創世樹

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第105話 連携に乗せた貸しイチ

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 ――逸材である弟子たちを守る為。そして何より、自分たちの住まう国を守る為。ヴィクターとカシムもまた練気チャクラを駆使して加勢した。





 グロウの練気を通した激しい石つぶてや枯れ葉乱舞による投擲物に加え、カシムが防護壁でエリーたちを守り、ヴィクターは敵の気弾の嵐を練気のブラックホールで飲みこみ、吸い取った。





 果たして、深手を負わせた上に磁力を操る攻撃をするバルザックを攻略し、遂にはメランとライネスの撃ち放つ気弾をも実質的に無効化した。





「――グロウ。如何に君の使う練気の量が膨大とはいえあれほど激しく練気を込めた攻撃をし続ければ疲れるだろう。私の防護壁の後ろで少し休んでなさい。」




「――う、うん……」






 遠距離からの投擲戦でライネスたち4人を圧倒したグロウ。やはり底知れぬ力を秘めてはいるが、疲労で激しく汗をかいている。素直にカシムの後ろへと身を退けた。






「――ちいィッ!! 隊長の磁力もメランの気弾も効かないってのォ!? ……しゃあない。なら頼みはあたしとライネスの幻覚攻撃だろ! 行くよ、ライネスッ!!」





「――えっ……お、おうッ!!」






 ――敵の気弾の応酬は止めたが、同時にグロウも少し下がった。ならば格闘戦に幻覚を加味した攻撃のみ。






 今のところ、やはりこの2人の繰り出す幻覚攻撃が最も厄介だろうか。攻撃のタイミングが読めない。下手をすると幻覚を見たと同時に死に直結する。






「――――さっき喰らってみて解ったよ! あんたら、一度に大人数に幻覚は仕掛けられないわね!! なら、数が多いこっちの方が断然有利!! もし喰らっても『アレ』があるっしょ!? このまま叩きのめすよ!!」




「よっしゃ!!」
「応ッ!!」
「にひひ! 一気に勝鬨、上げてやるっスよ!!」





 ――エリーの鼓舞する掛け声に、ガイ、セリーナ、イロハは快活に返事。相手が初見殺しと言ってもいい幻覚攻撃の使い手でも臆さず突撃する。






 突貫してくるライネスと改子は2人。こちらは前衛だけでも4人ほど。後衛にグロウとテイテツが控え、さらにカシムとヴィクターが加勢して計8人。充分に勝機はうかがえる。





「――むっ!! こりゃあ――――」





 ――早速、改子とライネスはガイに仕掛けてきたようだ。突然ガイの視界からライネスが煙のように消え、改子は何十人にも分身して動きが掴めない。






 予測不可能な攻撃に、ガイも思わず身を縮めて一瞬止まってしまう。






「――ホラ、こっちだ喰らえエエエイッ!!」





 ――気が付けば、ガイは背後を改子に取られていた。鋭いナイフの一閃がガイの首に迫る――――






「――――かああああああつッッ!!」






「――なっ…………あっ……!?」






 瞬間。改子の幻覚は解けた。どうやら改子本人はガイから見て左斜め前方向の、やや太刀を振りにくい位置から仕掛けようとしていたようだが――――幻覚のかかっていないエリーが即座に、今度こそ『練気の当身』を改子の額に見舞った。







 たちまち、改子は全身に纏っていた練気が強制的に立ち消え、エネルギーの流れを阻害されて立ち眩みを起こす。






「――――隙ありッ!!」






 ――さらに練気の翼竜に跨っていたセリーナが瞬時に間合いを詰め、飛び降りながら大槍の一撃を、ノーガードの状態の改子に喰らわせた――――!!






「――がっ……げぼぉっ――――!!」





 ――心臓を狙ったセリーナだったが、翼竜のコントロールがまだ少し不安定だったのか、少し体勢が崩れたまま突きを繰り出す形になった。





 それでも新装した槍にセリーナの技と力、そして練気の強化で得たひと突きは凄まじい威力だ。急所の心臓は外れたが、脇腹を深々と抉り、穿ち抜いた。血を吐いて蹲る改子――――






「――てりゃあッ!!」





 幻覚が解け、位置と情況を把握したガイはすぐさま、改子を蹴飛ばして得物の大型ナイフ2本を遠くへ離した。






「――かっ、改子ォ!! すぐに練気を練って傷を治し――――ぐわっ!?」







「――お兄さんも隙だらけっスよ――――!!」






 ――ライネスもまた、練気の幻覚で身を隠して死角から狙うつもりでいたが、改子が倒れて動揺したのか練気の流れを乱し、そこをまたすぐさま、今度はイロハが練気の当身をライネスの額に見舞った。同じくよろめき、バランスを崩したところを――――






「――――どおりゃああああああーーーッッッ!!」





「――ぶぎゃああッはあっ――――!!」





 ――電磁力付与サンダーエンチャントを込めたままの、豪烈なイロハのハンマーのフルスイングがライネスの顔面に炸裂した。なかなかにハンサムなはずのライネスも、一瞬殴られた圧で顔面の造作を崩し、吹っ飛んだ――――








「――ナイスアシストだぜ、エリー!!」





 ガイの窮地を救った連携アシストに、エリーとガイは拳を突き合わせて称え合う。





「OK、OK。やられっぱなしだったらガイにも一発くれてやろうかと思ったけど、追撃したからチャラにしたげる。修行中、セリーナとばっか喋ってたから貸しイチね。本来なら極刑もんよ?」






「……あ? んだよ、それ――――」






「――やはり、根に持っていたか。つくづく視線と殺気を感じていたが、この朴念仁の男は全く……」





 セリーナは気付いていたが、敢えてガイに言わなかった。練気の実力が互角程度な為、ガイとセリーナが2人きりで修行することが多く、エリーとの愛情を込めたコミュニケーションが不足し、妬いてしまっていたことに。やや恨みがましく、エリーはガイに毒づいた。もっともセリーナはミラ一筋なことに変わりは無いが。






「――何なんだァ、こんな時に2人とも一体? 俺、なんかしでかしたのか…………!?」





「――ふんっ!!」

「――やれやれ……もう敵は打ち破ったも同然。畳みかけるぞ、お前ら!!」





 ――鼻息を鳴らすエリーと、頭を抱えるセリーナ。明け透けに見えて、久々に女心が動いたエリーだったが、その心の真相に今のガイは気付きもしなかった――――
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