創世樹

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第33話 無意識を超えた意志の力

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 バルザックが深く長い呼吸を整えると――――謎の『圧』と共に、俄かに身体中に光を帯び始めた。



 その光はまるで――――




「――俺の回復法術ヒーリングと同じ……いやそれ以上だと!?」



 青白い光はバルザックを中心に幾重にも螺旋を描くように回転する軌跡が動き…………みるみるうちに傷が塞がり、出血も治まっていく!!




 それはガイが使う回復法術と似通っていたが――――質も量も格上のように思える。急速にダメージを回復させていく……。




「――ふう~っ……ざっとこんなもんさア。こいつが1つ目の手品だ。大抵の傷は、この通り! 大怪我程度ならちょいと練気チャクラを集中させるだけで新品同然まで治せる。そのせいか俺らは他人だけでなく……自分のダメージに対する意識が薄くなっちまってなア!! ムグハハハハ!! つい戦いすぎちまうのよ!」


「ん、んな無茶苦茶な――――」




「そして練気は俺ら4人とも使える。全員が俺ぐらいの回復力は持ってる――――練気は、術者の精神力で幾らでもデタラメな能力を開発できるんだぜエ。お前さんにも少しは練気が身体から出てるのが見えるが――――まぁだまだ自分のモノに出来てねえようだな……エネルギーが垂れ流しの状態程度だ。全くもって勿体ねえッ!!」



「――――ッ」



 ガイは、絶句した。



 『神の御業』と伝えられ、ガイにとって渋々とはいえ鍛錬の末身に付けた回復法術の力。




 
 それはまだ全く会得し切れていなかったこと。チャクラとやらの力のほんの一端に過ぎないこと。練気はバルザック=クレイド然りライネス=ドラグノン、目亘改子、メラン=マリギナ……4人ともが会得しており、その能力は未知数で、人間離れした力を使役していること。




 声にも出せず、ガイは内心狼狽するしかなかった。仲間には多少は虚勢を張って、『回復法術は大したことじゃあない』と言いつつ、密かに自信に思っていたが、それを全くと言っていいほど使いこなせていないこと。そして予想を遙かに上回る、敵の実力に――――




「――そしてエエエエエエエエッッッ!!」
「おわっ、あっ!?」



 突然、バルザックが大声を上げ、練気を高めて念じると――――突然、ガイの握る2本の刀が重くなった!!




 否、重くなっただけではない。




 刀が強烈な力で、バルザックに引き寄せられる!!




「なッ……くっ…………この…………ッ!!」




 ガイは必死に刀を離すまいと力を込めて握るが、引き寄せる力はあまりにも強すぎる。ガイの両足が地面の土を抉りながら、バルザックに近付いてしまう…………!




「はっはあッ!!」
「くあッ……!」




 さらにバルザックが強く念じると――――とうとうガイの両手から2本とも離れ、宙を飛んでバルザックの両掌に張り付いた!!




「――俺の練気の能力は……俺の身体を中心に磁力を操る力だ。相手が金属質の武具を装備していればしているほど良い。フルパワーで念じれば戦闘機だって引っ張れるさア。相手が全身鎧でも着てるようなら、そのままミートマッシャーみてえに圧殺だな、くくく……これが2つ目の手品さ。」




「ち、畜生…………ッ」




 ガイは得物をいともたやすく奪い取られ。最早戦う術も皆無に等しい。服の中に仕込んである剃刀やナイフなどの暗器も、バルザックが使う磁力で捻じ曲がってしまった。防護材も金属質の物がいかれてしまい、身体の重心バランスも上手く取れない。





「――さアてェ……どうする? どうするんだ? もう終わりか? 俺を楽しませてくれる時間はもう終わりかい、エエ!?」



 ――凄むバルザックを前に、とうとう、ガイは余裕を完全に失い、冷静な思考を手放してしまった――――





「――ぐっ……クソがああああーーーッ!!」




 ガイはやぶれかぶれ。素手で、僅かばかり剣技の次に鍛錬していた徒手空拳による体術という手札カードに賭け、突撃した。



「――ほほう! 玉砕覚悟たア、胆力はあるなあ!! 俺にゃあ真似出来ねエ!!」



「ふっ、うおおりゃあッ!!」



 ガイはバルザックの手前で一瞬フェイントを加えたステップを踏み、死角から蹴りを浴びせた!!



 ――――だが、その覚悟や胆力すらも、あまりにも弱い手札であった――――



 強烈な打撃音が辺りに響いたが――――



「……くっ……」



 分厚い筋肉の塊であるバルザックの強靭な肉体。さらに練気の効果だろうか。尋常ならざる強度。ビリビリと痺れる衝撃を受けたのはガイの右脚の方だった。痛みに苦い声と顔を作る。



 ――突然、バルザックの創面に、熱が消えた。深い失望の念にも見えた。




「――やれやれ。こいつぁ外れだったなあ。これじゃあ赤子と巨大戦艦だぜ。――――もうお前さんは、俺に蚊ほどもダメージを与えられねえ――――」



「――どらぁっ!!」



 ガイは肋骨を狙って素早く二撃、拳によるワンツーを浴びせた。無論、ダメージはない。


「……どうしてくれんだ。」
「せいやあああッ!!」



 焼け石に水だが、それでも体術で打ち続けるガイ。



 だが、急所を狙った眼球への目潰しサミングに伸ばした手刀でとうとう掴まった。



「――この俺の失望感、絶望感を……一体全体どうしてくれんだああああああああああアアアアアアアアアアアーーーーッッッ!?」
「がッ!!」




 そしてバルザックは強烈な力で右手でガイの首根っこ、左手で腰元を掴むと――――ガイへの恨みというより、自分にとって理不尽な運命への怒りか。烈火のような怒気に任せた怒号もそのままに、天高く飛び上がった!!




 飛び上がりながら、複雑な回転運動を加えながら宙を豪烈に昇り……そして下る時はその回転運動が何乗にもなるかという速さと圧力を掛ける!! ガイは、ビリビリと全身が軋むのが解った。




豪破壊衝撃爆砕運動ウルトラクラッシャー・バックブリーカーアアアアアアアアアアーーーーーッッッ!!!!」




 ――――真下に着地し、大地にこれまでで最も大きな破壊音が響き渡った。そしてあまりにも巨大な、あまりにも途方もない圧力がガイの全身を破壊した――――!!




「――ぐッ……ぼあ…………っ!!」



 ガイは壮絶な痛みと同時に吐血――――全身の骨も筋肉も内臓も、筆舌し難いほどに爆裂した。四肢が千切れていないのが奇跡的なほどだった。



「――むウンッ!」



 そのまま地にガイを投げ捨てるバルザック。




 表情は――――闘争の歓喜でも、怒りを、ストレスをぶちまけた後のリラックス状態でもない。








 ただただ、失望と虚無感だけだった。






「――はあ~あ……とことん俺ぁついてねえなあああ…………野郎なら少しは骨があると思ってよおおオオオ~……追っかけたのに、蓋を開けりゃあこの程度かいぃ……破壊した感触が全ッッッ然ぬるいぞお~……」




 バルザックはまたもさっきのような鬱状態に陥ったのか、倒れ伏すガイの周りをしばし、ぶつぶつと独り言を繰り返しながら歩き回る…………。





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 >>




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 ――――意識が深淵へと堕ち、生の感覚、痛みすら知覚出来ぬほど死へと向かう、ガイの生命いのち





 ――くそっ……畜生、畜生、畜生!!




 ここで終わりなんて、認められっか。




 だが……このままおっ死ねば…………もう思い悩むことも痛みに苦しむこともなくなるのか――――?





 ――はは。それもいい加減アリかもな…………。





 だが…………そうなったら――――どうなんだっけ?





 俺が消えたら――――エリーはどうなんだ――――?




 エリー。エリー…………エリー――――エリー。








 >>




 >>




 >>






「――ああ……つれえわ。つれえなあ……ライネスたちは『当たり』を引いたのかねえ。俺だけ外れか。つれえなあ…………」




 陰鬱な、仮面のように固まった虚無の顔で歩き回るバルザック。だが、やがてもたげていた首を上げて遠くを見る。




「仕方ねえ。可能性は万に一つも億に一つも京に一つもねえが……他の獲物を追うか…………確か、ライネスの話だと、一番強そうなのは……エリー、とかってピンク髪の女かア……ダメ元で行くか…………」




 バルザックは次の目標をエリーに定め、歩き出した。







「――――むん?」






 ふと、バルザックは声を漏らした。





 左足に違和感を感じ、足元を見遣る――――

















「――――!!」








 なんと、ガイはバルザックの左足を、しかと掴んでいた!!






「――うご、け……動け……よ…………ぜ、ったい……に…………あ、の……糞、野郎……どもを……いか、せ……いかせ、ちゃ…………うご……け、よ…………おれ、の…………から、だ――――」






 ――――うわ言を呟き、目の焦点も合っていない。全身は骨という骨は砕け、筋は裂け、内腑は破けている。意識も定まってはいない。





 バルザックが何気なく発した『エリー』という言葉がスイッチになったのか。





 ガイの中の、エリーに向けた底知れぬ執着心にも似た愛。




 その無意識レベルに、細胞レベルに染み付いた悲壮な想いだけが――――無意識のガイの身体を突き動かした。魂の抵抗だ。




(これは――――こいつの練気がさっきまでとはあり得ねえほどに強くなっている……!? 無意識で、第六感的な何かで回復法術を働かせてんのか。いやそれより――――なんでこいつはこれだけ壊し切った身体で…………お、俺の足をこんな力で掴めるってんだ――――!?)




 バルザックの目に、最早黄泉の世界に一歩も二歩も踏み込んでいるはずのガイの全身から立ち昇る、極限まで研ぎ澄まされた回復法術の青白い光がハッキリと見える。





「――うっ……うおおっ…………おっ、面白え…………!! ここまでの根性を見せる人間にゃあ、出会ったことがねえッ!! どうせ虫の息だろうが――――最期まで遊んでやるぜ、兄ちゃんよオ!!」





 バルザックは己の左足を掴む、粉々に折れているガイの右腕を押し退け、再び構え、練気を集中させた――――!
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