創世樹

mk-2

文字の大きさ
上 下
131 / 223

第130話 逃亡の方舟

しおりを挟む
「――――まさか…………ここまで大きな話だなんて…………」



「……こりゃあ…………俺らの安住の地とかパラダイスとか言ってる場合じゃあなくなったな……」




 ――グロウ、そしてテイテツとイロハの3人から、創世樹に関する世界の真実を聞かされ、愕然とするエリーとガイ。昨晩までおぼろげながら夢想していた、幻霧大陸に移り住んで静かに暮らす……という希望から遠ざかり、現実へ引き戻され、醒めたような気分になった。




「??? パラダイス? なんスか、それ?」




「いっいや、気にしないで。何でもないことだから……」




「――まあ、いいっス。エリーさんとガイさんのお2人さんがのんびりイチャコラしてる間に、テイテツさんと一緒にガラテア軍の軍事機密についてのデータを洗っていたっス。」




「――グロウがアルスリアから聞かされたという……この創世樹をキーにした『養分の男』と『種子の女』を二柱とする世界システムに関する情報は、実に97.8%が一致しています。まず間違いないでしょう。」





 ――機密情報には難解な語句や計算式、さらには暗号などが使われていたはずだが、さすがにテイテツとイロハ。朝から頭脳をフル回転させ、情報を解析していた。





「連中の狙いは、ただの幻霧大陸に新天地を求めるだけじゃあないっス。創世樹に宿るとされる莫大なエネルギーを資源として我が物とする他、どうやら創世樹が記憶しているこの星の生命体の情報を読み取って……全人類が何の障害もマイナス要因も無い新人類として進化させることにあるらしいっス。あらゆる生命体の持つ特長のプラスとなる部分をより集めて、全人類が+100にも+1000にもなる強大な力を生まれながらに持っているような人間を量産する――――科学者が玩具まがいに遺伝子情報を掛け合わせて産み出す合成獣キマイラとはわけが違う…………と同時に、かなりイカれた理念っスね。」




 イロハはガラテアの狙いを理解し、朝からその明晰な頭脳をフル回転したこと以上に、ガラテアの理念の異常さに頭痛と不快感を催した。




「――確かに、人為的とは言え、+1000もの能力を生まれながらに持っている人類とやらが誕生すれば、この混沌とした世界情勢も大きく変化するでしょう。ともすれば、ガラテアの理想通り……何の弱点も無い無敵の生命体へと――――ですがガラテアは、そこへ至るまでの犠牲者の屍の数と……流される血と涙を勘定に入れてはいない。『養分の男』と『種子の女』が創世樹内部で起こす突然変異インパクトで一気に……この世界の人間を含む生命体を作り変えてしまうわけです。それも、恐らくはガラテアの都合の良い命を選別して、他の『劣っている』と見られる命を刷新進化アップデートされた後には消し去ってしまうのでしょう――――人類史上空前絶後の選民思想と、大量虐殺と言っていいでしょう。」




 ――ガラテア帝国の目的を理解し、テイテツとイロハの口を通じて明らかになっていくこの世にあらん限りの暴虐。一行は戦慄した。




「――そんな…………じゃあ、グロウが幻霧大陸に行って……あのアルスリアと一緒になって……そしたら、世界中の人がどうにかなっちゃうってこと!?」




「――無茶苦茶だぜ。国家ぐるみの陰謀がこれたア、正気の沙汰とはとても思えねえな…………」




 ガイがそう呟くと同時に、エリーはグロウに駆け寄り、両肩を掴んで声を掛ける。





「――――グロウ! 逃げよう!! あんたの生命と力で…………そんな馬鹿げた計画に利用させちゃ、絶対駄目!!」




「………………」




 ――これほど多くの犠牲を払う所業を目の前にしてもなお、グロウの心は揺れていた。





「――――確かに…………ガラテア帝国が狙うようなことには、絶対なっちゃ駄目だと思う……」



「――でしょ!? だったら――――」




「――でも、あの人…………アルスリアと一緒になって、創世樹からこの星が刷新進化されることそのものはこの世界の仕組みだし、それが僕の使命だと思う…………」




「――!! グロウ…………あんた――――」




「落ち着け、エリー。世界中の人が犠牲になるかもしれねエ。その作戦の反吐が出るほどの異常性はグロウも解ってる。ってことは……グロウ。おめえなりに抗う術はあるってことだよな…………?」




 ――ガラテアの狙い通りに事が進むとしたら、どう考えても看過できない悪逆非道。なれば、グロウにも抵抗する方法はあるはず。





「――もしこのまま創世樹へ辿り着いて生命の刷新進化が起きるとしても…………そこには僕とアルスリアの意志が関わってくるはずなんだ。刷新進化自体が起こるとしても…………これまで通り、良い人も悪い人も共に生きる、平常通りの世界を維持できるかもしれない。」






 ――刷新進化自体は止められないが、そこでグロウが意志力を持って抵抗すれば、全人類がガラテアの都合の良い様に作り変えられることなく、これまでとそう変わらない世界を再創造出来るかもしれない。




 ――だが、エリーは――――




「……だからって…………その刷新進化とやらを終えたら……グロウはどうなっちゃうの!? 世界の為に人柱になれっての!? 何が『使命』よ!! そんなのあたしは――――とても受け入れられないわ!!」





 ――最もグロウへの愛着が強いエリーのこと。グロウを世界システムの贄として差し出すことなど、到底受け入れられるはずもなかった。思わず独り、背を向けて両肩を震わせる。




「――――グロウの言う通り、創世樹の世界システムに従い、グロウの意志に賭けるというのもひとつの手です――――そして、エリーが望むようにガラテアと、グロウ自身の『使命』から逃げ続けることもひとつの手として可能性はあります。」




「――えっ!?」



「――どういうこった、テイテツ。詳しく聴かせろ。」





 ――いつも理路整然と事実を告げるテイテツの口から、世界システムに逆らい、逃げ続ける手もあるという声。苦い顔をしていたエリーとガイは共に振り返って聞き入る。




「――――ここより北西。ガラテア帝国の支配領域から最も離れた地に、ギルド連盟の総本部となっている国があります。」




「……ギルド連盟、だあ? 確かに冒険者にとっちゃ頼れる組織だが…………ガラテアに対抗出来るほどの勢力じゃあねえぞ。身を隠しに行くのか?」




 ――テイテツは素早く端末のキーを弾き、情報源を確認する。




「――ええ。それに近い形です。これはグロウの抱える『使命』に従うにしろ逃げるにしろ、いずれにとっても有力です。それが――――」





 ――端末を裏返して全員に画面を見せる。




「――噂レベルですが、信憑性はなかなかに高い。この国が隠し持つとされる『旧人類の遺産』に頼るのです――――この『戦艦』が実在し、我々の手で動かせば、あるいは――――」





 ――端末の画面には多くの画像や流出したと見える情報が表示されていた。そしてその中にあったのが――――





「これが…………戦艦、だと――――!?」




「そうです。どれほどの推進力を持つかは定かではないですが…………ギルド連盟からこれを拝借し、自ら幻霧大陸に向かうか、あるいは世界中への逃亡の一助とするのです――――」




 ――はっきりとした姿は見えないが、巨大な戦艦のような機影が画像の一部に見えた――――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

多重世界シンドローム

一花カナウ
青春
この世界には、強く願うことで本来なら起こるべき事象を書き換えてしまう力 《多重世界シンドローム》を発症する人間が存在する。 位相管理委員会(モイライ)はそんな人々を管理するため、 運命に干渉できる能力者によって構成された機関だ。 真面目で鈍感なところがある緒方(オガタ)あやめは委員会の調査員。 ある日あやめは上司である霧島縁(キリシマユカリ)に命じられ、 発症の疑いがある貴家礼於(サスガレオ)の身辺調査を始めるのだが……。 え、任務が失敗すると世界が崩壊って、本気ですか? -------- 『ワタシのセカイはシュジンのイイナリっ! 』https://www.pixiv.net/novel/series/341036 を改稿して掲載中です。

サモナーって不遇職らしいね

7576
SF
世はフルダイブ時代。 人類は労働から解放され日々仮想世界で遊び暮らす理想郷、そんな時代を生きる男は今日も今日とて遊んで暮らす。 男が選んだゲームは『グラディウスマギカ』 ワールドシミュレータとも呼ばれるほど高性能なAIと広大な剣と魔法のファンタジー世界で、より強くなれる装備を求めて冒険するMMORPGゲームだ。 そんな世界で厨二感マシマシの堕天使ネクアムとなって男はのんびりサモナー生活だ。

全ての悩みを解決した先に

夢破れる
SF
「もし59歳の自分が、30年前の自分に人生の答えを教えられるとしたら――」 成功者となった未来の自分が、悩める過去の自分を救うために時を超えて出会う、 新しい形の自分探しストーリー。

フューマン

nandemoE
SF
フューマンとは未来と人間を掛け合わせたアンドロイドの造語です。 主人公は離婚等を原因に安楽死を選択した38歳の中年男性。 死んだつもりが目を覚ますと35年後の世界、体は38歳のまま。 目の前には自分より年上になった息子がいました。 そして主人公が眠っている間に生まれた、既に成人した孫もいます。 息子の傍らには美しい女性型フューマン、世の中は配偶者を必要としない世界になっていました。 しかし、息子と孫の関係はあまり上手くいっていませんでした。 主人公は二人の関係を修復するため、再び生きることを決心しました。 ある日、浦島太郎状態の主人公に息子が配偶者としてのフューマン購入を持ちかけます。 興味本位でフューマンを見に行く主人公でしたが、そこで15歳年下の女性と運命的な出会いを果たし、交際を始めます。 またその一方で、主人公は既に年老いた親友や元妻などとも邂逅を果たします。 幼少期から常に目で追い掛けていた元妻ではない、特別な存在とも。 様々な人間との関わりを経て、主人公はかつて安楽死を選択した自分を悔いるようになります。 女性との交際も順調に進んでいましたが、ある時、偶然にも孫に遭遇します。 女性と孫は、かつて交際していた恋人同士でした。 そしてその望まぬ別れの原因となったのが主人公の息子でした。 いきさつを知り、主人公は身を引くことを女性と孫へ伝えました。 そしてそのことを息子にも伝えます。息子は主人公から言われ、二人を祝福する言葉を並べます。 こうして女性と孫は再び恋人同士となりました。 しかしその頃から、女性の周りで妙な出来事が続くようになります。 そしてその妙な出来事の黒幕は、主人公の息子であるようにしか思えない状況です。 本心では二人を祝福していないのではと、孫の息子に対する疑念は増幅していきます。 そして次第にエスカレートしていく不自然な出来事に追い詰められた女性は、とうとう自殺を試みてしまいます。 主人公は孫と協力して何とか女性の自殺を食い止めますが、その事件を受けて孫が暴発し、とうとう息子と正面からぶつかりあってしまいます。

アンブラインドワールド

だかずお
SF
これは魂の壮大な物語 人々の意識に覆われた無知と呼ばれるカーテン未知なる世界の幕があがる時 見えなかった壮大な冒険が待っていた!! 『ブラインドワールド』の続編 本編をより深く読むには 『文太と真堂丸』が深く関わっているので、そちらも是非読んでみて下さい。 現在、アマゾンキンドル 読み放題にて検索して頂けると、読めるようになっておりますので、そちらからよろしくお願いします。

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

処理中です...