創世樹

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第89話 強さの想像力

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「――さて……二人ともかなり練気チャクラを高め、安定してコントロール出来るようになってきた。もう、練気を長時間出し続けていてもあまり疲れないだろう? この辺りから……練気を用いたさらなる技の形を決めるべきと俺は考える。」




 ――グロウの決心を聞いた後、すぐにまた修行を再開した。





 ガイとセリーナもまた、練気のエネルギーをかなりコントロール出来るようになってきた。かなり慣れてくると、もはや疲労せずに練気を全身に纏い、肉体と精神を頑健に保つことが可能となる。





 いよいよ練気を単なる生命エネルギーとして自分の身を頑健に保つだけでなく、実用的な能力。即ち戦闘においての技としての練磨の段階に入った。




「ここから…………いよいよ俺らが自分でイメージした能力……その具体化が必要ってことか。」

「結局……まだその相応しい強さの形は描けないままだがな…………」




 ガイもセリーナも必要なことは解っていたが、その具体化となると表情が曇ってしまう。





「然り。だが、焦ることは無い。むしろ焦りはその精神を濁らせ、強さの形が描きにくくさせる。練気とは精神が色濃く影響するもの。何度も言っただろう?」




 ヴィクターはまだ強さの形に対し迷いがある目の前の有望なる若者2人に、叱咤以上に激励を欠かさなかった。





「いいか。大事な事は、戦いにおいての己の欲の形をイメージすることだ。例えば、俺は『敵を素早く異次元に消し去りたい』。カシムは『味方を守る強固な壁を張りたい』という戦いにおける自分なりの考え方が現れた結果、今のような能力を得た。瞼を閉じて考えてみろ。」





 ヴィクターに促されるまま、ガイとセリーナは瞼を閉じ、自分が戦いにおいて何をしようとしているか。何を欲しているかを模索した。





「戦闘中に、お前らならまず何を意識する? 何をしたいと考える? 何を以て戦いたいと思う? 鮮明に、ハッキリ……イメージしてみるんだ。」




(俺…………俺なら――――)





 ガイはこれまでの冒険においての自分の戦い方を振り返り、何を強化したいか、何を欲するのかを、戦っている状況を想像しながら考えてみた。





「――俺は……やっぱ、まずはこの回復法術ヒーリングをより強力に、素早く使えるようになりてえ。それが回復。守りは、まんまカシムと同じ練気の防護壁を張れるように。攻撃は、この刀の切れ味をそのまんまに…………飛び道具みてえに遠くまで斬撃を届けるようになりてえな。」




 ――ガイはこれまでの戦いの経験から、遂に回復、防御、攻撃とオールラウンドな戦い方の能力をイメージ出来るようになってきた。





「――悪くないぞ、ガイ。やや能力を多様化させ過ぎているのは欲張りな気もするが……まあ、元々回復法術が使えるならその性質や属性は防護壁も飛び道具も遠くは無い。そのイメージを大事にしておけ。さて、セリーナはどうだ?」






(――私……私の場合は――――)





 セリーナもまた、己の戦い方、戦いの経験からイメージしようとする。





「――まず、知覚鋭敏化などの自己暗示を使っても脳を守れるように、練気で防御出来るようになりたい。知覚へのショックで意識不明になるのはもうこりごりだからな……それから…………空中走行盤エアリフボードで飛ぶよりも、もっと……もっと素早く、もっと高く飛べるようになれば……私の運動センスならきっと、もっと多角的な戦いが出来る……気がする。」





 セリーナもまた、言葉はやや不明瞭だが、概ね戦い方をイメージして述べてみる。




「――ふむ。言葉は乏しいが、その分だと大体イメージは出来ているようだな。」





 ――しかし、ここまで2人を激励して来たヴィクターの厳しさが増してきた。






「――だが、もっと具体的に戦い方をイメージするには、お前たち自身の知見が不足していると見える。これより練気のコントロールの練習だけでなく、この国の図書館で書物に当たれ。相応しい書から想像力を養うのだ。さあ、今すぐ行って来い!!」





「――何っ!?」
「――座学が必要だと言うのか!?」




 驚く2人に、ヴィクターは首を横に振る。




「座学とは少し違うな。書物を読んで、あらゆる図面を見たり、戦っている姿を客観的に見たり、言葉を多く学んだり…………要は想像力をもっと豊かにすることだ。それが目指すべき能力へのヒントとなる! ささ、行って来い!!」





「わ、わかったぜ……」



「あ、ガイ! 図書館はあの丘の上だからね! 迷わないでねー!!」




 ――意外なアドバイスに驚く2人だったが、また反抗して強烈な喝を浴びせられたら堪らない。そそくさと駆け足で……グロウに教えられ、この国の図書館へと向かった。





「――私はっ!? 私は、どんな能力をイメージするべき!?」





 そのやり取りを見ていたエリーもまた、発奮して助言を求める。





 だが、カシムは冷静に言った。






「――エリー。君の練気は技としてはあまり型にはめない方が良いと思う。生まれ持った格闘センスから瞬時に繰り出す火炎を伴った攻撃や運動補助…………恐らく、君は敢えて技を固定化せずに、その強力なエネルギーの塊で、その状況に応じて思うがまま練気を使ってみるのが一番良い。あまりに高いセンスは、技の型が却って邪魔になるやも。」





「……えっ、ええ~……そお~…………?」





 ――練気のエネルギーが規格外に大きいエリーは、むしろ技のイメージを固定化せずに臨機応変に繰り出す。純粋でシンプルに強い怪力や脚力、走力、バネなどは単純に強化するだけで無上の武器となりうる。





 もっと華々しい技を練習するのだと思っていたエリーは肩透かしを食らったような気持ちになる。





「大丈夫だ。心配しなくても、やれることは充分あるよ。まず、ひたすらに練気のコントロール! とにかくこれを反復して強化出来るようになるだけで、凄まじい心身の強さを引き出せる。もちろん力にのまれず理性を保ったままでね。あとは筋肉トレーニングや実戦あるのみだ。」





「――そっか……よおーっし!! まだまだ強く優しくなってみせるわよーっ!!」





 ――エリーは、自分にも充分強さへの伸びしろがある、と信じ、小躍りした。





「――さて……気になるのはグロウ。君だな。君のような年少の練気の修行者もいるにはいるが、一体どれほど出来るのか……」





「ともかく、まずは基本だな。グロウ。自分の額を中心に、エネルギーの流れをイメージしてみろ。」





「はい!!」





 グロウは気持ちの良い返事を返し、瞼を閉じて精神を……練気を集中した。





 すると――――






「――なっ……んだ、これは――――!?」




「グロウ……うっそ~…………」






 ――――思えば、グロウはもう能力を会得しているといいレベルであった。






 一瞬。そう、一瞬にして、グロウの練気は大地が鳴動するほどに強く激しく…………それでいてしなやかな安定性を持ってグロウの全身から溢れ出ていた。グロウの立つ地面から、その生命エネルギーを受けて草木が急激に生い茂る。しかも、グロウは疲労している様子が全くない。






「――えっ……これって…………どうなの? 僕、練気出せてる……?」






「――――はっはっはっはっは!! これは参った!! グロウ、君にはもはや何も教えることは無い!! 一瞬にして練気を会得した。後はエリー同様、練気のコントロールと強化に勤しむと良い! 技も練気を高めてその場その場で臨機応変にイメージするだけだ。君たちという逸材を例えるなら……ガイとセリーナは100万人に1人、エリーは10億人に1人、そして君はきっと後にも先にも君1人だけの超逸材だ!! こちらが教えを乞いたいぐらいだよ!!」






 ――グロウの、想像を遙かに超えたエネルギーを操る逸材ぶりに、ヴィクターは呆然とし、カシムは豪笑した――――
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