創世樹

mk-2

文字の大きさ
上 下
44 / 223

第43話 ひとまずの帰還

しおりを挟む
 ――ごおおおおおおおおんんんんん…………。




 巨大な重金属と思われるハンマーでエリーの頭を殴打し、鐘のような音が鳴り響く――――



「――ううっ!!」



 エリーは吹っ飛ばされ、地に片膝をつき、頭を抱える。




「――ムムッ!? 今の脳天への一発で気を失わないどころか、怪我すらしてないっス! こりゃあ、まともに鎮めるのは無理っスね――――そこの子! どうにかならないんスか!?」




 イロハはハンマーを構えながら、背後のグロウに尋ねる。




「――はあっ……はあっ……だ、誰…………君は…………!?」




 息を弾ませながら、グロウは聞き返す。




「んなのは後っス、後、後!! 半裸の美少年くん、どうすれば、あの姉さん止められるっスか!?」




 自分の素性よりも、まずはこの場を収めること。改めてイロハは訊く。



「……ぼ、僕が力を使って、落ち着かせれば、何とか――――」



「わかったっス!! ここまで連れてくりゃ良いっスね!!」




 グロウの疑念混じりの回答を聴き終わるか終わらないか、すぐに飛び出し、エリーの前で――――再び振りかぶった!!





「一発で鎮まらないなら――――何発も脳天狙うだけっス!! おりゃっ!! どりゃっ!! うりゃあーッ!!」





 ――何という短絡的かつ豪快な思考だろう。





 イロハはハンマーを背に振りかぶり、幾度もエリーの脳天をぶん殴った!!



 ごおんっ、ごおんっ、ごおんっ…………と、打つ度に豪快な音が鳴る。






「――う…………」





 さすがのエリーも、ライネスとの戦いで疲弊し切っていた上に負担がかかっていた頭部へ何度も巨大なハンマーでぶん殴られては……少なくとも数十秒は気を失った。そのままうつ伏せに倒れる。




「――よっしゃ! 今のうちに治すっス!!」




 イロハは一旦ハンマーを背負いなおした後、エリーを引き摺って、迅速にグロウのもとへ運んできた。




 土煙を上げ、ずるずる……と何とも情けない風情だ。





「――さあ! 次また襲ってくるかわかんないっス!! 君の力とやらでこの姉ちゃんを鎮めるっス!!」





「へ……う、うん――――」




 グロウは、目の前の少女のハチャメチャさに呆気に取られかけたが、放念している場合でもないことを思い出し、すぐにエリーの頭に手を当て、強く念じる。





(――おさまれ…………『鬼』の力よ、おさまれ…………いつものエリーお姉ちゃんに戻って――――!!)




「――う……ううん……」





 グロウの力からなる光で、ようやくエリーは赤黒い練気チャクラが穏やかに収まっていき…………表情からも鬼気が消えていった。





「――や……やった…………今度、こそ…………何とか、助けられ、た――――」





 グロウは安堵したのに加え、過酷な戦いの疲労。そして力を使い果たしたのか……そのまま倒れ、気を失った。




「――お、おいっ!! どしたっスか!? しっかりするっス!!」





 イロハがグロウを抱きかかえ、揺さぶってみるが、グロウは起きない。完全に気絶している。




 遠くから、親父が駆け寄ってくる。




「――気ぃ、失ったか。ここに来る途中にも何人か倒れてたぞ。街の連中の話だと、ガラテア軍人を除きゃあ、5人組……あと3人か。仕方ねえ。あと3人捜して、担いで街へ戻っぞ!!」




「了解っス!!」





 >>




 >>




 >>




 その後、イロハと親父は森で倒れているガイ、セリーナ、テイテツを見つけ、持てる薬などで手当てをしつつ、街へと担いで帰った。実にバイタル、メンタル共にタフな2人組である。






 >>





 >>





 >>





 ――一方。転移玉テレポボールなる謎の玉を喰らい、飛ばされてしまった特殊部隊4人は――――





「――さっ、さっむううううッ!! ここ何処よ!! 雪山か何かア!?」




 改子が喚く。明らかにセフィラの街の近くの森林地帯ではない、一面銀世界。豪雪地帯の山の中だ。




「むうん……俺の端末はぶっ壊しちまったからなあ……ライネス。おめえのを貸してくれ。現在地を確認する」




「――え? お、おお…………」




 ライネスは未だ要領を得ない。殺気が完全に収まっている。



「――? どうしたんだ、ライネス? いつもなら獲物を逃がしちまった時は暴れるほど昂るか、ガッカリするかの2パターンだろい。なーんか、さっきから様子が変だよな」



 バルザックが、訝る。



「――べ、別に何でもねーってよ! さっきから色んなこと起きたから……気が動転してるだけだィ……壮大なファンタジー映画でも観た直後みてえな、アレだよ。放心状態ってやつ! ――ホレ! 俺の端末! 今度は壊すなよ隊長!!」




「……おめえはいつも映画観てると退屈で寝ちまうタイプだろうが……さて、現在地は――――」




 バルザックは不自然さを感じながらも、取り敢えずライネスから端末を受け取り、太い指で操作しながら何やら確認をする。





「――さささ、寒い! 寒すぎだっつーの!! 凍える前にブチ切れそう…………メラン! あんたも寒いでしょ!? くっついてあっためよーよ!!」




「あンっ……」





 寒さのあまり人肌のぬくもりを求め、メランに抱きつく改子。




「――あーっ! あんた、やっぱあったかいなー!! 火に当たるより効くわー!! 好き好き好きぃ~っ❤」



 先ほどまでの戦闘で高揚していることもあるせいか、悦びのあまりメランに頬ずりする改子。




「…………改子。」





 メランは、一瞬呆気に取られたが、優しく改子を抱き返す。





「――みんな、無事で良かった…………本当に……誰も死ななくて、良かった――――」

「――あん?」




 メランは、憂いを浮かべた面持ちで、改子を強く抱きしめる。改子は、いつもと違う反応のメランに怪訝そうに声を上げる。




「メラン……あんた何言ってんの? あたしら死ぬのなんか恐くないっしょ? むしろ喜んで死ににいってるようなもんじゃん。強い奴と闘ってぶっ殺したりぶっ殺されたり……」




「それは……そうなんだけどン…………あ、あら…………私、本当にどうしちゃったのかしらん?」




 メランは、先ほどの戦闘で、いつもなら躊躇いなく突き立てたはずの刃――――グロウを殺せなかった自分を思い返し、自分自身の変化に戸惑うばかりだ。





「……メランよお……もしかして、おめえもか…………? なーんか妙に気が緩んじまって、いつもなら殺し合いでテンション上がりっぱのはずなのによお……」




 ライネスもメランの異変に気付き、寒さも忘れてメラン同様戸惑っている様子だ。




「――!! そういえば…………私、あの子……グロウ、とかいう男の子に何か精神干渉みたいなのされたわン。こう、頭に手を当てられて、光が…………」



 メランは、森の中でグロウを捕縛しようとした時のことを思い出した。



「頭に手を当てて、光が――――お、俺もそうだぜ! あいつに何かされて、そのまんまここに…………」




 メランは、改子に頬ずりされつつも、顎に手を当て考えてみる。




「――まさか……私とライネス、戦士として不能にされちゃったのかしらン…………あの子の精神干渉で…………」




「……何だと!?」





 ――改造手術や薬物投与の影響で、常人を遙かに逸脱して昂り続けるはずの闘争心。





 2人の脳から、そんな戦闘狂としてのアイデンティティー、核とも言えるものが、根こそぎ奪われてしまったのだろうか。




「――ん、んなことされたら……俺ら、何を楽しみに生きていけばいいんだあ!? お、俺ら、闘いだけが――――」




「……落ち着いてン、ライネス…………確かに、そうだとしたら致命的だけどン……だからって、人間の闘争本能そのものを根こそぎ奪うなんてこと……本当に出来るのかしらん。生物が根源的に持っているといっていい筈のものなのに――――」




「――異状を確認するのは、どーやら後回しになりそうだぞおん、メラン、ライネス」




「隊長……」
「なあに?」



 2人が同時に聞き返す。





「本国からの帰還命令だ。俺たちの謹慎処分を速やかに解除するんだと。どうやら本国に部隊を集めて、何やら大規模な作戦が近いうちに敢行されるらしい。どんなルートでもいいから本国へ戻って来いとよ……」




 バルザックは、端末の画面に映し出されているメールファイルを3人に見せる。




「――ちなみに、ここは現在地北緯55度22分以北の何処か。北極圏だ…………さて、どうやって10000㎞以上離れてる本国へ帰るかねエ……取り敢えず白熊でも狩りまくるか? まずはサバイバルからだな……はあ~あ…………」




「ほっきょくけんんんんんんーーーっ!? そりゃ寒いに決まってるわあああああああ!! ――あっ! ちょうどあそこに熊が……た、耐えらんない、狩ってくる!!」




 イロハが投げた転移玉とやらは、ライネスたちの思っていた以上に遠くに放遂する力があったようだ。改子は遠くに見える熊らしき影を追い、バルザックはまたも鬱状態のスイッチが入ったのかぶつぶつと暗い独り言。




「……こりゃ、俺らの精神干渉がどうとか言ってる場合じゃあねえな。まずは本国まで帰らにゃ…………俺、あーそこは堅苦しくって嫌なんだがなあ~……はあ~っ……」




「……そうねン。本国の研究機関に頼めば、また闘争心やら何やら復活させてもらえるかもしれないし…………あまり深刻に考えずに、まずは帰る為の努力をしましょお。この件の報告はそれからよン」





「――おりゃああああ!! 熊アアアアアアッ!! 大人しくあたしらの糧となって死ねエエエエエエエーーッ!!」





 氷雪が舞う中、熊を狩る改子の雄叫びが木霊していた―――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神水戦姫の妖精譚

小峰史乃
SF
 切なる願いを胸に、神水を求め、彼らは戦姫による妖精譚を織りなす。  ある日、音山克樹に接触してきたのは、世界でも一個体しか存在しないとされる人工個性「エイナ」。彼女の誘いに応じ、克樹はある想いを胸に秘め、命の奇跡を起こすことができる水エリクサーを巡る戦い、エリキシルバトルへの参加を表明した。  克樹のことを「おにぃちゃん」と呼ぶ人工個性「リーリエ」と、彼女が操る二十センチのロボット「アリシア」とともに戦いに身を投じた彼を襲う敵。戦いの裏で暗躍する黒幕の影……。そして彼と彼の大切な存在だった人に関わる人々の助けを受け、克樹は自分の道を切り開いていく。  こちらの作品は小説家になろう、ハーメルン、カクヨムとのマルチ投稿となります。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

魔王殿

神泉灯
ファンタジー
 さらわれた王女の奪還に三人の勇者が魔王殿に到着した。  同時刻、王女は魔王を階段から突き落とした。  目を覚ました魔王は言った。 「ここはどこ? 君は誰? 僕は……誰?」  息をのむ王女だが、千載一遇の脱出の好機と、一世一代の嘘をつく。 「私たちは一緒に魔王殿を脱出するのです」  記憶をなくした魔王。  救出が来ていることを知らない王女。  事態を知るよしもない勇者たち。  混乱する魔物たち。  なに一つ かみ合わない 運命の歯車の 行き着く先は?  注・難解な物語です。  もう一つ 注・これは 出版が決まったものの、なぜか警察から圧力がかかり、出版 差し止めとなった、いわくつきの小説です。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

処理中です...