48 / 100
魔法の剣
結と散の雪舞
しおりを挟む
雪の魔物、フリーズ・ウィスプ。
雪の魔物と言われるだけあり、スイビー氷陸と呼ばれる氷の地に、かの者は潜んでいる。
白の洞窟。
天然の降雪が長年かけ、徐々に形作ってきた巨大な穴ぐらだ。
最初こそ様々な魔物が極寒の地で肩を寄せ合い慎ましく暮らしていたらしいが、今ではたくさんの天然の小部屋や通路はウィスプに破壊され尽くされて1フロアしかない。
そして、フリーズ・ウィスプは静かに鎮座している。
テックは初めての船旅になるとワクワクしていた。ムデュマ老師から雪の魔物の居場所を聞き、スイビーは、メルマドやノジアがあるフェセナ大陸からは海を越えねば行けないからだ。
フェセナ大陸の北西、そこにスイビー氷陸はあり、船旅なら数日かかる。
しかし念のためと、ムデュマの庵の時のようにフレイアに方陣がないか確認を取ると、白の洞窟に直通という都合の良い方陣を教えてくれた。
「行くぜ、友のために」
「どうせ単なる戦闘狂だぜ、お前は」
テックは第三剣経路で、白の洞窟へと向かった。
目の前には、巨大な純白の炎。
そう、それがフリーズ・ウィスプ。雪の魔物という呼び名とは裏腹に、雪だけでなく炎の属性も併せ持つのだ。
ウィスプの魔法で、入り口が閉ざされた。また、テックは第三剣が封じられたことを知覚した。
(転移封じかよ。ヤバいぜ、帰るに帰れねえ)
「チッ、でも俺には・・・これしかねえ。涅槃」
炎剣だ。分岐は放出、初期状態のままのそれは、勢い立つ炎を柄から放っている。
「まずは小手調べと行くか。雪ファイヤー、覚悟しな」
ちなみに雪ファイヤーとはテックが勝手に名付けたフリーズ・ウィスプの名前だ。
しかしそんな事にお構い無しに、ウィスプは小さな分身体を幾つも生み出してきた。
「ムオルかよ、お前は。全く、小鬼を思い出すぞ」
複合属性ではあるが、少なくとも小さな分身体には炎は有効のようで、テックは小雪精とでも呼ぶべき分身体を、現れた者からばっさばっさと斬り消していく。
「ははん、分かったぞ。十三傑が勝てないんじゃなく、単にアイツらは金持ちだから、お前らを倒さなかっただけってことだな」
伝説級とは名ばかりなのか、ウィスプはそれからも、ひたすらワンパターンな小分身の生成で量戦を仕掛けてきた。
「ほい、ほいっと。はあ、これずっとしてりゃあ、勝手にお前、死ぬんじゃねえか?」
言葉を話せるかすら怪しいウィスプに、テックは質問した。案の定、しゅうしゅう言うだけで返事はない。
しかし、そこからウィスプの攻撃パターンが変わった。
「痛っ。な、なんだ、後ろから―――げっ、ちょっとデカい雪野郎」
小雪精は合体し、中雪精になりテックに背後から、質量を持った打撃を浴びせたのだ。
「氷みてえに固い。そ、そっか。雪もガチガチに固めれば武器になるって聞いた事がある」
雪はふかふかして柔らかいイメージが一般的だ。しかし、雪合戦をした経験があるなら分かる人もいるだろうけれども、たまにとんでもなく痛い雪玉が来ることがある。それは雪を腕力で圧縮し、氷に近い状態にしているのだ。
「でも大した事はないね。石ころが入ったヤツの危なさに比べればさ」
テックは慌てず、中雪精を炎剣で斬った。
「飽きてきた。雪ファイヤー、そろそろ終わりにしようか」
テックは火の変換で第一剣の分岐を放射に切り替えた。
白の洞窟に、炎が燃え広がる。フリーズ・ウィスプといえども、少なからず効果はあるようだ。
「とどめだ。新技、炎豪華回転波」
燃え広がった炎が竜巻のように回転し、フリーズ・ウィスプに炎の制裁を与えた。
しゅう、しゅ、ししし、しゅししゅ。
ウィスプの燃え盛りが小さくなる。
勝利。そう確信した瞬間である。
し、しし、じゅじ、じゅんじゅわあ。
「なっ!?炎が更に強く」
ウィスプは炎剣に負けそうになりながらも克服し、遂にその炎を食らう事で強くなるという手段に至ったのだ。
白と赤、二つの炎。それがウィスプの肉体が強化された事を意味していた。
「もしかして―――今まで挑んだヤツらも、これで?雪ファイヤーが持たない、普通の炎。もしそれを取り込んだアイツが真の姿だとしたら。―――」
テックの嫌な予感は的中した。
小雪精。炎の小雪精。
中雪精。炎の中雪精。
これら4種の、ウィスプの分身体。全てがテックに襲いかかるのだ。
氷、炎、さらに物理。真の意味での複合属性攻撃はテックが攻撃する隙を、もはや少しも与えないのだ。
「輪廻で凌ぐので手一杯だ。ちっくしょー、せめてここから脱出したい。体勢を立て直さないと」
実際、今までにウィスプに挑んだ者がいるならその者は何らかの手段で脱出しているはずだ。
ウィスプは倒されておらず、しかも負けて燃やし尽くされているのでない限り、ウィスプへの挑戦者はたった1フロアのどこにもいないのが、その根拠となるのだった。
テックは第四剣の黒盾で、しばらくは雪精たちの攻撃を防ぎ続けた。
「氷と炎。せめてどっちかに集中出来ればな。キアの虹亀の矢みたいな複合魔法は、俺には使えねえ」
虹亀の矢とは、至高の島での世界級鬼との戦いでキアが使っていた炎・氷・雷を混ぜた複合魔法の矢の事だ。
テックはそれを虹亀の矢、と自分なりの名前で今でも覚えている。忘れられないほどに、テックにとっては画期的で強い魔法なのだ。
「涅槃と戒律。どっちかだろうな。まだ氷は試してないから、なんとも言えないけど―――ま、いっちょ試すか」
テックは猛攻を浴びる覚悟で、第二剣に持ち替えた。
《氷の疾走柱》
氷柱が次々に地面から突き出てきた。その勢いは凄まじく、テックを中心に全方位に氷の森林が生え広がっていくかのようだ。
それは、今この瞬間にテックが思い付いたイメージを試し撃ちした割には強力な攻撃となり、テック自身、その圧倒的威力に驚いた。
「はぁ、はぁ。よし、思ってた以上だ。氷のヤツとか雪ファイヤーも、ついでに死んだか?」
じゅうううう。じゅうじゅじゅうう。
「溶けますよねー」
相手はテック自らが放った炎を吸収した魔物。よって、テックが放った氷程度では消えはしないのだ。
「氷の攻撃、全然使って来なかったのがここに来て裏目に出るとはな」
そこからは、ウィスプの独壇場。
第四剣を出される前に、雪精たちはしつこくテックを叩きまくった。ほとんどリンチだ。
「いてて、冷たい冷た、熱、あっつ」
よく分からない混沌とした痛みとなり、雪精の総攻撃はテックを襲った。
「くっそう、もう物理で殴る。受」
第六剣の鉄球だ。中途半端な属性が効かない場合に物理が効く。それは確かに有り得る事である。
「うおお、大回転打ち・特上コースだ」
牙の洞窟のビッグファングを鬼化させるに至らしめた、あの技だ。しかも、特上コースと銘打つだけあり、回転の勢いは前回を遥かに上回る。勢いがありすぎて、たまにヘリコプターのように揚力で浮いているほどだ。
「ん、浮くなあ。浮く―――ハッ!?ま、まさか」
テックは頭上に目をやった。
やたらと高くにある天井。その一ヶ所から日光が漏れている。
脱出出来そうな大きさの穴。それは今までの挑戦者が脱出に使ったルートの、幾つかある内のひとつだ。
「あんな高くまで浮けるかなあ。10メートルはあるぞ」
テックが今まで使ってきた技だけでは、とても届きそうにない、あまりに高い出口である。
更に悪い事に大回転打ちの攻撃自体も、それほどには雪精には効いていないようだ。
「流石にこの洞窟から離れさえすれば―――。コイツらはあくまで雪ファイヤーの分身。魔力でしかないだろうから、本体から距離さえおけば大丈夫なはず」
杖魔の黒小鬼は例外として、冒険学校で習う範囲では分身するのは十中八九、魔法による物であり、その効力は魔法使用者との距離に反比例する。
つまりフリーズ・ウィスプから大きく離れさえすれば、分身はテックを追って来られない、というわけだ。
そんなテックに、ある考えが浮かんだ。
「確か、アイツがあの時、確かこうして―――お、もしかしてこれなら」
第一剣で、ある事を試したテックは自信の笑みを浮かべた。
確実な勝利のための逃亡。蘇生魔法など簡単には使えないテックたちの世界では、逃げてでも次に備えよは、むしろ常識なのだ。
そしてテックは、炎剣の刃先を下に向けた。
「ハトゥルのやり方だ。これで天井まで届けば帰れるはず」
ヤムナムナ村での暗黒剣との戦い。その中でハトゥルは、炎剣をブースター代わりにして敵を撹乱していた。
それの応用、つまり炎剣ブースターで空を飛ぼうと言うのだ。
「中途半端な出力だと、きっと軌道がぶれて失敗する。俺が持つ魔力も9割使う」
脱出さえ出来れば、マントラ経路で帰還可能となる。よって、そこまで魔力を使っても理論上は大丈夫なのだ。
「またな、雪ファイヤー。次までには、もっと強くなる」
テックはウィスプにそう告げ、炎剣の放出を全開にした。
「おおぉおおお」
途方もない速さで上昇し、遂にテックは白の洞窟から脱出した。
「やったあ」
そしてテックは神託の庭に戻っていく。
「よう、もうやっつけたか」
「いや。雪ファイヤーは強い。まだ勝てない」
「ソイツは誰なんだぜ」
テックは更なる修行を決意した。
目指すは複合魔法の習得。フリーズ・ウィスプを倒すための、怒濤の修行が今、幕を開けようとしていた。
「炎と氷には、炎と氷で勝つ。ババア、いや、フレイア。俺に修行を付けてくれ」
果たしてテックは、無事に強くなり魔物退治を成功させる事が出来るのか。
それはオーディンにすら、まだ未知数の可能性なのだった。
雪の魔物と言われるだけあり、スイビー氷陸と呼ばれる氷の地に、かの者は潜んでいる。
白の洞窟。
天然の降雪が長年かけ、徐々に形作ってきた巨大な穴ぐらだ。
最初こそ様々な魔物が極寒の地で肩を寄せ合い慎ましく暮らしていたらしいが、今ではたくさんの天然の小部屋や通路はウィスプに破壊され尽くされて1フロアしかない。
そして、フリーズ・ウィスプは静かに鎮座している。
テックは初めての船旅になるとワクワクしていた。ムデュマ老師から雪の魔物の居場所を聞き、スイビーは、メルマドやノジアがあるフェセナ大陸からは海を越えねば行けないからだ。
フェセナ大陸の北西、そこにスイビー氷陸はあり、船旅なら数日かかる。
しかし念のためと、ムデュマの庵の時のようにフレイアに方陣がないか確認を取ると、白の洞窟に直通という都合の良い方陣を教えてくれた。
「行くぜ、友のために」
「どうせ単なる戦闘狂だぜ、お前は」
テックは第三剣経路で、白の洞窟へと向かった。
目の前には、巨大な純白の炎。
そう、それがフリーズ・ウィスプ。雪の魔物という呼び名とは裏腹に、雪だけでなく炎の属性も併せ持つのだ。
ウィスプの魔法で、入り口が閉ざされた。また、テックは第三剣が封じられたことを知覚した。
(転移封じかよ。ヤバいぜ、帰るに帰れねえ)
「チッ、でも俺には・・・これしかねえ。涅槃」
炎剣だ。分岐は放出、初期状態のままのそれは、勢い立つ炎を柄から放っている。
「まずは小手調べと行くか。雪ファイヤー、覚悟しな」
ちなみに雪ファイヤーとはテックが勝手に名付けたフリーズ・ウィスプの名前だ。
しかしそんな事にお構い無しに、ウィスプは小さな分身体を幾つも生み出してきた。
「ムオルかよ、お前は。全く、小鬼を思い出すぞ」
複合属性ではあるが、少なくとも小さな分身体には炎は有効のようで、テックは小雪精とでも呼ぶべき分身体を、現れた者からばっさばっさと斬り消していく。
「ははん、分かったぞ。十三傑が勝てないんじゃなく、単にアイツらは金持ちだから、お前らを倒さなかっただけってことだな」
伝説級とは名ばかりなのか、ウィスプはそれからも、ひたすらワンパターンな小分身の生成で量戦を仕掛けてきた。
「ほい、ほいっと。はあ、これずっとしてりゃあ、勝手にお前、死ぬんじゃねえか?」
言葉を話せるかすら怪しいウィスプに、テックは質問した。案の定、しゅうしゅう言うだけで返事はない。
しかし、そこからウィスプの攻撃パターンが変わった。
「痛っ。な、なんだ、後ろから―――げっ、ちょっとデカい雪野郎」
小雪精は合体し、中雪精になりテックに背後から、質量を持った打撃を浴びせたのだ。
「氷みてえに固い。そ、そっか。雪もガチガチに固めれば武器になるって聞いた事がある」
雪はふかふかして柔らかいイメージが一般的だ。しかし、雪合戦をした経験があるなら分かる人もいるだろうけれども、たまにとんでもなく痛い雪玉が来ることがある。それは雪を腕力で圧縮し、氷に近い状態にしているのだ。
「でも大した事はないね。石ころが入ったヤツの危なさに比べればさ」
テックは慌てず、中雪精を炎剣で斬った。
「飽きてきた。雪ファイヤー、そろそろ終わりにしようか」
テックは火の変換で第一剣の分岐を放射に切り替えた。
白の洞窟に、炎が燃え広がる。フリーズ・ウィスプといえども、少なからず効果はあるようだ。
「とどめだ。新技、炎豪華回転波」
燃え広がった炎が竜巻のように回転し、フリーズ・ウィスプに炎の制裁を与えた。
しゅう、しゅ、ししし、しゅししゅ。
ウィスプの燃え盛りが小さくなる。
勝利。そう確信した瞬間である。
し、しし、じゅじ、じゅんじゅわあ。
「なっ!?炎が更に強く」
ウィスプは炎剣に負けそうになりながらも克服し、遂にその炎を食らう事で強くなるという手段に至ったのだ。
白と赤、二つの炎。それがウィスプの肉体が強化された事を意味していた。
「もしかして―――今まで挑んだヤツらも、これで?雪ファイヤーが持たない、普通の炎。もしそれを取り込んだアイツが真の姿だとしたら。―――」
テックの嫌な予感は的中した。
小雪精。炎の小雪精。
中雪精。炎の中雪精。
これら4種の、ウィスプの分身体。全てがテックに襲いかかるのだ。
氷、炎、さらに物理。真の意味での複合属性攻撃はテックが攻撃する隙を、もはや少しも与えないのだ。
「輪廻で凌ぐので手一杯だ。ちっくしょー、せめてここから脱出したい。体勢を立て直さないと」
実際、今までにウィスプに挑んだ者がいるならその者は何らかの手段で脱出しているはずだ。
ウィスプは倒されておらず、しかも負けて燃やし尽くされているのでない限り、ウィスプへの挑戦者はたった1フロアのどこにもいないのが、その根拠となるのだった。
テックは第四剣の黒盾で、しばらくは雪精たちの攻撃を防ぎ続けた。
「氷と炎。せめてどっちかに集中出来ればな。キアの虹亀の矢みたいな複合魔法は、俺には使えねえ」
虹亀の矢とは、至高の島での世界級鬼との戦いでキアが使っていた炎・氷・雷を混ぜた複合魔法の矢の事だ。
テックはそれを虹亀の矢、と自分なりの名前で今でも覚えている。忘れられないほどに、テックにとっては画期的で強い魔法なのだ。
「涅槃と戒律。どっちかだろうな。まだ氷は試してないから、なんとも言えないけど―――ま、いっちょ試すか」
テックは猛攻を浴びる覚悟で、第二剣に持ち替えた。
《氷の疾走柱》
氷柱が次々に地面から突き出てきた。その勢いは凄まじく、テックを中心に全方位に氷の森林が生え広がっていくかのようだ。
それは、今この瞬間にテックが思い付いたイメージを試し撃ちした割には強力な攻撃となり、テック自身、その圧倒的威力に驚いた。
「はぁ、はぁ。よし、思ってた以上だ。氷のヤツとか雪ファイヤーも、ついでに死んだか?」
じゅうううう。じゅうじゅじゅうう。
「溶けますよねー」
相手はテック自らが放った炎を吸収した魔物。よって、テックが放った氷程度では消えはしないのだ。
「氷の攻撃、全然使って来なかったのがここに来て裏目に出るとはな」
そこからは、ウィスプの独壇場。
第四剣を出される前に、雪精たちはしつこくテックを叩きまくった。ほとんどリンチだ。
「いてて、冷たい冷た、熱、あっつ」
よく分からない混沌とした痛みとなり、雪精の総攻撃はテックを襲った。
「くっそう、もう物理で殴る。受」
第六剣の鉄球だ。中途半端な属性が効かない場合に物理が効く。それは確かに有り得る事である。
「うおお、大回転打ち・特上コースだ」
牙の洞窟のビッグファングを鬼化させるに至らしめた、あの技だ。しかも、特上コースと銘打つだけあり、回転の勢いは前回を遥かに上回る。勢いがありすぎて、たまにヘリコプターのように揚力で浮いているほどだ。
「ん、浮くなあ。浮く―――ハッ!?ま、まさか」
テックは頭上に目をやった。
やたらと高くにある天井。その一ヶ所から日光が漏れている。
脱出出来そうな大きさの穴。それは今までの挑戦者が脱出に使ったルートの、幾つかある内のひとつだ。
「あんな高くまで浮けるかなあ。10メートルはあるぞ」
テックが今まで使ってきた技だけでは、とても届きそうにない、あまりに高い出口である。
更に悪い事に大回転打ちの攻撃自体も、それほどには雪精には効いていないようだ。
「流石にこの洞窟から離れさえすれば―――。コイツらはあくまで雪ファイヤーの分身。魔力でしかないだろうから、本体から距離さえおけば大丈夫なはず」
杖魔の黒小鬼は例外として、冒険学校で習う範囲では分身するのは十中八九、魔法による物であり、その効力は魔法使用者との距離に反比例する。
つまりフリーズ・ウィスプから大きく離れさえすれば、分身はテックを追って来られない、というわけだ。
そんなテックに、ある考えが浮かんだ。
「確か、アイツがあの時、確かこうして―――お、もしかしてこれなら」
第一剣で、ある事を試したテックは自信の笑みを浮かべた。
確実な勝利のための逃亡。蘇生魔法など簡単には使えないテックたちの世界では、逃げてでも次に備えよは、むしろ常識なのだ。
そしてテックは、炎剣の刃先を下に向けた。
「ハトゥルのやり方だ。これで天井まで届けば帰れるはず」
ヤムナムナ村での暗黒剣との戦い。その中でハトゥルは、炎剣をブースター代わりにして敵を撹乱していた。
それの応用、つまり炎剣ブースターで空を飛ぼうと言うのだ。
「中途半端な出力だと、きっと軌道がぶれて失敗する。俺が持つ魔力も9割使う」
脱出さえ出来れば、マントラ経路で帰還可能となる。よって、そこまで魔力を使っても理論上は大丈夫なのだ。
「またな、雪ファイヤー。次までには、もっと強くなる」
テックはウィスプにそう告げ、炎剣の放出を全開にした。
「おおぉおおお」
途方もない速さで上昇し、遂にテックは白の洞窟から脱出した。
「やったあ」
そしてテックは神託の庭に戻っていく。
「よう、もうやっつけたか」
「いや。雪ファイヤーは強い。まだ勝てない」
「ソイツは誰なんだぜ」
テックは更なる修行を決意した。
目指すは複合魔法の習得。フリーズ・ウィスプを倒すための、怒濤の修行が今、幕を開けようとしていた。
「炎と氷には、炎と氷で勝つ。ババア、いや、フレイア。俺に修行を付けてくれ」
果たしてテックは、無事に強くなり魔物退治を成功させる事が出来るのか。
それはオーディンにすら、まだ未知数の可能性なのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
(完結)私の夫は死にました(全3話)
青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。
私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。
ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・
R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる