創世樹

mk-2

文字の大きさ
上 下
23 / 223

第22話 森の洗礼

しおりを挟む
 ――――エリー一行は、一先ずの路銀を確保し、装備を調える為……そしてガラテア軍から逃れる為に、森の中を走っていた。


 森の中は当然、木々が生い茂り、地面の起伏も多いため、運転手のガイは慎重に走り、ゆっくりとハンドルを切りアクセルを微調節する。



「ねえ、見て見て! あっちには川も流れてるわよ! 綺麗よね~」


「うん! 魚も藻も沢山いそう!」


「……薄暗い森の中でも、貴女たち2人は呑気なものだな……いつ戦闘になるかわからないというのに……そうだろう、テイテツ?」


 セリーナは後部座席で工具箱から取り出したドライバーや砥石などで大槍と空中走行盤《エアリフボード》の手入れをしながら、窓の外を子犬のように眺めるエリーとグロウを見て言う。


「そうですね。森の中ならばガラテア軍の部隊は勿論、監視衛星からも見つかりにくいとはいえ、ここは人の手があまり加えられていない原生林に近い。危険な猛獣や野盗の類いに遭遇する可能性もあります」


 テイテツは例によって二階座席から、端末のキーボードを叩いて情報の整理、収集を行ないながら無機的にそう告げる。


「全くだぜ……仮にも軍隊に追われる身。森の中だって穏やかな自然ばかりがあるわけじゃあないっての――――おっと――」




 ガンバで森の中を進むうち、死角から倒れた樹木を見つけて、咄嗟に急ハンドルを切るガイ。




「ふがっ!」
「わわっ……ふにゃあ……」



 エリーとグロウは、車体が揺れてそのまま間抜けな声を出して座席に倒れ込んでしまった。



「……何よー! いいじゃん、最近荒野とかばっか進んでたんだしさ、たまには森林浴とかさせなさいよぉ。運転もしっかりしてよねー」



「喧しい。それより、グロウとの勉強はいいのか? なんかグロウ自身より教える立場のはずのおめえの方が学力的にヤバい気がしてきたぜ……」



「うにゅにゅにゅ~っ! そ、そんなことねーし……」



「あんまり強がるんじゃあない、エリー。貴女の学力がいい加減なのはエンデュラ鉱山都市の前後で解った……難しい所があったら私も少しは手伝うから、まずは自分で本を読む習慣を付けなさい」



「セリーナまで~!? うううう……この世は鬼じゃ……鬼がおるうううううぅぅぅぅ……」



「――――あれっ?」




 エリーがガイとセリーナに向けて唸っている間に、ふとグロウが窓の外を眺めていると――――




(――今の……石で出来た……お化け――――!?)




「――ガイ! ちょっとガンバを止めて! 何か変なものが樹の間にあるよ!!」



「あアん?」
「どこどこー?」
「何かいるのか……?」



 グロウが声をかけ、ガンバを一旦止めて全員が降りた――――



 <<



 <<



 <<




「――どうしたんだ、グロウ」



 何か異常か、と思うガイが俄かに緊張感を持ちながら、2本の刀を携えて運転席から降りる。



「あのね、さっき通ったばかりの樹の間に……なんか石で出来た、お化けがいたんだ!」



「……お化け、だア~っ!? ふはっはっはっはっは! んなモンいるわけねえっての!」



 グロウからの『お化け』というもっともらしいかわいい例えに、思わずガイは笑ってしまう。



「ですが、何らかの危険を感知したのかもしれません。この付近は電磁波が乱れます……ガンバに搭載されているものやこの端末のレーダーも上手く機能しません。」



「油断は禁物だ。思わぬ敵の伏兵が忍んでいるやもしれん。」



 テイテツが端末を仕舞って光線銃《ブラスターガン》を取り出し、セリーナは手鏡で目元のアイシャドウで引き締まった顔を見たのち、縮めていた大槍を伸ばした。



「まっかせて、グロウ! どんな恐いお化けだろうが、叩きのめしちゃうから――――ガ、ガイとセリーナが、主に、ね……」



 勇んで飛び出したかと思えたエリーだが……。



 コウモリやカラスのようなものが飛び回り、陰に立ち入った途端じめっとした湿度の高い暗いその森の深さ、不気味さを見てたじろぎ、ガイの後ろに引っ込んでしまった。小鳥の囀りすら森全体に響くとおどろおどろしく思えた。


「エリー……おめえ、孤児院の頃のアレ、まだ克服してねえのかよ!?」



「……エリーにも恐いものがあるのか……何があったんだ?」



「いや、ガキの頃エリーの誕生日……正確には孤児院に預けられた記念日だな。夜中に院長が、魔法使いの法衣みてえな格好して祝福しようとしたんだが……こいつは『お化けが来たー!』っつってパ二クッちまってよ。しばらくお化けだか幽霊だかが恐いっつってた。とっくに忘れたと思ってたぜ……」



「ほほう……ふっ、それはそれで……」


 ガイは驚いた顔つきのまま語り、セリーナは意外な弱点を知りほくそ笑む。



「……うう~っ……しょ、しょーがないじゃん! 苦手なもんは苦手なのー!! 憑りつかれそうになったら助けてーガイーっ!!」



「……へいへい…………やれやれだぜ……」



 森の不気味さに、エリーは悪い意味で完全に童心に帰ってしまっている。普段は超人的な力を持つ冒険者がふるふると震え、恋人の陰に小さく隠れてしまっている。



「――あれ! あの石だよ、みんな!」




「ひぃっ、ど、ど、どこ!?」



 グロウ自身もボウガンを携えながらも、あまり怯える様子も無く草むらの中を進んでいく。他の面々も(エリー以外は)武器を構えながら慎重に歩を進める…………。




 ――――少し進むと、グロウが言った通り、石の塊があった。




 石は縦が2メートルほど、横が1メートルほど、奥行きが2メートルほどで……何やら怪物のような顔が彫られた石像だった。



「おい。見ろエリー。石像だ。ただの。バケモンじゃあねえ」



「ほっ、ほっ、ほんとお~? よく調べて~?」



「……何か書いてある――――」



 グロウは石像の下腹部辺りに、何やら文字のような物が刻まれているのを見つけた。



「どれどれ……」



 早速、テイテツが端末を取り出し、解析を試みる。




 待つこと数分……。




「――駄目ですね。この文字…………現代の科学力で解明できない未知の文字のようです」



「……解明できない文字、だと? ……グロウと出会った遺跡にあった石板と同じやつか?」



 辺りを警戒しつつ、ガイがテイテツに訊く。



「いいえ。これはあの遺跡とはまた時代などが別なようです」




「――――森へ立ち入る不敬なる者どもよ――――」



「……何っ!?」



 セリーナが驚く頃には、一歩、二歩とグロウが石像へと進み、なんと、文字を読んでいる!



「グロウ、お前……読めるのか!?」




「――『森へ立ち入る不敬なる者どもよ、汝が身を育みし森の神々への感謝を忘るるべからず……鉄火を持ちて我らが森を荒らす俗物には……すかさず神々が裁きを下す魍魎と化して――――汝らを喰らわん』――――」



 グロウがそこまで読んだ瞬間――――エリー一行はとてつもなく恐ろしい存在の圧を感じた――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...