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第106話 玉砕覚悟
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――――改子に深手を負わせ、ライネスも練気がリセットされた状態での強烈な殴打に大きく吹っ飛ばされた。
それぞれの練気能力。バルザックの磁力は新装備や磁力を逆手に取った攻撃で、メランの気弾はグロウの練気を通した石つぶてや枯れ葉乱舞などの自然物による投擲で、改子の幻覚は誰かが喰らえば即座に他の仲間がフォローするスタンスで…………かつてあれほど圧倒的に苦しめられたガラテア軍特殊部隊の改造兵4人相手に、エリーたちはことごとく敵の武器を封じ、戦いを優位に進めている。
ニルヴァ市国での練気の修行。イロハが誂えた新装備。協力してくれる仲間や師匠――――その何もかもが、エリーたちの実力を高みに押し上げ、成長させていたことは明らかだ。もう少しで打ち負かせるかもしれない――――
「おめえらッ!! 一旦退がれィッ!! 態勢を立て直すんだァ!!」
――深手を負っていた隊長たるバルザックは号令を掛け、全員一旦距離を取るように命じた。
「――くくっ……こりゃあ……しゃあねえか――――」
「ううぐぐ……」
「――改子っ!!」
ライネスは朦朧とする意識の中何とか二度三度と飛び退いてバルザックの近くまで退く。セリーナの槍で穿たれた改子をメランが支え、同じく飛び退いてエリーたちから距離を取った。
「――どうやら追い詰めたみたいね。どうする? 他のガラテア兵たちと一緒に降参して帰ってくんない?」
エリーは構えつつも、敢えて4人に停戦交渉に近い呼びかけをする。
――自身が負った傷は練気で何とか治したらしいバルザック。だが、不利に傾いていく戦況に苦虫を嚙み潰したように険しい顔をし、顔中には悔しさと苦しさから血管を浮き上がらせる。
「――――ぬぐぐぐぐぐッ…………残念だがァ……不利と言う点は認めざるを得ねエようだなア…………」
練気で自己回復することに集中する為に胡坐をかいて座っていたバルザック。ゆっくりと、しかし鬼気を伴って立ち上がる。
「――だがァ!! 俺たちの存在意義と愉しみは戦うことだけだァ!! 幸い、まだ上官も『退け』とは言ってねエ!! ――――こうなりゃあ、作戦はひとつ!! 俺たち全員で全開の力で連携し! 格闘戦でねじ伏せてやるぜッ!! ――ヌハハハッハ!! いよいよ俺らも死ぬ時かもなあ!! それも一興だぜ。だが――――おめえらも無傷で済むと思ってんじゃあねえぞ!!」
「――ハアッ……ハアッ…………くくくくく…………そうだよ隊長。それで上等じゃん、あたしら。もし殺されんなら、道連れにしてやる気合いで行くっしょ…………!!」
深手を負い、息も絶え絶えな改子だが、彼女もまた練気を集中して傷を癒そうとしている――――体勢が整えば再び突貫してくるだろう。
「――な、なあ……マジで、最後まで戦うのかよ…………? 俺たち4人でそこまでやる必要なくね…………!?」
「そうよぅ、隊長! 改子! 数で不利なら……他の地点制圧した兵たちに増援を頼むとかぁ…………」
――――4人にとって、恐らくは何度となく潜り抜けて来た生命の遣り取り。
だが、彼らにとっては『いつもの通り』かなぐり捨てるつもりでいた己の生命。ライネスとメランだけが揺れていた。
「――喧しいぞォン! ライネス、メランンンンンッ!! さっき端末で確認したが……この国の練気使いたちは目の前のこいつら以外にもなかなかに強エ。どの部隊も苦戦している……応援には来れねエ!! 戦うしかねエんだよ!! ――――どうやら、こいつらが今現在このニルヴァ市国にいる戦士で一番強エみてえだ…………殺られたとしても、何とも最高な最期じゃあねえか!! 強者と死合って死ねるなんてなアアアッ!!」
「――ち、ちくしょう…………胸ン中のモヤモヤがおさまらねえ――――やるしかねえのかよォ!!」
「――そんなぁン…………」
――ライネスとメランは依然揺れているが、もはや兵として退くに退けないところまで来ているようだ。エリーたちを見据え、練気を集中して構える。
「――来るわよ、みんなッ!!」
「あいつら…………玉砕戦法かよ……だが、来るならぶった斬るまでだぜ!!」
「――――ヌハハハッハハ!! 行くぞォンてめえらァアァ!! 最高の死に様を飾ろうぜエ!!」
バルザックの怒号と共に、4人は格闘戦による地力勝負に全てを賭け、エリーたちに突撃を始めた――――
<<
<<
「――おーやおや。彼ら、特攻するみたいだよ? どうする、止めるかい?」
「――戦況は予測以上に膠着状態。継戦不可能となるまでは、まだもう少し戦わせて見ねば。」
「――ふふふふ…………痛みに喘ぐ部下にみすみすさらに打ちのめされる苦痛を味わわせるとは……君はつくづく冷血漢だねえ。それでこそ冷厳なる獅子(フィアフル・ファング)と呼ばれたる所以だね、リオンハルト。」
「…………どの口が言うのか。アルスリア中将補佐。貴女が用意した措置によって、もう勝敗は決したものだろうに、無駄に他の兵たちを戦わせるのを良しとしておいて…………」
「……確かに発案者は私だが、実際にその命令を下したのはヴォルフガング中将閣下…………お父様、だよ。ふふん――――」
――後方に控える戦艦から戦況を見るリオンハルトはポーカーフェイスで、アルスリアは不遜に嗤っていた――――
それぞれの練気能力。バルザックの磁力は新装備や磁力を逆手に取った攻撃で、メランの気弾はグロウの練気を通した石つぶてや枯れ葉乱舞などの自然物による投擲で、改子の幻覚は誰かが喰らえば即座に他の仲間がフォローするスタンスで…………かつてあれほど圧倒的に苦しめられたガラテア軍特殊部隊の改造兵4人相手に、エリーたちはことごとく敵の武器を封じ、戦いを優位に進めている。
ニルヴァ市国での練気の修行。イロハが誂えた新装備。協力してくれる仲間や師匠――――その何もかもが、エリーたちの実力を高みに押し上げ、成長させていたことは明らかだ。もう少しで打ち負かせるかもしれない――――
「おめえらッ!! 一旦退がれィッ!! 態勢を立て直すんだァ!!」
――深手を負っていた隊長たるバルザックは号令を掛け、全員一旦距離を取るように命じた。
「――くくっ……こりゃあ……しゃあねえか――――」
「ううぐぐ……」
「――改子っ!!」
ライネスは朦朧とする意識の中何とか二度三度と飛び退いてバルザックの近くまで退く。セリーナの槍で穿たれた改子をメランが支え、同じく飛び退いてエリーたちから距離を取った。
「――どうやら追い詰めたみたいね。どうする? 他のガラテア兵たちと一緒に降参して帰ってくんない?」
エリーは構えつつも、敢えて4人に停戦交渉に近い呼びかけをする。
――自身が負った傷は練気で何とか治したらしいバルザック。だが、不利に傾いていく戦況に苦虫を嚙み潰したように険しい顔をし、顔中には悔しさと苦しさから血管を浮き上がらせる。
「――――ぬぐぐぐぐぐッ…………残念だがァ……不利と言う点は認めざるを得ねエようだなア…………」
練気で自己回復することに集中する為に胡坐をかいて座っていたバルザック。ゆっくりと、しかし鬼気を伴って立ち上がる。
「――だがァ!! 俺たちの存在意義と愉しみは戦うことだけだァ!! 幸い、まだ上官も『退け』とは言ってねエ!! ――――こうなりゃあ、作戦はひとつ!! 俺たち全員で全開の力で連携し! 格闘戦でねじ伏せてやるぜッ!! ――ヌハハハッハ!! いよいよ俺らも死ぬ時かもなあ!! それも一興だぜ。だが――――おめえらも無傷で済むと思ってんじゃあねえぞ!!」
「――ハアッ……ハアッ…………くくくくく…………そうだよ隊長。それで上等じゃん、あたしら。もし殺されんなら、道連れにしてやる気合いで行くっしょ…………!!」
深手を負い、息も絶え絶えな改子だが、彼女もまた練気を集中して傷を癒そうとしている――――体勢が整えば再び突貫してくるだろう。
「――な、なあ……マジで、最後まで戦うのかよ…………? 俺たち4人でそこまでやる必要なくね…………!?」
「そうよぅ、隊長! 改子! 数で不利なら……他の地点制圧した兵たちに増援を頼むとかぁ…………」
――――4人にとって、恐らくは何度となく潜り抜けて来た生命の遣り取り。
だが、彼らにとっては『いつもの通り』かなぐり捨てるつもりでいた己の生命。ライネスとメランだけが揺れていた。
「――喧しいぞォン! ライネス、メランンンンンッ!! さっき端末で確認したが……この国の練気使いたちは目の前のこいつら以外にもなかなかに強エ。どの部隊も苦戦している……応援には来れねエ!! 戦うしかねエんだよ!! ――――どうやら、こいつらが今現在このニルヴァ市国にいる戦士で一番強エみてえだ…………殺られたとしても、何とも最高な最期じゃあねえか!! 強者と死合って死ねるなんてなアアアッ!!」
「――ち、ちくしょう…………胸ン中のモヤモヤがおさまらねえ――――やるしかねえのかよォ!!」
「――そんなぁン…………」
――ライネスとメランは依然揺れているが、もはや兵として退くに退けないところまで来ているようだ。エリーたちを見据え、練気を集中して構える。
「――来るわよ、みんなッ!!」
「あいつら…………玉砕戦法かよ……だが、来るならぶった斬るまでだぜ!!」
「――――ヌハハハッハハ!! 行くぞォンてめえらァアァ!! 最高の死に様を飾ろうぜエ!!」
バルザックの怒号と共に、4人は格闘戦による地力勝負に全てを賭け、エリーたちに突撃を始めた――――
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「――おーやおや。彼ら、特攻するみたいだよ? どうする、止めるかい?」
「――戦況は予測以上に膠着状態。継戦不可能となるまでは、まだもう少し戦わせて見ねば。」
「――ふふふふ…………痛みに喘ぐ部下にみすみすさらに打ちのめされる苦痛を味わわせるとは……君はつくづく冷血漢だねえ。それでこそ冷厳なる獅子(フィアフル・ファング)と呼ばれたる所以だね、リオンハルト。」
「…………どの口が言うのか。アルスリア中将補佐。貴女が用意した措置によって、もう勝敗は決したものだろうに、無駄に他の兵たちを戦わせるのを良しとしておいて…………」
「……確かに発案者は私だが、実際にその命令を下したのはヴォルフガング中将閣下…………お父様、だよ。ふふん――――」
――後方に控える戦艦から戦況を見るリオンハルトはポーカーフェイスで、アルスリアは不遜に嗤っていた――――
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