ。チケットの表裏を確認したり、回転させたり、灯にかざしてみたり……何か変わった点はないか確認した後、唸る。




「――う~むう? 闘技大会っつって書いてるッスけど……具体的にはどんな大会なんス? それに『宝』って具体的に何なんスか? ウチら、目的があってここまで来てて……そんな不透明な大会とやらに出てる暇ないっスよ?」




 『闘技大会』とやらの概要を国主たるゴッシュに問う。




「――すぐには信じられないか? まあ、警戒するのも無理はないな。宝というのは……恐らくは君たちが探し求めている物だ――――国中で聴きまわっていた、『戦艦』を進呈しようではないか。」




「――え!! マジマジ!? ホントにこの国に……『戦艦』あったの!?」



 俄かに声を上げて喜ぶエリー。



「――待って待って待って待って、ノー、ノー、ノー……それ、聞き込みしてたウチらの動向を密かに探ってたって事っスよね? 『戦艦』も実際に動く物か怪しいもんス。もっと信頼に足る情報と証拠をくれないと――」




 しかし、イロハはそれだけでは承服しない。確信が持てるまでイエスとは言わない。ゴッシュはどこか満足そうに口角を少し上げて喜び、答える。




「――その慎重さ。安い話には乗らない堅実さ…………実に冒険者らしい振る舞いだ。ますます気に入った――――いいだろう。日が昇って10:00ちょうどに、もう一度中央庁舎に来たまえ。そこの地下深くに『戦艦』は置いてある。君たちの命を懸けるに足る代物か……君たち自身の目で確かめてみろ――――」




 そう言い残して、ゴッシュは帰っていった――――




 <<




「――――あのゴッシュとかいうおっさん、マジで言ってんだろうかな? 本当に俺らが探してる『戦艦』なんて、あると思うか?」



 ――ガイは朝食を平らげながら、なお訝しんでいた。




「――むうううん……あれだけあちこちでウチらが『戦艦』の手掛かりについて調べまわってたのを知ってんのなら……モノはあると思うんスけどねえ。やっぱ、この目で見ないことには何とも言えないっス。単なるドでかい骨董品でしたってオチもありそうだし。」




「――それを確かめる為に、この後行くんだろう、中央庁舎に。どれほどの物か知らんが、確かめなければ何も始まらんだろう。」




 ――朝食の席には、久々に合流したセリーナもいた。




「そうよね、セリーナ! ガイ。やっぱ行ってみないとわかんないよ!!」




「――むう……やっぱそうなるよな。奴が信頼に足る野郎か、確かめることにもなる。だが今の時点じゃあ本当にまともな国主でまともな『宝』なんてあるのかわかんねえ。おめえら、危険な戦場に入り込むぐらい警戒していけよ――――」




 ――そうガイが一行に注意を促したのち、やがて国の中心部の庁舎へと足を向けた――――




 <<




 <<




「――――こっ……こいつは――――!!」



「――驚くか。無理もないだろう。これはガラテアの支配から守り続け……太古の昔の人類の遺産だからな。幻霧大陸に住まう先住民が作ったとされる――――」




 ――最大限警戒して向かった一行だったが、受付の人にゴッシュ=カヤブレーの名を出し、名刺とチケットも見せるとあっさりと国主の執務室に通され……そのさらに奥にある厳重なエレベーターを下り、照明を点けると――――そこにあったのは確かに『戦艦』だった。




 素材はまるで解らないが、ところどころにゴツゴツとした鉄骨が張り巡らされ、巨大な大砲や機銃を搭載し、宙を飛ぶブースターのような機構も見える。何百人もの人員を乗せて荒波を、そして天空を駆けることが出来てもむしろ不思議ではない、と思ってしまうほどの威容を誇っていた。一行はただただ口をあんぐりと開ける。




「――我々アストラガーロと冒険者たちが絶えずこの戦艦ふねをメンテナンスして来た努力もあって、コンディションは最高の状態を保っている。コンソールを動かせるエンジニアや操舵手もいる。ただし――――」




「――ただし……何だ!?」



 ガイがやや興奮気味に問う。




「――どうやらこの戦艦は、乗る者を選ぶようなのだ……動力部も燃料も生きていて何が最適か解ってはいるのだが……核となるエンジンを稼働させるには起動キーが要る――――膨大な練気チャクラを当てることで起動するのだが……」




 ゴッシュは戦艦の中心部へと踏み込み、一行に心臓部を見せる。




「――ここで練気を集中すれば、幻霧大陸へと選ばれし民だと戦艦が認め……起動するのだ。我々が何人もの有望な練気使いを試してみたが、ほんの少ししか反応を示さなかった……」




「――これ、は…………僕、『知ってる』よ――――」




「――――何? 少年よ、まさか――――」




 ――その時。俄かにグロウの目に碧色の光が灯り始めた。目の前の戦艦の『核』に反応しているように見える――――



「――おい、グロウ、まさか……」


「出来るの!? わあ、やってみ! やってみ!!」



 エリーが促し、心臓部に向け、グロウは練気を集中した――――



「――ふううううう…………」




 ――グロウの碧色の美しい練気の輝きが増していくと――――





「――本当だ!! 動くぞ――――!!」




 ――――グロウの練気に反応し、謎のオーパーツたる戦艦の心臓部も碧色の光を帯び、動力が稼働し始めた――――グロウこそ起動キーだったのだ――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Storm Breakers:第一部「Better Days」

蓮實長治
SF
「いつか、私が『ヒーロー』として1人前になった時、私は滅びに向かう故郷を救い愛する女性を護る為、『ここ』から居なくなるだろう。だが……その日まで、お前の背中は、私が護る」 二〇〇一年に「特異能力者」の存在が明らかになってから、約四十年が過ぎた平行世界。 世界の治安と平和は「正義の味方」達により護られるようになり、そして、その「正義の味方」達も第二世代が主力になり、更に第三世代も生まれつつ有った。 そして、福岡県を中心に活動する「正義の味方」チーム「Storm Breakers」のメンバーに育てられた2人の少女はコンビを組む事になるが……その1人「シルバー・ローニン」には、ある秘密が有った。 その新米ヒーロー達の前に……彼女の「師匠」達の更に親世代が倒した筈の古き時代の亡霊が立ちはだかる。 同じ作者の別の作品と世界設定を共有しています。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

恋するジャガーノート

まふゆとら
SF
【全話挿絵つき!巨大怪獣バトル×怪獣擬人化ラブコメ!】 遊園地のヒーローショーでスーツアクターをしている主人公・ハヤトが拾ったのは、小さな怪獣・クロだった。 クロは自分を助けてくれたハヤトと心を通わせるが、ふとしたきっかけで力を暴走させ、巨大怪獣・ヴァニラスへと変貌してしまう。 対怪獣防衛組織JAGD(ヤクト)から攻撃を受けるヴァニラス=クロを救うため、奔走するハヤト。 道中で事故に遭って死にかけた彼を、母の形見のペンダントから現れた自称・妖精のシルフィが救う。 『ハヤト、力が欲しい? クロを救える、力が』 シルフィの言葉に頷いたハヤトは、彼女の協力を得てクロを救う事に成功するが、 光となって解けた怪獣の体は、なぜか美少女の姿に変わってしまい……? ヒーローに憧れる記憶のない怪獣・クロ、超古代から蘇った不良怪獣・カノン、地球へ逃れてきた伝説の不死蝶・ティータ── 三人(体)の怪獣娘とハヤトによる、ドタバタな日常と手に汗握る戦いの日々が幕を開ける! 「pixivFANBOX」(https://mafuyutora.fanbox.cc/)と「Fantia」(fantia.jp/mafuyu_tora)では、会員登録不要で電子書籍のように読めるスタイル(縦書き)で公開しています!有料コースでは怪獣紹介ミニコーナーも!ぜひご覧ください! ※登場する怪獣・キャラクターは全てオリジナルです。 ※全編挿絵付き。画像・文章の無断転載は禁止です。

セブンス・ヘブンズ・オーソリティ -SEVENTH HEAVEN'S AUTHORITY-

ヴァルヴィリヤ=B=リースフェルト
ファンタジー
 とある北欧の小さな村に住む少年は、幼き頃より類まれなる魔法の才覚を備えていた。ところがある日、神様の実験台に選ばれた彼は、この世界の<主人公>にされてしまう。  神々の緞帳の向こうに隠されたこの世界の綻びを解き明かすべく、彼は魔法研究のために高等学院へ通うことになる。そこで沢山の仲間と出会っていく中で、彼と同じように天啓を受けた一人目の<登場人物>を見つける。  そして彼は初めて神様の課題を知る。 『世界はあと五年で崩壊する。七人の賢者で世界を救え』と。  神様の課題に立ち向かう選ばれし開拓者(スティリスタ)たち――七人の賢者。  どうすれば世界の崩壊を食い止めることができるのか、世界の理そのものに抗うべく、魔法の成り立ちや仕組みを科学的・化学的に解明し、彼がたどり着いた答えは――想像を遥かに超える、まさに驚愕すべき世界の真実が明らかになる。  魔法とは一体何なのか。  神様とは一体何なのか。  世界とは一体何なのか。  身を滅ぼしかねないほど知的好奇心の旺盛過ぎる少年と、その個性的過ぎる仲間たちによる、魔法と理系(とロマンス)が交錯する稀代の北欧ハイファンタジー冒険譚。  世界の秘密を知ってしまった少年たちの末路や如何に。 『さあ、君の世界をはじめよう』  今、未曾有の伝説が始まろうとしている――

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。 第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

処理中です...