マテリアー

永井 彰

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グランド・アーク

驚異の連携

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 ワルガーは、間一髪でアイナムの蹴りを受け止めていた。

「痛えじゃねェか。てめエ、俺を舐めてやがンな」
「そ、う、だ、と、し、た、ら?」

 一言一言、そのたびに高速の蹴りを一発ずつ、アイナムは浴びせた。
 そしてそのまま蹴り続けながら、アイナムは言った。

「じゃあ、アンタたち。今からアタシがちょっとだけ本気を出してあげる。絶望していいわ」

 そしてアイナムは分身した。
 2人のアイナムがいるようにしか見えない状態になったのだ。

「ハンデがあっても、これくらいは軽いのよ」

 そこからアイナムの更なる躍進が始まった。

「スフィア、しゃがめ」

 気配に集中していたマジルが、スフィアに声をかけた。スフィアは即座に指示に従う。
 するとその直後、2人の同時ドロップキックがスフィアの頭上を駆けていった。

「チッ」「ウザいよ」

 1人への集中攻撃、2人への分散攻撃、更に多彩な蹴りのバリエーション。アイナムの攻撃はそのパターンが2倍になり、その効率は何倍にも高まったのだ。

(ぐ、せ、せめて動きに着いていければよォ)

 ワルガーでさえ凄まじい連携攻撃を、部分的に防御するので精一杯だ。そして魔法中心で応じてきたスプスーは、早くも魔力がなくなりかけていた。

「も、もう厳しいプ、リ」
「はい、負け犬の」「完成だよ」

 容赦なくサッカーボールのように蹴飛ばされ、スプスーは壁に激突した。

「プ、ププ、リ、げひゅ」

 そしてスフィア、マジル、ワルガー、ダランとある時は2人がかりで、またある時は時間差で次々に蹴り飛ばされ、皆が壁に激突した。

「きゃはは」「弱いねー」

 アイナムはまだまだ余裕の表情。一方、スフィアたちは例外なくその生命の危機に陥っていた。

「ねえ、蹴るだけの女と思ってる?」

 そう言うと、アイナムの片方は魔法の釘矢ボルトを乱れ撃ちした。
 そして残る一方は、更に蹴り続けていく。

「きゃは、ひっははは」「こんなにも遊ばせてくれる」

 アイナムはすっかり悦に入っている。一見すると隙だらけになった。
 そこをダランが仕掛けた。

飛竜閃レーザー・ナイフ

 アイナムの1人がもろに食らったが、それでもその表情は平然としている。

「思ったより、気ン持ち良いわあぁ」

 いや、むしろその表情は快楽のそれだ。痛みすら快楽に変えてしまう狂気。それがアイナムの本領なのかもしれない。

「お返しよ」「素敵なおじさん」

 2人のアイナムの両手に、炎の球が握られていた。

炎天ニ咲ク愛桜サンライズ・ハート

 圧縮された炎の球を超至近距離で撃ち込む、アイナムの必殺技だ。これを受けただけで、並みの人間ならば灰も残らない。更に、圧縮から解放された炎は広範囲に広がっていく。
 その様は皮肉にも、まるで桜の花が咲き誇っているように見えるのである。

「バハッ」

 ダランの意識は、そこで途絶えた。
 そして、第一層は炎でいっぱいになったのだ。

「人は傷付けあうじゃない?アタシはそれが激しいだ・け」

 分身を解いたアイナムは、そう呟いた。

「覚悟」
「な、なんだと」

 アイナムが放ったのと同じほど、強い蹴りが彼女の顔に炸裂した。

「スフィアが眠ったから、本気、出して良いよね」

 マジル=カヤルーサ。
 その眼には、もはやスフィアたちに対するような優しさや情けは灯らない。冷たく厳しい、殺人者の眼差しだ。

「くっ、ならばまた2人で遊んであげる」

 しかし、2人に別れた瞬間、片割れはマジルのクナイで細切れになるまで何度も切り裂かれた。一瞬の出来事だ。

「分かってる、分身はただの魔力。だから微妙に動きが硬い」
「ア、アンタは何者だ」
「あなたの命を刈り取るのに、名前なんて」

 そして一対一の戦いが始まるかに思えた。

「あ、え?な、なぜアンタにそれが出来る」

 マジルが分身したのだ。しかも、3人のマジルがそこにいた。

「一生懸命、頑張ったから」

 それからは、アイナムが話す時間など一切ない。
 魔力でなく、ただ純粋な速さのみで分身したマジル。よって、全ての分身が本物だ。

「絶技・三暗獄鷲掌ミツドモエ

 マジルが3人が別々の角度から更に3人に、そこから更に3人に分かれて拳を放っては消えていく。
 その様はさながらわしが翻弄しながら獲物を狩るのに似ていた。

 アイナムは悲鳴すら上げない。極度の激痛は、声すら奪うのだ。
 勝利の静寂が、第一層を包んでいた。

「そ、んな。―――ワレ、スさ、ま。お慈悲、を」

 ようやく声を取り戻したアイナムは、息も絶え絶えに大魔王に懇願した。

【アイナムよ、命乞いとは情けなし】
「う、るせえ、ぞ。ぞ、ゾーンごとき、が」
【来い。助けてしんぜるゆえ、私に従え】
「な、屈辱を」

 しかしアイナムの意思と関係なく、アイナムは転移魔法により消えたのだった。


「スフィア、みんな。起きて」

 マジルは仲間たちに気付けを施した。

「あ、女の人は、どこへ」
「う、む。なんだ、マジルか」
「チッ。た、助けやがっ、て」
「マーちん、ありがとプ」
「ボクまで、すみません」

 そして一行は、第二層に進んだ。
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