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第95話 強さの先に求めるもの
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「――はっ!? ご、ごめん!! お姉ちゃん大丈夫!? やり過ぎた…………ッ!!」
グロウは、闘争心に燃えることなどかつてなかったはずが、ふと我に返れば仲間に重傷を負わせている。急いで駆け寄ろうとする――――
「――あっ…………?」
練気を通常時の状態まで収め、持っていた弓矢は……やはり木枝を活性化、急成長させたものだったが……途端に、グロウはつまづき、うつ伏せに倒れた。
「――あ、あれっ…………たっ、立てない…………っ」
エリーを治癒の力で癒そうとするグロウだが、その場でへたり込んでしまい、足が動かない。
「急激に練気を使い過ぎて、身体が付いて来んのだ……!」
「ガイ!!」
「おう!! 大丈夫か、エリーッ!!」
――――膨大な練気を会得したと言っても、やはりグロウの肉体に馴染むには早すぎたのか。或いは、膨大な練気を完全に急激に使いこなすには基礎体力が足りなかったのか。ヴィクターはグロウに駆け寄り、カシムに促されるまでもなくガイはエリーのもとへ走った。
――エリーは血を吐きながらも、何とか冷静に練気の開放度は緩めず、先ほどと同じく毒素を練気で絞り出しつつ、木枝の矢を引き抜いた。夥しい出血だ。
「エリー! 今――」
「――ゴホッ、ゴホッ……だ、いじょぶ…………治せる、わ――」
――首を抉られ、声も涸らしながらも、練気を集中し…………十数秒ほどで何とか治癒した。
エリーも、修行の日々で限界を遙かに超える『鬼』由来の練気を使えるようになっていて幸いだった。
もし、ここまで練気をコントロール出来なければ――――
「――あ、危なかったぜ…………まさか、グロウがあれほどやるとは、な…………」
――組手で、危うく大切な人を喪うところだった。それも、またも自分の家族同然の仲間に。ガイは、安堵すると共に戦慄を抑えられなかった。同時に、飯処で聞いた盲者の僧の話を思い返した。
「――おい、グロウ!! いくらなんでも、これはやり過ぎ――――」
「――いやあーっ!! ホンット、強くなったわねー、グロウ!!」
「エリー……?」
セリーナが怒り、グロウを叱ろうとするが、エリーは素直にグロウの成長を褒めた。もっと厳しく叱るかと思っていたセリーナは、肩透かしを喰らった感覚だ。
ゆっくりと、へたり込んでいるグロウに近付くエリー。
「――お、お姉ちゃん……ごめん……僕――――」
「いいってこと!! マジで良かったわね、相手があたしで!! あたしもグロウのこと御見逸れしましたっ!! まさかあたしを負かすなんてさ……」
ポンポン、と優しくグロウの両肩を叩き、グロウの手を取って助け起こす。
「――立てる? 補助いる?」
「あっ……ごめん、ちょっと、歩けないや…………」
グロウからすれば追い詰めてしまったはずのエリー。逆に肩を貸してもらう。グロウは、罪悪感に表情を曇らせるが――――
「そんな顔しなーいの!! 胸を張りなさい? あたしに勝ったのよ? ガイや、セリーナでも勝てなかったこのあたしに!! すっげえ強くなったじゃあん!! あとは基礎体力と、体捌きだけね!!」
力強く励ますが、グロウはやはり、己の中にある闘争心に怯える。
「……でも……僕、危うく――――」
「……いーい、グロウ? 強さを求めること。その為に鍛錬すること。仲間と時には競い合うこと。それ自体は絶対に悪いことなんかじゃあない。」
「え……」
「大事なのは、強さを求めることを恐れないこと。そして何より…………強くありたい、仲間を守って戦いたいって気持ち。要するに、ハートよ、ハート!! ハートが強くありたいって願い、信じ続けることっ!!」
「…………!」
「エリー、お前……」
「はーと…………」
――強さを求めること、闘争心そのものは、悪ではない。
大事な事は、強さを求める先に、何をしたいか。何を目標や目的として動くか。
自分の『鬼』の力が呪われたもの、忌むべきものであり、一生涯そのしがらみに苦しむと思っていたエリーが、修行を重ねて制御さえ出来れば、己が最も頼みとする強さへと変わる。呪われた力ではなくなる――――
その事実を知って、自らそうあろうと一心に努力を続けて来たエリーの、ひとつの心の解答だった。
その言葉に、ただ力を強さそのもので、全てであると思い込んできたガイとセリーナは、はたと気が付いた。重要なのは、力だけではないと。
グロウ自身は、未だ要領を得ないようだったが……にこやかに、晴れやかに微笑むエリーの温かな表情を見て、言葉で解らずとも何となく理解した。
「――ううん。お姉ちゃん。僕、やっぱり自分の力が恐いや…………こんなに強い力を持ってて、自分って何なんだろうって……大事なものを傷付けるんじゃあないかって…………」
エリーは、頷く。
「――わかるよ。下手したら、誰よりも、ね…………戦うことが恐い、嫌いって気持ち。それを誰も否定しないし、出来ないと思うわ。だから……グロウみたいに優しい子もまた、戦い以外の場で必要なのよ…………へへ。そんな優しい人を守る為にまたガラテア軍みたいなのと戦わなきゃならないってのも、矛盾してて嫌な話だけどね…………大丈夫。誰かに優しさを向けられるグロウなら……強い力を持っても、絶対、大丈夫。その為に……一緒に修行、続けよ?」
「――エリーお姉ちゃん…………うん…………」
――今回の組手で、グロウは改めて自分に強大な力があることを確認し、忌避したが、それをエリーは否定せず受け入れた。自分自身もそうであり、ただ……グロウよりもほんの少し先輩だったから、出来た行為だ。
「――――あ、でも。さっすがにこんだけ派手にやらかすと、みんなどの辺からがヤバいって解ったっしょ~っ!? 今度からは『ヤバい』って思ったら止めてね~? 死にたくないしぃ~。」
「んっな……エリー、ふざけんなこの~! ……だがまあ、取り敢えず大事に至らなくて良かったぜ…………グロウもまさか練気のセンスだけでここまでやるたあなあ…………」
「……一時はどうなるかと肝を冷やしたぞ…………あれほどの強さを見せつけられたら武人の立つ瀬も無いが……せめて体捌きくらいは教えられる。今度から練気だけでなく徒手空拳にも気合いを入れろよ、グロウ。」
――ガイとセリーナも、予想以上に軽く振る舞うエリーの態度に拍子抜けしたが、お陰で2人の強さに必要以上に委縮せずに済んだようだ。
「だが、やはり危ない所だったな……今度からは俺も気を付けよう。」
「まさか、君たち2人が私たちの予想を遙かに超えて、練気による戦いをここまで応用と展開を出来ると思わなかったからね。それだけ君たちが規格外過ぎるということだ……君たちは間違いなく大器晩成だよ。」
師範たるヴィクターとカシムも気を引き締めつつも、2人の練気使いとしての成長を享受した。
――――まだ真っ昼間だったが、僅か2分にも満たないような凄まじい練気の組手に、一同、精神的に疲れ果ててしまうのだった。気が抜けて、腹の虫も鳴る。
「――と、取り敢えず…………飯、食いに行こっか? あはは……」
エリーはグロウを背負って歩き出し、他の者もそれに続いた。成果を得た所で取り敢えず、腹ごしらえ。
一行の修行と研鑽の日々は、まだ当分続く――――
グロウは、闘争心に燃えることなどかつてなかったはずが、ふと我に返れば仲間に重傷を負わせている。急いで駆け寄ろうとする――――
「――あっ…………?」
練気を通常時の状態まで収め、持っていた弓矢は……やはり木枝を活性化、急成長させたものだったが……途端に、グロウはつまづき、うつ伏せに倒れた。
「――あ、あれっ…………たっ、立てない…………っ」
エリーを治癒の力で癒そうとするグロウだが、その場でへたり込んでしまい、足が動かない。
「急激に練気を使い過ぎて、身体が付いて来んのだ……!」
「ガイ!!」
「おう!! 大丈夫か、エリーッ!!」
――――膨大な練気を会得したと言っても、やはりグロウの肉体に馴染むには早すぎたのか。或いは、膨大な練気を完全に急激に使いこなすには基礎体力が足りなかったのか。ヴィクターはグロウに駆け寄り、カシムに促されるまでもなくガイはエリーのもとへ走った。
――エリーは血を吐きながらも、何とか冷静に練気の開放度は緩めず、先ほどと同じく毒素を練気で絞り出しつつ、木枝の矢を引き抜いた。夥しい出血だ。
「エリー! 今――」
「――ゴホッ、ゴホッ……だ、いじょぶ…………治せる、わ――」
――首を抉られ、声も涸らしながらも、練気を集中し…………十数秒ほどで何とか治癒した。
エリーも、修行の日々で限界を遙かに超える『鬼』由来の練気を使えるようになっていて幸いだった。
もし、ここまで練気をコントロール出来なければ――――
「――あ、危なかったぜ…………まさか、グロウがあれほどやるとは、な…………」
――組手で、危うく大切な人を喪うところだった。それも、またも自分の家族同然の仲間に。ガイは、安堵すると共に戦慄を抑えられなかった。同時に、飯処で聞いた盲者の僧の話を思い返した。
「――おい、グロウ!! いくらなんでも、これはやり過ぎ――――」
「――いやあーっ!! ホンット、強くなったわねー、グロウ!!」
「エリー……?」
セリーナが怒り、グロウを叱ろうとするが、エリーは素直にグロウの成長を褒めた。もっと厳しく叱るかと思っていたセリーナは、肩透かしを喰らった感覚だ。
ゆっくりと、へたり込んでいるグロウに近付くエリー。
「――お、お姉ちゃん……ごめん……僕――――」
「いいってこと!! マジで良かったわね、相手があたしで!! あたしもグロウのこと御見逸れしましたっ!! まさかあたしを負かすなんてさ……」
ポンポン、と優しくグロウの両肩を叩き、グロウの手を取って助け起こす。
「――立てる? 補助いる?」
「あっ……ごめん、ちょっと、歩けないや…………」
グロウからすれば追い詰めてしまったはずのエリー。逆に肩を貸してもらう。グロウは、罪悪感に表情を曇らせるが――――
「そんな顔しなーいの!! 胸を張りなさい? あたしに勝ったのよ? ガイや、セリーナでも勝てなかったこのあたしに!! すっげえ強くなったじゃあん!! あとは基礎体力と、体捌きだけね!!」
力強く励ますが、グロウはやはり、己の中にある闘争心に怯える。
「……でも……僕、危うく――――」
「……いーい、グロウ? 強さを求めること。その為に鍛錬すること。仲間と時には競い合うこと。それ自体は絶対に悪いことなんかじゃあない。」
「え……」
「大事なのは、強さを求めることを恐れないこと。そして何より…………強くありたい、仲間を守って戦いたいって気持ち。要するに、ハートよ、ハート!! ハートが強くありたいって願い、信じ続けることっ!!」
「…………!」
「エリー、お前……」
「はーと…………」
――強さを求めること、闘争心そのものは、悪ではない。
大事な事は、強さを求める先に、何をしたいか。何を目標や目的として動くか。
自分の『鬼』の力が呪われたもの、忌むべきものであり、一生涯そのしがらみに苦しむと思っていたエリーが、修行を重ねて制御さえ出来れば、己が最も頼みとする強さへと変わる。呪われた力ではなくなる――――
その事実を知って、自らそうあろうと一心に努力を続けて来たエリーの、ひとつの心の解答だった。
その言葉に、ただ力を強さそのもので、全てであると思い込んできたガイとセリーナは、はたと気が付いた。重要なのは、力だけではないと。
グロウ自身は、未だ要領を得ないようだったが……にこやかに、晴れやかに微笑むエリーの温かな表情を見て、言葉で解らずとも何となく理解した。
「――ううん。お姉ちゃん。僕、やっぱり自分の力が恐いや…………こんなに強い力を持ってて、自分って何なんだろうって……大事なものを傷付けるんじゃあないかって…………」
エリーは、頷く。
「――わかるよ。下手したら、誰よりも、ね…………戦うことが恐い、嫌いって気持ち。それを誰も否定しないし、出来ないと思うわ。だから……グロウみたいに優しい子もまた、戦い以外の場で必要なのよ…………へへ。そんな優しい人を守る為にまたガラテア軍みたいなのと戦わなきゃならないってのも、矛盾してて嫌な話だけどね…………大丈夫。誰かに優しさを向けられるグロウなら……強い力を持っても、絶対、大丈夫。その為に……一緒に修行、続けよ?」
「――エリーお姉ちゃん…………うん…………」
――今回の組手で、グロウは改めて自分に強大な力があることを確認し、忌避したが、それをエリーは否定せず受け入れた。自分自身もそうであり、ただ……グロウよりもほんの少し先輩だったから、出来た行為だ。
「――――あ、でも。さっすがにこんだけ派手にやらかすと、みんなどの辺からがヤバいって解ったっしょ~っ!? 今度からは『ヤバい』って思ったら止めてね~? 死にたくないしぃ~。」
「んっな……エリー、ふざけんなこの~! ……だがまあ、取り敢えず大事に至らなくて良かったぜ…………グロウもまさか練気のセンスだけでここまでやるたあなあ…………」
「……一時はどうなるかと肝を冷やしたぞ…………あれほどの強さを見せつけられたら武人の立つ瀬も無いが……せめて体捌きくらいは教えられる。今度から練気だけでなく徒手空拳にも気合いを入れろよ、グロウ。」
――ガイとセリーナも、予想以上に軽く振る舞うエリーの態度に拍子抜けしたが、お陰で2人の強さに必要以上に委縮せずに済んだようだ。
「だが、やはり危ない所だったな……今度からは俺も気を付けよう。」
「まさか、君たち2人が私たちの予想を遙かに超えて、練気による戦いをここまで応用と展開を出来ると思わなかったからね。それだけ君たちが規格外過ぎるということだ……君たちは間違いなく大器晩成だよ。」
師範たるヴィクターとカシムも気を引き締めつつも、2人の練気使いとしての成長を享受した。
――――まだ真っ昼間だったが、僅か2分にも満たないような凄まじい練気の組手に、一同、精神的に疲れ果ててしまうのだった。気が抜けて、腹の虫も鳴る。
「――と、取り敢えず…………飯、食いに行こっか? あはは……」
エリーはグロウを背負って歩き出し、他の者もそれに続いた。成果を得た所で取り敢えず、腹ごしらえ。
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