創世樹

mk-2

文字の大きさ
上 下
4 / 223

第3話 破壊の力、生命の力

しおりを挟む
 ――――目を見開いたエリーは、忘れもしない亡き弟と瓜二つの少年の姿を睥睨し、叫ぶ。

「…………グロウ……グロウなの!?」

「まさか……まさか、そんな馬鹿な話があるかよ! こんな……こんな……」

 ここまで冷静に対処してきたガイも同様に取り乱している。この少年の姿は、二人にとてつもないショックを与えるのに充分だったのだ。

「…………」

 少年は、辺りを見渡した後、エリーたちをじっと見つめる。そしてこう言った。

「――僕は……誰…………?」

「!?」

 予想だにしない第一声に、続けて驚くエリーたち。

「……誰……って……」

「自分が何なのか、知らねえってのか!? ……記憶喪失…………?」

 エリーが一歩、驚きにふらつきながらも少年に近付く。

「……ねえ……あんた――――えっ!?」

 会話を遮ったのは……足元の揺れだった。

 振動はどんどんと強くなり、辺りの天井や壁から鉱石が崩れ落ちていく!

「やべえ! 崩れるぞ! 急げ、エリー!!」
「で、でも……」

 エリーはガイと謎の少年を交互に見遣り、躊躇う。

「……何してやがる、脱出だ!」
「わ、わかってるけど――ああ! もう! あんた、掴まって!」

 エリーは少年の手を取り、ガイとテイテツと共に来た道を引き返し、走る。

 一本道なのは幸いだったようだ。エリーたちは迷うことなく出口を目指して駆ける。

 ――だが、遺跡の崩落が明らかに急激だ。

 つい先ほどまでしっかりとした造りの遺跡は、まるで『その形を成している中核が抜けてしまったように』崩落していく。

 落ちてくる石や木枝も大きくなる……! 

 走る最中さなか、エリーの脳天に一際大きな岩がなだれ落ちて来た!

「ちっ! ……でえやあああーッ!!」

 エリーの頭に岩が接触する直前――――ガイは腰に提げていた太刀を常人ならば知覚出来ないほどの早さで抜刀。

 刹那、エリーにぶつかりかけた落盤は直線的な形状の無数の欠片となり宙に消えた。

 ガイが鍛錬の末に編み出した早業である。

 さらに走った先には、遺跡の近くに根を下ろしていたと思われる大木が道を遮断していた。

 これは太刀では捌ききれない――――

「テイテツ! 光線銃ブラスターガンだ!!」
「了解」

 この窮した状況にあっても声色ひとつ変えず冷静なまま、テイテツは返事をすると同時に、銃を抜いた。

 そして、ツマミを操作し素早く銃の出力を高め……大木に向けて引き金を引いた――――

 次の瞬間、大木は跡形もなく消滅した。

 高出力のブラスターが発射され、光速に近い速さで熱線が巨木をコンマ数秒と待たずに焼き尽くしたのだ。辺りに焼き焦げた木の匂いが一瞬立ち込める。

 その匂いを嗅ぐ間もなく、エリーたちは足を止めずに走り続ける。

「ねえ! この崩れ方、ハンパじゃあないよ! 間に合わないよ!?」

「……ちぃっ! 『使う』しかねえのか!?」

 ――――光が見えてきた。

 エリーたちが入ってきた門へ外から入り込む日光。

「あとちょっと……ああっ!?」

 エリーが感嘆の声を上げた。

 ――――出口が一瞬にして塞がれてしまったからだ。

 ようやく、文字通りこの危機を突破する光明が見えたと思った瞬間に、その光明は閉ざされてしまったのだ。通路は、今にも土砂で埋まる勢いで降り注ぐ。

 ――――万事休す。

 ――――
 ――――――――
 ――――――――――――

「突破口は……あたしが作る! ガイッ!!」

 エリーがそう叫ぶと、ガイもこう叫び返した。

「『65%』解放だ!!」
「ようし、みんなしっかり掴まって!!」

 少年を背に担ぐエリーに何やらガイとテイテツも組み付いた。

 このままでは身動きが取れず、死を待つばかりだが――――

「『65%』……解放ッ!!」

 そう叫ぶとエリーの瞳に、赤黒い炎のような光が灯った。

 四肢と首にはめている金色の金具も、共鳴するように、キイイイイィィィ……と甲高い音と、鋭い光を放つ。

 刹那――エリーの全身にその燃え盛る瞳のように赤黒く、禍々しい英気オーラが放たれる。

「アクセリング……ブーストッッ!!」

 その言葉と同時にエリーは強く踏み込んだ足を蹴り出し――――英気を纏ったまま、塞がれた目の前の落盤にロケットエンジンの噴射の如き勢いで飛び込んだ!

 慣性がかかり、ガイとテイテツは投げ出されそうな身体を必死に固め、エリーにしがみ付く。

「道よ……開けエエエエエエエーーッッ!!」

 赤黒い光の塊と化したエリーたちは大質量の岩石とぶつかり――――炸裂。

 門を塞いでいた岩石を砕き、土砂を嵐のように吹き飛ばした!

 ――――雷のような轟音と共に、エリーたちは日光のもとに投げ出された。


 脱出成功。

 辺りに土砂がパラパラと散らばる音以外、数秒間……皆、声を上げられない。

 声を何とか上げたのは、ガイからだった。

「……いぃ痛ってえ~……エリー! 無事か!?」

 そうガイが心配するが早いか、近くの土砂を吹っ飛ばしてエリーは高らかに叫んだ!

「効かーんッ! これしきのピンチ! 恐るるに足らーずッ! あたしは傷ひとつつかーん! ふははははは!!」

「だよなー……テイテツは?」

「む……う……問題ありません」

 近くの土砂から、少し唸り声を上げながらもすました顔でテイテツは立ち上がり、白衣に付いた土をポンポンと手で払う。すかさず光線銃と端末に異常が無いか点検し始めた。

 ガイも岩石を斬る為に用いた刀のこぼれ具合などを見る。

「……ちっ、今ので少し傷んだか。まだまだ俺も刀も鍛錬が足りねえや」

「……ねえ、君! 大丈夫!?」

 エリーは隣に倒れている、背に抱えて共に脱出した謎の少年に声をかける。

「うん……大丈夫……だよ……」

 少年は透き通るような銀の髪と白い肌。その肌を擦り傷で所々血で赤く滲ませている。

「……ちょっとちょっと…………やっぱ、似過ぎでしょ……あの子……グロウに…………」

 エリーは記憶の片隅に置いて一瞬たりとも忘れたことは無い。それほど大切に思っていた弟の姿と……寸分違わぬ姿の目の前の少年を見て、戸惑いを禁じ得ない。

「大丈夫って……あんた、傷だらけじゃあないの! すぐに手当てを……ガイ! 頼むわ!」

「いや、待て……なんか、そいつ……妙だぞ……身体が……!?」

「え……?」

 ガイの言葉に、少年の方に向き直ると……少年の身体からは突然、ほのかに温かみを感じる、緑色の光が放たれている。

 謎の緑色の光を放つ少年の身体は――

「傷が……塞がっていく…………!?」

 ――擦り傷だらけの少年は、自ら放つ何らかの力によってたちどころに全身の傷を癒し……その美しい肢体を元ある姿のものとしていた。

「おい! どういうことだ、こりゃあ!?」
「わかんないよ……」
「むう……」

 エリーとガイはただただ狼狽え、テイテツも訝り、何とかゴーグルに目の前の謎の現象についてデータを集める。

「……あっ……花……」
「え?」

 何のことか、と少年の足元を見ると……花が潰れている。路傍に咲く名も無き草花だが、エリーたちが脱出した衝撃で潰してしまったらしい。

「……ごめんね」

「……?」

「僕たちのせいで死んでしまったんだね……かわいそうに――――今、生命いのちを与えてあげる……」

 そう呟くと、少年は両手で潰れた花を覆い、深く呼吸をした。

 さっきと同じ、緑色の温かな光が花を包み……やがて朽ちゆくのを待つばかりだった花は、その生命を取り戻した。今にも蜜を垂らすかと思われるほど瑞々しくすらある。

「……何が……どうなってんだ……自分の傷も、死んだ花も治しちまうなんて……俺たちは……一体何を掘り出しちまったんだ…………!?」

 ガイは頭を抱え、現実を理解するのに精一杯だ。

「…………っ」

 その中でエリーは一人、目の前の少年にある種の望みを抱いていた。

 それは彼女のいつも思い至るような望みであり――――ある種の傲慢でもあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

魔力は最強だが魔法が使えぬ残念王子の転生者、宇宙船を得てスペオペ世界で個人事業主になる。

なつきコイン
SF
剣と魔法と宇宙船 ~ファンタジーな世界に転生したと思っていたが、実はスペースオペラな世界だった~ 第三王子のセイヤは、引きこもりの転生者である。 転生ボーナスを魔力に極振りしたら、魔力が高過ぎて魔法が制御できず、残念王子と呼ばれ、ショックでそのまま、前世と同じように引きこもりになってしまった。 ある時、業を煮やした国王の命令で、セイヤは宝物庫の整理に行き、そこで、謎の球体をみつける。 試しに、それに魔力を込めると、宇宙に連れ出されてしまい、宇宙船を手に入れることになる。 セイヤの高過ぎる魔力は、宇宙船を動かすのにはぴったりだった。 連れて行かれたドックで、アシスタントのチハルを買うために、借金をしたセイヤは、個人事業主として宇宙船を使って仕事を始めることにする。 一方、セイヤの婚約者であるリリスは、飛んでいったセイヤを探して奔走する。 第三部完結

グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル
SF
サッカー日本代表山下龍也は、数多の困難を乗り越えついにワールドカップ本戦に駒を進めた。 待ちに待った開会式、その日会場は 破壊された 空に浮かぶUFO。壊される会場。現実味のない光景が眼前に広がる中、宇宙人から声が発せられる。 『サッカーで勝負だ。我々が勝てば地球は侵略する』 地球のため、そして大好きなサッカーのため、龍也は戦うことを決意する。 しかしそこに待ち受けていたのは、一癖も二癖もある仲間たち、試合の裏に隠された陰謀、全てを統べる強大な本当の敵。 そして龍也たちに隠された秘密とは……? サッカーを愛する少年少女の、宇宙での戦いが今ここに始まる……! *** ※カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも同時掲載中です ※第三章は毎週水曜土曜更新の予定です *** はじめまして、山中カエルです! 小説を書くのは初めての経験で右も左もわかりませんが、とにかく頑張って執筆するので読んでいただけたら嬉しいです! よろしくお願いします! Twitter始めました→@MountainKaeru

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

サモナーって不遇職らしいね

7576
SF
世はフルダイブ時代。 人類は労働から解放され日々仮想世界で遊び暮らす理想郷、そんな時代を生きる男は今日も今日とて遊んで暮らす。 男が選んだゲームは『グラディウスマギカ』 ワールドシミュレータとも呼ばれるほど高性能なAIと広大な剣と魔法のファンタジー世界で、より強くなれる装備を求めて冒険するMMORPGゲームだ。 そんな世界で厨二感マシマシの堕天使ネクアムとなって男はのんびりサモナー生活だ。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

フューマン

nandemoE
SF
フューマンとは未来と人間を掛け合わせたアンドロイドの造語です。 主人公は離婚等を原因に安楽死を選択した38歳の中年男性。 死んだつもりが目を覚ますと35年後の世界、体は38歳のまま。 目の前には自分より年上になった息子がいました。 そして主人公が眠っている間に生まれた、既に成人した孫もいます。 息子の傍らには美しい女性型フューマン、世の中は配偶者を必要としない世界になっていました。 しかし、息子と孫の関係はあまり上手くいっていませんでした。 主人公は二人の関係を修復するため、再び生きることを決心しました。 ある日、浦島太郎状態の主人公に息子が配偶者としてのフューマン購入を持ちかけます。 興味本位でフューマンを見に行く主人公でしたが、そこで15歳年下の女性と運命的な出会いを果たし、交際を始めます。 またその一方で、主人公は既に年老いた親友や元妻などとも邂逅を果たします。 幼少期から常に目で追い掛けていた元妻ではない、特別な存在とも。 様々な人間との関わりを経て、主人公はかつて安楽死を選択した自分を悔いるようになります。 女性との交際も順調に進んでいましたが、ある時、偶然にも孫に遭遇します。 女性と孫は、かつて交際していた恋人同士でした。 そしてその望まぬ別れの原因となったのが主人公の息子でした。 いきさつを知り、主人公は身を引くことを女性と孫へ伝えました。 そしてそのことを息子にも伝えます。息子は主人公から言われ、二人を祝福する言葉を並べます。 こうして女性と孫は再び恋人同士となりました。 しかしその頃から、女性の周りで妙な出来事が続くようになります。 そしてその妙な出来事の黒幕は、主人公の息子であるようにしか思えない状況です。 本心では二人を祝福していないのではと、孫の息子に対する疑念は増幅していきます。 そして次第にエスカレートしていく不自然な出来事に追い詰められた女性は、とうとう自殺を試みてしまいます。 主人公は孫と協力して何とか女性の自殺を食い止めますが、その事件を受けて孫が暴発し、とうとう息子と正面からぶつかりあってしまいます。

王立ミリアリリー女学園〜エニス乙女伝説〜

竹井ゴールド
ファンタジー
 ミリアリリー王国の王立ミリアリリー女学園。  生徒が被害に遭い、現在、ヴァンパイア騒動で揺れるミリアリリー女学園に1人の転校生がやってくる。  その転校生の功績の数々はいつしか伝説となってミリアリリー女学園に語り継がれるのだった。 【2022/11/3、出版申請、11/11、慰めメール】 【2022/11/25,出版申請(2回目)、12/5、慰めメール】

処理中です...