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第32話 陰鬱な漢と陰鬱さと闘う漢
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「いいわね? じゃあ――――GO!!」
エリーがそう号令を掛けると、エリーたちは――――5人とも別方向に駆け出した。
「――なっ!?」
一瞬、意外な行動に驚き声を上げるライネス。
別方向に、とは言っても、全員さらに奥深い森の闇へと走り出している。
エリー、ガイは木の枝から枝へ飛び移りながら、セリーナは空中走行盤で森の木の高い所を縫うように飛び、テイテツとグロウは全速力で走る。
「いいか! なるべくお互い距離を取るんだ!! 一度に相手にするのはやべえ!! 散り散りになって離れろッ!!」
ガイが皆に向けて大声で叫ぶ。
「ふむ~うん……あの学者サンの発案か? 4対5の乱戦じゃあかなわんと見て……な~る」
バルザックがその場で腕組みをしてひと息、唸る。
エリーたちの作戦は、『とにかくセフィラの街から距離を取り、各個撃破、或いは撃退する』ことだった。
相手は理も知性も無い様な殺人狂とはいえ、仮にもガラテア軍人の特殊部隊だ。全員で一度に戦えば、その巧みな連携攻撃で一気にやられてしまうことだろう。
ガイの回復法術やグロウの治癒の力での手当てが遅れる、という高いリスクを取りつつも、各個撃破の方がまだ可能性があると見てテイテツの発案である。
最も、それでも全員が健在のままライネスたち4人を撃破・撃退出来るかは、限りなく不可に近かった。最初から背水の陣である。
運よく撃破・撃退が1人でも出来れば、すぐさま何らかの合図をして他の仲間の援護に向かう。ライネスたちを分断出来ればそれも可能性は少ないが希望がある。
「隊っ長ッ!! 感心してる場合じゃあないっしょ!! 下手したら逃げられるじゃん!!」
「落ち着いてン、改子。どうやら彼ら……全速力で四方に散ってこの程度のスピードよン? 余裕で追いつけるわ」
「さっきの街を壊されるのが、そんなに嫌なんかねエ……別にそんなに執着してる気はしねえんだけどな~、俺ら」
「むう……その辺の冒険者に比べりゃあ、悪くはないが……こりゃあ期待外れかもしれんなア。はあ……」
改子だけが功を急いているのか浮足立っているが、他の3人は余裕綽々といった風情だ。バルザックに至っては、何やら急に陰鬱に溜め息を吐いている。
「はあ~あ…………こんなだから俺ァ昔っから詰めが甘いとか、愚鈍とか、穀潰しとか言われんだよあああぁぁぁ……隊長なのに碌に敵の行動の計算も出来ねえとか。この前も投稿文芸サイトに書いて投稿した俺の作品、総スカンで応援の書き込みひとつ来ねえしよオ…………」
「うおっ、隊長、小説書くの続けてたんスか。この前も『書いたエッセイに載ってる俺の生き様が糞すぎる』って絶望してたからとっくにやめたと思ってたぜ」
「ほっといてくれぃ。何だかんだ言っても創作は俺の癒しなんだよお……」
「ねえン隊長ぉ? そうやって鬱状態になるのは後にしてン? 本当に逃げられるわよお?」
「冗談、無理、御免被るわァーッ!! 一人だって逃がしたら……欲求不満でこっちが狂い死んじゃいそうよおおおおおおオオオオオオーーーッッ!!」
何故か意気消沈とするバルザックをはじめ、緊張感の無い連中だが、とうとう痺れを切らした改子が絶叫しながら突出、エリーたちを猛スピードで追い始めた。
「今、沈んでてもお、時間の無駄遣いよおン? 休暇中の愉しみが減っちゃうわん。私もそんなの……嫌ぁ~よおおん♪」
メランも舌なめずりをした後、走り始めた。
「んじゃ、そういうことなんで。隊長も追った方がいいぜえ? ――俺ぁ、あのピンク髪の獲物だけァ、逃がさねえ――――!」
続けて、ライネスも去った。
一人、取り残されたバルザック。
「………………」
しばし、ぶつぶつと独り言を呟いていたが――――
「はあ~……ま、獲物を取り逃す方がメンタルがしんどい、か…………」
やや遅れてやはり彼も駆け出した。
>>
>>
>>
「ちっくしょう……やっぱ追って来やがるか! は、速え……」
森の木枝から飛び移り、時には邪魔な枝や葉を二刀流で切り落としながら逃げるガイ。
されど、獰猛な『圧』は走りながら離れていても強烈に感じられる。猛スピードでそれぞれの目標に向けて追ってくる気配を感じずにいられない。
(一体、何だってんだ。こいつらの『圧』は…………!? 強いからってのは当然だが……それにしちゃ強烈過ぎる。本当に同じ人間か――――?)
ガイが逃げながら、連中が人間かを疑い始めた刹那――――
バゴオオオオンンン――――!!
「!?」
突然、森中に破壊音が響き渡った。
それは一回では終わらない。
バゴン、バゴン、バゴオオオオンンン――――!!
次々と謎の轟音が鳴り響き、ひと際速くガイに近づいてくる。
「――なっ、馬鹿な――――!?」
――破壊音の正体は、森の木々が砕ける音だった。
砕いているのは――――
(――や、野郎……ま、マジで人間じゃあねえんじゃあねえか――――ッ!?)
ガイは振り向き、連中が人間か、それ以上に目の前の光景が現実かを疑った。
――バルザックが、追いかけてきているのだ。
ただし、ただの追い方ではない。
普通、森の中を走るなら、エリーやガイのように木を飛び移って逃げるか、テイテツやグロウのように木を避けながら走って逃げるかだが……。
バルザックは『真っ直ぐ、走り始めた場所から一直線に追いかけて来ていた』。木を一切避けない。
そう。
一体どれほどのパワーと強度を誇れば出来るのか、バルザックはなんと、身体を突進させて木をなぎ倒しながらガイを追ってきていた!! スピードも凄まじい!!
「んどるるあああああああーーーーッッッ!!」
「うおおおッ!?」
――雄叫びを上げて猛追し、あっという間に……ガイは追いつかれてしまった。バルザックがその剛腕を以て、ガイが止まっていた木も粉砕した。何とかバランスを取って地上に降り、ガイはすぐさま二刀を構える。
バルザックはここまで木を破砕しながら突進してきただけあって、木の繊維や微生物にまみれていた。木材特有の青々しい匂いが鼻につく。
「――けっ、化け物め。自然保護団体も真っ青な追い方をしやがって……てめえらガラテアに世界の自然を支配する資格なんざねえよ」
「――ぬぐふふふふ……生憎だが、俺たちァエコな精神はノーセンキューでなあ……」
ガイは自分の余計な緊張を解く意味も含めて軽口を叩く。だが内心は焦りと迷いの中だ。
(――どうする。相手はエリーに匹敵するかもしれねえ馬鹿力。重戦車みてえな突進力。わけわかんねえ『圧』……おまけに結構速え……他の3人に比べりゃあのガタイだと遅いとは思うが…………)
手に汗をかきながら、呼吸を整え死合いの算段を練る。刀の柄の冷たい感触に手がかじかむ。
「ぬふふふふっふっふっふ……」
バルザックが首をゴギゴギッと鳴らし、手指もボギャボギャッ、と派手に鳴らして両肩も回して馴らしたのち、どっすん、どっすん……と重い足音を立てながら近付いてくる。
(――相手の手札が見えねえ以上、突撃は禁物だな。ここはやっぱ――――)
「――行くぞオアッ!!」
バルザックが両足で踏み込み、地面を砕くと同時にガイの間合いに飛び込む!!
「――ふっ!!」
相手の繰り出す拳をよく見て、ひらりと身を躱せた。同時にバルザックの剛拳がガイが一瞬前に立っていた地面を花火のように割り砕いて見せる。岩や木の根の破片が舞う!!
「――せいやッ!!」
ガイは間髪入れず、バルザックの腕が伸びきって姿勢が硬直したのを見て脇腹に斬撃を浴びせる!!
素早く二刀の刃。軍服を切り裂き脇腹に切り傷が加えられた。
(――やっぱな! こいつの速さは俺にも何とか対応出来る。奴が攻撃した隙を突いて後の先を浴びせる……これが定石だぜ)
素早く飛び退き、また構える。
「――ムウっ……痛え。」
バルザックは表情は闘争の歓喜をそのままにした凶悪な笑みだが、脇腹に手を当て、血が滴り落ちるのを確認した。どうやらダメージは通っているようだ。
「――クゴオオオオウウウッ!!」
痛みもさほど意を介さずに、猛獣の雄叫びのような獰猛な声を上げ、再びガイに飛び掛かるッ!!
「――ふんッ!! せあああっ!!」
ガイは慌てずに躱し、後の先の二刀を今度は脚を狙って放つ。
これも命中し、刀剣の鋭い刃が、バルザックの岩のように盛り上がっている右脚に十文字を描く交差した傷を作った。
太い血管に近かったのだろう。脇腹よりも激しく出血する。
「――ぬおおおおおうッ!!」
「――な!? ちっ――――」
しかし、バルザックはまるで斬られたことすら忘却の彼方に押し遣るかのように全く臆せず、喜色満面のまま変わらず突撃してくる!!
ガイは敵の異常な闘争心に驚嘆しながらも、抜け目なく攻撃に合わせてカウンターの後の先を浴びせ続けた。
>>
十数回はそうして切り結んだだろうか。
バルザックは、まるで痛覚が麻痺でもしているかのように全く怯まず、轟然と突進し続けてくる。
しかし重戦車のような突進力とはいえ力任せな一撃ばかりで、しっかりと精神を集中状態に置いてあるガイは一撃も喰らわず避け、相手の攻撃に合わせて後の先で斬り続けていた。
だが――――
(マジで一体何なんだこいつは!? 本当に倒せんのか!?)
二刀を以て十数回も斬りつければ、最早満身創痍である。バルザックは全身から血が噴き出し、苦痛の極みであるはずだ。
なのに、轟然と闘争の歓喜や病んだ性に顔を喜色に歪ませながら突撃してくる。
しかも、ガイはとうに何箇所も急所を狙って斬りつけたはず。なのに手応えがない。
まるで、エンデュラ鉱山都市の時の無限のスタミナと再生能力に蝕まれた鉱山夫たちを想起させる。バルザックもあの劇薬の類いを使っているのか?
「――ぬぐうふふふふふ、楽しい!! 面白いぞ面白いぞ面白いぞ面白いぞオオオオッ!!」
血走った目で、なおも昂るバルザック。だが、全身からの夥しい出血。
「――おい! てめえ……このまま闘ると……マジで死んじまうぞ!! 自分の怪我が見えてねえのか!? マジで斬り殺すぞコラァ!!」
ガイは動揺のあまり、相手の生命の方が不安になり、つい情けとも取れるような言葉を発した。
「……ふしゅう~っ…………」
バルザックはガイの言葉に、一度深呼吸をしながら全身の傷を見た。
「――あアそうさ。確かにこりゃ満身創痍……下手すら致命傷イッてかもなあア…………『ただの人間なら』、な……」
「なんだと!? てめえ、やっぱり何かやってんのか!! 改造手術とかヤクとか――――」
「おうともさ。俺は――――俺たちゃ抜き差しならねえ情況になって、ガラテアに全身という全身を爪の先からケツの穴まで弄くり回された実験体だからよォ!! 簡単にゃあ死ねねエのさア!! だが……大事なのは身体だけじゃあねえ!!」
「……何ィ!?」
すると、突然バルザックはすっ、と真顔になり……不気味なほど冷静な眼差しを向けてくる。
「――あんたア、どうやら回復法術使えるだろ? なのに、察しがつかねえのかい?」
「回復法術だあ? それが何の関係があって――――」
「――グハハハハ!! やっぱそうかア!! 最低限しか使えねえわけか、勿体ねえッ!! ――――練気を知らねえとはなアア!! あ~ア勿体ねえ、勿体ねえッ!!」
――――練気《チャクラ》。
聞き覚えの無い言葉を発し、満身創痍だというのに豪笑し、傍の木をバンバンとはたくバルザックに、ガイは動揺を禁じ得ない。
「チャ、クラ? チャクラだと? 一体何の話を――――」
「もおおおオーいいっ!! わかったア! あんたはどう足掻いても俺には勝てんっ!! それがわかっちまった!! ――――あとはあんたをズダボロにして他の獲物を追うだけだ。」
豪笑するバルザック。だが後半の台詞は銃剣のような鋭く冷たい視線をガイに突き刺しながら、低くくぐもった声で告げた。
「勝てねえ、だと!?」
「わけがわかんねえあんたに冥土の土産だ。練気ってやつの使用例だ。ちょいと手品を、2つ見せてやるよ――――」
バルザックは……そう不気味に呟くと背筋を伸ばし、何やら深く呼吸をした。
これは、ガイの心象なのだろうか。
バルザックの『圧』が――――最初から感じていた不快な感覚が、どんどんと強まっていく――――
エリーがそう号令を掛けると、エリーたちは――――5人とも別方向に駆け出した。
「――なっ!?」
一瞬、意外な行動に驚き声を上げるライネス。
別方向に、とは言っても、全員さらに奥深い森の闇へと走り出している。
エリー、ガイは木の枝から枝へ飛び移りながら、セリーナは空中走行盤で森の木の高い所を縫うように飛び、テイテツとグロウは全速力で走る。
「いいか! なるべくお互い距離を取るんだ!! 一度に相手にするのはやべえ!! 散り散りになって離れろッ!!」
ガイが皆に向けて大声で叫ぶ。
「ふむ~うん……あの学者サンの発案か? 4対5の乱戦じゃあかなわんと見て……な~る」
バルザックがその場で腕組みをしてひと息、唸る。
エリーたちの作戦は、『とにかくセフィラの街から距離を取り、各個撃破、或いは撃退する』ことだった。
相手は理も知性も無い様な殺人狂とはいえ、仮にもガラテア軍人の特殊部隊だ。全員で一度に戦えば、その巧みな連携攻撃で一気にやられてしまうことだろう。
ガイの回復法術やグロウの治癒の力での手当てが遅れる、という高いリスクを取りつつも、各個撃破の方がまだ可能性があると見てテイテツの発案である。
最も、それでも全員が健在のままライネスたち4人を撃破・撃退出来るかは、限りなく不可に近かった。最初から背水の陣である。
運よく撃破・撃退が1人でも出来れば、すぐさま何らかの合図をして他の仲間の援護に向かう。ライネスたちを分断出来ればそれも可能性は少ないが希望がある。
「隊っ長ッ!! 感心してる場合じゃあないっしょ!! 下手したら逃げられるじゃん!!」
「落ち着いてン、改子。どうやら彼ら……全速力で四方に散ってこの程度のスピードよン? 余裕で追いつけるわ」
「さっきの街を壊されるのが、そんなに嫌なんかねエ……別にそんなに執着してる気はしねえんだけどな~、俺ら」
「むう……その辺の冒険者に比べりゃあ、悪くはないが……こりゃあ期待外れかもしれんなア。はあ……」
改子だけが功を急いているのか浮足立っているが、他の3人は余裕綽々といった風情だ。バルザックに至っては、何やら急に陰鬱に溜め息を吐いている。
「はあ~あ…………こんなだから俺ァ昔っから詰めが甘いとか、愚鈍とか、穀潰しとか言われんだよあああぁぁぁ……隊長なのに碌に敵の行動の計算も出来ねえとか。この前も投稿文芸サイトに書いて投稿した俺の作品、総スカンで応援の書き込みひとつ来ねえしよオ…………」
「うおっ、隊長、小説書くの続けてたんスか。この前も『書いたエッセイに載ってる俺の生き様が糞すぎる』って絶望してたからとっくにやめたと思ってたぜ」
「ほっといてくれぃ。何だかんだ言っても創作は俺の癒しなんだよお……」
「ねえン隊長ぉ? そうやって鬱状態になるのは後にしてン? 本当に逃げられるわよお?」
「冗談、無理、御免被るわァーッ!! 一人だって逃がしたら……欲求不満でこっちが狂い死んじゃいそうよおおおおおおオオオオオオーーーッッ!!」
何故か意気消沈とするバルザックをはじめ、緊張感の無い連中だが、とうとう痺れを切らした改子が絶叫しながら突出、エリーたちを猛スピードで追い始めた。
「今、沈んでてもお、時間の無駄遣いよおン? 休暇中の愉しみが減っちゃうわん。私もそんなの……嫌ぁ~よおおん♪」
メランも舌なめずりをした後、走り始めた。
「んじゃ、そういうことなんで。隊長も追った方がいいぜえ? ――俺ぁ、あのピンク髪の獲物だけァ、逃がさねえ――――!」
続けて、ライネスも去った。
一人、取り残されたバルザック。
「………………」
しばし、ぶつぶつと独り言を呟いていたが――――
「はあ~……ま、獲物を取り逃す方がメンタルがしんどい、か…………」
やや遅れてやはり彼も駆け出した。
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「ちっくしょう……やっぱ追って来やがるか! は、速え……」
森の木枝から飛び移り、時には邪魔な枝や葉を二刀流で切り落としながら逃げるガイ。
されど、獰猛な『圧』は走りながら離れていても強烈に感じられる。猛スピードでそれぞれの目標に向けて追ってくる気配を感じずにいられない。
(一体、何だってんだ。こいつらの『圧』は…………!? 強いからってのは当然だが……それにしちゃ強烈過ぎる。本当に同じ人間か――――?)
ガイが逃げながら、連中が人間かを疑い始めた刹那――――
バゴオオオオンンン――――!!
「!?」
突然、森中に破壊音が響き渡った。
それは一回では終わらない。
バゴン、バゴン、バゴオオオオンンン――――!!
次々と謎の轟音が鳴り響き、ひと際速くガイに近づいてくる。
「――なっ、馬鹿な――――!?」
――破壊音の正体は、森の木々が砕ける音だった。
砕いているのは――――
(――や、野郎……ま、マジで人間じゃあねえんじゃあねえか――――ッ!?)
ガイは振り向き、連中が人間か、それ以上に目の前の光景が現実かを疑った。
――バルザックが、追いかけてきているのだ。
ただし、ただの追い方ではない。
普通、森の中を走るなら、エリーやガイのように木を飛び移って逃げるか、テイテツやグロウのように木を避けながら走って逃げるかだが……。
バルザックは『真っ直ぐ、走り始めた場所から一直線に追いかけて来ていた』。木を一切避けない。
そう。
一体どれほどのパワーと強度を誇れば出来るのか、バルザックはなんと、身体を突進させて木をなぎ倒しながらガイを追ってきていた!! スピードも凄まじい!!
「んどるるあああああああーーーーッッッ!!」
「うおおおッ!?」
――雄叫びを上げて猛追し、あっという間に……ガイは追いつかれてしまった。バルザックがその剛腕を以て、ガイが止まっていた木も粉砕した。何とかバランスを取って地上に降り、ガイはすぐさま二刀を構える。
バルザックはここまで木を破砕しながら突進してきただけあって、木の繊維や微生物にまみれていた。木材特有の青々しい匂いが鼻につく。
「――けっ、化け物め。自然保護団体も真っ青な追い方をしやがって……てめえらガラテアに世界の自然を支配する資格なんざねえよ」
「――ぬぐふふふふ……生憎だが、俺たちァエコな精神はノーセンキューでなあ……」
ガイは自分の余計な緊張を解く意味も含めて軽口を叩く。だが内心は焦りと迷いの中だ。
(――どうする。相手はエリーに匹敵するかもしれねえ馬鹿力。重戦車みてえな突進力。わけわかんねえ『圧』……おまけに結構速え……他の3人に比べりゃあのガタイだと遅いとは思うが…………)
手に汗をかきながら、呼吸を整え死合いの算段を練る。刀の柄の冷たい感触に手がかじかむ。
「ぬふふふふっふっふっふ……」
バルザックが首をゴギゴギッと鳴らし、手指もボギャボギャッ、と派手に鳴らして両肩も回して馴らしたのち、どっすん、どっすん……と重い足音を立てながら近付いてくる。
(――相手の手札が見えねえ以上、突撃は禁物だな。ここはやっぱ――――)
「――行くぞオアッ!!」
バルザックが両足で踏み込み、地面を砕くと同時にガイの間合いに飛び込む!!
「――ふっ!!」
相手の繰り出す拳をよく見て、ひらりと身を躱せた。同時にバルザックの剛拳がガイが一瞬前に立っていた地面を花火のように割り砕いて見せる。岩や木の根の破片が舞う!!
「――せいやッ!!」
ガイは間髪入れず、バルザックの腕が伸びきって姿勢が硬直したのを見て脇腹に斬撃を浴びせる!!
素早く二刀の刃。軍服を切り裂き脇腹に切り傷が加えられた。
(――やっぱな! こいつの速さは俺にも何とか対応出来る。奴が攻撃した隙を突いて後の先を浴びせる……これが定石だぜ)
素早く飛び退き、また構える。
「――ムウっ……痛え。」
バルザックは表情は闘争の歓喜をそのままにした凶悪な笑みだが、脇腹に手を当て、血が滴り落ちるのを確認した。どうやらダメージは通っているようだ。
「――クゴオオオオウウウッ!!」
痛みもさほど意を介さずに、猛獣の雄叫びのような獰猛な声を上げ、再びガイに飛び掛かるッ!!
「――ふんッ!! せあああっ!!」
ガイは慌てずに躱し、後の先の二刀を今度は脚を狙って放つ。
これも命中し、刀剣の鋭い刃が、バルザックの岩のように盛り上がっている右脚に十文字を描く交差した傷を作った。
太い血管に近かったのだろう。脇腹よりも激しく出血する。
「――ぬおおおおおうッ!!」
「――な!? ちっ――――」
しかし、バルザックはまるで斬られたことすら忘却の彼方に押し遣るかのように全く臆せず、喜色満面のまま変わらず突撃してくる!!
ガイは敵の異常な闘争心に驚嘆しながらも、抜け目なく攻撃に合わせてカウンターの後の先を浴びせ続けた。
>>
十数回はそうして切り結んだだろうか。
バルザックは、まるで痛覚が麻痺でもしているかのように全く怯まず、轟然と突進し続けてくる。
しかし重戦車のような突進力とはいえ力任せな一撃ばかりで、しっかりと精神を集中状態に置いてあるガイは一撃も喰らわず避け、相手の攻撃に合わせて後の先で斬り続けていた。
だが――――
(マジで一体何なんだこいつは!? 本当に倒せんのか!?)
二刀を以て十数回も斬りつければ、最早満身創痍である。バルザックは全身から血が噴き出し、苦痛の極みであるはずだ。
なのに、轟然と闘争の歓喜や病んだ性に顔を喜色に歪ませながら突撃してくる。
しかも、ガイはとうに何箇所も急所を狙って斬りつけたはず。なのに手応えがない。
まるで、エンデュラ鉱山都市の時の無限のスタミナと再生能力に蝕まれた鉱山夫たちを想起させる。バルザックもあの劇薬の類いを使っているのか?
「――ぬぐうふふふふふ、楽しい!! 面白いぞ面白いぞ面白いぞ面白いぞオオオオッ!!」
血走った目で、なおも昂るバルザック。だが、全身からの夥しい出血。
「――おい! てめえ……このまま闘ると……マジで死んじまうぞ!! 自分の怪我が見えてねえのか!? マジで斬り殺すぞコラァ!!」
ガイは動揺のあまり、相手の生命の方が不安になり、つい情けとも取れるような言葉を発した。
「……ふしゅう~っ…………」
バルザックはガイの言葉に、一度深呼吸をしながら全身の傷を見た。
「――あアそうさ。確かにこりゃ満身創痍……下手すら致命傷イッてかもなあア…………『ただの人間なら』、な……」
「なんだと!? てめえ、やっぱり何かやってんのか!! 改造手術とかヤクとか――――」
「おうともさ。俺は――――俺たちゃ抜き差しならねえ情況になって、ガラテアに全身という全身を爪の先からケツの穴まで弄くり回された実験体だからよォ!! 簡単にゃあ死ねねエのさア!! だが……大事なのは身体だけじゃあねえ!!」
「……何ィ!?」
すると、突然バルザックはすっ、と真顔になり……不気味なほど冷静な眼差しを向けてくる。
「――あんたア、どうやら回復法術使えるだろ? なのに、察しがつかねえのかい?」
「回復法術だあ? それが何の関係があって――――」
「――グハハハハ!! やっぱそうかア!! 最低限しか使えねえわけか、勿体ねえッ!! ――――練気を知らねえとはなアア!! あ~ア勿体ねえ、勿体ねえッ!!」
――――練気《チャクラ》。
聞き覚えの無い言葉を発し、満身創痍だというのに豪笑し、傍の木をバンバンとはたくバルザックに、ガイは動揺を禁じ得ない。
「チャ、クラ? チャクラだと? 一体何の話を――――」
「もおおおオーいいっ!! わかったア! あんたはどう足掻いても俺には勝てんっ!! それがわかっちまった!! ――――あとはあんたをズダボロにして他の獲物を追うだけだ。」
豪笑するバルザック。だが後半の台詞は銃剣のような鋭く冷たい視線をガイに突き刺しながら、低くくぐもった声で告げた。
「勝てねえ、だと!?」
「わけがわかんねえあんたに冥土の土産だ。練気ってやつの使用例だ。ちょいと手品を、2つ見せてやるよ――――」
バルザックは……そう不気味に呟くと背筋を伸ばし、何やら深く呼吸をした。
これは、ガイの心象なのだろうか。
バルザックの『圧』が――――最初から感じていた不快な感覚が、どんどんと強まっていく――――
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毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜
天海二色
SF
西暦2320年、世界は寄生菌『珊瑚』がもたらす不治の病、『珊瑚症』に蝕まれていた。
珊瑚症に罹患した者はステージの進行と共に異形となり凶暴化し、生物災害【バイオハザード】を各地で引き起こす。
その珊瑚症の感染者が引き起こす生物災害を鎮める切り札は、毒素を宿す有毒人種《ウミヘビ》。
彼らは一人につき一つの毒素を持つ。
医師モーズは、その《ウミヘビ》を管理する研究所に奇縁によって入所する事となった。
彼はそこで《ウミヘビ》の手を借り、生物災害鎮圧及び珊瑚症の治療薬を探究することになる。
これはモーズが、治療薬『テリアカ』を作るまでの物語である。
……そして個性豊か過ぎるウミヘビと、同僚となる癖の強いクスシに振り回される物語でもある。
※《ウミヘビ》は毒劇や危険物、元素を擬人化した男子になります
※研究所に所属している職員《クスシヘビ》は全員モデルとなる化学者がいます
※この小説は国家資格である『毒物劇物取扱責任者』を覚える為に考えた話なので、日本の法律や規約を世界観に採用していたりします。
参考文献
松井奈美子 一発合格! 毒物劇物取扱者試験テキスト&問題集
船山信次 史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり
齋藤勝裕 毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで
鈴木勉 毒と薬 (大人のための図鑑)
特別展「毒」 公式図録
くられ、姫川たけお 毒物ずかん: キュートであぶない毒キャラの世界へ
ジェームス・M・ラッセル著 森 寛敏監修 118元素全百科
その他広辞苑、Wikipediaなど
鋼月の軌跡
チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル!
未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!
筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!
謎の人
SF
元気いっぱい恋する乙女の小学5年生 安部まりあ。
ある日突然彼女の前に現れたのは、願いを叶える魔獣『かがみん』だった。
まりあは、幼馴染である秋月灯夜との恋の成就を願い、魔力を授かり魔法少女となる決意を固める。
しかし、その願いは聞き届けられなかった。
彼への恋心は偽りのものだと看破され、失意の底に沈んだまりあは、ふとある日のことを思い出す。
夏休み初日、プールで溺れたまりあを助けてくれた、灯夜の優しさと逞しい筋肉。
そして気付いた。
抱いた気持ちは恋慕ではなく、筋肉への純粋な憧れであることに。
己の願いに気付いたまりあは覚醒し、魔法少女へと変身を遂げる。
いつの日か雄々しく美しい肉体を手に入れるため、日夜筋トレに励む少女の魔法に満ち溢れた日常が、今幕を開ける―――。
*小説家になろうでも投稿しています。
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