創世樹

mk-2

文字の大きさ
上 下
99 / 223

第98話 熱源反応

しおりを挟む
 ――――エリー一行たちが着実に、それも目覚ましい早さで実力を付けてきているのを感じ、ヴィクターとカシムは2人、エリーたちが飯を食いに行っている間に、修行場近くの公園で茶を嗜んで、しばし憩いの時間としていた。




「――最初にドルムキマイラに襲われているのを見た時は……まさか、ここまであいつらが上達するとは思わなんだなあ…………」




 ヴィクターは茶を一口啜ったのちにそう呟いた。カシムもまた微笑みながら話す。




「――確かに、あの時点では練気をある程度修めた私たちから見れば赤子のように頼りないと思えてしまったな。だが……それでもドルムキマイラを自分たちで1体は倒したのを見れば、やはり資質はあったと見るべきだろうな。それも、とてつもない逸材たちを――――」





「――ああ……とうとう、俺らの知る限りではエリーたち……あいつらが、これまで稽古を付けて来た修行者の中で間違いなく最も強い使い手になってしまった。もはや、ガラテア帝国軍にもあれほどの使い手は存在せんのでは?」





「かもしれないね……だがいずれにせよ問題なのは…………これからの彼女たちの旅の行く先に待ち受ける困難。練気《チャクラ》の実力を付けていても、彼女たちの境遇や求めるものを考えると、いつでも平穏な心持ちというわけにはいかないだろう…………」






「――うむ。ガラテア帝国軍の支配を掻い潜りながら安息の地を求めること、愛する伴侶との未来の為に知見と強さを求めること、何より…………己の存在の意味を知る為に、幻霧大陸なる人類未踏の地への挑戦。ガラテアの脅威を考えると、あいつらの行く先は波乱に満ちていると言わざるを得ない。いずれここニルヴァ市国から送り出すのが、まっこと惜しい連中よ。」





「左様だ――」





 2人は神妙な面持ちで、また一口茶を飲み、溜め息をつく。





「――だが、もう一生出会えないだろうという逸材相手に、私たちは教えることが出来た。彼女たちの未来に少しでも幸多からん事を祈るばかりだ。他に出来ることはそうあるまい?」





「――そうだな。寂しい限りだが、その時は盛大にあいつらを祝福して送り出したいものだな――――無論、事を成し遂げてまたこの地を訪ねてくれた時にも、な――――」






「うむうむ。ほんの短い間かも知れないが、彼女たちの師匠になれた。それだけでもむしろこちらにとって喜ばしいことだ。なあ相棒よ――――」





「ふふ」

「はっはっは」






 ――着実にエリーたちが、これまで指導して来たどんな修行者たちよりも実力も心胆も養ってきたがゆえに感じる、一抹の別れの寂しさ。それなりに年も召してきた2人の修行僧は忍び難い思いを感じながらも、密かにエリーたちの前途が良きものでありますように、そう祈った――――






 <<





 <<






 ――一方。当初はグロウの身体と能力、そしてルーツを調べる為に動いていたテイテツとタイラーだが、一行が本格的に修行に入ってからは、新しい端末の開発やニルヴァ市国内の人々との交流、そして今後の旅の算段などの計画に明け暮れていた。






「――おお。テイテツ。遂に出来たぞ…………! 完全に設計図通りにはいかなかったとはいえ、お前が使いこなすのに値するモンスタースペックな端末が! これで、あらゆる情報処理やネット行動に使えるはずだ。ささ、起動してみろ。」






「そうですか。ではお言葉に甘えて…………ふむ。起動も早く、読み込み《ローディング》も滑らか。通信ユニットも搭載で、実質世界中の何処でもネット接続が可能。スーパーコンピューターで管理するようなビッグデータにすら大部分を対応可能。しかも頑丈、軽量。ガラテア帝国軍の最新の軍用端末を遙かに凌ぐスペックです。ご協力をありがとうございます、タイラー。貴方の協力と設備がなければここまでの端末は制作不可能でした。」





「礼なら、あのタタラ=イロハちゃんに言っといてくれ。あの子が作ったパーツ類こそまさに神がかり的、職人技の極致だったぜ。いずれあの子とも業務提携させてもらって、デバイス類の正統進化への礎とさせてもらう目標が出来たよ。」






「ええ。ガラテアとは違うデバイスの進化は、大いに科学者たちや端末愛好家たちに可能性を示すでしょうね。」






 ――タイラーは微笑み、テイテツと握手をした。お互いに、真に得難き友がいてこそだ、といった風情だ。






「――そして、話は変わるのですが…………グロウのルーツが幻霧大陸にある可能性がまた上がる根拠が増えました。30%±5%程度は上がったでしょうか……」





「何? というと…………?」





「――以前、ナルスの街近くの遺跡…………グロウと出会った場所で採掘した遺物です。謎の文字が書かれた石板や、家畜の飼料と思われる残骸、儀式的な意味合いが強そうな刀剣類など――――幻霧大陸から流れ着いたとされる人間の遺体に残されていた情報に多くが照合しました。」





「!! …………つまり……グロウはやはり、発見された遺跡からしても、幻霧大陸の謎の民族と関係が深い、と言うことか――――!!」






「まだ100%の確定事項ではありません。ですが、信憑性はかなり高いかと。練気の修行もかなりエリーたちは身に付けた様子。今後の判断は全員に相談して委ねますが……」





「――旅立ちの時が近いってことか…………だとしたら、寂しくなるな……」




 ――感慨深く溜め息をつくタイラーだったが――――次の瞬間、2人に緊張が走った――――




「――――!! お待ちを……タイラー。ここのレーダーを見てください。」






「――何? …………!! これは――――なんてこった…………ッ!!」






 ――研究所と、今しがた完成したばかりのテイテツの端末のレーダー類には、熱源反応が幾つも映っていた。





 そしてその熱源のパターンは戦闘機の類い――――ガラテア軍が目の前まで迫ってきていた――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

処理中です...