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魔法の剣
閑話・キジュアとオーディン
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キジュア=バイダーは、苦悩していた。
冥界神に出世したは良いものの、いまだにフレイアに頭が上がらないどころか、ハトゥル=アレマにさえ、どこか見下されていたからだ。
「な、なぜだ。確かにテックの強化の件はまごついたが、あれからは決してフレイア様にも遅れを取ってないはず」
そして色々な可能性を検討した結果、あるひとつの仮説が浮上した。
「私はオーディン様に、まだ覚えられてない。―――きっとそれだ」
剣神オーディン。自らを自らに捧げた事で最上位の死神、戦争神でもある彼は、他の死神たちからは一目置かれている。
すなわち、オーディンに認められるのは死神としての実力を認められると同じ。それはキジュアでなくとも、死神ならば最高の名誉に値すると考えていると言って過言ではない。
「なんか、適当だったんだよなぁ。オーディン様は私に魔剣作りを許可されたときだけじゃなく、思えば冥界神の認定紋章を下さった時も、そもそもフレイア様を通じて初めて挨拶させてもらった時さえ、心ここにあらずって感じだった。絶対それだよ、間違いない」
キジュアは何度もうなずき、自らの実質的な地位の低さはオーディンにあるという仮説を確かめねばならないという決意を固めた。
「フレイア様、オーディン様にお会いしたいのですが」
神託の庭。そこにはフレイアと、修行に来たハトゥルがいた。
「きゃはー。キジュアさんってフレイア様より偉いのに、頭下げてる。おもしろーい」
「こ、こら。貴様のそういう所が私の格をだな」
「おとなげないんだぜ、キジュア。事実だろ?」
「バ、バカな」
キジュアは、事態が想定していた通りか、あるいは更にひどいという状態に狼狽していた。
「しかしですね、私はもう冥界神なのに、お譲りいただけない権限が多すぎるからこんな事になるんですぞ」
「死神がマジメに引き継ぎして、どうするだぜ。男なら力ずくで来い」
「へー!フレイア様からキジュアさんへの―――むふふ」
「違うだぜ。全くの完全なる可能性ゼロだぜ。こんなヤツに従うくらいなら舌かみきって死ぬし」
「貴様ら、論点をずらすんじゃなーい」
しかしその後のキジュアの威勢はあっという間の尻すぼみ。どうにかオーディンとの面会を取り付ける頃には、ハトゥルは七時間に渡る壮絶な修行を終えて帰る所だった。
「であるからして、ここに最高上位神にして死と恐怖と絶望を」
「じゃあ、お疲れですぅ」
「おう、また来いだぜ」
「あらんとする所の、欲したり求めたりするを力と心得るを正に」
「もういいって、時間ない用の簡単な方の書類でいいっつってんだぜ」
「え?は、はあ。御意」
剣神オーディン。彼は最上位神だけあり簡単には会えない。幸運にも許可を得た者は、それでもなお広大な神世界から彼を探し出さねばならないのだ。
「た、頼もう」
緊張の余り、キジュアは道場破りの挨拶をしてしまったが、どこかにいるであろうオーディンは無言だ。
普段はロキやトールなど、アースガルズの神々の誰かしらには出会い頭に会うのが常だが、もしかしたら今はオーディンもいるかどうか、というほどに静かだ。
「ごめんください。あのー、キジュアっていう若手なんですけども」
虚空に呼びかけるが、キジュアの声は静寂に吸い込まれていく。
アースガルズにあるのは、西洋を思わせる様式の大きな館の数々と、それに匹敵する巨大な木々の混在だ。
一貫して、人工物と自然が不規則に配置されているが、それがむしろ神的な調和を型どっている。
「誰だ」
オーディンの声がしたので、キジュアは嬉々として答えた。
「はい、キジュアと申します」
「知らぬ。覚えがない」
(やっぱりか!)「冥界神です、一応」
「だから何だ」
「えっ」
「だから何だと言った」
(こ、怖ー。確かに最上位神からしたら平社員みたいなモノだろうけど)
「まあ、良い。しばし待て」
くるくると宙返りしながら、オーディンは地に降りた。
白銀の頭髪に、褐色の肌。東洋の老戦士を思わせるが顔をよく見ると、老人ではなくまだ壮年。それが頭髪の白銀が生まれついての物である事を示していた。
身に纏っているのは〈空白雷鎧〉と呼ばれる白色を基調とし、金色の装飾が入った絢爛な防具だ。さらにオーディンは、究極神天覇王槍と呼ばれる槍を、刀のように腰に帯びていた。
「冥界神、とか言ったか」
「え、ええ」
「本来ならば上位の神に神を名乗る不届きにより、兄を即刻、斬り伏せる」
「きき、斬りふ、ふせ、せり」
「だが勘弁してやろう。魂の剣を任せた手前、もはや余の責でもある」
「ははっ、は。お、覚えていらしたのですね」
オーディンは自らが神と認めた者を1人として忘れた事などないと言う。
「余は争いを司る。されど、さりとて暴君にはなれぬ。なってはならぬのだ。しからば余の務めこそ、全ての我が家族を等しく愛すことにあるのだ」
「はっ、もったいなき、ありがたきお言葉にございます」
キジュアが恭しく下げた頭をそっと上げると、そこには最上位神の厳かで安らかな笑顔があるのだった。
だが、キジュアの悩みがそれで晴れたかと言えば、そうでもなかったのだ。
「キジュアさーん、数学って得意ですぅ?宿題見てほしいんでぇす」
「はあ?き、貴様はここを塾と勘違いし出したな」
「えー、ケチケチのケチだぁ。ケチジュアさん、嫌ーい」
「意味が分からん事を言ってないで、修行をしなさい。修行を」
「ケチジュアさん、嫌ーい」
ハトゥルは気分にムラがある。練習したくない時は、徹底的に駄々をこねだすというのが常となっており、それがキジュアの目下の課題となりつつあった。
(くっそう。こんな時、オーディン様なら、オーディン様なら)
オーディンの威厳に満ちた佇まいを思い出しては、キジュアは自らと比較した。
運動不足で太りだしたお腹、何の武器もない丸腰の装備、そしてなんとなく人の良さそうな顔。
何もかもがオーディンとは違いすぎている。そしてそれこそが真の原因とキジュアは分かりつつあった。
認めたくはないが、キジュアは自らが舐められ残念キャラなのだという事を自覚しつつあったのである。
「ケチジュア、ちょっとフレイア様の所に行ってくるから」
「えー、じゃあじゃあ、数学は?数学はどうすれば良いんですぅ?」
「えっと、まあ、勉強してていいよ。うん」
更に言うなら、同じ魔剣をハトゥルの方が既にキジュアの何倍も使いこなしている事もまた、キジュアの株が相対的に下がる一因だ。
「フレイア様、私は冥界神であって本当に良いのでしょうか」
「キジュア。あいにく私は、懺悔を受け付けてる神じゃないんだぜ」
「あのー、そこをなんとか」
「お前。最近おかしいんだぜ、何があった」
キジュアは恥も顧みず、思いの丈を全て話した。
「―――。キジュア」
「はい、フレイア様」
「お前の気持ちは、分かったよ」
「フ、フレイア様」
「今日限りで、神の資格を剥奪する」
神の資格は、神が与える。逆もまた然りだ。
当然、最終的な権限はオーディンが持つためにフレイアは独自判断の責任を問われるだろう。
しかし裏を返せば、フレイアはそこまで分かった上での決定を下したのだ。
そしてもはや魔法剣の勇者でもないキジュアには、神託の庭すら入れない。本当にただの人間キジュア=バイダーとなったのだ。
「何だったんだ、今まで」
とんとん拍子に出世したのが急にふりだしに戻った、そんな感じだ。
「どうした、兄ちゃん。元気がないじゃん」
白髪の男が、キジュアに話しかけてきた。
「えーっと、なんて言えば良いんでしょう。まあ、会社をクビになりました」
「はあ、クビになりそうなツラしてやがるからな。しゃあないわな」
「ちょ、何なんですか。アンタは赤の他人じゃないか。失礼だなぁ」
キジュアは足早に歩き出した。一応、人間時代の自宅はまだ家賃を支払って住めるようにしてある。メルマドにある自宅に向かって、キジュアは進んでいく。
と、思いきや白髪の男はしつこい。
「キジュアさんよ、アンタは神ってどう思う」
「どうでも良いでしょ、アンタも私も神じゃない。無力な人間だ」
「ほーう、人間は無力とそう思うかね」
「違いますか?神と違い、いつかは死ぬ。戦争もすれば裁判もする。何も出来ないのと一緒じゃないですか、人生なんて」
白髪の男の目が、一瞬だけ凛と輝いたようにキジュアには見えた。
「キジュアさん、アンタは正しいよ。確かにそれだけ見たら人間は無力。でもな、もう少しだけ視野を広げてみなよ。美しい自然を感じる事も出来りゃ、祭りを楽しむ事も出来る。愛情が何か分かってるし、家族だって作れる。アンタ、本当は分かってるはずだぜ。だって人間だろ?」
一気に捲し立てられたと言えなくもないが、確かに男に一理ある、ともキジュアは思う。
「じゃあ、おじさんは神の仕事って何か分かりますか?人間を時には争わせないとならない。死なせなければならない。死を見届けたりもする。人間だって、そんなような仕事ばかりしていたら、人間を嫌になりませんか」
だがキジュアは心にない事も含めて、大袈裟に反論した。
「アンタの仕事がそうなら、だからこそ広い世界を見なよ。見えるモンが変わってくるぜ、キジュア」
すると、白髪の男の姿はオーディンに変わっていった。
「え、オーディン・・・様!?」
「キジュア。お前の気持ちは分かった」
フレイアと同じような事を言われ、更なる罰をキジュアは覚悟した。
「兄は、余を超える神になる。余の目は確かだ」
「は、今、なんと」
「二度は言わぬぞ。広い世界を見よ、キジュア。いや、冥界神キジュア=バイダー」
「う、うわ。なんだ」
まばゆい光に包まれ、気付くとキジュアは冥力の部室―――仕事場にいたのだ。
「キジュアさん、心配してましたよぉ」
ハトゥルが抱きついていた。
「うわわ、ハレンチな。即刻、離れなさーい!」
「数学教えてくれたら、そうしまぁす」
オーディンへの道のりは、キジュアにはまだまだ長そうなのだった。
冥界神に出世したは良いものの、いまだにフレイアに頭が上がらないどころか、ハトゥル=アレマにさえ、どこか見下されていたからだ。
「な、なぜだ。確かにテックの強化の件はまごついたが、あれからは決してフレイア様にも遅れを取ってないはず」
そして色々な可能性を検討した結果、あるひとつの仮説が浮上した。
「私はオーディン様に、まだ覚えられてない。―――きっとそれだ」
剣神オーディン。自らを自らに捧げた事で最上位の死神、戦争神でもある彼は、他の死神たちからは一目置かれている。
すなわち、オーディンに認められるのは死神としての実力を認められると同じ。それはキジュアでなくとも、死神ならば最高の名誉に値すると考えていると言って過言ではない。
「なんか、適当だったんだよなぁ。オーディン様は私に魔剣作りを許可されたときだけじゃなく、思えば冥界神の認定紋章を下さった時も、そもそもフレイア様を通じて初めて挨拶させてもらった時さえ、心ここにあらずって感じだった。絶対それだよ、間違いない」
キジュアは何度もうなずき、自らの実質的な地位の低さはオーディンにあるという仮説を確かめねばならないという決意を固めた。
「フレイア様、オーディン様にお会いしたいのですが」
神託の庭。そこにはフレイアと、修行に来たハトゥルがいた。
「きゃはー。キジュアさんってフレイア様より偉いのに、頭下げてる。おもしろーい」
「こ、こら。貴様のそういう所が私の格をだな」
「おとなげないんだぜ、キジュア。事実だろ?」
「バ、バカな」
キジュアは、事態が想定していた通りか、あるいは更にひどいという状態に狼狽していた。
「しかしですね、私はもう冥界神なのに、お譲りいただけない権限が多すぎるからこんな事になるんですぞ」
「死神がマジメに引き継ぎして、どうするだぜ。男なら力ずくで来い」
「へー!フレイア様からキジュアさんへの―――むふふ」
「違うだぜ。全くの完全なる可能性ゼロだぜ。こんなヤツに従うくらいなら舌かみきって死ぬし」
「貴様ら、論点をずらすんじゃなーい」
しかしその後のキジュアの威勢はあっという間の尻すぼみ。どうにかオーディンとの面会を取り付ける頃には、ハトゥルは七時間に渡る壮絶な修行を終えて帰る所だった。
「であるからして、ここに最高上位神にして死と恐怖と絶望を」
「じゃあ、お疲れですぅ」
「おう、また来いだぜ」
「あらんとする所の、欲したり求めたりするを力と心得るを正に」
「もういいって、時間ない用の簡単な方の書類でいいっつってんだぜ」
「え?は、はあ。御意」
剣神オーディン。彼は最上位神だけあり簡単には会えない。幸運にも許可を得た者は、それでもなお広大な神世界から彼を探し出さねばならないのだ。
「た、頼もう」
緊張の余り、キジュアは道場破りの挨拶をしてしまったが、どこかにいるであろうオーディンは無言だ。
普段はロキやトールなど、アースガルズの神々の誰かしらには出会い頭に会うのが常だが、もしかしたら今はオーディンもいるかどうか、というほどに静かだ。
「ごめんください。あのー、キジュアっていう若手なんですけども」
虚空に呼びかけるが、キジュアの声は静寂に吸い込まれていく。
アースガルズにあるのは、西洋を思わせる様式の大きな館の数々と、それに匹敵する巨大な木々の混在だ。
一貫して、人工物と自然が不規則に配置されているが、それがむしろ神的な調和を型どっている。
「誰だ」
オーディンの声がしたので、キジュアは嬉々として答えた。
「はい、キジュアと申します」
「知らぬ。覚えがない」
(やっぱりか!)「冥界神です、一応」
「だから何だ」
「えっ」
「だから何だと言った」
(こ、怖ー。確かに最上位神からしたら平社員みたいなモノだろうけど)
「まあ、良い。しばし待て」
くるくると宙返りしながら、オーディンは地に降りた。
白銀の頭髪に、褐色の肌。東洋の老戦士を思わせるが顔をよく見ると、老人ではなくまだ壮年。それが頭髪の白銀が生まれついての物である事を示していた。
身に纏っているのは〈空白雷鎧〉と呼ばれる白色を基調とし、金色の装飾が入った絢爛な防具だ。さらにオーディンは、究極神天覇王槍と呼ばれる槍を、刀のように腰に帯びていた。
「冥界神、とか言ったか」
「え、ええ」
「本来ならば上位の神に神を名乗る不届きにより、兄を即刻、斬り伏せる」
「きき、斬りふ、ふせ、せり」
「だが勘弁してやろう。魂の剣を任せた手前、もはや余の責でもある」
「ははっ、は。お、覚えていらしたのですね」
オーディンは自らが神と認めた者を1人として忘れた事などないと言う。
「余は争いを司る。されど、さりとて暴君にはなれぬ。なってはならぬのだ。しからば余の務めこそ、全ての我が家族を等しく愛すことにあるのだ」
「はっ、もったいなき、ありがたきお言葉にございます」
キジュアが恭しく下げた頭をそっと上げると、そこには最上位神の厳かで安らかな笑顔があるのだった。
だが、キジュアの悩みがそれで晴れたかと言えば、そうでもなかったのだ。
「キジュアさーん、数学って得意ですぅ?宿題見てほしいんでぇす」
「はあ?き、貴様はここを塾と勘違いし出したな」
「えー、ケチケチのケチだぁ。ケチジュアさん、嫌ーい」
「意味が分からん事を言ってないで、修行をしなさい。修行を」
「ケチジュアさん、嫌ーい」
ハトゥルは気分にムラがある。練習したくない時は、徹底的に駄々をこねだすというのが常となっており、それがキジュアの目下の課題となりつつあった。
(くっそう。こんな時、オーディン様なら、オーディン様なら)
オーディンの威厳に満ちた佇まいを思い出しては、キジュアは自らと比較した。
運動不足で太りだしたお腹、何の武器もない丸腰の装備、そしてなんとなく人の良さそうな顔。
何もかもがオーディンとは違いすぎている。そしてそれこそが真の原因とキジュアは分かりつつあった。
認めたくはないが、キジュアは自らが舐められ残念キャラなのだという事を自覚しつつあったのである。
「ケチジュア、ちょっとフレイア様の所に行ってくるから」
「えー、じゃあじゃあ、数学は?数学はどうすれば良いんですぅ?」
「えっと、まあ、勉強してていいよ。うん」
更に言うなら、同じ魔剣をハトゥルの方が既にキジュアの何倍も使いこなしている事もまた、キジュアの株が相対的に下がる一因だ。
「フレイア様、私は冥界神であって本当に良いのでしょうか」
「キジュア。あいにく私は、懺悔を受け付けてる神じゃないんだぜ」
「あのー、そこをなんとか」
「お前。最近おかしいんだぜ、何があった」
キジュアは恥も顧みず、思いの丈を全て話した。
「―――。キジュア」
「はい、フレイア様」
「お前の気持ちは、分かったよ」
「フ、フレイア様」
「今日限りで、神の資格を剥奪する」
神の資格は、神が与える。逆もまた然りだ。
当然、最終的な権限はオーディンが持つためにフレイアは独自判断の責任を問われるだろう。
しかし裏を返せば、フレイアはそこまで分かった上での決定を下したのだ。
そしてもはや魔法剣の勇者でもないキジュアには、神託の庭すら入れない。本当にただの人間キジュア=バイダーとなったのだ。
「何だったんだ、今まで」
とんとん拍子に出世したのが急にふりだしに戻った、そんな感じだ。
「どうした、兄ちゃん。元気がないじゃん」
白髪の男が、キジュアに話しかけてきた。
「えーっと、なんて言えば良いんでしょう。まあ、会社をクビになりました」
「はあ、クビになりそうなツラしてやがるからな。しゃあないわな」
「ちょ、何なんですか。アンタは赤の他人じゃないか。失礼だなぁ」
キジュアは足早に歩き出した。一応、人間時代の自宅はまだ家賃を支払って住めるようにしてある。メルマドにある自宅に向かって、キジュアは進んでいく。
と、思いきや白髪の男はしつこい。
「キジュアさんよ、アンタは神ってどう思う」
「どうでも良いでしょ、アンタも私も神じゃない。無力な人間だ」
「ほーう、人間は無力とそう思うかね」
「違いますか?神と違い、いつかは死ぬ。戦争もすれば裁判もする。何も出来ないのと一緒じゃないですか、人生なんて」
白髪の男の目が、一瞬だけ凛と輝いたようにキジュアには見えた。
「キジュアさん、アンタは正しいよ。確かにそれだけ見たら人間は無力。でもな、もう少しだけ視野を広げてみなよ。美しい自然を感じる事も出来りゃ、祭りを楽しむ事も出来る。愛情が何か分かってるし、家族だって作れる。アンタ、本当は分かってるはずだぜ。だって人間だろ?」
一気に捲し立てられたと言えなくもないが、確かに男に一理ある、ともキジュアは思う。
「じゃあ、おじさんは神の仕事って何か分かりますか?人間を時には争わせないとならない。死なせなければならない。死を見届けたりもする。人間だって、そんなような仕事ばかりしていたら、人間を嫌になりませんか」
だがキジュアは心にない事も含めて、大袈裟に反論した。
「アンタの仕事がそうなら、だからこそ広い世界を見なよ。見えるモンが変わってくるぜ、キジュア」
すると、白髪の男の姿はオーディンに変わっていった。
「え、オーディン・・・様!?」
「キジュア。お前の気持ちは分かった」
フレイアと同じような事を言われ、更なる罰をキジュアは覚悟した。
「兄は、余を超える神になる。余の目は確かだ」
「は、今、なんと」
「二度は言わぬぞ。広い世界を見よ、キジュア。いや、冥界神キジュア=バイダー」
「う、うわ。なんだ」
まばゆい光に包まれ、気付くとキジュアは冥力の部室―――仕事場にいたのだ。
「キジュアさん、心配してましたよぉ」
ハトゥルが抱きついていた。
「うわわ、ハレンチな。即刻、離れなさーい!」
「数学教えてくれたら、そうしまぁす」
オーディンへの道のりは、キジュアにはまだまだ長そうなのだった。
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