創世樹

mk-2

文字の大きさ
上 下
109 / 223

第108話 妖女のアルカイックスマイル

しおりを挟む
 ――――練気チャクラの籠った石つぶてを一身に受け、倒れるメラン。もはや大勢は決し、エリーたちの勝利、ニルヴァ市国の防衛は成功した…………と思われたが、後ろに控えていた戦艦ふねから、エンデュラ鉱山都市以来のリオンハルト……そして――――





「――――僕が…………『ダーリン』!? 『つがい』って…………?」





 ――突然、グロウに対し『ダーリン』と口にした長髪に赤いメッシュを入れたガラテア軍服に身を包む、見た目は20代中ごろの妙齢の美しい女。






 だが、その女の醸し出す雰囲気は何か言いようのない…………底知れぬ超常の存在感を漂わせている。






 彼女は、グロウと一体どんな関係なのだろうか。






「――へっ!? グロウがダーリン……って? あんた、グロウの恋人とか言うつもり!? いやいやいやいや――――」





「――あの女……一体何を言ってやがる? グロウとは初めて会ったばかりのはず……それもグロウは子供であの女はどう見ても20代そこそこ…………他のガラテア軍改造兵とやら以上にイカれてんのか?」






 思ってもみない、目の前のただならぬ気配を発する女の発言に混乱するエリーとガイ。





「――ふうーっ……」





 情欲すら伴ってグロウを見つめていた女だが、周囲の視線に気付き、少し昂る感情を抑えて冷静になったようだ。





 と、同時に……隣に立つリオンハルトとは比にならぬほどの冷たく禍々しい眼光をエリーたちに突き刺し、不敵なアルカイックスマイルを浮かべる。






「――――ふふふ。想い人を前にしてつい取り乱してしまったよ。この感情の昂り。そして焦がれるような衝動。私の今の肉体と精神もまた……『人間由来』という証か…………全く以て忌々しい。汚らわしい。」





 女は、不気味なアルカイックスマイルのまま、そう低い声で呟いた。





「――そこの偉そうな軍人さんは……データベースで見たことあるっス! リオンハルト=ヴァン=ゴエティア准将さんっスね!! ニルヴァ市国へ攻め入ってきて、一体何が望みっスか!!」





 イロハは、この中で唯一リオンハルトに直接会うのは初めてだが、たまたまガラテア軍関係のデータを見て知っていた。彼が『冷厳なる獅子(フィアフル・ファング)』の異名を持ち、方々から恐れられている決して油断ならない人物であることも。






「――ふん。諸君らにそれを話す義務などない。だが…………言ったはずだろう、エリー=アナジストン。『今後徹底的に観察マークさせてもらう』と。よもや、エンデュラ鉱山都市以降の貴様たちの動きを我々が把握していないと本気で思っていたのか?」






「――――嘘ッ!?」





「――――やはり。あの時からガラテア軍の目を眩ませることは不可能でしたか…………今、ようやくこの端末で感知しました――――エリーの拘束具リミッターに貼り付けていた、極小の発信器に――――」






 ――テイテツが告げ、エリーは注意深く自分の首に取り付けてある拘束具を調べた。






 首の後ろ、それも普段全く気にも留めないような拘束具の裏側の溝に、砂粒よりも遙かに小さな発信器が取り付けられていた――――傍目には黒い極小の点。汚れか何かにしか視認できない。






「――――くそぉッ!!」






 エリーは練気による火炎を首筋に集中して、発信器を破壊した。その発信器も、耐熱性、耐久性ともに並外れたものだったようだ。十数秒燃やし続けて、ようやく溶解し、テイテツの端末の反応から消えた。






「――一体いつから…………まさか――――」





「そうだ。エリー=アナジストン。貴様がエンデュラ鉱山都市にて、私の銃を奪い取ろうとすれ違った瞬間に取り付けさせてもらったよ。おかげで諸君らの動きは全て把握していた。エンデュラ鉱山都市を抜け、森林地帯を進み魔物と交戦したこと。セフィラの街に滞在し、たった今退艦させたバルザック=クレイド曹長ら4人と交戦したこと。セフィラの街にてミラ=ルビネックの看護とタタラ=イロハ親子らの協力で死の淵より生還したこと。金策の為にシャンバリアの街でクリムゾンローズ盗賊団らとの大立ち回りを演じたこと。そしてここニルヴァ市国へと至ったことも――――」






 ――――これまでのエリーたちの行動は、全て筒抜けであった。テイテツが『逃げられただけでもおかしい。我々は泳がされている』と言った推測は恐ろしいまでに当たっていたのだが、まさか発信器まで取り付けられていたとは――――





「――――他人ひとの女に、プライバシーもへったくれもねエもんくっつけやがって。俺らの共同生活と旅の道筋は聴いてて楽しかったかよ、あア!? ストーカー野郎が。視聴料金は、てめえをぶった斬ることで勘弁してやるぜ…………!!」






 ――これまでの行動が筒抜けだったこともそうだが、エリーとの逢瀬も含めてこれまでの遣り取りを全て盗み聞きされていたという事実に、ガイは怒り心頭だ。






「――ふん。好きにし給え。もっとも、出来るなら、の話だがな――――私から話すことは何もない。傷付いた兵たちを診なくては……中将補佐。後はご自由に。」





 リオンハルトはそれだけ告げて、踵を返して戦艦に戻ろうとする。





「――てめえ、待ちやが――――ぐっ!?」






 ――――途端に、傍らの女から発せられる謎の圧…………単なる物理的なものだけではない、精神を圧し潰すようなプレッシャーを感じ、ガイたちはまるで身動きが取れなくなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

虹のアジール ~ある姉妹の惑星移住物語~

千田 陽斗(せんだ はると)
SF
時は近未来、フロンティアを求め地球から脱出したわずかな人々は新たな銀河系にあたらしい文明を築きはじめた しかし惑星ナキの「虹」と名付けられた小さな居住空間にはサイバー空間から発生した怪獣(バグスター)があらわれる 双子姉妹のヤミとヒカリはサイバー戦士として怪獣退治を命じられた 

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお
SF
 いまから二百年の未来。  前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。  その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。  折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。  火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

処理中です...