創世樹

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第128話 五里霧中

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「――――はあァッ!? グロウくんが『養分の男』で……あのアルスリアとかいう軍人さんが『種子の女』ァ!? なんっつー馬鹿でかいスケールの話っスか…………!!」




 ――――エリー、グロウ奪還作戦ののちの夕餉。分厚いステーキを何枚も平らげた一行が聞き入る中……グロウがアルスリアから伝えられた『世界の真実』とやらに、イロハは驚天動地。テイテツも低く唸る。



「――むう……グロウが何か特別な存在であることは理解しているつもりでしたが…………まさかそのような世界システムが存在し、そのシステムのキーを担っているほどの存在だとは…………遙かに想定外です。」



「――――うん…………まさか、そんな大きな役割が、僕……と……あのアルスリアにあるなんて…………。」




 ――グロウは俯き、アルスリアの……自分にだけ向ける、穏やかで温かな笑顔を思い返す。他の人間には冷酷非情かもしれないが、少なくともグロウに向けられている愛情に嘘はなさそうだった。




「――僕は…………解ってしまったんだ…………いや、それとも……これから解ってしまうのかもしれない…………アルスリアは僕の片割れで、いずれ創世樹の中でひとつになるってことが。それは使命で、望むと望まざるとに関わらない『本能』みたいなものなんだって――――アルスリアに触れる時、感じるんだ。どうしようもない愛しさを。いずれひとつに融合し合う存在なんだってこと…………」




「――――それが本当ならば……事はいち冒険者パーティの……いいえ。ひとつの国家機密にするにはあまりにも大きすぎる事象です。この真実は、本来世界中のあらゆるコミュニティの人間で共有し、来るべき時にどう備えるか議論すべき難題です。」




「……ちょっと未だに受け入れづらいっスけど…………だとしても、それを情報開示しないってことは、ガラテアもまだ何か創世樹とグロウくん、そしてアルスリアと幻霧大陸にあるとか言う……『果てなき約束の大地エデン』を利用して、何か企んでるに違いないっス!」




「……そうですね。そうなれば、例え情報開示をしても、世界に覇を唱える超大国ガラテア帝国。大事な情報は握り潰すと見るのが自然でしょう――――とにかく、しばらくはガラテア軍から逃げつつ、これらの機密ファイルに目を通さなくては……」




 ――テイテツは、手元の紙の束と、外部記憶装置を見てそう頷く。情報の大綱をまとめ、改めて今後の身の振り方を考える必要がありそうだ。




「………………」




 ようやく、自身の存在の真実を知り、それを仲間に打ち明けられたグロウ。だが、黙り込んでしまうほどに…………その真実は細い両肩に重くのしかかっている――――




「――ね、ねえ、グロウくん…………創世樹で生命の刷新進化アップデートとやらを行なうのが『使命』って言ったっスけど…………敢えて『使命』を捨てて、静かに、普通の男の子として世界の何処かで暮らすのもアリっスよね? ね……? そんなふざけた運命なんか……まともに取り合う必要無いっスよ!!」





「――確かに。それも可能性としてはあり得ますね。刷新進化アップデートとやらが……本当にコンピューターと同じようなシステムの刷新進化だとしても、それによって却って不具合が生じるということもあり得ます。第一、グロウは人間としての意志も持っている。人間的な意志の無い虫や単細胞生物とは訳が違う人権問題です。無理にそのような世界システムの人柱とならなくても……」





「――――でも、やがて自ら僕は『本能』でそれを望むようになるんだって。僕自身も予感してるんだ…………あの人、アルスリアとひとつになりたいって気持ちがだんだん大きくなってきているのが――――」




「むむぅ……」
「ふうむ……」





 ――事の重大さ。そして何より、グロウの揺らぐ意志と、抗えない『本能』。それは凡そ人間数人では責任の持ちようが無い、何かあっても取りようも無い。その事実にイロハとテイテツは唸り、黙り込んでしまうのだった。




「――いずれにせよ……これは人類社会にとっても極めて大きな黙示録アポカリプスであり、世界終末カタストロフィであり…………その前に我々一行の取るべき決断が必要な問題です。エリーとガイにも伝えて来ましょう――」




「――す、ストーップ!! 今は駄目っスよ!! あの2人は離れ離れになってた恋人同士。以前のセリーナさんとミラさんが再会出来たことと同じ……やっとの思いで願いが叶ったんス!! 今はそっとしとくべきっス!!」




「――? しかし……これはリーダーであるガイにも当然判断要員として情報を共有すべき――――」




「だあああーっ!! もう! 感情を制御してるからって、ここまで男女の仲のプライバシーがわかんないもんッスかね!? はああ~っ…………」





 ――イロハは額に手を当てて、大きく溜め息を吐いた。重大な世界システムの事の大きさも当然だが、恋人同士の安らぐべき時間を理解しないテイテツへの苛立ちも含めて嘆息した。




「……もういいっス。どうせ盗み出したガラテア軍のデータをよく読みこまないことには動きようも無いっス。今日はもう休むッス!! みんな疲れた身体と頭じゃあ、碌な事思いつかないもんっスよ? 取り敢えず今は休息が大事っス!! グロウくんの今後とか、ガラテア軍の動向とか、とにかく今は考えない!! もう陽も落ちて真っ暗だし、さっさと寝るっス!!」




「……ふむ。それもそうですね。休息も大事…………実際、ガラテア軍からは既にかなり足跡を撒けている。時間的にはゆとりがあるでしょう。機密情報の読み込みも含めて……行動は明日からにしましょう。」




「そういう事っス!! いいっスか? 明日考えればいいことは明日考えるっス! 今日は何も考えずに寝るっスよ? いいっスね、グロウくん!?」




「――う、うん…………そうだよね……今はもう眠いや……明日にしよう。」




 そのやり取りを最後にして、3人はひとまず一夜の休息をとることにした――――
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